まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

60 / 108
2代目B小町編
番外編21 (愛久愛海視点, 日常)


 

 『今、好きになりました』の収録もだいぶ前のことのように思う。

 無事に鷲見と熊野のカップリングが成立し、集合写真を撮ってから2泊3日の旅行を終えた。

 

 (うち)に帰ってからもいろいろあった。

 

 僕たちの話を聞いた母さんが『私も青春したい! 今度デートしよ!』って父さんを誘ったり。

 嬉しがっているルナから『好きな動物はカラスなんだね』って煽られたり。

 やっぱり食べすぎていたルビーがダイエットをすることになったり。

 

 

 ともかく、僕たちはそれぞれ、学生や芸能人やyoutuberとしての日々に戻っていた。メンバーたちとはお互いにSNSはフォローし合っているし、また予定を合わせて打ち上げでもやろうって話が出ている。

 

 

 そして今日のこと。

 

 日曜日にその第1話が配信されたこともあり、月曜の朝からルビーはクラスの女子たちに囲まれていた。しかも普通科からも押し寄せてくるから、昼休みには教室にいるどころではない。

 

 それで、助けを求めたのは。

 

「けっ……」

 

 まるで暗黒面に陥っている有馬かなだ。

 

 生徒会長の椅子で頬杖をついているが、別にあいつは生徒会所属というわけでもない。いわゆるコネで鍵と部屋を借りてくれているだけで、2年の生徒会長の応援演説をしたほどの仲らしい。

 

 あいつに友達いるんだな。

 嬉しさと敗北感で複雑だった。

 

「むっす~~」

 

 隣にはふくれっ(つら)なルビーだけど、キミは放送の内容をほぼ知ってるよな?

 

「私たちもハーレムの一員として狙われている?」

「さ、さすがにないやろぉー」

 

 不知火は冗談だとして、寿さんにはガチで距離を取られているじゃないか。

 

「可愛い子を眺めながら食うアイス、さぞ美味しかったんでしょうね?」

 

「よりによって、あの黒川あかねよ? あの子のことだから2話以降も!」

 

「昨日言った通りだって」

 

 ここには不知火と寿さんがいるからネタバレはしないが、役者としてお互い頑張っていこうという感じに収録を終わらせた。

 

 だから『これがリアル修羅場?』って、不知火すらドン引きするのはやめてくれ。

 

「さっさと飯にするぞ、飯に」

 

「まっ、尋問は食べながらにしましょうか」

「お腹ペコペコだもんね!」

 

 尋問ってなんだ。

 

 僕の隣に座ってくる有馬の提案で、各自はお弁当の包みを開け始めた。

 

 いつも通り『いただきます』と手を合わせる。

 僕やルビーや有馬だけでなく、不知火や寿さんも習慣にしてくれたようだ。

 

「有馬先輩もかわいいお弁当なんやねぇ」

「そ、そうかしら?」

 

 今日は母さんが作ってくれたようだな。

 僕もお弁当箱の中から、ウサギのピックでタコさんウィンナーを持ち上げて口に入れる。

 

「パン派が少ないのは残念」

 

「お母さんが作ってはるん?」

 

「お、お義母さん!?」

 

 驚いて叫んだ有馬の顔が、まるで湯気が出ているように真っ赤で可愛らしく、こっちまで動揺してしまいそうになる。

 

「こほん… こいつの弁当もうちの両親が作ってくれてるんだ」

 

「そ、そうなのよ、昔からご近所だから!」

 

「「へぇ~」」

 

 菓子パンをもきゅもきゅと食べている不知火は気づいたようで、珍しくビックリしているようだ。それもほんの少し目を見開いたくらいだけど。

 

「って、えぇ!? アイさんの手作り!?」

 

「そだよ? ママの愛でいっぱいなお弁当!」

 

 玉子焼きを箸で持ち上げながらルビーが頷いた。

 生まれたばかりの頃は興奮してただろうに。

 

