まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編31 (オリ主視点, 東ブレ④)

 

 家族みんなで夕食を食べていたときのことだ。

 

 瑠美衣から『今日は公園で役者ごっこしてきたんだ!』って楽しそうに話してくれたり、愉快そうに月愛が詳細を補足してくれたり。

 

 愛久愛海から『父さん、母さん、お願いがあるんだ』って頼みごとをしてくれたり。

 もちろん俺とアイは笑顔で引き受けた。

 

 だから週明け、子どもたちのお見送りをしてから、俺たちは劇場を訪れている。アイはニット帽や伊達メガネで変装しつつ、赤いマフラーや手袋でぬくぬくとしていた。そのマフラーはあゆみさんからのプレゼントで、何年も大切に使っているんだよな。

 

 公園って感じのところに、たくさんの人が歩いていた。俺もアイもあまり舞台には詳しくはなかったけど、まるで大人気の映画館くらい賑わっている。

 

 そして俺たちは待ち合わせをしていて。

 

「久しぶり! ヨリコちゃん!」

「久しぶりね、2人とも」

 

 吉祥寺先生とは『今日あま』の撮影で知り合ってから、何度かカフェで会っていた。

 俺たちはプライベートな同年代の友人が多くはないし、漫画家さんと話す機会も貴重だ。それに、吉祥寺先生も俺たちの経験を聞いていると、新作漫画の構想が湧いてくると言ってくれている。

 

「……本物ですよね?」

 

 吉祥寺先生の背中から、ひょこっと顔を見せたのは、あの東京ブレイドを描いているアビ子先生だろう。今度、愛久愛海たちが演じる舞台の原作であって、幅広い年齢層に相当流行しているし、俺の周りが有名人だらけだな。

 

「言った通り、本物よ」

 

「え、えっと、今日あまのドラマ、よかったです」

 

 ほんの少しキラキラとした瞳と目が合うと、隣にいるアイは幸せオーラを放ち始めた。

 

「見てくれたんだ! うちの子たちかわいかったでしょ~」

 

 確かにアイも子どもたちもかわいかったな。

 久しぶりにみんな一緒に出演できたのを観れて、俺としてもお気に入りの作品の1つだ。

 

 アビ子先生はもう一度背中に隠れちゃって、『うちの子たちって?』って小さな声で吉祥寺先生に尋ねている。『アクア君とルビーちゃんのことよ。アクア君は刀鬼役ね』って教えてあげていた。

 

 すっとこちらを確認するように見てきて、もう一度隠れた。

 あまり人付き合いが得意なタイプではないようだ。

 

「……若すぎません?」

「16歳から母親と父親だったみたいよ。10年くらい前に結婚宣言して、一大ニュースになっていたわ」

 

 そんな2人の様子を見て、ふふんって得意げなアイが自信家で可愛らしい。若すぎって褒めてくれたこともあるけど、愛久愛海と瑠美衣と月愛のママであることは自慢だからな。

 

「……じゃあ、例えば、今日は息子さんに頼まれて?」

 

 何かしら思い当たることがあるらしく、アビ子先生は不安そうに尋ねてくる。

 

「ん、ここのチケットをくれたよ」

 

 そういうのを察したアイは優しい瞳を一瞬だけ見せて、笑顔を見せた。

 

「いや~ 子どもたちからのプレゼントはいつになっても嬉しいよね」

 

 ほんの少しは演技が混じっているけど、ママとしての本音をいっぱい含んでいる。

 

「クリス君とデートできて、ヨリコちゃんやアビ子ちゃんと女子会できる、一石三鳥(いっせきさんちょー)だね!」

 

 指を三本立てるポーズをして可愛らしく、そう伝えた。

 デートと女子会、確かに欲張りなアイは楽しみだろうな。

 

「三鳥…ですか?」

「そ! だって私以外に3人じゃん」

 

 愛久愛海が頼んできたのは、『4人で楽しんできてほしい』といった内容だからな。何かしら意図はあるかもしれないけど、悪意を持って誰かを騙すような子じゃないし。

 

「今日は気楽に楽しみましょう。俺もここに来るのは初めてで、ワクワクしていたんです」

「ワクワクだね! だって席が回るんでしょ!」

 

