まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
第3幕が始まる。
あちこちから声が聞こえるように、ざわめくような音声が流れ始めた。
「ホホ、もう渋谷クラスタに挑みに来ましたか、新宿のネズミども?」
そしてハッキリと聞こえてきたのが、平安時代のような貴族のような話し方をする男の声だった。
「ま、待ってけれ~ 別に戦いに来たわけじゃないだ!?」
ブレイドが率いる新宿クラスタは、
今は戦国時代、クラスタ同士で争うことも多い。ブレイドたちが少数とはいえ、乗り込んできたと勘違いするのも仕方がないだろう。
それに、
「あいつら、本気で戦う気だ!?」
「
シルエットが浮かんでいるような薄暗いステージの中で、ブレイドが手のひらと拳を打ち合わせる音を響かせた。そんな戦闘狂な主君のせいで、ツルギが頭を抱えて『そういうお
「
キザミも一歩前に出て、力強い動きで自分をアピールしながら、親指で自分を指す。
「よしっ、この抗争に勝って、渋谷クラスタも仲間にしようぜ!」
ブレイドがそう言うと、やがて薄暗いステージが赤い光で染まり、新宿クラスタの姿がモニターに映った。
「ああもう! 全員私たちの配下にしてやるさ!」
人数は合計10人、彼ら彼女らは横に並んでいた。
モニターで流れていくように映り、完璧なタイミングで順番に頷いていく。
その最後に、ブレイドが映り込む。
「行くぜぇ!」
「「「「おーーーっ!」」」」
ブレイドが先頭になるように、新宿クラスタのメンバーは声を上げながらステージを走り始めた。
打楽器を叩く音がBGMとして鳴り始め、ステージ全体が回転することで背景が変わっていく。
そして最初に待ち受けていたのは2人の鬼で、鎖ガマや槍を大胆に振って、その姿をアピールした。
「ここは通行止めだ、新宿クラスタ」
「通りたきゃ、その首、置いてきな!」
その横顔の表情といい、武器の構え方といい、原作の1コマを見ているようだ。
「おもしれぇ、まずはお前らか?」
「いいえ、先に行ってください、ブレイド」
「ここは私たちが引き受ける!」
新宿クラスタから2人の鬼が前に出て、彼女たちもそれぞれの武器を構える。逆手持ちで抜刀したり、バトンのように槍を扱ったり、全員が似たような武器じゃないというのも、見ていてワクワクする点だな。
「キザミ様! 匁のことをよろしくお願いします!」
「引っぱたいて、連れ戻してやってくださいよ!」
「当然だ! ここは任せたぞ!」
ブレイドたちが走り始めると同時に、2vs2の戦いが始まった。
金属同士で甲高い音が鳴り、ステージの回転が再開する。
スポットライトに当たらないとはいえ、視界の端では激しい動きで演技は続く。
しかしブレイドたちの方で大きな動きがあったため、思わずそちらを見ている間に、そのままフェードアウトしていったようだ。
「おやおや、たったそれだけの人数でこの渋谷に来るだなんて」
フードを被った男が、ブレイドたちに高い位置から話しかけている。
「そっちから来やがったな、匁!」
「おや、キザミさんじゃないですか」
『僕に負けたあなたまでいるなんて』と、嫌味たらしく煽ってくる。
「ああ、俺は確かに
しかしキザミはそれによって激情を見せることはない。
ドンとステージを叩いて、橙色の刀を向ける。
「だが今日の俺は、この前の俺より強い!」
その刀身は、燃える闘志でメラメラと熱く燃えているようだった。
「何度やっても結果は同じですよ」
「そんなのやってみなきゃ分かんねぇ! 決着つけるぞ!」
見下ろす匁に、キザミは刀を向けてそう叫んだ。
「ブレイドさん、行ってください!」
「おう! 俺は渋谷クラスタのボスを探しに行くぜ!」
これだけの鬼や剣主たちをまとめ上げている以上、最も強いだろうと思っている、そんなブレイドの言葉を、黙って聞き流すことのできない鬼がいる。
「雑魚どもは任せるぞ、百目」
「ホホ、そうするとしましょうか」
刀鬼や百目がそう話しながら現れた。
無表情ながらも、どこか怒りを抑え込んでいるような気がする。
