まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
ステージはブラックライトで薄暗く照らされた。
横を見れば、アイも瑠美衣も月愛もワクワクした表情を見せている。
「東京、鬼や人が暮らす街
東京、鬼と人が憎み合う
出会えば必ず悲しみが
交われば必ず… わざわいが」
そんな合唱が響き渡り。
余韻まで聴き終えたくらいで、静かな機械音がした。
これがステージアラウンド、つまり円形劇場が360度回転していて、俺たちにはステージが横に流れていくように見える。
―――『東京ブレイド』の物語は、主人公が一振りの太刀を手にする所から始まる。
そんなナレーションがあって、モニターには赤い髪の青年が映し出された。明るいステージ側に向かってゆっくりと歩いていき、その先にはスポットライトで照らされて輝く刀がある。
「なんだこれ、光ってるのか?」
原作において、ブレイドは刀とともに捨てられていた孤児とされている。
そんな彼が16歳になった頃、その実力が刀に認められたことで剣士として覚醒した。
「すげぇ! 力が湧いてきやがる!」
ブレイドの興奮が、彼の表情や声を通して伝わってきた。
両手で握った刀を何度か振る度に、迫力のあるエフェクトがバックスクリーンに映し出され、インパクトのある効果音が流れる。
実写化作品だから当然だけど、マンガ以上に迫力を感じる。
それに、客席に流れる風によって、あの世界観に引き込もうとしてくる。
『これが舞台…!』って小さく呟いて、瑠美衣もキラキラと目を輝かせていた。月愛も真剣に見ていて、俺が見ていることに気づいていないようだ。アイとは目が合って、ほほえみ合った。
俺は視線をステージに戻すと。
「待て~い!」
ステップを踏むようにステージに入ってきたのは、陽気な声で茶髪の少女だった。
1本角が生えていて、人ではなく鬼なんだろう。
「私は剣主の1人、ツルギ様だ!」
堂々と名乗ったツルギは男に臆することなく、片手に握った刀を向ける。
ブレイドの刀は一般的にイメージしやすい日本刀だけど、彼女の持っている2本の刀の形状は
「俺はブレイドだ。ツルギって言ったよな、お前この刀を知ってるのか?」
「ふんっ、田舎侍が知らなくていい
聞く耳は持たず、ツルギは片方の刀を向けて、表情で戦意を示す。
ああいう強気なところ、かなちゃんは演じやすいだろうな。
「さあ、その盟刀を捨てて逃げるか、私と戦うか、選びなッ!!」
ツルギの口調といい、どこか蛮族のような構えを取るが、あまり殺気は感じさせない。
「なら、強いやつがこいつの相棒になる。それでどうだッ!!」
対するブレイドはまるで剣道の試合が始まる前のように、握っている日本刀を構えた。闘志を燃やし、心の底から楽しそうに笑っている。
モニターに映し出されるその横顔に、『カッコいい……』って座席のあちこちから聞こえてきた。
「はんっ! やってやるさ! あとで文句言うなよ!」
「そっちこそ、なッ!」
お互いの刀がぶつかり合う。
何度か初歩的な武器の振り方は教えたけど、以前にも増して、かなちゃんは器用に立ち回っていた。小柄な身体で
カラフルなスポットライトに照らされているから、まるで踊っているようだな。
本気で当てる気はなくとも、ツルギは派手な動きで攻め続ける。
それをブレイドは完璧に整った足運びをしながら、刀で逸らす。
甲高い金属音が鳴るタイミングで、一度距離をとった。
「だんだんこいつのことが分かってきたぜ」
「まさかまだ本気じゃなかった!?」
ブレイドが刀を掲げれば、バックスクリーンには暴風が映し出され、時折り紫電を発する。
『ヤバすぎだぁ!?』ってツルギは焦り、『行くぜ、風丸』とブレイドは笑う。
「一ノ刃 疾風迅雷!」
「ふぎゃあ~!」
上段の構えからの振り下ろしだった。
必殺技といっても決して速くはなく、むしろ魅せるために大振りなんだな。
風や雷が映っているスクリーンにも『一ノ刃 疾風迅雷』という文字が表示され、原作再現による感動が会場内を包み込んでいるようだ。
