まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編42 (愛久愛海視点, 日常②)

 

 舞台『東京ブレイド』の千秋楽を迎え、ようやく肩の荷が下りた気がする。

 

 その次の日に僕はテレビ局に来て、鳴嶋や姫川さんと並んでインタビュー番組の収録をしていた。

 公演は終わったけど、オンラインチケットや円盤によってまだ商業的な動きがあるんだろう。

 

 高級な室内で、まるでファッションモデルかのような服を着て、カメラを意識しながら表情を作る。芸能界とは無縁の前世だったのに、今の僕は自然にこなすことができていた。

 

「舞台に出演するのは初めてでしたが、始まったら意外とあっという間に終わった、というのが正直な気持ちですね」

 

 まずは舞台に出演した感想を聞かれたから、若手俳優として無難な受け答えをしておく。

 生放送じゃないとはいえ、母さんの息子、ルビーの兄として、僕のイメージは少しでも良くしておかないとな。

 

「わかる! 本番前はめっちゃ不安だったけど、いざ始まってみたら体感5分って感じ!」

「それは言い過ぎじゃないか?」

 

 僕たちの会話も時折り入れてほしいと言われていたから、鳴嶋に軽くツッコミを入れておいた。

 

 別室で収録中の有馬と黒川のコンビは大丈夫だろうか。

 売り言葉に買い言葉になってなきゃいいけど。

 

「まあでもそんなもんだよ、毎回」

 

 姫川さんも話を合わせてくれると、アナウンサーさんは『そうなんですね』と相づちを打った。

 

「俺ら役者としても、舞台本番って最高に楽しい時間なんで」

 

 最近の姫川さんは、テレビではありのままの姿を見せていた。舞台の時と違って眼鏡をかけているし、声のトーンも普段と変えていない。

 

 そんな自然体であっても、だ。

 

 彼のファンからは、『クールでカッコいい』だったり、『天然で可愛い!』だったり、『演技してる時とギャップ萌え!』だったり、好印象を持たれているらしい。

 

「原作再現っていうか、あのシーンは特に(リキ)入れて()りました!」

 

 次は鳴嶋をメインとした質問が始まったけど、ハキハキと受け答えができている。

 

 この子も稽古を重ねるごとに演技も安定していったし、刀を空中で掴むという原作再現に挑戦する姿勢もあった。

 

 今思えば、『今日あま』の時期から本腰を入れて演技を学び始めたんだ。

 それからまだ1年も経過していない状態で、あれだけのポテンシャルを見せた。これからもどんどん伸びていくだろうな。

 

 姫川さんも『時間があれば木刀を振ってたな』と呟く。

 努力家なところを褒めてくれているのが伝わってきて、鳴嶋は子どもっぽく嬉しそうに目を輝かせた。

 

「アクアさんも、舞台やドラマと言った点では、今回が姫川さんとの初共演だったかと思うのですが、いかがでしたか?」

 

 今度は僕の番か。

 

 僕は『今好き』の収録も、自然体では臨まず、役者として油断できなかった。

 ただ、ここはアナウンサーさんに話を合わせておくべきか。

 

「ええ、そうですね。でも姫川さんの存在は、実は前々から意識していました」

 

 子どもの頃から顔を合わせる機会は減っていったけど、何度か男優賞を取っている話は耳にしていた。だから舞台はともかく、彼の出ているドラマや映画はいくつも目を通している。

 

「芝居に入ると完全に別人だもんな。格が違うっつーか」

 

「……そう?」

 

 どこか不思議そうにしている姫川さんはともかく。

 

 鳴嶋の言う通り、僕もこの舞台では連敗続きだったな。

 確かに経験の違いはあるけど、こちらがどれだけ前回の舞台よりグレードアップしようと、姫川さんは楽しそうにギアを上げてくる。

 

「では姫川さん、アクアさんの演技についてはどうでしたか?」

 

「アクアの演技は最初、器用で安定してて、現場で求められてる芝居を最低限こなす… 責任感があると思ってた」

 

 『だけど』と姫川さんは、何かを思い返すような仕草をした。

 

「今回の舞台でも、ブレイドを倒すってくらいに、勢いもあって… 意外に熱いとこもあるやつだなと」

 

「ま、僕も勝つつもりで()りましたから」

 

