まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
新宿クラスタと渋谷クラスタの抗争は続く。
炎の盟刀を持つキザミは、水の盟刀を持つ
その能力だけでなく、彼らの戦い方は両極端だ。
キザミの力強い連続振りを、匁は的確に刀で逸らすことで、甲高い音が連続して響く。
「油断してたらまた海を創られる! だが! このまま攻め続ければいいだけだ!」
身体能力の差を補うほどの技量が匁にはある。
だからキザミは決して油断はしない。
「まるで猪のような戦い方だ。貴方は鬼といえど、どこまで体力が持ちますかね?」
内心はどうか分からないが、匁は涼しい表情のまま挑発する。
以前までのキザミなら隙を見せたかもしれないが。
「へへっ!
「ちっ、以前にも増して、暑苦しいやつだ」
どこまでも根性論なキザミに対して、匁の口調が乱れる。
そんな彼は、ほんの少し口元に笑みを浮かべていた。
匁にとって、戦いとは単なる殺し合いだった。
それがここでは『キザミに負けたくない』という気持ちが芽生えてきている場面だ。彼はそういう表情の変化を上手く見せている。
「どうした? そっちこそ動きが鈍くなってきたな!」
「まだ本気すら出していませんよ」
両手で刀を握り込み、全身で押し込むように力を籠める。匁はそんな
しかし2人の真剣勝負は、思わぬ形で中断することとなる。
「きゃあ!?」
「何これ!?」
「なっ!? お前ら!?」
衝撃波にでも吹き飛ばされたのだろうか、女性の鬼たちが地面を転がった。
匁を突き飛ばすように刀を弾いてから、急いでキザミは2人のところに駆けつける。
「怪我はないか!?」
「ええ、平気です」
「ピンピンしてますよ!」
どうやら無傷だった彼女たちは勢いよく立ち上がり、キザミの背中を守るべく、それぞれ武器を構えた。
キザミもまた匁に向き直して、刀を構える。
これだけの隙を見せてしまったから、いつ盟刀の能力を使われてもおかしくないが。
「やれやれ、あの2人は格下相手にまだ手こずっていましたか」
「手こずってなんかねぇよ!」
「この
2人の鬼が話しながら、どちらかというと背後を警戒しながらゆっくりと近づいてきた。
「はぁ? いや待てよ、まさか…鞘姫のやつが……」
先ほどまでの戦いで匁は心当たりがあったようで、苛立ちを見せ始める。
真剣勝負の邪魔をされたことが気に食わなかったのだろう。
「それよりも百目、何のつもりだ」
「さっきの攻撃、どうして俺たちまで巻き込んだっすか?」
今注目するべきは彼らが睨んだ方向だというように、紫色のスポットライトでステージの端が照らされる。
ほっほっほ とまるで平安貴族のように笑う男が歩いてきた。
「いつまで
扇子で口元を隠し、もはやその怪しさを隠そうともしない。
「あれほど厄介で凶悪な能力であるのに、なんと愚かな使い方をするのやら。そのような剣主ならば、むしろ脅威ではありません」
「てめぇ! さっきから何をブツブツ言ってやがる! というか仲間を攻撃したのか!」
キザミは刀を突くように動かしながら、百目を睨んだ。
彼が仲間思いということがよく伝わってくる。
しかし百目は全く動じず、『はて、仲間と?』と見下し、高らかに
「人も、鬼も、我等と比べれば下等な存在、どうして仲間と思えますか」
「百目のやつは、先代よりさらに前の頃から渋谷クラスタに属していると聞いていたが」
「それにしたって、いけ好かないやつっす!」
「てことは、あいつもどっかのクラスタのスパイなのか!?」
2人の鬼の言葉を聞いて、驚いたキザミがそう叫んだ。
ここではいまだ伏線を張るだけなので、彼の質問には答えが返ってこない。
「さて、ワタシは千代田クラスタに参りますが…… いかがですか、匁?」
「……いいでしょう。戦いを続ける理由もなければ、渋谷クラスタにいる理由もありません」
頷いた匁は刀を鞘に納め、この場所から離れようとする。
「あいつ! おい、俺との戦いから逃げる気か!?」
「キザミ様、お待ちください!」
「ブレイドたちがいないのに、千代田はヤバいですよ!」
キザミたちは匁を追いかけていく。
渋谷クラスタに所属する2人の鬼はここに残り、百目に向かって武器を構えた。
たとえ台詞を話すこともなくとも、鞘姫を裏切ることは許さないといった思いが伝わってくる。
その後、すぐ視界は真っ暗になって、まるでそこは暗闇の世界のようだ。
場面が移っていった。
再び豪華な中庭が、眩しいくらいの光に照らされる。
「なんなんだ? あいつ、急に動きが悪くなっただ」
ツルギは肩で息をしながら距離を取った。
彼女と向かい合っている鞘姫は悲しげな表情を浮かべていて、どこかこの戦いに集中していないようだ。