その技でツルギが直接傷つくことはないけど、風の衝撃波に吹き飛ばされ、勢いよく尻餅をついた。
厳密には様々な舞台演出だけど、タイミングが完璧で違和感がない。
「やめてけれ! おらまだ死にたくねぇだ~!?」
身振り手振りも合わせての命乞い。
モニターに映し出されるのは泣き顔で、かなちゃんの得意技だな。
「なら、俺の方が強いってことでいいな?」
「んだぁ~ アンタの方が強いだぁ~!」
「なぁツルギ、盟刀って何か教えてくれよ」
ブレイドは刀を鞘に納め、そして手を差し伸べる。
原作において、彼は強い相手と戦うことが大好きで、でも戦いが終われば仲間だって考えを持っている。
もし原作を読んでいなくとも、あの表情や声色の変化で、そういうことが伝わってくるようだった。
「この世界に盟刀は21本、その持ち主に特別な力を与えるだ」
ツルギはその手を取って立ち上がり、くるりと背を見せた。
ステージ側に響かせるように、ハキハキと喋っていく。
「よく聞きな、全ての盟刀に認められりゃ、全ての國を手にする」
腕を広げて、『國盗りの力なのさ!』と高らかに叫んだ。
そして、横顔を見せていたブレイドもステージ側を向いて歩いてくる。
「この日本を盗めるほどの力なのか。いいじゃん、王様になってみたかったんだよね」
そう言いながら、彼はステージに向かって、鞘に納まったまま刀を掲げた。
「俺が最強になって、この國の王になる!」
力強く、そう宣言する。
彼の覇気によって、空気が震えるかのような感覚もあった。
「でっけぇ人だぁ~ あんたなら本当にやれそうだぁ」
横を向いて、驚いた表情を見せた。
やがて、しょぼんと肩を下げる。
「ブレイド、この盟刀を持っていくといいだ……」
「ん? それはツルギの盟刀だろ?」
ブレイドは鞘に納まったまま刀を肩に
「全ての盟刀に認められればいいってなら
全ての剣主を仲間にすればいいってことだ」
『行こうぜ』と笑いかけて、ゆっくりと歩きだす。
釣られたように笑ったツルギは、そんな彼の背中に駆け足で追いついて、歩調を同じにする。
「じゃあ、このツルギ様が1番の家臣ってことだ! あんたが王様で、私は大臣だな!」
すっかり調子を取り戻したようで、隣にいるブレイドに元気よく話す。
「おう、覚えておくぜ」
「ブレイドの王道、このツルギ様が切り開いてやるさ!」
その横顔はとても楽しそうに笑っていた。
スクリーンが動き始め、彼らの旅が始まった。
昼から夕暮れに時刻が変わっていく演出もあり、夜の間はツルギの影が元気よくスキップすることもあって、どこか飽きさせないような工夫がある。
そして、彼らは街にたどり着く。
どこか廃墟を思わせる場所だった。
原作ではもっと多くの鬼がいるはずだけど、それを音声や影で再現している。スポットライトで照らされながら、紫髪の少年が2人の女性を連れ添って歩いてきた。
演じるのは鳴嶋君で、どこか表情が固いな。
「ここが、新宿クラスタの縄張りと知って、来やがったか」
「盟刀、見つけたぁ~!」
ツルギに言葉を遮られて、彼は驚いた表情を見せた。
原作にはない台詞、たぶんアドリブなんだろうな。
「新宿クラスタか、なあ、ここで1番強いのはお前か?」
挑戦的な笑みを浮かべるブレイドに対して、彼は気合を入れ直すように顔を上げた。
「…そうとも! 俺がキザミだ! 俺たちの縄張りに入ってくるなんてな!」
キザミは鞘から刀を引き抜きながら、自信を持って叫んだ。
その刀身が橙色に輝く。
原作において、この頃のキザミは強者として、そしてリーダーとして演じなければならない。
「何が狙いだ? この盟刀か? この土地か?」
バックスクリーンには炎が映り、威圧感を演出する。
俺みたいな素人目線からしても、表情といい、仕草といい、いっぱい練習してきたことが伝わってくる。
「当然! その両方だ!」
「「「ええっ!?」」」
ブレイドの発言に、ツルギだけでなく、新宿クラスタの女性たちも驚く。
「俺はブレイド、この國の王になる男だ!」
彼が抜刀すれば、風が吹いた。
