まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
この旅行の最後の夜、待ちに待ったバーベキューだ。
テレビとかでは見たことあるけど初めてで、スケジュールを見てからずっと楽しみにしていた。
「えー、なんというか、バーベキュー楽しもうぜ! かんぱい!」
「「「かんぱ~い!」」」
ノブユキ君の
一列で4人ずつ並んでいるから、左隣のお兄ちゃんとコップをカツンって鳴らして、右隣の姫川さんとも鳴らす。一度席を立った あかねちゃんとも鳴らす。
「左利きなんだ」
「そうなの」
オレンジジュースをごくごく飲んでいると、ケンゴ君とゆきちゃんがそう話している声が聞こえた。左利きの子がペンとかお箸とか持ってると、なんだかカッコよく見えるよね。
「もう全部飲んだのか」
「お兄ちゃんありがとう!」
すかさずジュースをコップに注いでくれて、さすがお兄ちゃんだよね。
金髪なこともあって、まるで物語に出てくる王子様のような存在で、しかもイケメンで勉強や運動もすごくできて、男子だけど高嶺の花ってやつなんじゃないかな。
「私、お肉やお魚を焼いてくるね」
「私も行く~!」
あかねちゃんに続くように私たちも席から立つ。
メムちゃんたちも向こうの網で焼くために向かっていった。
早く見たいとは思っていたけど、近づいてみるとお肉や貝がキラキラしているように思える。
「ホタテ! エビ! 牛肉! やばぁい!」
お兄ちゃんやあかねちゃんは私のリアクションが面白かったのか、くすくすと大人っぽく笑っている。
だって、ホタテはぷるぷるだし、エビは大きいし、牛肉は分厚いし、しかもオシャレな葉っぱに乗っているんだよ。
パパやママやルナにも食べてほしいし、今度みんなでバーベキューしようって提案しよっと。かなちゃんやメムちゃん、ミヤコさんたちも誘ってさ。
「うまそ」
ほら、姫川さんも自然な笑顔で楽しみにしてるじゃん。
さては大好物があったんだね。
そういえばコンタクトレンズじゃなくて、今は黒ぶち眼鏡なんだ。私もたまに伊達メガネでオシャレするけど、似合っててポイント高いと思う。
「こういう海鮮を焼くのは初めてかも…」
「てか、このエビは赤くないんだね!」
「じゃあ僕がやろうか」
トングを握っている あかねちゃんに手のひらを向ける。
む~ お兄ちゃん、そういうところがズルいと思う。
「でもこういう時にトングは離さないって決めてて」
「真面目だな。まあ一旦貸してくれ」
『う~ う~』と迷っている あかねちゃんからトングを受け取って、もう片方の手でエビが載ったお皿を持つ。
はわわわ、シャツの袖を折ったみたいで、ムキムキな腕が見えてるよ。
「それに、せっかく綺麗な恰好なんだ。万が一よごれたら大変だろ」
「うん……」
お兄ちゃんズルい! せんせズルい! 私と結婚して!!
遠回しにあかねちゃんの白いブラウス姿でスカートなコーデを褒めてて、こんなラブコメっぽいもの見せつけられるの、妹としては超複雑なんですけど。
私もバーベキューしてみたいけど、B小町のグッズなTシャツが汚れちゃうと困るから我慢する。
「いいお兄さんだな」
「もちろん!」
姫川さんも分かってくれるんだ。
お兄ちゃんのことを推してくれる人が増えるのは嬉しいな。
「パパやママがお仕事の時はお兄ちゃんがご飯作ってくれるし、しかも子育て経験だってあるんだよ」
「妹の、な?」
お兄ちゃんが大きめの声で言ったけど。
そうそう、ルナのことね。
「てか、エビって焼いたら赤くなるんだ!?」
「知らなかった」
姫川さんもビックリしているみたいで、バーベキューは不思議がいっぱいだね。
「どんどん焼き上がるから、座ってていいぞ」
「わ、私がお皿持っていくね!」
「は~い!」
「よろ」
あかねちゃんったら、何かお手伝いしたい子みたいで可愛いね。
姫川さんも口数が少ないけど、言葉づかいが可愛い。
自分の席に戻ってから、あかねちゃんが私たちのお皿に分けてくれるのをじっと見つめる。殻は香ばしいし、食欲をそそる色鮮やかだし、醤油で控えめな味付け、絶対美味しいじゃん。
「なあ、これ殻ごと?」
「だと思いますよ」
「いっただっきま~す!」
フォークで刺して、エビを食べる。
殻はパリパリ、中身はホクホク、味はエビ!
