まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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プライベート編
番外編41 (愛久愛海視点, 日常①)


 

 星野愛久愛海として生まれ変わり。

 親孝行のために子役を始めて。

 そのまま役者を続けてみることにして。

 

 とうとうあれだけの規模の舞台でプロと()り合った。

 

 本当に人生って何が起こるか分からないものだ。

 

 五反田監督に批評を送ってもらったり、打ち上げで他の役者たちと健闘をたたえ合ったり、そういうのも良かったけど。

 

「ホントにすごかったよ」

「うへへ~ お兄ちゃ~ん」

 

 (うち)へ帰ると、母さんやルビーに抱き着かれて、父さんや月愛も『よかったよ』って言ってくれた。

 

「アクアはえらいね~」

「ママ、私もヨシヨシして~」

 

 こうして撫でてもらうのは、赤ちゃんだった頃から恥ずかしくて照れる。

 

 僕たちの背が高くなっても、母さんからすれば可愛い双子のままなんだろう。

 

「ルビーもえらいよ~」

「わ~ ママすき~」

 

 僕にくっついてくるルビーも、母さんにバブバブと甘えている。

 

「なぁルビー、舞台どうだった?」

 

「ん、みんなカッコよかったし、すっごく感動したし、とにかく楽しかった!」

 

 ルビーが興奮して喜んでくれることも嬉しい。

 こういう笑顔を見れるのも、舞台役者や関係者たちのモチベに繋がるんだろうな。

 

「ねぇ、アクアも楽しかった?」

 

「ああ、楽しかった」

 

 母さんの質問には即答できた。

 

 自然と頬が緩み、稽古の日々を思い出す。

 

 有馬は太陽のように輝く演技をするし、黒川は稽古の度にどんどん伸びるし、姫川さんは意外にも熱血なところがあるし。

 鳴嶋もひたむきに努力して、すっかり役者の楽しさを実感したようだったな。

 

 劇団ララライの人たちや鴨志田さんも、個性的で光るものがあった。

 

 僕はいろいろな知識や経験を使って、刀の扱い方も努力して身に着けて、他の役者たちに追いつこうと頑張った。

 

「他の役者のすごいところを目の前で… 特等席で見れる、そんな感じだった」

 

 例えば有馬は作品の全体の質が高いと喜ぶ。

 母さんやルビーはファンの笑顔を嬉しく思っている。

 黒川や姫川さんはどうだろ、自分で出来映えを判断するような職人気質と言うべきか。

 

 そして僕は、様々な役者たちと共演することに楽しみを感じている気がする。

 

「そっか、私もアクアと共演したら、いっぱい褒めてくれる?」

 

「当然、最推しの1人だからな」

 

「お兄ちゃんとママだけずるい! 私も共演した~い!」

 

 『今日あま』では同じシーンで共演とはいかなかったからな。

 

 お願いごとをするようにルビーが甘えると、『なら家族みんなでドラマとか映画に出よっか』って笑顔の母さんが、父さんや月愛にも呼びかける。

 

「まったく、私は芸能の神様じゃないよ」

 

「俺はともかく、月愛は賢いから、こなせるんじゃない?」

 

 父さんがそう言うと、『ふっ、余裕だよ』ってルナが得意げな表情を見せる。意外とチョロいところが可愛いやつだ。

 

 まあ、さすがに家族全員で共演は難しいだろうけど。

 ただ、『どういうのがいいかな~』って夢を語り合うのは、とても幸せを感じる時間だった。

 

 

☆☆☆

 

 

 初演をしてから、半月ほど舞台は何度も公演される。

 

 芸能科ということで出席には融通がかなり効くけど、基本的に僕たちは学校に通うことにしていた。

 

「ヤバイ…明日…また昨日以上の演技をやれっての……?」

 

 生徒会長の席を借りている有馬は、まるで『ぐでたま』というキャラクターのようにとろけていた。

 

 ほとんど生まれた頃から役者をしているこの子も、さすがに連日のハードな舞台で体力が削られているようだ。

 

 僕以上に出番も多く、姫川さんも黒川も遠慮せず、毎度グレードアップしてくるからな。

 鳴嶋は今日は家で休むことにしたらしく、彼も相当グロッキー状態だろう。

 

「今日はB小町のレッスンあるけど大丈夫?」

「そ、そうなん? アイドルと役者の掛け持ち、鬼スケジュールやなぁ~」

 

 お弁当箱を出しているルビーがちょっぴり心配そうに尋ねると、寿さんも不安そうに有馬を見つめた。

 

「舞台の最終日の2日後、ライブでしょ?」

 

