まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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第1話前編(プレゼント)

 

 だんだんと気温が下がってきた頃、スマホのカレンダーを見れば、もうすぐアイの誕生日が近い。

 中学までは、お互いあまりお金を使わない傾向もあって、ちょっとした便利グッズとか、そういう生活に結び付いたものをプレゼントし合っていたけど。

 

「約束の16歳だからな……」

 

 中学1年で交わした最も大切な約束だ。

 

 彼女にとってどうやら節目のような日であり、しかも16歳ですでに社会人となると、1人の女性相手にプレゼントを考えたほうがいいように思えてくる。

 

 検索サイトであれこれ調べてみるも、どうにもピンとこない。

 重要な記念品にしなければと最近ずっと悩んでいた。

 

 本物の愛が欲しいことや、心の底から『愛してる』と言いたいこと、そういった彼女の願いに見合うほどの物が良いだろう。いや、そんなの、どんな高価な宝石を用意すれば釣り合う?

 

 ルビーか? アクアマリンか? 少なくともバイトの月給分くらい支払えば、そういうアクセサリー類に手が届かないほどではない。宝石の言葉はそれぞれ愛情と幸福、どちらともアイに持っていてほしいものだ。

 

 でもどちらかに絞るよりも課題があって。

 

 『あっ、もし今年もプレゼントくれるなら、せめて5000円以内におさめてね!』

 

 というお優しい約束を貰っている。

 中学の頃はお互い2000円以内だったな。

 

 そして重ねるように伝えられたのは。

 『私が1番欲しいものは、その日に教えるから

 

 さてと。

 

 16歳の誕生日に約束を守るって日なのに、俺から約束を破るなんてしてはならない。とはいえ、アイの誕生日に記念になるような物も用意しておきたい。

 

 アイのことに関しては、我ながらホントに欲張りだな。

 

 どうしたものか。

 さすがに眠気も出てくる。

 

「……あっ」

 

 そうだ、買えないなら作ればいいじゃないか。

 

 あまり得意ではなかったけど、錬金術は学んでいた。

 

 そうと決まれば、まずは鉱物の勉強だ。いざ万が一に鑑定されたとしてバレないよう、とりあえずルビーとアクアマリンを参考につつ、魔力を結晶化させて再現すればいい。

 

「???」

 

 コランダム? 三方晶系?

 緑柱石? 六方晶系?

 

 鉱物学って難解すぎないか?

 

「火炎溶融法ってなんだ、勝手に溶かさないでくれ、チョコレートか」

 

 そんなツッコミをつぶやきつつ。

 

 何度試すも、俺のなんちゃって錬金術では、見た目が似ているだけの偽物しかできない。

 

 でも思いのほか完成度がよく、魔力結晶としては本物だ。

 そして、これを渡したいと思う気持ちも芽生えていた。

 

 

★★☆

 

 

 誕生日当日、アイからは(うち)が良いと聞いた。

 

 両親は高頻度で海外出張なんだけど、自宅でゆっくりしたいとよく嘆いている。いやまぁよくイチャイチャしていて、たまに俺が寝静まったくらいでどこかへ出かけているのも知っている。

 

 なんて理解のある息子なのだろう。

 そろそろ貴方の弟か妹ができると言われても歓迎するぞ。

 

 それはさておき。

 

「いらっしゃい」

「おじゃましま~す」

 

 16歳にしては大人びた雰囲気な女性を、家に招き入れた。

 

「アイ、誕生日おめでとう」

「うんっ! クリス君、ありがとっ!」

 

 玄関をしっかり閉じて鍵もかけてから、ブーツを脱いで抱き着いてくるアイを受け止める。

 外では隠している分、最近スキンシップが過剰になっている気がして、動揺してしまいそうになる。噂に聞くミヤコさんにファッションを学んでいるらしく、コートもよく似合っていた。

 

「ほら、ご飯が冷めるぞ」

「ん~ いい匂い~」

 

 どうやら、このまま運ぶしかないらしい。

 いわゆるお姫様抱っこに持ち替える。

 

 にしても軽いな。

 キャ~って喜んでいる女の子は。

 

 洗面所に一度下ろしてから、手洗いをしてもらい、そしてリビングへ再び運ぶと。

 

「わっ、すごっ、女子力たかっ!」

 

 テーブルの料理を見て反応したようだ。

 

 白米に合うような料理は避けて、サラダとかパンとかビーフシチューとか、洋風にしてみた。いつもより気合を入れて飾りつけしてみたけど、心の底から喜んでくれるのは嬉しいな。

 

 椅子にゆっくりと座らせてコートを受け取る。

 セーターやスカートも似合っていて、どこかのお嬢様みたいだな。

 

 子ども向けシャンメリーも買ってきたので、それをワイングラスへ注いでから。

 

「「乾杯」」

 

 グラスを触れさせる。

 割れそうなくらい精巧にできているので、恐る恐るというのがまた俺たちらしくて、なんだか笑みがこぼれる。

 

 ちゃんとアルコールではない。

 まっ、こういうのは雰囲気が大事だな。

 

「もうアイも16歳か」

「ん~、クリスだって16歳じゃん」

 

 それもそうか。

 

 美味しそうにモグモグとしているアイを見て、ちょっと安心した。

 まだ外食する時は、白米を中心としてゆっくり食べることが多いけど、こうして食べていく時のスピードはなかなか早い。

 

「レシピ聞いて作ってみたけど、口に合うようで良かった」

「ん~ お店で出せるくらいだよ?」

 

 ふむ、うちの母さんが作るビーフシチューの味は十分出せているか。

 父さんの胃袋を掴むため、16歳の頃から主婦として料理の腕を磨いたらしいから、そのレパートリーの多さは今もどんどん増えていっている。

 

