まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編37 (オリ主視点, 東ブレ初日公演③)

 

 主人公のブレイドはツルギを仲間にしてから、キザミたち新宿クラスタのメンバーと交流を深めていく。これからも彼は國の王になることを目標に、盟刀に認められた剣主を探していく旅は続いていくと思われた。

 

 だが、その日の宴会で急展開を迎える。

 

 第2幕、(もんめ)という男がステージに現れる。

 廃墟が目立つステージを背後に、彼は青いスポットライトに照らされながら悠然と歩く。

 

「ブレイド…ですか、気に入りませんね」

 

 ステージ側にフードで隠れた表情を見せながら、その低い声を響かせた。

 それと同時に、冬の到来を感じさせるような風が流れてくる。

 

「21本の盟刀を揃え、全ての剣主に認められるなど……できるわけがないというのに」

 

 黒いマントを(ひるがえ)すと、鞘に納まった刀が見えた。

 

 モニターに映っている表情は、その角度といい、原作の1コマを完璧というほどに再現しきっているように思えた。鴨志田君、こういった2.5次元で活躍している役者で、彼も若手で相当の演技力だな。

 

 隣にいるアイも真剣な表情で、じっくり観察するように見ているようだ。

 

「その実力は本物のようですが、しかし所詮は人の身です」

 

 彼は呟くように、台詞を言い続ける。

 

 バックスクリーンには、(ふすま)の向こうの人の影が映し出された。

 その特徴的な髪型から、宴会をしているブレイドたちだと分かる。

 

 そして突然、『おい、どうした!?』とキザミが焦る声が響いた。

 続いて『まさか毒を盛られたのでは!?』『医者を呼んでけれ~!』と幹部やツルギたちが慌てふためく声がする。

 

 計画通り、と匁は不敵に笑う。

 

 『こんなことしやがったのは、どこのどいつだァ!!』とキザミの影は怒り狂いながら、どこかへ走っていった。

 

「所詮は新宿クラスタも、はぐれ者の集まりでしたね。これで任務は終了です」

 

 匁はいわゆるスパイであり、本来の所属は渋谷クラスタだ。

 ただしブレイドの暗殺を試みたことは私情で、与えられていた命令は戦力確認のみだった。

 

 彼が渋谷に戻るべく、歩き始めた時。

 

「おい! そこの怪しいやつ! 俺の部下に毒を盛ったのは、お前か!」

 

 キザミがステージに走ってきて、指差すように橙色の刀を向ける。

 

「……なに? 部下だと? ブレイドではなく?」

 

 匁は振り向いて、思わずそう問いただす。

 普段の慎重な彼ならば顔を見せることはなかったが、計画が失敗した可能性があったからだろう。

 

「はぁ!? ブレイドさんを狙ってやがったのか!?」

 

 ブレイドではなく、鬼の1人が彼の分を食べてしまったようだ。

 『悪運の強いやつめ』と匁は呟くように声を発する。

 

「よく見たらその顔、確か最近入ったやつだな! 裏切ったのか!?」

 

「裏切るだなんて、これは命令だから仕方なかったんですよ……」

 

 匁は直接的な戦闘を避けたがる性格だ。

 情に訴えかけるかのように、声色すら弱々しいものに変化させていた。

 

「知るかよ! お前がやったんなら、とっ捕まえて謝らせてやる!」

 

 キザミは確かに怒っているが、どうやら謝れば許してもらえるらしい。

 しかし匁からすれば、人を殺せるほどの毒を用意したはずなのだ。

 

「……もしかして、生きているので?」

 

「あぁん? 鬼があんな毒で死ぬかよ」

 

 モニターに映る匁の口元が、苛立つように震えた。

 しかも、思わず鞘から刀を引き抜いてしまったほどだ。

 

「それは盟刀か! なら、ますますとっ捕まえる理由ができた!」

 

「どうしても戦わなきゃダメなんですか? 親から無理やり剣を与えられたというのに?」

 