 姫川さんにも、有馬にも、黒川にも、僕は本気で挑んだ。

 特に劇団ララライ組とは、次にいつ共演できるかも分からないからな。

 

「アクア、鳴嶋、それと有馬か… 決闘のシーンとか、すごく楽しめたんで。まあ、また勝負できるような舞台があればいいなと」

 

 そんな姫川さんの言葉で思い返すと、確かに僕たち鏑木組の全員が、姫川さんと刀でぶつかり合うシーンがあった。大人たちは僕らの成長のために、キャスティングを考えてくれたのかもしれない。

 

 舞台の最終日までに、姫川さんの本気を引き出せたのかどうか、1人の役者としては聞きたくないことだ。

 

「はい! その時までに俺も腕を磨いておきます!」

 

「もしそのような機会があれば…… 次は勝ちますから」

 

「ん、その時はまた楽しもうぜ」

 

 姫川さんはいつも通り低めな声だけど、公演中に何度も見た笑みを浮かべていた。僕の周りには、役者に対する執着の強いやつらが多いな。

 

 そんな彼ら彼女らに、いまだ将来の進路を迷っている僕は付いていけるのだろうか。

 

 いや、今は収録に集中しなければ。

 

「それでは時間も限られていますので、最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします」

 

 これは事前に考えてくるように言われていた質問だ。

 姫川さんの『あっ忘れてた』みたいな顔はともかくな。

 

 まずは鳴嶋から。

 

「舞台『東京ブレイド』をお楽しみいただき、本当にありがとうございました。キザミとして、今の自分の精一杯の芝居を出せたと感じています」

 

 彼の努力する姿はよく見てきたし、それが演技にも表れていた。父さんや母さんによると、吉祥寺先生も彼の成長ぶりに感激していたらしいな。

 

「この舞台で得たものを大切にして、これからもがんばっていきますので、今後ともよろしくお願いします!」

 

 思っていたよりだいぶ大人っぽいメッセージだけど、その表情や声から若くて前向きなところも感じさせる。

 

 あれだけの規模の舞台に出演できたことに対して思い上がることもなく、堅実に努力する子なんだよな。

 

 さて、僕の番か。

 

「あらためまして、刀鬼役を演じさせていただきました、星野アクアです。舞台への出演も初めてなら、刀を振るうのも初めてでした」

 

 若手俳優としてはこんなところでいいだろう。舞台に出演する機会を与えてくれた鏑木さんにも、今度また感謝を伝えないとな。

 

「原作者様のアビ子先生や脚本家のGOAさん、その他関係者の皆様から良い刺激をもらって、役者として成長させてもらえたと感じています」

 

 ここで一度言葉を区切ってから。

 

「見てくださったみなさんの心に、少しでも何かを残せていたら嬉しいです。ありがとうございました」

 

 僕は座ったまま、軽くお辞儀をする。

 

 『大人だな』って2人から感想が聞こえてくるが、少し堅すぎただろうか。

 

「あー… 何か言わなきゃダメ?」

「ダメでしょ」

「最後は主人公に、しめくくってもらわないと」

 

 姫川さんは相変わらずマイペースな人だな。

 といってもアドリブが得意な人だって、この公演でよく分かっている。

 

 やがて彼は真剣な表情を浮かべて、真っ直ぐとした瞳をカメラに向けた。

 

「舞台『東京ブレイド』で、主人公のブレイドを演じました、姫川大輝です。表現したかったことは全部やれたと思います。脚本も演出もよかったし、共演者にもおもしろいやつが多くて… 楽しかったです」

 

 姫川さんは少しの間、顎に手を当てる。

 そして、何かが思い浮かんだような顔をして、再び膝の上に手を置いた。

 

「観てくださった皆さんも楽しんでいただけたなら幸いです。舞台はいいものです。俺は今後も舞台に立ち続けるつもりです。今回の舞台で、もし興味を持っていただけたら、また何かの折に観に来てください」

 

 言葉や声から、役者としての力強い意志が感じ取れた。

 まったく、この収録でも完敗だな。

 

「あらためて、舞台『東京ブレイド』をご鑑賞いただき、ありがとうございました」

 

 そして姫川さんは、しっかりとお辞儀する。

 僕や鳴嶋も合わせて頭を下げた。

 

