まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編24 (愛久愛海視点, ファーストライブ②)

 

 雨宮吾郎としての記憶を持ったまま、僕は母さんと父さんの息子として生まれ変わって、もう16年ほどの人生を歩んできた。

 

 結局、転生した理由とか意味とか使命とか、そういうのは分かっていない。

 もしかすると単なる神の気まぐれだったのかもしれない。

 

 ルナは事情を知っているかもしれないけど、尋ねたとしても教えてくれないだろう。

 

 俺が、僕が、やるべきことは分からない。

 でもやりたいことはたくさんある。

 

 両親に親孝行したり、妹たちを守ったり、運動や勉強をしてできることを増やしたり、芸能人として頑張ってみたり、こんな風にみんなでライブに来たり、2代目B小町のドルオタやったり、いつか本気で恋愛をしてみるのもいいだろう。 

 

 ルビー、有馬、メムさんなら、ドームにも行くほど輝くだろう。

 

 それを見届けたい。

 その先だって見届けたい。

 

 だから、星野愛久愛海も欲張りなんだろう。

 

 だって、こんなにドキドキして、表情がコントロールできないくらいニヤニヤして、まるで魂全体が震えているような感覚だ。そういうのを心地よく思いながら、僕も輝くステージを見上げた。

 

「みなさーん! こんにちは~~!!」

 

 赤を基調としたアイドル衣装に身を包んで。

 可愛らしい容姿で、ロングの髪がとても綺麗に手入れされていて。

 

 彼女もまるで魂全体で喜ぶように、元気よく、とびきりの笑顔を見せている。

 

「はじめまして! ルビーです!!」

 

 前世から推しの子で、今は妹で。

 ずっとずっとアイドルに憧れていて。

ルビー~~!!

 思わず、心の底から感激して俺は叫んでしまった。

 

 僕の声は、あくまで歓声の1つとして混じっていくけど。

 

みんな! 来てくれてありがとねっ☆

 

 バキューンって、まるで心臓を撃ち抜かれた感覚がした。

 腕で目をごしごしと拭いて、赤いサイリウムを全力で振る。

 

 『ルビーがアイドルだよぉ~~』って母さんも嬉し泣きしていて、父さんとルナによしよしと撫でられている。そんな幸せな家族を見て、また目頭が熱くなってくる。

 

 『アイの()』としても、注目度は大きいだろうけど、ルビーはその期待すら楽しんでいる。

 

 観客たちも、そして姫川さんや寿さんも、すっかりアイドルとしてのルビーにも(とりこ)になっているようだ。

 

 次に、前に出てきたのは。

 

「有馬かなよ。はじめましての人は、はじめまして」

 

 とても自信に満ちあふれた表情だった。

 確かに芸能人歴は長く、子役の頃から知っている観客も多いだろう。白いサイリウムがあちこちに見えるから、あいつのファンも来ているようだけど。

 

 だからって、いつも通りのキャラでいくのか。

 少しソワソワしてしまっていると。

 

私たちのこと、推せるうちに推しなさいよ

 

 あっ、やばい。

 これクセになるやつだ。

 

 俺も、僕も、自然と白いサイリウムを振ってしまっていた。

 

 まるで太陽のように輝いている。

 あちこちから女子を中心として声援が聞こえ始めて。

「きゃーー! かなちゃ~~!!」

 隣にいる黒川もすっかりドルオタになっていた。

 

 そして、堂々と構えていたセンターが前に出る。

 

「こんめむー! MEMちょだよー!」

 

 『いぇ~い』って笑顔を見せると、観客から『こんめむ~~!!』と声が上がって黄色いサイリウムが振られる。不知火といい、メムさんのリスナーが全国各地から駆け付けたんだろう。

 

「アイドルになれて、みんなが来てくれて、えっと、めっちゃ嬉しいよぉ!

 

 一時は叶わないと思っていた夢が叶った瞬間だろうからな。

 

「2代目B小町は、私たち3人で活動していくねぇ!」

 

 メムさんは興奮していて、声が上擦(うわず)っている。

 そんな彼女に引っ張られて僕たちもますます盛り上がる。

 

「さーて、まずはこの曲! STAR☆T☆RAIN!」

 

 観客たちの声は一気に静まっていく。

 

 タイミングを見計らって、聞き覚えのあるイントロが流れ始めた。

 

「「「We!Are!STAR☆T☆RAIN!

   Check Now!

Come on!Come on!Come on!Come on!