「え、そうなんですか? それ、知らなかったです」

 

 ゆっくりと歩み寄ってきてくれるアビ子先生に、ますます俺たちの頬が緩む。

 

「さあ、行きましょうか」

 

 吉祥寺先生の明るい声で、俺たちは劇場に向かって歩き始めた。

 

 今日はスマッシュヘヴンという大人気アニメを原作とする演劇を観に来た。吉祥寺先生が大好きなアニメのようで、アビ子先生も何度か見たことがあるらしい。メインターゲットとなる女性のお客さんが多いみたいだけど、ちらほらと男性客もいる。

 

 チケットを渡してから中に入ると、映画館のようにフカフカな椅子が同じ向きで並んでいる。何より大きな違いは、別の方向にいくつかモニターがあって、役者が立つと思われるステージがあった。

 

「噂には聞いていたけれど」

「これが… 今の最先端の舞台…?」

「こういうところでやるライブも面白そうだね」

 

 キャッキャッと楽しみにしているお客さんたちの声の中で、うちの女性陣がすっかり漫画家や役者視点で見ていた。

 

 このパンフレットもかなりよくできていて、大まかなストーリーを読み込んでおくと、もっと楽しめそうだな。

 

「ね、アクアたちもここでやるんだよね?」

「そうらしいよな」

 

 ぱらぱらとめくっていると、アニメキャラの衣装を着た役者の写真が並んでいて、こういうところに愛久愛海たちも掲載されるんだろう。本格的に芸能界入りして、もうこんな大舞台に立つことができるなんてな。

 

「この脚本の人…GOAって確か……」

「え? あら、ホントね」

 

 そんな会話を聞いて俺も見てみるけど、有名な脚本家なんだろうか。

 

 それを尋ねる前に、ブザー音が鳴り、どうやら開始時間が近いようだ。

 少しずつ、どんどん、劇場全体が静かになっていった。

 

 やがて、モニターが開いていく。

 

 次から次へと役者がミュージカルのように現れ、そんな姿を拡大しているモニターにはメインキャストだろう彼らの表情が大きく映っている。こうして実際に見ると、コスプレのような違和感がほとんどなく、まさしく2.5次元といったところか。

 

 さらに、どこかしらか風が流れてきて、光や効果音があって、様々な要素で目の前の世界に引き込まれるようだ。

 

 席が動き始めた時には、月日が流れていくような演出がある。

 

 別の学校の卓球部だろうか、まるで大手アイドルグループが踊っているかのように息が合っていた。役者たちの実力の高さが伝わってくるし、脚本もいいんだろうな。

 

 

☆☆☆

 

 

 面白い劇を見れて、なんだかほくほくした気分だ。他のお客さんたちも満足そうな表情を浮かべて、こういう余韻を楽しんでいた。

 

 俺たちも出入口から離れた位置にあるソファを借りて、ひと休みすることにした。

 

「ステージアラウンドってこういう感じなんですね」

 

「時代ね」

「時代だねぇ」

 

 ずっと同じ方向を見ながら、幕が上がったり下がったり、セットを変えるための時間があったり、劇に対してそういう固定観念があった。

 

 でも今日はノンストップで、最初から最後まで没入感があった。

 

「来てよかったわね」

「はい、だいぶ好きな感じでした!」

 

 吉祥寺先生とアビ子先生の瞳はキラキラと輝いてるようだった。創作に携わる人はネタ集めに出かけるイメージがあるけど、創作意欲が湧いてきてるんだろう。

 

「それで? 脚本書けそうなの?」

 

「今日の舞台を参考にすれば、なんとか形にはなると思いますけど...」

 

 俺やアイには話しづらそうにしていて、お仕事のことなんだろうか。

 

「役者の人たちのことも考えないといけないわけで、なんていうか、脚本を書く人ってこういうプレッシャーもあるんですね」

 

「言ったでしょ、メディアミックスは他人との共同製作だもの」

 

 そして、吉祥寺先生は優しくほほえんだ。

 

「自分で書いてやるって言ってたのに、不安になってきた?」

「うっ、だってお二人のお子さんもいるって話じゃないですか」

 