大輝君も本気で演技をするつもりのようで、まあさっきまでのシーンを考えれば、手を抜くわけにもいかないんだろうな。
「マジか、全ての盟刀を集める気かよ」
原作において、流れ者のリーダーをしているキザミは、仲間を守るために侵略者と戦ってきた。だが、ブレイドたちは違い、彼の表情は嘘を感じさせず、しかも盟刀の持ち主であるツルギが配下にいる。
「おう! 俺が勝ったら、お前も仲間になれよ!」
「あんたらも、私らの配下になるといいさ!」
脚本にあるか分からないけど、それぞれブレイドやツルギが言いそうな台詞だな。
経験の多い役者たちが自然に流れを整えてくれてる。
だからあとは鳴嶋君次第ってことか。
「いいぜ、なら一騎討ちで決めようか。
俺とお前、どっちが強いかをよぉ!」
キザミは熱く叫び、ブレイドに突進する。
彼が片手の刀を力強く振るえば、バックスクリーンに炎が映し出され、ステージが赤く照らされる。
あまり綺麗な剣術じゃないけど、それはそれで、型に
「
その能力のこともあり、ブレイドは防戦一方だった。
とはいえ、両手で握った刀で上手く受け流している。
「どうした? 人の力ってこんなものかよ?」
「そっちは鬼の中でも怪力だな!」
男と男の真剣勝負は続く。
とはいえ『がんばってください!』とか『その調子です!』とか、キザミを応援する声もある。
まあこの戦いも、命のやり取りというわけでもないしな。
それにしても鳴嶋君はあれだけ激しい動きをしていても、息切れをしていない。
我慢しているのかもしれないけど、それだけ体力がついている証拠だ。
「だったら、これなら、どうだァ!!」
キザミは二の腕を見せるように構え、片手で強引に刀を振るう。
燃え盛った火炎の弾丸が映し出され、『まずいだぁ~!』ってツルギが慌てふためく。
そしてモニターに映ったブレイドは、楽しそうに笑っていた。
「二ノ刃 風薙ぎ!」
空に向かって風の力で逸らすように、刀を大きく振り上げた。
今回もスクリーンに『二ノ刃 風薙ぎ』という文字が出る。必殺技を叫んだり、その漢字をイカすフォントで表示したり、こういうのが少年漫画の王道演出なんだろうな。
「んな……」
「俺の勝ちってことでいいな?」
キザミが動揺しているうちに、ブレイドは彼の横に刀身を添えた。
「「キザミ様!?」」
幹部の女性たちはそれぞれ武器を構えたけど、その2人にはツルギが刀を向けて牽制する。
「くそっ… あんた
「お前なら本当に王になれると思った。だから、俺たちも仲間にしてくれよ! 」
「よし、これであんたらは私の配下だな」
先に返事をしたのはツルギで、まるで自分が勝ったかのように自慢する。
さすがのキザミも、むっとした表情を見せた。
「なんたって私は1番の家臣で、大臣にしてもらうからな」
「なら俺は将軍にしてくれよ、ブレイド!」
「おう、覚えておくぜ」
ブレイドは楽しそうに笑った。
だんだんとステージが暗くなっていって、『そうだ、宴でもしようぜ!』ってキザミの提案に、『美味いもん食わせてけれ!』ってツルギが答えていた。
ステージが流れていくのとは反対側に向かっていくので、一旦休憩に入るのだろう。
たぶんここまでが1幕、全体を通して長時間だからな。
―――新宿クラスタを仲間にしたブレイド
ここでナレーションが入る。
―――だが徒党を組んで行動する者たちは彼らだけではない。
先ほどとは打って変わって、和の雰囲気だった。
その薄暗いステージがゆっくりと照らされていく。
座っている鞘姫と、そして何よりその側に立つ刀鬼だ。
たぶん『アクア~!』『お兄ちゃ~ん!』って心の中で叫びながら、嬉しそうにアイや瑠美衣がサイリウムを持っているかのように両手を構える。
でも再びステージは薄暗くなっていって、休憩時間だと示すべく、観客席も明るくなった。
「えっ、お預け?」
「そのようだね」
「続き気になるよ~!」
瑠美衣の言う通り2幕以降も楽しみだな。
なんだかあっという間に感じたけど、それだけ見入ってたんだろう。
アビ子先生や吉祥寺先生やGOAさんは1幕の感想を楽しそうに話し始めていた。