 

☆☆☆

 

 

 僕たちが控え室で待っていると、有馬や黒川が入ってくる。収録時にはドレスを着ると言っていたから、私服に着替えるのに時間がかかっていたんだろう。

 

 有馬はトレードマークの帽子を、今回も被っていたのかどうかが気になるな。

 

「有馬さん、黒川さん、おつかれっす!」

 

「えっと、皆さんお疲れ様です」

 

 黒川も大先輩として扱っているところがあるから、鳴嶋が体育会系のように頭を下げた。

 劇団ララライではまだ若い彼女は、そういうノリに慣れていないようで、ちょっと困った表情を見せている。

 

「そっちは平和だったか?」

 

 僕がそう尋ねると、有馬は『そりゃあね』と頷いた。

 

「たとえカットされるとしても、下手なこと言えるわけないでしょ。あんたもこれから『星野アイの息子()』として注目されてるんだから気をつけなさいよね」

 

「言われずとも分かってる」

 

 その肩書きは僕の自慢の1つであり、プレッシャーに感じることでもある。

 

 有馬の言う通り、この舞台をきっかけに、僕も何かしらバラエティのオファーが増えていくのだろうか。どんな番組に出しても可愛らしいルビーが人気出るのは当然として、僕はどう世間に評価されるのだろうか。

 

 ダメだな、最近はいろいろ悩んでしまう。

 

「アクア君のことを幼なじみって言ってたり、すごく褒めてたり、ちょっと妬いちゃったなぁ~」

 

 黒川の報告によって、恥ずかしそうな顔を浮かべる有馬はプルプルと身体を震わせた。

 

 そんな姿が見れるのも嬉しいのか、『私も幼なじみなのになぁ~』って黒川はニマニマと笑みを浮かべている。

 

「あんたとは腐れ縁よ。なんか今度、私とあんたでCM撮るんでしょ? あーやだやだ、同い年の女の子だからって仲良し扱いだなんてー」

 

 パタパタと手のひらで顔をあおぎながら、有馬は僕の隣に座ってくる。

 

「少し休んだら事務所にとんぼ返りよね?」

「ああ、明日のライブの打ち合わせだな」

 

 有馬はリラックスした様子を見せながら、僕のスマホを(のぞ)いてきた。少し大人びた香りがして、軽く化粧もしているようだ。

 

 今日はそんな大事なアイドルの1人の付き添いも兼ねているから、ミヤコさんに定期連絡を入れておかないといけない。

 

「明日が楽しみだな、兄弟(きょーだい)

「私も行くからね、かなちゃん」

 

 どこから出したのかサイリウムを見せる姫川さんや黒川も、すっかり見事にドルオタだな。それぞれ赤2本と白2本か、いいぞ、もっと推せ。

 

推せるうちに推しなさいよ、あっ具体的にはグッズ購入でお願いねー」

 

 自分自身の魅力を最大限引き出すべく、すぐに表情や声を切り替えることができている。そんなアイドルのプロの姿に、僕は腕組みして頷き、黒川は頬を赤く染める。

 

「うっ… でもお母さんにグッズ飾りすぎってやんわり注意されてるし…」

 

「あれが有馬さんのアイドルモードってとこか」

「骨抜きにされてるな」

「前半はファンサだけど、後半は素だろ」

 

 とはいえ推しに頼まれたら、グッズを買わねば不作法というもの。

 2代目B小町箱推しの僕は、ルビーとメムさんの分も買うまでが責務だ。

 

「にしても、このメンツで集まれるのも今日が最後かもしれないのかぁ」

 

 鳴嶋が寂しそうにそう呟いた。

 稽古も含めて、他の事務所の役者と長い時間を過ごした経験があまりないから、思い入れがあるんだろう。

 

「せっかく刀の振り方も身に着けたし、東ブレ第2弾もやってもらわないと」

「うちがやるかはオッサンたち次第だけど、あれならいけるだろ」

「2.5は初めての試みだったのに、ほとんどの日で満員御礼でしたからね」

 

「……それに普段から、ライブでもご飯でも旅行でも、集まればいいんじゃないか」

 

 そんな高校生らしい何気ない提案も、僕たち役者は気軽にというわけにもいかないんだよな。それでも、このメンバーとの交流は続けたいと僕も思っている。

 