「だ、だって、あのアイさんやん?」

 

「まあ確かに母さんも芸能人だけど」

 

 あの病院の屋上で話してくれた時だって。

 『パートナーとしての幸せ、ママとしての幸せ、アイドルとしての幸せ』

 『(つら)いこともあるだろうけど、全部ほしい。私って欲張りなんだよね』

 

 そう願っていたように、母さんはこうやってお弁当を作ることにも幸せを感じてくれるんだろう。僕もルビーも幸せに感じるし、両親がご飯を作ってくれる感謝を忘れないようにしている。

 

「僕たちの自慢の母親ということだ」

「そうそう! もちろんパパもね!」

 

「そっか、そういうものなんやなぁ」

 

 ほほえんだ寿さんも、お弁当を味わうように食べ進めていく。

 

「目の保養になりそうな家族」

 

 『たぶん視力0.5くらい良くなったと思う』って面白く言葉を重ねている不知火も、テレビで見せているキャラとはだいぶ違う。芸能人『星野アイ』が(うち)では母親であるように、芸能人である僕たちも今は高校生、そういうものなんだろう。

 

「わかる~? ママもルナも可愛いし、パパもお兄ちゃんもイケメンだからね~」

「妹さんもかわええんよなぁ~」

「いつか会ってみたい」

 

 ルナはちょっと生意気だけどそこがまた可愛くて、どんどん母さんに似てきているのもまた可愛いんだよな。

 

「でもこいつらと長く一緒にいると、自信なくすわよ?」

「何言ってるんだ、有馬も可愛いだろ。それに、不知火や寿さんだって可愛いし」

 

 ぽんっと両隣から軽く猫ぱんちがきた。

 事実を言っただけなんだが。

 

「そうやって、あかねちゃんもたぶらかしてたの? せんせ?」

「あれは演技ね? 即興でアドリブだよ、ルビーちゃん?」

 

 思わず昔の口調になった。

 でもそんなキラキラと期待する目で見つめられても、ここで『さりなちゃん』と呼ぶわけにもいかないからね。

 

「けっ… シスコンとブラコンが……」

 

「食べてる最中なんだから、少しだけだぞ」

 

 右手で有馬の頭を、左手でルビーの頭を、それぞれ撫で始める。まるで絹のように綺麗な髪で触り心地もいい。

 

「「えへへ~~」」

 

 2人とも可愛らしい表情で、とても幸せそうな笑顔を浮かべてくれている。

 

「なんや、見ちゃいかんものを見てる気が」

「いいんじゃない、プライベートなんだから」

 

 この子たちには見られているが、言いふらすこともないだろう。

 

「リアリティショーっていえど、テレビの顔なんやなぁ」

「つまり、やらせが多い?」

 

「そうとも限らないぞ」

 

 あのメンバーの中で、過度にキャラ付けを行っていたのは半分くらいだろう。

 

「ほら、ルビーなんてありのままだろ」

「わーい、お兄ちゃんにほめられた!」

 

 ほらな。

 全員が頷いてくれた。

 

「僕たちも自分をよく見せようとする程度だった」

 

「ゆきちゃんも女子高生って感じで可愛かったよね」

 

 ルビーが騙されるくらいに上手く、鷲見もだいぶキャラ付けを行っていたが、まあ熊野には本気で恋していたか。

 

「リアルに恋をしようとするなら、大なり小なり演技をする。合コンにでも行けば似たような光景が見られるぞ」

「「「「合コン??」」」」

 

 しまった、失言した。

 いや、俺… 僕だって医大生の友達に連れていかれただけだからね。

 

「ごほんごほん… つまり、全てが演技で嘘ってわけじゃない。むしろ割合としては少ないほうだ」

 

 台本がない以上、全てを嘘で塗り固めたなら、普段の自分すら見失ってしまうだろう。

 もしかすると、無理に目立とうとして、何かしら過激なことを行ってしまう可能性すらある。

 