   We!Are!STAR☆T☆RAIN!」」」

 

 僕たち古参ファンは『B小町!!』とコールを叫んだ。

 あの頃を思い出すように。

 2代目B小町のデビューを祝福するように。

 

 ルビーは元気よく踊って

 有馬はカッコよく踊って

 メムさんは軽快に踊って

 

 初代B小町でこの曲が出た頃は、まだまだ『アイ』が飛び抜けて輝くようなグループだった。統一感があって、基本的には『アイ』が歌って、どこか他メンバーは引き立て役に感じるパフォーマンスだったけど。

 

 2代目B小町はそうじゃない。

 センターの隣にいるメンバーも、まるで競うように前に出てくるんだ。

 

 しかも。

 

「「「そうこれはSTAR☆T☆RAIN

   乗っていこうよ!

   きっとずっと 止まらないから」」」

 「さあ手をあげて」

 「振り回して」

 「まだまだ行くよ!」

 

 ところどころで順番に歌っていて、それでちゃんと1つの曲として完璧なんだ。

 

「「「そうこれがSTAR☆T☆RAIN もっと騒いで!

   きっとずっと 終わらないから」」」

 「さあ手をあげて」

 「振り回して」

 「もっと騒いで楽しみたい君と」

 

 さっきとは歌う順番が変わっていた。

 

 ファンの好みが多様化して、大手のグループアイドルも増えている。何十人の中の1人でも推してくれれば、そのグループは周知されるからだ。それより小規模とはいえ、初代B小町だってそういう売り方をしていた。

 

 2代目B小町は、3人の魅力や個性で挑んでいくことになるけど。

 誰がセンターになってもいいほどに仕上げてきているんだ。

 

 「Break it Out 迫る困難ぶち壊せ」

「「見逃すな 瞬間的チャンス」」

 

 「Break it Out 君はそっちが良い?」

 「とびきりの嘘も愛情だよずっと」

 

「「「ねえ わかるでしょ」」」

 

 『わかるでしょー!』ってメムさんが輝くような笑顔でファンサで魅せる。

 

 『これは箱推しすべき』って思うのは僕だけじゃないはず。

 

 まあ僕は最初からそのつもりで用意してきたけどな。

 赤と白と黄色、3色のサイリウムを構えて全力で振る。

 

 『みんな盛り上がってるぅ~!』ってメムさんが、『もっと声出せるよね~!』ってルビーが、『最後まで付いてきてよね~!』って有馬が、ファンサをしながら間奏で語りかけてくる。

 

 「Be All Right とりあえず運に身を任せ」

「「今がそうさ 一瞬の勝負」」

 

 「Be All Right 君はこっちが良い?」

 「大切なことはそう見せないの」

 

「「「ついてきて !!!」」」

 

 僕はサイリウムを振りながら、3人の姿を目に焼き付けた。

 幸福を、愛を、感謝を、踊りと歌と表情で伝えてくれる。

 

「「「最後までSTAR☆T☆RAIN 乗っていこうよ!

   きっとずっと止まらないから」」」

 「さあ手をあげて」

 「振り回して」

 「まだまだ行くよ!」

 

「「「そうこれがSTAR☆T☆RAIN もっと騒いで!

    きっとずっと終わらないから」」」

 

「「「さあ手をあげて 振り回して

   もっと叫んでいこう!!!」」」

 

「永遠に君を楽しませて魅せるから ~♪」

 

「「「We!Are!STAR☆T☆RAIN!

   Check Now!

Come on!Come on!Come on!Come on!

   We!Are!STAR☆T☆RAIN!」」」

 

 ポーズをとって静止する彼女たちに向かって。

 僕たちは声を上げながら全力でサイリウムを振った。

 

 まさしく『私たちが2代目B小町だ』ってことか。

 曲調はともかく、歌詞すらほんの少しアレンジされていたことに最初から気づかないなんて、古参ファンとしては不甲斐(ふがい)ないな。

 

「お送りした曲はSTAR☆T☆RAINだよぉ!」

「知らなかった人も覚えてねー! それと、コールとか完璧な人いてすっごい嬉しかった!」

 

 ルビーのやつ、初代B小町オタな部分が出てるじゃないか。

 

 父さんに抱き着いている母さんはわんわんと泣いていて、姫川さんや黒川や不知火は子どものように はしゃいでいて、僕やルナはほほえましくなってくる。

 

 ステージ上ではメムさんとタッチを交わしながら、今度は有馬がセンターになった。

 

「次は初代B小町の中でも代表的な曲、サインはBです」

 

 あいつら、交代制でセンターをやるつもりらしい。

 その試みは面白いし、しかも有馬がその曲のセンターを担うのか。

 

付いてきなさいよ、あんたたち!