そういう演技を愛久愛海がしている。モニターを意識した角度といい、まるでどこかのモデルのようだな。アイは『さすがうちの子』って自慢げだし、瑠美衣は『お兄ちゃん…カッコイイよぉ…ハァハァ…』って呟いて、月愛にハンカチで口元を拭かれていた。
「あいつ
「ホホ、いいえ? 彼は刀鬼、鞘姫サマの懐刀ですよ」
ブレイドの質問に答えたのは百目で、彼はその着物を翼のようにバサリと動かし、扇子で口元を隠す。
「しかしたったこれだけの人数ですか、無謀もいいところですね」
「俺はブレイドを潰す。そしてこの
冷酷な台詞だけど、どこか『鞘姫のために』って言葉を思わせるような表情や声だった。
「このままじゃどんどん増えていくし…… あっ、いいことを思いついただ!」
ツルギは頭に電球が浮かんだように何かを閃いて、どこかに走っていく。
「ちっ、逃がすか!」
それを追いかけるべく、刀鬼はその高い位置からステージに向かって落ちていく。
アイたちは驚いて口元を抑えたようだけど、ワイヤーアクションというやつだろう。無事に着地し、すぐさま立ち上がったことで、ほっと安心する息を吐いた。
「待ちやがれ、刀鬼!」
「邪魔をするな、ブレイド」
ブレイドと刀鬼の戦闘シーンは一度お預けのようで、3つ目のステージに移り変わっていく。
「無我夢中で走ってたけど、なんとかなるもんだな!」
ツルギがたどり着いたのは、桜が咲いている中庭だった。
今までで最も豪華なステージで、神像は巨大なものだし、居城の一部も造られている。さすがにバックスクリーンで和風の街並みを映しているけど、そのリアルさにも驚かされる。
「私が鞘姫ってやつを倒せば、万事解決だ!」
楽観的にツルギがそう叫びながら歩いていると、神社に向かって祈っている女性がこちらを向く。白い着物を着た女性は、その手に持った白い鞘の刀を身体の前で掲げた。
鈴のような音が鳴り、何かを哀しむような表情をしている。
「角がない? 鬼と人の混血だか?」
「貴女も混血は、純粋な鬼に劣ると思っているのですか?」
刀鬼と同じく、鞘姫は感情を感じさせない声で返事をする。
原作において、渋谷クラスタを率いていた先代は、人と愛し合ったとされている。それが原因で鞘姫が生まれた頃、内部抗争が起きて鞘姫の父は殺されてしまう。
赤子だった鞘姫も殺されるところだったが、しかし彼女は
そういった過去回想シーンが、渋谷クラスタ編の最初に挟まれていたけど。
「そんなの知ったこっちゃない! 渋谷クラスタ丸ごと、私らの配下になればいいさ!」
舞台で長々と語られるわけでもなく、ツルギが気にすることでもない。人の身でありながら世界最強を目指している未来の王も、鬼も人も関係なく剣主は仲間にするだろう。
「さっさとその盟刀を抜きな!」
「……貴女にはこれで十分です」
2本の刀を引き抜いたツルギに対して、鞘姫はその刀身を抜くことはない。
「はんっ! なめてくれて! あとで文句言うなよ!」
ツルギが小柄な身体で駆け始めた。
鞘姫は最小限の動きで立ち回り、鞘を使ってその
かなちゃんの表情、戦いを楽しんでいる時の大輝君の表情と似ているどころか、完璧なほどに近づけている。ツルギというキャラクターが、ブレイドの考え方に影響されたって伝わってくるようだ。
「なかなかやる! でもいつまでもつかな!」
「……いいでしょう」
鞘姫は距離を取り、かすかに闘志が芽生えていた瞳を一度閉じた。
指を
「この一戦、本気で相手をしましょう」
全てを魅了しそうな瞳に星が浮かんでいるようで、纏う雰囲気は太陽のように輝き、しかもたぶんスポットライトの角度を計算して刀身で光を反射する。
あれが、今のあかねちゃんの全力か。
視界の端で何人か登場してくるけど、どうしてもステージの中心から目を離せない。それでも鞘姫が主役を譲る気はないと言わんばかりに。
着物の袖を優雅に揺らし、舞いながら刀を振るう。
アイは『すごい子だね』って、瑠美衣は『きれい…』って、小さな声で呟いた。
