まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編30 (姫川大輝視点, 東ブレ③)

 

 やはり脚本は白紙に戻ってしまった。

 

 おかげで稽古は休止となり、新しい脚本ってのも未定だ。噂によれば、アビコ先生自身がゼロから書き上げるらしいが、そんな短期間で作れるようなものでもない。高校の演劇部のレベルになればいいくらいだろう。

 

 そういう交渉はオッサンたちに任せるしかなくて、今頃は多くの大人たちがてんやわんやのはずだ。最悪の場合は、公演開始すら遅れるからな。

 

 俺らの演技次第で、ちゃんと見れる劇にはなる脚本だった。

 

 俺自身のためにも、ララライ以外の子たちのためにも、いつもより稽古時間を取りたかった。せっかくスケジュールもがっつり空けたのに、それも無駄になるかもしれない。

 

 若手最高の役者と呼ばれるくらいには登り詰めたが。

 しがらみはどんどん増えて、こういうトラブルにもよく巻き込まれる。

 

 

 今日は久しぶりに惰眠をむさぼって、原作マンガを読んだり、ごろごろしたり、ほぼ新品なキッチンを少し使ってみたり。それでも時間がたくさん余っている。

 

 

 不知火に放課後の予定を聞いたら、『姉とショッピングする』って。

 アクアにも聞いてみたら、『黒川と有馬と鳴嶋で舞台を観に行くところ』だって。

 

 昨日のうちに聞いておけばよかった。腹の探り合いとかなくて、俺にとって気楽に話せるやつと言ったら、ララライのやつらか、あいつらくらいだからな。

 

 気分転換にもなるし、晩飯確保のために俺は外に出た。

 

 夕暮れの空を飛んでいるカラスに不思議と導かれるように、俺は公園を通りがかる。だんだん寒くなってきているから子どもは少ない。まあインドアな子も増えていて、都会の公園は休みの日でもなければ賑わうこともないだろうが。

 

「ま~て~!」

「はさみうちだ!」

 

 元気よく子どもたちが鬼ごっこをしていた。

 といっても、2人で協力して1人を追いかけているように見えるが。

 

「あら、追い詰められちゃったね?」

「「せーのっ!」」

 

 紫がかった黒髪の少女がステップをして躱すことで、同時に飛びかかった2人が『へぶっ!?』と抱きつくようにぶつかった。

 

 そうなるように誘導した少女は、ニコッとしながら俺を手招きしてくる。

 

 どこかで見覚えがあると思えば。

 

「確か星野さん()の」

「そうだよ」

 

 ベンチにはランドセルが置かれていて、学校帰りにこの公園で遊んでいたようだ。こうしてじっくりと顔を見ると、アイさんやルビーに容姿が似ている。

 

 家族なんだからそういうものか。

 俺も、亡き父や母にそっくりだし。

 

「キミには、お兄ちゃんやお姉ちゃんがお世話になっているようだね」

「えっと、こちらこそ?」

 

 まるで親のような言葉だった気がする。

 

「いてて… あれ、どちら様でしょうか?」

「しぃ~! 知らない大人に話しちゃダメって言われてるじゃん」

 

 金髪でハーフらしい男の子に、茶髪の女子が小声で注意する。少しでも危険を避けられるように、親の教育が感じ取れるな。

 

「このおじさんは、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちの知り合いだよ」

「おじ……」

 

 俺、まだ20歳にもなっていないぞ。

 小学生からしたらそういうものなんだろうか。

 

「あれ、お義兄(にい)さんのほうがよかった?」

「いや、どっちでもいいけど」

 

 くすくすと笑っていて、なんだか面白がられている気がした。何にせよ、星野さん()の子のおかげで警戒は解けたみたいで、子どもたちは俺を興味深そうに見上げてくる。

 

 なんだろ、あの時の動物園にいたウサギを思い出す感じで、心が癒される気がした。

 

「あっ! いたいた~」

 

 聞き覚えのある可愛い声がした。

 急いで振り向けば、伊達メガネをかけた美少女が走ってきている。

 