 嘘か本当かは分からないが、再び情に訴えかけて、戦いを避けようとしていた。

 

 しかし以前までのキザミならともかく、ブレイドに影響されて彼の価値観は変わっている。

 

「別に命のやり取りじゃねぇからいいだろ。まっ、俺に勝てるのはブレイドさんくらいだけどな」

 

「ブレイド、どこまでも……」

 

 その表情を再び隠して、『いいでしょう』と匁も刀を構える。

 

 確かに何度も戦いは避けようとしていたが、本来の実力は非常に高い。人の身でありながら、渋谷クラスタにおいて、鬼の幹部たちに匹敵するほどだ。

 

 ただしブレイドの溢れる闘志と違って、匁はそれを隠しきっている。

 

「かかってこいよ」

 

 だから、キザミは指を動かして挑発した。

 

「では、遠慮なく!」

「おっと」

 

 匁は両手で握り込んでいるのに対して、キザミは片手持ちだ。

 それでも純粋に刀がぶつかり合えば、鬼と人の身体能力の差を表現しているから、キザミが鍔迫(つばぜ)り合いは有利のようだ。

 

 それにしても握り方や足運びが綺麗で、大輝君もそうだったけど、鴨志田君も刀を振り慣れていることが読み取れた。

 

「どうした、そんなものかよ!」

 

「ちっ、相変わらずの馬鹿力ですね」

 

 展開とは真逆で、どちらかというと余裕そうなのは鴨志田君の方だ。

 

 たぶん彼は手加減するような性格じゃないんだろうな。鳴嶋君もなんとか食らいついているけど、素人目線で見ていても、ところどころで(あら)が目立つ。

 

 ただ、その一生懸命さが伝わってきて、目を離せない。

 

 とはいえ2人の演技力の差に、どこか不安そうな雰囲気も漂い始めているようだった。

 

 そして、それが決定的に表れるような瞬間が訪れる。

 

「やれやれ、手っ取り早く終わらせましょうか」

 

 一度距離を取った匁は、刀を顔の前で構えて、もう片方の手のひらで刀身を支えた。

 

「なっ!? これがお前の盟刀の能力か!?」

 

 キザミは驚き、慌てて足元を確認する。

 バックスクリーンには海を思わせるような映像が映し出され、時折り波の音が聞こえ始めた。

 

「これを見た以上、生かしては帰さない」

 

「くそっ! 動きづれぇ!」

 

 そこから、明らかにキザミの動きが悪くなった。

 まるで泥沼に足を突っ込んだように、その場から動けない。

 

 それは匁も同条件のはずだが、水を滑っているかのような綺麗な足運びでキザミを斬りつけていく。

 背後を取られ、振り向くことにもバシャバシャと音を立てて、時間がかかる。

 

「ぐぁ!?」

 

 キザミができることは、己の首を守るべく、剣戟(けんげき)から耐えることだけ。

 

 鴨志田君は時折りアクロバティックな動きを取り入れながら、ステージで自由自在に輝き続ける時間が続く。

 

「ちくしょう!!」

 

 それでも、彼は根性を見せて食らいつく。

 キザミがそういうキャラクターだからってのもあるけど、たぶん鳴嶋君本人もそういう気質を持っているように思えた。

 

「俺は……俺は……」

 

 キザミは、己は強いと思っていた。

 しかしこの日、ブレイドに完敗し、ナメていた匁にも一方的に押されている。

 

 この場面でキザミの心の声は、原作には書かれていたけど、舞台でそれはできない。

 

「俺は負けねぇ……」

 

 情けなくて

 みっともなくて

 何より悔しい

 

 あれはまさしく、涙を気合で抑え込もうとする顔だ。

 

「負けねぇぞ…こらぁ!!」

 

 そんなキザミの感情を、鳴嶋君は表情や声だけで表現していた。

 

「っ!?」

 

 匁によって、キザミが持つ刀が宙を舞った。

 やがて、カランと音を立てて床に落ちる。

 