役者はいろいろな知識や経験をどんどん糧にしていると思うけど、あかねちゃんはアイドル、というか元B小町のセンターの技術も取り入れているらしい。しかもこういう舞台に慣れているようで、あの着物姿でワイヤーアクションまでこなしている。
そこから、太陽がもう1つ増えたかのようなことが起きる。
「負けるかぁ~!」
ツルギは心の底から楽しそうに、白い歯を見せて飛び込んでいった。
あかねちゃんをライバルとしているから、かなちゃんも本気で挑むだろう。
右の戦場でも2vs2の演技が息ぴったりだし、左の戦場ではキザミと匁がアクロバティックに動いているし、どこを見ていればいいのやら。
アイも瑠美衣も月愛も、いそがしく首を動かしている姿が可愛らしい。
「ええい、何を手こずっているのです! 早く新宿のネズミどもを全滅させなさい!」
この戦いを激化させるべく、百目はその独特な声で上から指示をする。
見るからに悪役って感じがする演技が上手な人だな。
彼がいる方向に注目していると、ステージにゆっくりと左右から幕が閉じていった。
そして真っ黒なスクリーンには桜が舞う映像が流れ、まるで星が浮かぶ夜空のようだった。
赤髪の青年と、水色の髪の青年が、両左右から歩いてくる。
シンプルなスポットライトに照らされたのはブレイドと刀鬼であり、大輝君と愛久愛海の共演シーンでもある。
「刀鬼、お前が渋谷で1番強いやつだよな?」
「……ブレイド、お前には志があるのか?」
早く戦いを始めたがっているブレイドに対して、その温度差を感じさせるように刀鬼が尋ねた。
「鞘姫にはある」
「志ねぇ…… ないことはないと思うが、俺は口で説明するのは得意じゃねぇんだ」
『だからよ』とブレイドはゆっくりと刀身を見せていく。
刀鬼もいつでも抜刀できるように構える。
「語ろうぜ、俺たちの刃で」
「鞘姫の前に立ち塞がるのなら、全員潰す」
空気が震えたかのよう。
2人ともすっかり剣士じゃないか。
気持ち悪いほどに俺の口角が上がってしまう。
「楽しもうぜ!」
「楽しむつもりはない」
刀を引き抜いたブレイドが地面を蹴って跳び、空中で腕に力を込めた。
刀鬼も地面を蹴って飛び込み、抜刀しながら攻撃を行った。
金属同士がぶつかる甲高い音が、タイミングよくスピーカーから聞こえる。でもステージでは本物の音も鳴っているはずだ。そしてスクリーンは夜空のように黒いままで、特にエフェクトも表示されていない。
ステージに足をつけると、そこから間髪入れずお互い踏み込んだ。
何度も位置が入れ替わり、刀と刀がぶつかり合う。
「おらぁ!」
「ふん」
明確に台詞を言うことなく、出せる限りの強者感を、彼ら自身の確かな実力で示している。原作においてブレイドが初めて苦戦する相手が刀鬼だからな。
でも命のやり取りってわけじゃないし、真剣勝負というわけでもない。
(アクアも大輝君も楽しそうだね)
(わがままで入れてもらったシーンなんだろうな)
俺とアイは目で会話して頷き合った。
横顔だけを見せて、激しい動きで誤魔化しているけど、2人とも子どもみたいに無邪気に演技をしている。いわば本気のチャンバラごっこというわけだな。
興奮している瑠美衣も『どっちもがんばれ~』って心の中で叫んでいそうで、月愛たちも
やがて愛久愛海も大輝君も、動きを止めると、その一瞬で息を整えた。
「小手調べはこれくらいでいいか」
「この技で潰して、鞘姫のところに向かうとしよう」
ブレイドの側に暴風が巻き起こり、刀鬼の側には巨大な氷刃が映る。
ブレイドは刀を振り下ろせるよう上段に構え、刀鬼は肩に担ぐように力強く構える。
「一ノ刃 疾風迅雷!」
「氷魔絶刀!」
風雷が
『一ノ刃 疾風迅雷』と『氷魔絶刀』の文字が表示される。
その余波というべきか、温かい風と冷たい風が入り混じってこちらまでやってくる。
「おいおい、この技で互角かよ」
「厄介な相手だな…… それに、鞘姫も戦いを始めたようだ」
スポットライトが消え、その暗闇の中で素早く2人は幕の隙間に移動していった。
第3幕でクライマックスな盛り上がりだったのに、まだ最後の第4幕が残っている。ここからまた休憩時間に入るけど、この興奮は再開まで冷めることはないだろう。