 制服のスカートを揺らしながら、ロングの金髪はゆったりと風になびいていた。

 

「やっぱりタイキ君じゃん! どうしたの?」

「散歩」

 

 だんだん冬に入り始めたというのに、スカートからは綺麗な足が伸びている。男として一種の芸術をじっくりと眺めるわけにもいかず、俺は少し視線を遠くした。

 

「ルビーお姉ちゃ~ん!」

「メイちゃ~ん!」

 

 まるで母親のように、しゃがんで女の子と抱き着き合っている。アクアといる時のルビーはどこか幼さを感じさせていたが、こういうお姉さんな一面もあるようだ。

 

「自己紹介でもしておこうか。星野月愛(ルナ)、小学3年生だよ」

 

 確かに、ライブで会った時は自己紹介する余裕もなかったからな。それにしても、小学3年生でこんなに大人びているのか。

 

「僕は月村碧斗(アオト)、同じく3年生です」

「私は斉藤愛衣(メイ)! 3年生です!」

「星野瑠美衣だよ! 高校1年生!」

 

 ノリがよく、ルビーまで混じっている。

 しゃがんだままなので見上げてくるところも可愛い。

 

「姫川大輝だ。よろしく」

 

 『よろしくお願いしまーす』って声を合わせて、丁寧に頭を下げてくれたので、俺もぺこりと頭を下げた。俺が小学生だった頃はこんなに礼儀正しかった記憶がないぞ。

 

「そだ、今日は稽古じゃないんだね?」

「いろいろあってな。今日は休みになった」

 

 ルビーの質問に正直に答えたが、本当は再開すら未定だ。笑顔で『そっか!』って、俺たちの舞台を楽しみにしてくれているはずだから、あまり詳細を話したくはなかった。

 

「お迎えにはよく来ているのか?」

「パパやママたちが忙しい時くらいはね」

 

 『いつもはこの子のお母さんが行ってくれるんだよ』ってルビーは、アオト君もなでなでしている。

 

 そういえば月村って栗栖さんの旧姓だった気がする。

 もしかして、その子ってあの人の弟かよ。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃんとどういう関係なの?」

「芸能界の友達だよ! 前に共演したこともあったんだ!」

 

 そういうカテゴリーにいられるだけで満足だ。

 ルビーはどんどん人気者になっていくだろうからな。

 

「お兄さんも役者なんですか?」

「すごい人だよ、劇団ララライってすごいところの人だし、いろんなドラマにも出てて!」

「すごいすごい! プロってやつだね!」

 

 代わりに答えてくれたルビーにべた褒めされて、最高に嬉しい気分だった。それこそ賞をもらった時以上にな。

 

「お兄さんも役者ごっこしませんか!」

「ん、ああ」

 

 役者ごっこだなんて、身内に何人も芸能人がいるからだろうか。

 

 とりあえずメイちゃんの提案に頷いてみたものの、どういう役が用意されるのだろうか。あくまで遊びの範疇だろうが、この子たちの気に入るようなキャラクターを演じる必要がある。

 

 子どもたちからルナちゃんは見つめられ、やれやれという仕草をしてから。

 

我が名はツクヨミ、あなたたちに神託を授けましょう

 

 驚いた。

 思わず雰囲気に飲み込まれそうな演技力だ。

 

「なんか神様っぽい!」

「ちゃんと聞かないと!」

「今日はどうすればいいですか!」

 

「じきに漆黒が訪れる。それまでに」

 『それまでに?』ってルビーたちは首を傾げる。

 

 ルナちゃんは一瞬考える素振りをして。

 

「そこの大魔王を屈服させる。そう、倒す」

 『倒す!』ってルビーたちは元気よく復唱した。

 

 俺に向かってキラーパスが飛んできたぞ。

 とりあえず適当なキャラ作りはするけどな。

 

「よくぞ来た、勇者たちよ。この大魔王様に立ち向かう勇気があるか!」

「「「わーー!!」」」

 

 声を出しながら散り散りに走っていく。

 