 そんな彼のピンチに思わず口元を抑えた人が多かった。アイや瑠美衣だけでなく、吉祥寺先生たちもそうだ。原作においても、このシーンには出血した描写が出てきたこともあり、切迫感があったけど。

 

「これで終わりですね」

 

 しかし、キザミの瞳はまだ諦めていない。

 

 間髪入れず迫りくる突きを、彼はしゃがみ込むことで回避し、そのまま地面に付けた腕をバネのように跳ねて、一気に後退した。

 

 着地すると同時に、足元の刀を蹴り上げる。

 

 クルクルと舞い、光を反射してキラキラと輝く。

 

 完璧なタイミングで持ち手をしっかりと握り込み、いつでも食らいつけるよう片膝をついたまま刀を構えて、真っすぐと見据える。

 

「こっちの番だ!!」

「ふっ、何をする気なのか」

 

 その場で、キザミは片手で大きく刀を振りかぶる。

 

紅蓮……炎刃!!」

 

 バックスクリーンには『紅蓮炎刃』と漢字が表示され、中心から爆炎が起こり、海や波を吹き飛ばす。

 そこに熱い展開に合う効果音や、そこそこ温度の高い風が観客席に押し寄せてくる。

 

 先ほどのアクションといい、多くの人の肩が興奮するように跳ねていた。

 

 『いまの…!』『だよね…!』

 『実際にできると思って描いてないのに…!』

 って思わずあちこちから小声が聞こえてくる。

 

 たぶん心の中で『やっちゃえ~!』って叫びながら、アイや瑠美衣もノリノリで楽しんでいる。月愛も背もたれから離れているから、盛り上がってそうだな。

 

俺は!! 誰にも負けねぇ!!!

 

 眼から、指先の1つまで、悔しいって感情を込めている。

 諦めないという根性が伝わってくる。

 

「ちぃ! こんな力任せな大振りなんて!!」

 

 匁の刀に、キザミの刀が何度もぶつかり、その度に甲高い音を立てる。

 なんなら鳴嶋君は体力を使い果たす気で演技していそうだな。

 

「おら! おらぁ!!」

 

「いい加減、沈めよ!!」

 

 匁は焦りを見せ始め、いつの間にか『負けたくない』という表情をしている。

 鴨志田君の瞳もそんな興奮を見せていた。

 

「沈めぇ!!」

「燃えろぉ!!」

 

 バックスクリーンには、キザミに向かって大波が襲い掛かるような映像が流れた。

 

 炎が何度か押し返そうとするも、しかし水の量はどんどん増えていく。

 

 そして海に完全に飲み込まれてしまう。

 

 

「くそっ! ちくしょーー!!」

 

 

 カンッと大きな金属音が鳴った。

 キザミは刀を地面に突き刺し、その身体が前に倒れていく。

 

 

 地に伏せ、彼が動く気配はなかった。

 

「はぁ…はぁ… ようやく…止まりやがった……」

 

 汗を流している匁は肩で息をしていた。

 そして刀を向けて、とどめを刺そうとするも、何かに気づいて武器を構える。

 

 キザミを守るように立ったのは赤髪の青年と、茶髪の少女だった。

 

「キザミ、お前の炎のおかげでここが分かったぜ」

「あとは私たちに任せな!」

 

 一歩前に出たのはツルギで、彼女は2本の刀を鞘から引き抜いて構えた。

 今回は戦いを譲ることにしたらしく、ブレイドは少し後ろに下がってから腕を組む。

 

「よくも私の身内を痛めつけただな。1兆倍にして返してやらぁ!」

 

 ツルギがやる気になっている以上、1対1の邪魔にもなるからだ。

 

「そんで、あんたも私の配下になるといいだ!」

 

「……渋谷クラスタに所属している以上、それはできませんね」

 

 匁はこの段階でブレイドと戦うことは得策ではないと考えたようだ。

 

