まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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第5話(ライブ)

 

 あれからまた少し月日が経って、俺の周りは特に変化もない。

 

 アイが疲れた時は、よく(うち)へ来るようになったくらいだろうか。父さんや母さんに会うことは避けているようだけど。

 

 休日にやることなんて、宿題か家事か読書か鍛錬くらいだ。もし誰かに趣味を聞かれてもそう本音で答える。

 

 今日もまた1冊読み終わる。

 この世界からすれば剣と魔法のファンタジーのような前世だったが、意外とライトノベルも面白く感じるものだ。現実は戦うべき相手が何もいないわけでどんどん(なま)っている気がするが、様々な世界観を知ることで戦いのイメージが少しは湧いてくる。

 

 鍛えておきたい理由はルーティンってのもあるが。

 なんというか、たまに()られている気がするんだよな。

 

 神社やお寺など神様仏様を(まつ)っている場所だけでなく、変装したアイと歩いている時にもそんな感覚があった。しかもその場合は観察されているような視線だ。

 

 大した武器もなく、人の力でどれだけ通用するかは分からないが、アイの命を弄ぶくらいなら一矢は報いるつもりだ。

 

 そんなことを考えつつ日課の筋トレを始める。

 

 庭で何時間かやっていると、リビングの携帯電話が鳴った。

 

 両親やアイとはほとんどLINEでのやり取りであって、電話をかけてくるのは誰もいない。予想通り表示された名前は『斉藤さん』だった。

 

「はい、もしもし、月村です」

 

「久しぶりだな。斉藤だ」

 

 彼とこうして電話をするのは、アイに関することが多い。そんな彼女もすでにスマホを持っているので、暇があればSNSを見ているくらいにはもう使いこなしている。

 

「はい、お久しぶりです。アイから聞いている限り、馬車馬のように働いているようで」

 

 いまだ名前はあやふやなようだけれど、アイが誰かの話をする時点で斉藤さんにはよく懐いている。ミサキさんだったか、ミサトさんだったか、斉藤さんの妻とも仲が良いようだし。

 

「うちは社員少ないからな。いや、それよりもだ」

 

「どうかしましたか?」

 

 忙しい中で部外者の俺へ連絡するなんて、アイに関することだろうか。

 

「いろいろと話は聞くが……本当にアイとまだ付き合ってない、んだよな?」

 

「明確には付き合っていないですが」

 

 アイは変装しているとはいえ、帰りも夜なので送ることも多く、気配を薄めて後ろを付いていっている。

 手を繋いで歩きたいってよく不満を言われるが、隠し通すために彼女自身も理解しているはずだ。それはそれとして茶化すようにワガママは言いたいのだろう。

 

「やっぱり会う頻度が多いですかね?」

 

「いや、隠し通せるなら会うのは別にいい。合宿ということで半月ほど我慢させただけでパフォーマンスに支障が出たんだ」

 

 『ったく、諸刃の剣だぞあれは』と呟いている。

 

 意外と俺は信頼されているのだろうか。

 ズルをしないとバレるような頻度の付き合いをしていると思うけど。

 

「いやな、ミヤコにあれこれ聞いて、最近オシャレに目覚めたというか…… 」

 

 本名ミヤコさんだったんだ、初めて知った。

 

「それもそれでアイドルとして良いことなんだが……1つだけ心配事が……」

 

 ふむ、心配事というと?

 話の続きを待ってみるが。

 

「これはアイの問題か? 一旦この話は置いておこう、考えるほど胃が痛くなる……」

 

 どうやら今のところは自己完結したようだ。

 なら話題を掘り起こすことでもあるまい。

 

「あれだ、アイのデビューが決まったのを伝えておくぞ」

 

「はい、デビューするのは聞いていました」

 

 そういやいつどこでやるんだっけ。

 なんだかアイってあまりスケジュール把握してなさそうなんだよな。それはそれとして『16歳まであとどれくらいだろ』ってのは、よく話題にしてくるけど。

 

「ああ。グループ名や会場が決まり次第、キミに伝えておいてほしいんだと」

 

 『あいつ社長をなんだと思っている』と愚痴を(こぼ)したけど、彼の会社で直接的に俺のことを知っているのは斉藤さんくらいだ。それはそれとして、自分から伝えろということだろう。

 

 そういえば少しでも忘れ物をしないよう、いつも時間割や予定や宿題をメモってあげている気がしてきたぞ。もしかして俺が過保護すぎたのか?