モグモグとしてると、姫川さんも私と同じように食べ始めてる。
「おいしい! エビ!」
美味しすぎて、これ以外の感想が思い浮かばないや。
ママってどうやって食レポしてたっけ。
あかねちゃんはナイフとフォークで切り分けて、ちょっと口に入れて、満足そうな笑顔を浮かべて喜んでいる。まるでお嬢様だ。
プール付きのホテル、しかも向こうの席にはメムちゃんたちも楽しそう。いやはや、イケメンや美少女を眺めながら食べるご飯は最高だね。
「ホタテも焼いてみたが、味を見てくれ」
「バター醤油!?」
「う~ 私が運ぶのに」
お兄ちゃんが焼いてくれて、まるで高級レストランのシェフのようにお皿に乗せてくれる。バーベキューってこんなに究極のご飯だったんだ。
「まだアクア君は食べてないし…その……あ~ん」
切り分けたエビが刺さったフォークを、綺麗な手のひらと一緒に、お兄ちゃんに向ける。
あかねちゃん、一体どこでそんなテクい技を覚えたの。
「ん、美味しい。ありがとう」
「どういたしまして」
妹としては超複雑だけど、まるで恋愛ドラマを見てるみたいで、私の推しがステキすぎる。
やっぱり、あかねちゃんもお兄ちゃんのことが好きなのかな。
「ホタテ、スプーン使うか?」
「ありがと!」
姫川さんからスプーンを受け取って、バター醤油なホタテスープごと食べるのは名案だね。
フーフーと冷ましながら、一口で食べる。
口の中が旨味で溢れて。
ヤバいよこれ!
「ん! ん!!」
姫川さんの肩を揺らしながら、パンを指差す。
「ホントいそがしいな」
そう言って自然に笑いながら、ちぎったパンを向けてくれるから、その指に飛びつくようにパクっと食べる。
超高級バターホタテパンだよ!!
味付けも完璧で、お兄ちゃんに いいねポーズをする。
パンを食べさせてくれた姫川さんにも いいねポーズ
可愛いあかねちゃんにも いいねポーズ
「さて、冷めないうちに僕たちも食べよう」
「そうだね、アクア君」
「つっっ!?」
ふーふーしないから、ホタテが熱かったみたいで、はふはふしながら食べてる姫川さんが面白かった。
それから、どっさり焼いてくれていたエビやホタテも、4人だとあっという間になくなっちゃった。
「はふぅ~ 幸せマックス~」
お兄ちゃんや友達と一緒に、美味しいものをいっぱい食べれて、生きててよかったって感じがする。
「ステーキも焼いてくるが、まだ食べれるか?」
「はい! 食べれます!」
「俺もまだまだ食える」
「私も手伝うね」
お兄ちゃんとあかねちゃんで焼きにいってくれて、私は一旦食休みすることにするよ。
このオレンジジュース美味しいけど、日本で買えるのかな。
「アイドル、目指してるんだって?」
「そだよ。アイドルになるのが夢」
質問されたから姫川さんに振り向いて、胸を張って横ピースで答える。
「やっぱり、母親に憧れて?」
「そ! ずっとママが推し!」
『子どもの頃からずっとなんだな』って言われたけど、最初期からファンをやってるもん。
「推しはいいぞ~ なんたって、推しがいると世界が輝く!」
姫川さんが相づちを打ちながら聞いてくれる。
お昼の時より、うきうきと話しちゃう。
「最推しはお兄ちゃん! 同じくらいでママとパパとルナ! 愛してる!!」
お兄ちゃんでせんせは全肯定しちゃうし、ママは世界で1番可愛いし、パパは世界で1番カッコいいし、ルナは私くらい知的で自慢の妹だし。
ミヤコさんたち、かなちゃんやメムちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんたち、学校の友達やこの旅行でできた友達、みんな愛してる。
「推しがいる幸せを教えたいし、ママのように愛を伝えて誰かを元気づけたい!」
それに、お母さんとお父さんと
「応援する、俺も」
その瞳は真っすぐで、表情は優しい。
お世辞とか演技とかじゃなく、本音なんだって伝わってきた。
「いや、まじで、なんかもうマジで推せるっていうか! 純粋すぎて可愛らしすぎるだろ! なぁみんな!?」
珍しく姫川さんが興奮しちゃって、カメラの向こうの人たちに訴えかけてくれているみたいで、なんだか照れちゃうね。
「こほん… 少なくとも、すでに俺はキミのファンということだ」
「えへへ、ありがと姫川さん!」
姫川さんと出会った時、だいぶ思い詰めているようだったけど、ちゃんと笑えるようになったんじゃん。
昔、みんなで一緒に演技をしたことが懐かしいよね。
それに、初めての夏祭りもしっかり覚えてる。
あれからなんだかんだ忙しくて、会えなかったけど。
「大きくなったね」
「……お互いにな」
姫川さんが照れるせいで、こっちまで照れちゃうじゃん。
「いつか……」
「ん?」
演技してる時はイケメンだけど、素の姫川さんはゆっくり話すんだよね。
普段は落ち着いてて、でもお茶目で可愛いところがあるのが良いと思う。
「舞台、観に来てくれ」
「ん、絶対行くね。だから、私のライブも観に来てよ」
私は小指を向ける。
姫川さんがキョトンとしてるのが可愛い。
「ゆびきりしよ!」
「なるほど、こういうの初めてだ」
大きな小指と絡ませて。
『ゆびきりげんまん嘘ついたらハリセンボン♪』 ってする。
私はアイドルとして、姫川さんは役者として、お互い頑張ろうって気持ちになるよね。
この旅行で再会できてよかったと思う。