 ちなみに渋谷クラスタ所属は本当ではあるのだが、鬼が中心の両陣営に不満を持っている。だから、このまま2つの陣営を争わせて、同士討ちさせようとも考えていた。

 

「もし戦うというなら、我々、渋谷クラスタ、が黙っては……」

 

「ごちゃごちゃうるさ~い、渋谷クラスタなんて知ったことじゃないだ」

 

 匁の言葉を遮り、ツルギは話し始めた。

 どれだけ戦力差を言われたとしても、戦うことを避けるつもりもない。

 

「文句あるやつは全員倒して、み~んな仲間にして、私たちがこの國を盗るだけさ!」

 

「そうだ、お前も仲間になれよ」

 

 2人揃って良く言えばフレンドリー、悪く言えば横暴だ。

 

 匁は何とも言えない表情をしながら、刀を鞘に納めた。

 

「……さすがに2対1はこちらが不利です。渋谷で会いましょう」

 

「こら~! 逃げるな~!」

 

 マントを(ひるがえ)して、ステージの奥へ走り去っていく。

 

 

 ステージ全体が回転を始め、その間も『逃げるなトリやろ~! おたんこナスビ~!』『渋谷で会おうぜ!』ってツルギやブレイドが叫んでいて、どこまでも演劇を飽きさせないな。

 

 

 やがて、匁は和風な雰囲気のあるステージにやってくる。

 

 そして何より、腕を組んで待っているのは水色の髪をした鬼だった。

 

「戻ってきたか、匁」

「刀鬼ですか」

 

 ウィッグをつけているけど、愛久愛海だとすぐに分かる。

 まるで男性アイドルを応援するように、アイや瑠美衣は『きゃ~~!』って心の中で叫んでいそうだ。普段の優しい声色より、どこか無感情で低音ボイスなのがギャップ萌えといったところだろうか。

 

「お前が傷を負うとはな。新宿クラスタ、厄介なようだ」

「ええ、襲われ、逃げ帰ってきましたよ。剣主は合計3人にまで増えています」

 

 『そうか』と呟いて、完璧に感情の起伏がない。

 それでもミステリアスな魅力を感じさせていた。

 

「なんと、我々全員を倒せばいいとすら思っているようです」

 

 匁は『どうします? あいつら攻めてきますよ』と、嘘だと気づかせないような話し方を続けた。

 

「俺は姫の懐刀だ。ただ持ち主の指示に従うだけ」

 

「キミに意見を求めたのが間違いでした。少しは人間味を持ったらどうですか」

 

 そうして匁は、奥に座っている着物姿の女性に目を向ける。

 白色で長髪の女性は鬼の角を持っていなかった。しかし、溢れ出ている風格から、彼らのボスだと感じさせる。

 

「鞘姫、ご決断を……」

 

 匁は、その女性に頭を下げる。

 

「刀を抜けば…… 血が流れるでしょう……」

 

 争いを好まない鞘姫は決断を迷う。

 

 そんな彼女の感情を、あかねちゃんは表情や声で葛藤を表現していた。長い台詞なんて必要ないようで、刀鬼や匁を心配そうに見て、誰かが傷つくことを不安がっている。

 

「しかし争いを避けようとするほど、血は流れるもの」

百目(ひゃくめ)か」

 

 白粉(おしろい)を使っているのか、白い肌の男性がそう言いながら入ってくる。鬼というよりは妖怪に見えて、その雰囲気や銀色の和服で、どこか他のメンバーとズレた様子を見せていた。

 

「先代も他のクラスタと争い、この渋谷を守ってきたのですよ、鞘姫サマ?」

 

「知っております……戦わねば守れないものもあるのでしょう」

 

 鞘姫は美しい所作で立ち上がりながら、白い鞘に納まった刀を手に取った。 

 

ならば私も、刀を抜きましょう。合戦です

 

 これより新宿クラスタと渋谷クラスタの衝突が起こる。

 ごくりと息をのむような展開だった。

 

 

 

 ここまでが第2幕、ステージの光がどんどん薄暗くなっていく。

 

 

 

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