 『そうだよ! フリルちゃん覚えててくれたんだ!』ってルビーが褒めると、不知火は当然と言わんばかりにキラキラシールが貼られているメモ帳をポケットから見せた。

 

 B小町のロゴとか、メムさんの配信で見るスタンプとか、テレビではあまり見せないけど、しっかりJKだよな。

 

「有馬、どうしても無理そうなら休むか?」

 

「で、できらぁ!」

 

 どこかで見たようなネタを挟みつつ、こほんという仕草をしてから、有馬はいつも通りの表情を見せる。

 

「でも実際、こういうときは体力お化けでフィジカルなあんたたちが羨ましいわ」

 

「いや、僕もさすがにきついぞ」

 

 普段から続けてきた筋トレやジョギングならともかく、剣士や鬼を演じるとなると、使う筋肉もだいぶ違ってくる。

 

「それ、あんたや姫川さんが、ワイヤーあると()りづらいって、自力で飛び跳ねてるせいでしょ。サーカス団かっての」

 

「ワイヤーアクションと演技を両立する余裕が僕にないだけだ。むしろすでに使いこなしている有馬がすごいだろ」

 

 僕も早口で言い返すと、有馬の頬が少し赤く染まる。

 この子、昔から褒めるとすぐ照れるんだよな。

 

「ほら、食わないと午後がもたないぞ」

「分かってるわよ」

 

 生徒会長の席からこちらに移動してきて、机に置いてあるお弁当箱を開け始める。

 

 あの高級そうな椅子をマッサージチェアとして使うような図太さは相変わらずだな。

 

「かなちゃんも体力ついたよねー 昔なんてヘトヘトになりながらボール遊びしてたのに」

「おかげさまでね。というかクリスさんといい、ニンジャの家系じゃないでしょうね?」

 

 想像できないほどの身体能力の父さん、街を歩く時には完璧に変装をする母さん、2人の要素を合わせると、確かにニンジャだな。

 

 まあ祖父母たちを考えれば、さすがに2人とも一般家庭の出身だ。

 なんなら妹が正真正銘の神様らしいけど、なんだったか。カラスの神様だったか?

 

「3人は幼馴染?」

「そだよ、かなちゃんがこ~んなちっちゃいときから」

「ピーマン体操やってたんやろ~?」

 

 ルビーはお箸を一度左手に持ってから、右手を膝下くらいに位置した。

 

 健康的で綺麗な足にどうしても視線が向かうけど、やっぱりこの学校のスカートは短いな。

 

「そこまで小さくなかったわよ! それと、ピーマン体操の記録は上塗りして消し去ってやるわ!」

 

 ぷんぷんとしながら、タコさんウィンナーを食べる姿は、まだまだ幼さを残していて可愛らしい。

 

 そんな有馬はB小町でアイドルをやっているうちに、オリコン1位を取ることも目標にしている。

 母さんも何度か取ってるし、3人のポテンシャルを考えても、タイミング次第で2代目B小町も可能なはずだ。

 

「ピーマン体操が代表作って言われるのがイヤなのよねー」

 

「B小町の活動も自慢できるし、今なら東京ブレイドも言えるだろ」

 

 ふふん、と有馬は胸を張って嬉しそうにした。

 やっぱり作品の全体の質が高いと喜ぶところがあるよな。

 

「そんなすごい舞台なら、はよ行ってみたいなぁ」

「姫ちゃんも相当稽古に時間かけたみたいだから楽しみ」

 

 他のスケジュールがあって、みたのりおさんたちは稽古に来れない時も多かった。でも姫川さんはずっと稽古に参加していて、僕や有馬や鳴嶋にもいろいろとアドバイスをくれたんだよな。

 

「2人もチケットは取れたのか?」

 

「姫ちゃんから大量ゲット」

「フリルちゃん、私らにも配ってくれたんよ。お兄さん出るなら、みんな行きたいやろからなぁ~」

 

 おにぎりを食べながら、不知火がVサインを見せる。初日公演じゃなくて、友達と予定を合わせて観に来てくれるんだろうな。

 

「えっ、その時にまた私も行きたい! ねぇお兄ちゃん、またチケット出して!」

 

 まるでドラえもんに頼むかのように、笑顔でルビーが手のひらを向けてくる。

 妹の頼みには兄として全力で応えてやりたいところだけど。

 

「上に頼んでみるが、今からだとどうだろうな?」

「ララライの役者から頼めば通るんじゃない? 黒川あかねにはぜーったい頼まないけどね?」

 

 僕と有馬がそんなことを話していると、ルビーは『じゃあタイキ君に頼もう!』ってスマホを片手で操作し始めた。

 