 逃げたわけではなく、武器になるものを探しに行ったようだ。例えばランドセルから取り出した新聞紙をくるくると丸めて、柔らかく棒状にしたものをセロハンテープで止めて。

 

 スタスタと戻ってきたアオト君は丁寧にお辞儀してから。

 まるで剣を向けてくるかのように構えた。

 

「勝負だ、大魔王タイキさん!」

 

「フッ、返り討ちにしてくれる!」

 

 とノリを合わせてみると。

 追ってきたルビーから『はいこれ』って似たものを手渡された。

 

 次はメイちゃんの様子を見に行っているし、3人の良いお姉ちゃんなんだな。

 

「さあ来い! 勇者アオトよ!」

「せりゃ!」

 

 気合の入った声に対して、アオト君はどこか遠慮がちに新聞紙の棒をゆっくりと振り下ろしてくる。

 新聞紙の棒で柔らかく受け止めれば、ぱっと喜んだ顔を見せた。

 

「なかなかやるじゃないか」

「まだまだ!」

 

 これはチャンバラのような遊びではなく、役者ごっこだからなんだろう。監督であるルナちゃんが出したお題に従って、純粋に演技を楽しむことを目的としているようだ。ペースは少しずつ上がっていても、急に無茶な動きはしてこない。

 

 メイちゃんも準備ができたようで、ルビーに付き添われながらトテトテと走ってくる。

 

「アオト君! お待たせ!」

「わかった!」

 

 軽く肩で息をしながら、ポケットから出しているのはドングリで、投げようとするポーズを取った。

 

「魔法でこーげきするよ! せーのっ!」

 

 まるで野球のバッターになっているような気分だ。

 メイちゃんは掛け声を出しながら、わざと俺の横に向かって緩やかに投げてくる。

 

「こんな魔法など効かん!」

 

 新聞紙の棒を振るい、地面に向かって叩いて落とす。

 3人から『お~っ!』って歓声が上がった。

 

「せーの! せーの!」

 

 タイミングを合わせやすくしてくれているのか、毎回掛け声は出すようだ。

 普段は ぼやけた視界で剣劇をやっているくらいだから、とても簡単に落とせる。

 

 メイちゃんはというと、まるでMP切れをするかのように体力がなくなってきたらしく、どんどんペースは落ちてくる。

 

 なら、こちらから流れを作らせてもらうか。

 

「どうした! 今度はこっちの番だ!」

「僕が相手だ! メイは僕が守るんだ!」

 

 駆け足で距離を詰めようとしたら、アオト君が立ちふさがった。いい意味でマセてるじゃないか。

 

 先ほどとは逆で、こちらからゆっくり攻めさせてもらうと、新聞紙の棒が柔らかくぶつかる。ただ、こちらはそこそこ武器を酷使しているので、次第に限界が来ている。

 

 このまますんなりと負ける役でもないし、ちょっと大人げないが。

 

「隙あり!」

「えぇ!?」

 

 すくい上げるように動かせば、アオト君の持つ新聞紙の棒が宙を舞う。

 

「どうした、降参するか?」

 

「「しない!」」

 

 武器を失い、疲れきって、そんな絶望的な状況でも諦める素振りはない。

 

「たとえ武器がなくても!」

「なんとかしてみせるー!」

 

「くっ、どこからそんな力が!」

 

 元気よく走って向かってくるので、俺も軽く走って距離を取る。

 いやほんと、子どもってどこからそんな活力が湧いてくるんだろうな。

 

 

 すっかり鬼ごっこで逃げる役となり、程々に手加減をしながら走り回った。

 

 

「カット! はーい、そこまで」

 

 ルナちゃんの声で俺たちは立ち止まる。

 どれくらいの時間が経過したかは分からないが、帰る時間になったんだろう。

 

「はぁはぁ……」

「ぜぇぜぇ……」

 

 その前にひと休みは必要みたいだ。

 

「アオト君のことは頼める?」

「ん? ……おう」

 

 演技の最中にも新聞紙を片付けてくれていたルビーがやってきた。彼女はメイちゃんの身体を抱き込むように持ち上げて、俺もそれに(なら)ってアオト君の身体を慎重に持ち上げる。