「アクアのこと?」

 

 きょとんとしてアイが尋ねると、アビ子先生はこくりと頷いた。

 これはちゃんと伝えておかないとな。

 

「そりゃあすごい劇に出たら、うちの子すごい! ってなるけどね」

「がんばって練習してるアクアの演技が見れるだけで満足なんだよな」

 

 俺たちからすれば、授業参観も、演劇も、ライブも、どんな機会だろうと楽しみなんだって。

 

「いいお母さんとお父さんですね」

「ホントそう思うわ」

 

 それは最高の褒め言葉だな。

 アイもすごく嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「誰かに歩み寄るのって大事なんですね。今日の劇も…キャラ愛がちゃんと感じられたのに、なんでなんだろ…」

 

 アビ子先生は持っているパンフレットに視線を向けた。

 

「あら、一緒に聞きに行ってあげるわよ?」

「子ども扱いしないでください。いや、脚本の人とかにもいろいろ言っちゃって、だいぶ怖いですけど……」

 

 『でしょうね……』と呟いた吉祥寺先生と合わせて、アビ子先生は遠い目をしてその時のことを思い出しているようだけど。

 

「じゃあ、言いすぎてごめんなさいして、そこからは真っ向勝負だよ」

 

 『ね?』ってアイは俺に笑顔を向けた。

 アイの欲張りなところとか俺が似ていったように、アイも俺なりの人付き合いの影響を受けているかもしれないな。

 

「アビ子ちゃんも譲れないものがあるんでしょ?」

「はい、展開を変えるのはいいんです。でもキャラを、うちの子たちを大事にしてほしい。それこそ『今日あま』のドラマのように」

 

 アビ子先生も吉祥寺先生のように、まるで我が子のようにキャラクターを愛してるんだろう。

 

 なら、それを伝えるのが先決だな。

 

「これはこれは、まさか先生方にお越しいただけるとは」

 

 話しかけてきたのは独特なセンスの服装の男性だけど、悪意を持って近づいてきたわけではなさそうか。アビ子先生たちの知り合いのようだし。

 

「確か、えーと」

「プロデューサーをやらせていただいている雷田です。この舞台も僕の担当なんですよ」

 

 たぶん東京ブレイドも担当しているんだろう。

 

「お客さんの顔を見るのが楽しみで、こうして見ていると、お二人の姿が見えましてね。どうやらご満足いただけたようで」

 

「ええ、おかげさまで、いろいろと参考になりました」

 

 雷田さんは頬を緩めて、『少し失礼』って伝えてから、テーブルにビジネスバッグを置いた。

 

「実は、先生のご希望通りの脚本に、演劇にするべく、多くのスタッフがこうしてファンメッセージを書いてくれたんですよ」

 

 『急ぎのため、こうした印刷物にはなってしまいましたが』って、その中身のクリアファイルをいくつか見せた。アビ子先生はその1つを手に取るけど、それだけでも相当の量がある。

 

「役者の全員も書いてくれたんですよ。もちろん脚本のGOA君もこの土日に全巻読み直してね」

 

 この土日は事務所で、愛久愛海やかなちゃんも読み直していたっけ。

 

「こちらの不手際により、先生のご期待に沿えなかったことは事実です」

 

 そう言って、彼はサングラスを外しながら。

 

「しかし、どうかもう一度、僕たちを、GOA君を、信じてみてくれませんか?」

 

 真っすぐとアビ子先生を見つめた。

 

「こちらからもお願いしたいことがあります」

 

 アビ子先生は目を逸らさず、そう言った。

 

「GOAさんと直接お話しさせてください。それと、前はいろいろ酷いこと言ってしまって……ごめんなさい」

 

「ええ! すぐにでも連絡を取らせていただきます! さあさあ、こちらへ!」

 

 そして、プロデューサーさんはアビ子先生と吉祥寺先生を別室に案内していった。

 お仕事の話だろうから、俺もアイもカフェで待つことにしたけど。

 

 

 戻ってきたとき、すっきりした表情を浮かべているのを見て、どうやらわだかまりは解消したらしい。友人のアビ子先生と、何より愛久愛海の悩みが1つ解決しそうで良かったな。

 

 

 

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