 それにしても、だいぶ姫川さんになついている。

 兄として喜ばしくも、心の半分がぐぬぬと思っていて、なんだか複雑だな。

 

「黒川あかねといえば、最後のあれよ、カーテンコールなんだけど、あんたあれ毎回やる気?」

 

 猫の手のように握った拳で脇腹をポンポンしてきた。

 そして、ジトーっと有馬は不愉快そうな表情で見上げてくる。

 

 いや、あれは着物姿で階段を降りるのが大変だろうし、鞘姫と刀鬼ならではの演出だろう。

 

「そーだそーだ!妹である私も最近やってもらってないのに!」

 

 ルビーもスマホを一度膝に置いてから、ぐいぐいと肩を寄せてきた。

 母さんたちのお姫様抱っこに影響されて、最初にせがんできたのは小学何年生の頃だったか。

 

「ほんま仲良しな3人やなぁ」

「黒川あかねも入れて、リアルにハーレムというやつ?」

 

「社会的にマズいから勘弁して」

 

 純粋な寿さんはともかく、不知火のやつは悪ノリしてそうだ。

 僕は慣れた台詞でそういった関係であることを否定した。

 

「も~! いつもいつもそれだよね!」

 

 頬をプクプクと膨らませるルビーちゃんこそ、相変わらずだよね。

 

「まっ、こいつは実の妹だし、私は幼なじみなのよね~ あ、でもー、黒川あかねとは番組上の演出だけじゃないかしらーおほほー」

 

 うちの事務所は恋愛禁止というわけでもないけど、2人とも現役アイドルなんだ。こういった話題は今に始まったことじゃないし、有馬も上手くはぐらかしてくれる。

 

「でも、いつかは誰かとお付き合いするってのも憧れるわぁ~ 今は学校やモデルのことで、いっぱいいっぱいやけどね」

 

「良さげな男がいたら、そこそこの距離感で付き合ってみればいいんじゃない? ただあちこちで遊んでそうな俳優もいるから注意」

 

 不知火はおにぎりを手に持ったまま、寿さんにそんなアドバイスをした。

 あちこちで遊んでそうな俳優か、どうしても鴨志田さんが思い浮かんでしまう。

 

 『例えば俳優の堂山君にもDMで食事に誘われたんだけど』『あの人かぁ、ナナミもDMで誘われたって聞いたことあるなぁ』『やっぱり、もし本格的に付き合うなら一途な人がいいわね』『ママやパパを見てたらそう思うよね~』

 

 盛り上がるガールズトークを聞いていて、いくつか前世の黒歴史を思い出しそうだが。

 

 まあルビーの言う通り、あの2人のような関係には僕だって憧れている。初代B小町の熱狂的ファンだった頃の俺が認めていたくらいだしな。

 

 いや、生まれ変わってすぐ、赤ちゃんの頃も熱狂的ファンだったか。

 だいぶ前世と今世の境界が曖昧になってきたな。

 

「その点、お兄さんは優良物件?」

「……ええなぁ…」

 

 不知火からも高評価らしく、寿さんも何かを想像しながら羨ましそうにしている。

 

「ちょっ!? こいつの幼なじみは私だけよ!?」

 

 有馬が慌てているが、この子の中で幼なじみは特別カテゴリーなんだろうか。

 

「どちらかというと、こんなお兄ちゃんが欲しい?」

「あー、それもあるなぁ」

 

「私とルナだけのお兄ちゃんなんですけど!?」

 

 うがーってルビーが可愛く抗議をするから、不知火も寿さんも『わかってるわかってる』って落ち着かせている。

 

「黒川あかねは別に幼なじみじゃなくて因縁のライバルで、そうじゃなくて、ライバルはアクアとルビーで、そう黒川あかねはラスボスなのよ!!」

 

 まるで浮気がバレたかのように、急に早口で語り始める有馬といい、元気な子たちだな。

 

「まったく……」

 

 なにはともあれ、だ。

 

 そろそろこの子たちとの今後も、ちゃんと考えなきゃいけないな。

 

 4月になれば高3になる有馬は、このままアイドルや女優の道を進み続けるんだろう。この子の演技に対する熱意は、もはや執念を感じるほど。

 

 ルビーもアイドルを本気で続けて、いつかは母さんのようなマルチタレントになるかもしれない。この子が兄離れをする気配はないし、僕もずっと過保護でいるだろう。

 

 役者かマネージャーか、何らかの形では芸能界には関わっていくつもりだけど。

 

 

 

 いまだ僕は決めかねている。

 だから、舞台最終日以降のスケジュールがほとんど埋まっていなかった。

 

 

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