 

 ルビーやメムさん、そして観客たちにそう呼びかけた。

 

「「「サインはB!」」」

 

 その曲名を3人で告げると、何度も聞いたイントロが流れ始めた。

 

「「「ア・ナ・タのアイドル

   サインはB チュッ♡」」」

 

 各自が思い思いのポーズで、を示した。

 

 僕だって心のどこかでは、『アイの()』としてルビーがセンターなのかなと思っていたんだろう。でも、有馬やメムさんもそんな先入観を吹き飛ばすようなパフォーマンスで魅せる。それに、ルビーも自分なりに楽しんでいる。

 

 「ようやく会えたね 嬉しいね」

 「待ち遠しくて足をバッタバタしながら」

 「今日楽しみで寝れなかったよ」

 

 僕も『オレモーー!』とコールをしながら3色のサイリウムを突き上げる。

 

 さっきよりもセンターの移り変わりが激しい。

 まるで、初代B小町の2回目のドームライブ、最後のパフォーマンスを見せた時のようだ。これが本当にファーストライブなのだろうか。

 

 3人の息はぴったり、パフォーマンスが複雑になっているのに完璧、あと全体的に歌も上手くなっている。

 

 体力作りは一緒にやることもあったけど、本格的なトレーニングやレッスンは母さんたちがメインに教えている。そして自分たちでも自主トレを続けていて、よく3人で話し合っていた。3人の共通点は、相当な努力家ってとこなんだろう。

 

「「「客席(ヒト)が居ようが居まいが関係ない

   会場(ハコ)が大きい小さいとか気にしない」」」

 「ちゃんと」

 「見えてる」

 「君のサイリウム♪」

 

 そんな『推しの子』たちを賞賛するべく。

 僕は3色のサイリウムを使って全身全霊のオタ芸を始める。サンダースネークやロマンス、これだけ激しい動きができるのは最前列を確保したからこそ。

 

 僕の周りにいるのはさすがは役者だな。姫川さんも黒川も不知火も、見様見真似で僕の動きに付いてこれている。

 母さんや父さん、ルナや寿さんも思い思いにサイリウムを振っている。ステージの裏には斉藤さんやミヤコさんもいるはずだ。ネット配信を見ながら祖父母たちも応援してくれていることだろう。

 

「「「今はフーっと吹けば飛ぶような 小さな小さな才能だけど」」」

「私を推してくれるのなら」

 

 そう歌いながら、有馬は指でハートの形を作る。

 それが僕に向けられている気がしたのは、自意識過剰だろうか。

 

「「「爆レスをあげる」」」

「「「ア・ナ・タのアイドル

   サインはB チュッ♡」」」

 

 有馬の決めポーズを見ると、僕の顔が熱くなった。

 

 ふと思い出す。

 『あんたの愛してるより

  でっかい愛してるを返してあげる!』 

 そんな大切な思い出の1つを。

 

 アイドルの衣装を着た有馬はとても綺麗で可愛らしくて。

 本当にファンサをしてもらえたんだな。

 

 ルビーも両手でウサ耳でかわいかったり、メムさんはあごピースであざとかったり、楽しそうにファンサをしている。

 

 あちこちから『ルビー~~!』『かなちゃ~ん!』『MEMちょ~!』と声が上がっていて、どんどんライブは盛り上がっていく。

 

 

 そして、本日ラストの3曲目でセンターに立ったのは、ルビーだ。

 

「みんな~! ここまで楽しんでくれた~?」

 彼女の呼びかけに、会場中から返事が返ってくる。

 

「次は新曲、『Say What?』っていう曲です!」

 その星のように輝く瞳は母さんとよく似ている。

 

 たくさんの人に『愛してる』って伝えたくて、そして誰かを『愛したい』と願っているような瞳だ。

 

「最後も盛り上がっていこう!」

 前向きで純粋な笑顔は、あの子らしさであふれていた。

 本当に幸せそうでこっちまで幸せになる。

 

 有馬に、メムさんに、ルビーはしっかりと顔を見合わせた。

 

 そして、イントロが流れ始める。

 

「「「生まれ変わったその先へ」」」

 

「「「新時代の幕を開けよう」」」

 「Now open it up」

 

 

――― 今、再び伝説が生まれようとしている

 

 

 

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