 

「とりあえずグループ名はB小町、そんで会場と日付が……」

 

 こうしてアイのデビューの日が決まった。

 

 そして控えめに、関係者としてチケットが必要かどうかを尋ねられたが、俺はバレないよう変装してファンとして潜り込むと言っておいた。

 

 

☆☆☆

 

 

 さて、ライブ会場に来てみたけど……

 テレビに映るような場所よりは賑やかじゃない。

 

 様々なアイドルが慌ただしく入れ替わり、歌や踊りを披露している。個性を出し合う彼女たちにとって、他のアイドルはライバルであり、少しでも多く固定ファンを獲得しようという気概も感じた。ある意味で戦士なんじゃないだろうか。

 

 他のお客さんはアイドルを見ること自体が好きなのか、グループごとのファンを中心として毎度盛り上がっている。

 

 俺の場合、冗談か本気かは分からないが『ほかのアイドルに一目惚れしないでね』とアイから釘を刺されているけど、特にそういった感情が出てくることもなかった。

 

 そしてようやく、アイたちの出番となる。

 

「へぇ」

 

 せっかく魔法まで使って隠れているのに、思わず小さな声が漏れてしまった。

 

 それほどに赤色を基調としたアイドルの衣装を纏っている彼女は、普段とまた違って見えた。

 事前に聞いてはいなかったけど、センターというべき立ち位置のようで、そこに立つまでの一挙一動が良い意味で目立っている。

 

 曲がスタートすれば……

 一度静かになった会場が、一気に揺れたかのような感覚があった。

 

 思わず俺は笑みが浮かんでしまう。

 

 これは、なんというか凄いな。

 まるで夜空に浮かぶ星のような輝きだ。

 

 カラオケの採点で知っている通り、歌はお世辞にもトップレベルではない。どうしても小柄なので、踊りも他のメンバーよりどこか小さく見えてしまう。容姿に関しても、他のアイドルも可愛いと思える。

 

 だがしかし、焼き焦がすように俺を惹きつける。

 完璧で究極の輝きは、アイだけの特権だった。

 

 これほどの逸材だったなんて誇らしいな。

 

 たとえ知り合いではなく、そして約束なんてなくても、俺は彼女を推していただろう。まるで『私を見て』という魔力のようなもので魅了の魔法をかけているのではないかとすら感じる。

 

 お客さんたちのサイリウムの動きも今日1番激しいものだ。

 

 他のアイドルにはわるいが、今日のライブの1番として人気を独占しているかもしれないな。

 

「みんな~ 愛してる~!」

 

「「「「アイ~~!!」」」」

 

 たった1曲で終わるのが惜しまれ、思わず彼女の名前を叫んだ人が多い。

 ほとんどの人が今日だけでファンになったんじゃないだろうか。

 

来てくれてありがとねっ☆

 

 ステージを降りる時のウィンクは目の前のファンではなく、遠くのこちらへ向けられていた気がするのは自意識過剰だろうか。

 

 

★☆☆

 

 

 ライブが終了して数時間が経過した。

 その頃にはすでに帰っていて、ベッドへ横になっていたが。

 

 どうにも興奮で眠れそうにないなと思っていた時、LINEの独特な着信が耳に入る。

 

「やっほー、どうだった?」

「なんというか、最高だった。行ってよかった」

 

 通話に出た瞬間に、感想を求められて。

 とても直感的な言葉になってしまった。

 

「そっかそっか、よかったぁ~」

 

 でもどうやら、お気に召したらしい。

 

 

 一度会話が途切れて、アイの息づかいが聞こえてくる。

 寝落ち通話を頼まれる時もそうだが、今日も横になっていてスマホを片手に持っているのだろう。そういう時も思うが、意外と会話がなくとも安らぐものだ。

 

 

「横になってるの? こんな早いの珍しいね?」

「ああ、興奮が続いてて、いろいろと手がつかない」

 

 表情は見えないが、むふ~ってほほえんだ様子らしい。

 

 

 また少しの間、お互いこの静寂を楽しむ。

 どちらかが自然と話す気になるまで、何も焦ることはない。

 

 やっぱり、アイと過ごす時間は楽だな。

 

 

「そだっ、たぶん出入口くらいにいたよね?」

「あれっ、見えていたか?」

 

 確かにアイの出番で集中は乱してしまったけど、そう簡単に使っていた魔法は解けるものでもないと思うが。

 

「ん~、勘かな! でもハッキリとは分からなかったよ?」

「なら安心した」

 

 そう言うと、むむむって複雑そうな声が聞こえてくる。

 

「ほんとは最前列で見て欲しいけど、それだとステージから飛び込んじゃうかもだし」

「どんなファンサだよ、危ないぞ」

 

 SNSにて、とある高校の文化祭のライブで女子高生がステージから飛び込んだ話は見たことあるけどな。

 

「だって、クリス君なら受け止めてくれるでしょ?」

「それは勿論。でも目立っちゃマズい」

 

 『わかってる~、冗談だよ~』って返事が来たので、分かってて言っていたのだろう。というか最前列ともなるといくら魔法で隠れていても、誰かの腕が当たってちょっとした騒ぎになるかもしれないし。

 

 まぁ遠くからってのは俺としても残念に思うけど。

 

「俺、目は良いほうなんだ。ちゃんと遠くからでもアイを見ているよ」

 

「……そういうの、他の()に言わないでね?

 

 低めの声で一瞬背筋が凍った気がしたのだが。

 『なんてねっ!』と明るい声に戻った。

 

「ねぇ、愛してるって嘘ついてたと思うけど……それでも推せる?」

 

「心配せずとも皆すっかり骨抜きだったぞ。俺としても今のところ唯一の推しだ」

 

 あの時はまだ不確定だったが、今は確実に『推しの女の子』だと言える。

 今でも十分最高なのに、さらに魅力的になると思うと……

 

「よかったよかった~ 来てくれてありがとねっ☆」

 

 年下相手でも意識してしまいそうになるかもな。

 

 




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