 

 緊張するからか、なんだかドキドキするし。

 軽いのに、なぜかずっしりと重みを感じるようだった。

 

「「ありがとうございま~す」」

「ご苦労様」

 

 ランドセルを置いているベンチに座らせると、独特なイントネーションでお礼を言ってくれた。汗で身体が冷えすぎないよう、ルナちゃんは2人にタオルを押しつけるように渡している。

 

「楽しかったし、大魔王のお兄さんすごかった~!」

「さすがはプロの役者ですね」

 

「そっちこそ、ガッツのある勇者パーティーだったぞ」

 

 しゃがんで目線を合わせて親指でサムズアップする。2人も真似してくれて、お互いの健闘を(たた)え合う。久しぶりに気楽に演技をした気がして、こちらとしてもいい息抜きになった。

 

 同年代の子たちより落ち着いてて、子役としては引く手あまただろうな。

 

「子役でもしているのか?」

「「こやく?」」

「してないよ。私も、芸能の神様でもないし」

 

 この子は神様キャラを貫いているのだろうか。

 違和感を感じさせないほどに自然な演技だな。

 

「2人は役者が夢なのかな、だってさ」

 

 ルビーが分かりやすく尋ねてくれた。

 メイちゃんやアオト君は悩む素振りを見せた。

 

「んー、お絵かきも好きだしなー」

「僕はコックさんもいいなって思います」

 

 俺の場合は父も母も役者で、オッサンも劇団ララライの代表で、自然と役者を志していたけど。

 

「ん、そうか」

 

 思わず両手をそれぞれ、ポンと2人の頭の上に置く。

 

「どんな夢だろうと応援するよ、俺も」

「「ありがとうございます?」」

 

 きっとこの子たちは、周りからたくさんの愛情を貰いながら、すくすくと育っている。

 羨ましいという感情よりは、ほほえましく思える。

 

 ランドセルを背負って、立ち上がっている子たちを見て。

 

いいな、子どもって

 

 心の底からそう思えた。

 

 亡き父や母から受け継いだDNAからして、俺もロクな親にはなりそうにないと思っていたが、案外どうにかなる気がしてきた。お節介なオッサンなりの愛情を受けながら、俺はここまで成長できたらしい。

 

「うん、そう思う」

 

 呟くように相づちを打ったルビーに視線を向けようとすると。

 

「私もいつかは、ママやパパみたいな親にもなってみたいけど」

 

 立ち上がって、くるりと背中や綺麗な髪を向けながら、そう言った。

 

「今はアイドルに夢中だから」

 

「おかげですっかり俺もドルオタだぞ」

 

 後ろ手を組んで少しこっちを向いて、『そっか!』って嬉しそうに笑ってくれた。

 

 お互い、夢中になれていることがあるんだ。

 こういう距離感を続けていきたい気持ちはあるけどな。

 

「どうやら、いい気分転換になったようだね?」

「まあな」

 

 ルナちゃんに尋ねられて、俺は頷いた。

 でもなんで知ってるんだろうか。

 

「今日はありがとうございました、大魔王のお兄さん!」

「ありがとうございました、タイキさん」

 

「明日からも稽古がんばってね! 私もタイキ君を応援してるから!」

 

 メイちゃんからも『私も応援する!』って、アオト君からも『僕も応援してます!』って言ってくれた。

 舞台で拍手されるのもいいが、こうやって純粋に応援されるのもいいな。

 

「ありがとな。気をつけて帰れよ」

 

 ルビーや子どもたちに軽く手を振って、『バイバ~イ』って声を受けながら俺は歩き始める。

 

 

 さてと、オッサンたちに任せっきりじゃなくて、俺も何かできることを探すとするか。ルビーたちのように、今回の舞台を楽しみに待ってくれているお客さんは多いだろう。

 

 あいつらと()り合うことも心の底から楽しみにしていたし。

 

 やっぱり役者ってのは、俺の(しょう)に合っているみたいだ。

 

 

 

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