「それに、さっきから鞘で、ペシンペシンとぉ~!」
どうやら、おでこを何度か叩かれたようで、ぐぬぬって表情を見せる。
原作と違って、舞台裏で起きていた戦いのようだけど、鞘姫の剣士としての技量の高さをその一瞬で表現した。
「……この
「くぅ~! 次こそは勝ってみせるだ!」
着物姿で舞うように攻めてくる鞘姫に対して、ツルギは両手の刀を構えた。
そんなとき。
「あぶねぇぞ、ツルギ!」
そう叫んだブレイドは俊足で駆けつけて、ツルギの帯を反対方向に引っ張った。
その直後に刀と鞘がぶつかり、その独特な音が鳴る。
「おっと、邪魔して
「貴方がブレイド……新宿クラスタを率いる者ですか……」
遠くから急いで駆けつけたのであれば、鞘姫がツルギを斬るような光景に見えてしまったのだろう。
「んだぁ~~!?」
叫び声に何があったのかと視線を向ければ、そこには投げ飛ばされたツルギが、後ろから刀鬼に支えられていた。
「離せぇ~!」
「女、遊んでる場合か?」
ツルギはブンブンと刀を振り回そうとするも、その細い両腕を刀鬼にがっしりと掴まれて止められた。
「命を
「わ、私だって戦えるだ!」
そう抗議しながらツルギを攻撃するも、刀鬼はいとも簡単にあしらう。
そして再び腕を掴んだ。
「こんなに柔らかい身体をしてか? もう少し鍛えたらどうだ」
ツルギの二の腕をむにむにしている光景が、モニターに映り込む。
「ちょっ、あんだぁ! 乙女の魅惑ぼでぇに何すっだぁ~!」
ツルギは頬を真っ赤にしながら、バタバタと離れていく。
舞台脚本にあるのか、それとも愛久愛海たちのアドリブなのか、まあどっちにしろ刀鬼ならやりそうなことだけど。
かなちゃん、だいぶ素で照れてる表情じゃないか。
アイもほほえましそうだったり、瑠美衣がたぶん『かなちゃんズルい!』って表情だったり、月愛がニマニマと面白がっていたり。
「男は女を命を
「ふんっ! 何よ女! 女って! なめないで!」
こういう言い合いが、『刀つる』というカップリングに発展していったんだろうな。
生まれながらにして、鞘姫という許嫁を守る役目を与えられた刀鬼は、己の命を軽んじる傾向にある。
ツルギはそんな彼がどこか放っておけず、これから何度も意見が衝突することになるが。
「俺は鞘姫のためにも負けるわけにもいかない。ブレイド、決着をつけるぞ」
今はまだ敵同士だ。
刀鬼はツルギの身体を軽く押しのけて、刀を構えた。
「まっ、それも大歓迎なんだが。女ってのは、怒らせると結構
ブレイドはすでに刀を鞘に納めていて、腕を組んでこの光景を面白がっていた。
ちなみに鞘姫は舞台背景のように隅に控えているけど、ちょっと肩が震えている気もした。
「こいつを先に倒せばいいのか?」
ツルギが両手の刀を構え直している様子を、刀鬼は冷めた表情で見る。
でも愛久愛海、瞳の奥ではワクワクしているな。
「だが俺は、女と殺し合いをするつもりはないぞ」
「別に命のやり取りじゃないし、何よりなめてるアンタの鼻を明かしてやる」
そう言いながら、まるで『私を見なさい』と片方の刀を天高く掲げた。
「ぎったんぎったんの、カツオのたたきにしてやるだ!」
そしてツルギはとても表情豊かに、勢いよく振り下ろした刀を刀鬼に向ける。
眩しい太陽の光が照らしたようだった。
この流れに乗ったまま、ツルギは地面を蹴った。
刀がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴る。
彼は鍔迫り合いのまま、自然に立ち位置を調整することで、少女の可愛らしく嬉々とした表情がモニターいっぱいに映り込んだ。
「少しはできる剣士のようだが」
「バカにするな!」
刀鬼が力強く弾き返そうとも、ツルギは軽い足取りで再び立ち向かっていく。
「私を誰だと思ってる!」
刀をぶつけ合い、2人の位置が何度も入れ替わる。
「ツルギ様だぁ!!」
笑顔を浮かべているツルギに対して、刀鬼は無表情を貫いているけど。
2人とも心の底から楽しそうだ。
モニターには、交互に顔がしっかりと映り込む。
魅せるために動きは派手に、それでいて自然な動きにしていて、常に俺たち観客を意識した位置取りにしている。
どっちかが自分勝手に目立とうとするとか、どっちかが引っ張っているとか。
そういうのじゃなくて、2人がお互いを信じて全力で演じている。
競い合って、それが結果的に阿吽の呼吸で息ぴったりになっていると、そう表現すべきだろうか。
まあ何にせよ、こんな大舞台で共演してくれて、今までの集大成の演技を見せてくれて、親としてはすごく幸せに思うことだ。
ホント大きくなったよな、うちの子たち。