「じゃあ、なに? 黒川あかねとのデートは本気だったってこと?」

「そーだ! そーだ! お兄ちゃんの魅力でメロメロだったじゃん!」

 

「女子とデートするなら、エスコートするものだろ」

 

 軽く2人の頭をぽんとして、箸を握り直す。

 みんなに再びお弁当を食べるよう促してから。

 

「相手に楽しんでもらおうと思えば、自ずとそうなるだけだ」

 

 そう伝えた。

 

「まったく、どこで女の子の扱いに手慣れたのよ!」

「私が見てないうちに女の人と仲良くしてたんでしょ!」

 

 ぷりぷりしながらご飯を食べ進めているけど、ここ十数年はほぼキミたちだよ。

 

 はるか昔に女性とデートしていた時と違って、何の打算もなく本音を言い合える子たちだ。

 

「MEMちょの乙女ヅラが見たかったんだけど、この超イケメンお兄さんとはニアミスか」

 

 不知火は2つ目の菓子パンを食べ終えたようで、袋の中から3つ目を取り出している。

 どこか残念がっている表情だが、メムさんは友人であり同僚という感じだしな。年齢に関しても僕からすれば余裕で範囲内ではあるけどな。

 

「へぇ、あんたもメムさんのファンなのね」

「私たちも知らなかったよ」

「せやなぁ」

 

 初日のメムさんは、ジェットコースターで酔った姫川さんを介抱していて、お姉さんっぽさで溢れていたが。

 

「最古参リスナーやってる。大好きなMEMちょが姫ちゃんと話してて、久しぶりにキレちまったよ」

 

 ネットスラングが出てしまっているぞ。

 それにしても、意外な関わりがあるようだな。

 

「姫ちゃんって、姫川さんのことか?」

 

「そう、昨日電話して文句言ってやった」

 

「ふーん、さすが有名芸能人同士だね」

 

 少しふくれっ(つら)なルビーは、あれから姫川さんとよく連絡を取り合っているらしい。

 軽く耳にした程度だけど、近況報告以外にも、B小町の布教とか、彼が出演しているドラマの話とか、今は親しい友人関係といったところだろう。

 

「そう、何度か共演したから」

 

 不知火は軽く首を傾けたくらいで、気づいてなさそうだ。

 

「姫川さん、カッコよかったなぁ~」

「あの人の感情演技も凄いのよね、迫力があるっていうか」

 

 プロ意識の高い有馬も絶賛するほどなのか。

 

 帰国してから僕は、すでにいくつもの作品に目を通した。

 姫川さん、みたのりお、黒川、やはり劇団ララライの役者の演技力は見張るものがある。五反田監督の指導も受けつつ、どうにかその技術を盗めないものかと思っているが、まだまだ上手くいかない。

 また昔のようにワークショップにでも参加ができればいいんだが。

 

「ちょっと演技できるだけで、ただのアホだよ?」

 

 『よく道に迷うし。クイズで珍解答するし。台本の漢字を聞いてくるし。』って、指で数を示しながら不知火は言った。

 

「へぇ~ そういうとこ可愛いじゃん」

「あんたはそうならないようにしなさいよ」

 

 有馬の言う通りだな。

 

「週末くらいにはテスト対策を始めようか」

「えぇ!? それまだ2週間前じゃん!?」

「うちの高校のテスト、過去問あれば余裕なのよ!?」

 

 なおさら別の問題集もやって、基礎固めをさせないといけないな。

 

「アクアお兄さん、意識高いなぁ」

「もしかして有馬先輩にすら教えてる?」

 

「ああ。2人にも教えようか?」

 

 ぶんぶんと首を振られて断られた。

 まさかそんなにスパルタと思われているのか。

 

「別に高得点を取れってわけでもないぞ。そんなに長い時間はかけていられないしな」

 

 ルビーも有馬も、今後のスケジュールが一気に埋まるだろう。

 

 今好きの最終話の放送後に重大発表をしてもらい、そこからが2代目B小町の本格的な始動だ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。