「誕生日会やるって言ったら、うちの両親も会いたいと言っていたな」

 

「そうなんだ…… 何か言ってた?」

 

 ちょっと不安そうに聞いてくるが、昔から遠慮しないでいいと言っているけど。

 言葉ではっきりと伝えておいたほうがいいか。

 

「父さんはアイドルとして褒めていて、母さんは、その……綺麗な()ね、だってさ」

 

「……そ、そっかぁ、さすが私だね!」

 

 まあ父さんがテレビで見て感嘆していたら、母さんがその首根っこ掴んで、どっかへ連れて行ったな。

 

「クリス君のお母さんと… お父さんって…… 私のライブを何度も観に行ってても、何も言わない?」

 

「何も言わないことはないな、いや、あれだ、お小遣い足りているか? とかさ」

 

 アイがシュンとしてしまったので、慌てて言葉を付け足した。

 そして、さびしそうに微笑む。

 

「ちょっと、うらやましいなぁ~……」

「……そういうことで、アイも可愛がってくれると思うぞ」

 

 一瞬儚げな表情を見せたけど、『そっか』って明るい表情へ戻る。

 相変わらず本音を我慢しがちだな。

 

「でもチケットって高いんでしょ? サトシ社長にチケット用意してもらえばいいって、いつも言ってるのに」

「斉藤さんな。彼はともかく、他の社員まで広まるわけにはな」

 

 アイが所属する会社もそれなりに規模は大きくなった。

 まだまだアイドルグループはB小町主体だけど、ネット関連での芸能活動にも手を出しているとも聞く。

 というか3年ちょっとでゼロから人気グループにするなんて、アイの輝きもあるとはいえ、斉藤さんたちの力も大きいだろう。

 

「これからますます忙しくなるんじゃないか」

「そだねー、サイト社長も稼ぎ時だって言ってたよ」

 

 途中まで正しかったのに、惜しかったな。

 

「まだまだアイも成長途中なんだから、無理だけはするなよ」

「なんかもう身長伸びづらくなってるけどね…… というかクリス君は大きくなりすぎだよ?」

 

 体力測定で170cmちょうどで、もう少し伸びていそうだな。

 そしてアイは確か中3の頃には150cm前後だったが。

 

「う~ 20センチどころじゃなくなりそう、でもヒール履けば……」

 

 頑張って数学のことでも考えているのだろうか。

 それとももしかして身長差、とか?

 

「まだ16歳なんだ、そのうち伸びるさ」

「うん…… でもあっという間だったなぁ」

 

 アイがアイドルに誘われて、確かにあっという間に過ぎていった。

 

 アイドルの頃はさすがに表立って恋愛できないだろうから、たぶんこういう距離感は続いていくのだろう。

 もしかすると、芸能界でもっと好きな人ができるかもしれない。もしも別の男を彼氏として紹介されたとき、幼馴染として『アイはやらん!』みたいなこと言ってしまいそうだ。それで結局、それがアイの幸せならと、俺は諦める。

 

 いや、ネガティブ方面に考えるなよ、俺。

 少なくとも今のアイは好意的に想ってくれている。

 

 アイの本音と、ちゃんと向き合うんだ。

 

「そうだ、食べている途中だが、プレゼントを渡しておこう」

 

 ラッピングしておいた箱を手渡す。

 紫がかった黒色のリボンがあって良かった。

 

「開けていい?」

「先に言っておくけど、あまり詳細は聞かないでほしい。あー、あれだ、男からのプレゼントでもあって、できるだけ秘密に扱ってほしいというか……」

 

 彼女がリボンをほどいて箱を開ける姿を見ていると、年甲斐もなく緊張してきた。

 

「これは、宝石?」

「……そう見えるか?」

 

 赤と青の魔力結晶はともかく、ネックレス用の材料やラッピングだけで5000円ギリギリになってしまった。アイが仕事用に使っているようなアクセサリー類には、金額的にずっと劣るだろうけど。

 

「詳細は話せないけど、約束は破ってないから」

「ん、知ってるよ、キミはそういう人だから」

 

 『ほんと律儀だよね』ってアイは呟いた。

 

 よかった、信頼していてくれて。

 大切な誕生日に、約束を破ったら元も子もないからな。

 

「ルビー? アクアマリン? に、似ているよね。本当に綺麗…… それになんだかポカポカする……」

 

 両手のひらに置いてネックレスを見つめる姿は、とても美しく見えた。

 

 プレゼントを渡せて俺は一安心だった。

 それに、満足もしてくれているようで。

 

「ねぇ、つけて?」

 

 その後アイに頼まれたので、その綺麗な首へつけてあげる。

 

「アイ、これでどうだ?」

「あっ、この感じ、クリス君に抱き着いてる時みたい?」

 

 ネックレスを身に着けてみた彼女は、うっとりとしているが。

 

「……ああ、そうかもしれないな」

 

「こんな良いの用意してくれてたなんて、ビックリしちゃった」

 

 重すぎたか?

 自分の魔力で作った結晶を渡すのって。

 

「これもステキなプレゼントだよ、ありがとう」

 

 アイが喜んでくれたなら、いいかな。

 

 

 まあアイが求めているプレゼントはまた別にあって…… やはりそういうことなのだろうか。

 

「ん、あとで……もう1つプレゼントもらうね?

 

「ああ。あげるよ」

 

 『さっ、ご飯食べちゃお?』と表情が戻ったので。

 とりあえず食べてから気合を入れ直そう。

 

 覚悟は、とっくにできているから。

 

 





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