「だ、だよな! 売れっ子なアクアたちはともかく、俺はがっつり予定空いてっから!」

 

「前もって計画しておけば何とかなるわよ」

「宮崎旅行、楽しみだな」

「ふふっ、そうですね」

 

 『かなちゃんと温泉……』とオタクのつぶやきに、『昔からこんなやつだったかしら……』と有馬は遠い目をする。最古参ファンが、アイドルのお仕事見学にまで付いてくることになっているからな。

 

「えぇ!? なんすか、その話!?」

 

 そう言えば、鳴嶋は誘ってなかった。

 ど田舎だからどうかとも思うし。

 

「今度私たちが宮崎行くから、それに付いてくるって話」

「俺はルビーから聞いて、そこのスケジュール空けた」

「私はどこか浮かれていた姫川さんに問い(ただ)したよ」

 

 以前から思っていたけど、黒川の洞察力はまるで名探偵だよな。

 

「俺も行かせてくれよ!? 今すぐマネージャーにメールして穴アケしてもらうからさ!? いつからいつまで!?」

 

 慌てふためく鳴嶋に、日程や2泊3日だといったことを伝えておいてから。

 

「しかし僕たちのメインはB小町のMVのロケなんだが、いいのか? 一応、祖父母や子ども組に混じるって選択肢もあるが」

 

 天候も含めて3人の撮影の進捗次第では、自由時間はほとんど取れないかもしれない。鳴嶋がイメージしていそうな観光ができるとは限らない。

 ルビーに誘われていた寿さんや不知火も、別にそれでもいいと言っていたけどな。

 

「子ども組? あぁ、アクアって妹が2人いるんだっけ?」

 

 そういえば『今日あま』の撮影初日にも付いてきていたか。

 

「2人目の妹と、父さんの弟と、母さんの義妹(いもうと)を合わせて、子ども組だ」

 

 アオトが叔父で、メイが叔母にあたるんだが、俺とルビーは弟や妹として接している。2人ともルナと同い年なんだから、母親組の計画性には有馬も驚いていたな。

 

「へぇー、アクアは親戚まで多いんだな」

 

「あいつら可愛いぞ。まだ小学3年生なんだろ?」

 

「ええ、3人が同級生です」

 

 姫川さんもルナたちと面識があったらしい。忙しいこの人に揃って会うなんて、どうせルナのやつが何かちょっかいでもかけたんだろう。

 

「これでよしっ! なぁ、宮崎のどんなところなんだ?」

 

 話しながら鳴嶋はメールを打ち終わったようで、すっかり行く気満々のようだ。まだ具体的な場所も聞いてなくて、別に観覧車の遊園地があるような場所でもないのにな。

 

「高千穂、自然にあふれていて落ち着けるところ…だな」

 

「こいつやルビーが生まれた場所らしいわよ」

 

 有馬の言う通りだ。

 僕やさりなちゃんにとってのふるさとで、母さんや父さんと出会った思い出の場所で、ルナもあの土地には思い入れがあるようだ。

 

 メムさんの知り合いで映像クリエイターが偶然にも高千穂に住んでいて、そこをロケ地としてオススメしてくれた。だから『どうせなら家族旅行にしよう!』って、母さんも旅行計画を張り切って立てている。

 

「温泉が多くて、芸能の神様が祀られている神社も有名なんだって。縁起がいいから、芸能界の人たちも参拝に行くらしいんだよ」

 

「俺らにピッタリの観光地ってことですね!」

 

 黒川もよく調べているようで、この旅行を楽しみにしてくれているんだろう。ルナが『私は芸能の神様じゃないよ』と言うからには、そういう神様もいるんだろうな。

 

「それに、食べ物も美味そうなとこ」

「おっ、どういうのがあるんすか!」

 

 姫川さんと鳴嶋が、男子高校生っぽいノリで話し始めて、結局は修学旅行に行く前の気分のようだ。黒川はそういったことも調べ尽くしているのか、聞き慣れない料理名であっても、その語源すら語っている。

 

 そんな様子を見ていると、有馬が服の裾に軽く触れて見上げてきた。

 

「ちゃんと、あの予定も覚えてるわよね?」

 

 小さな声でそう尋ねてきた。

 

「当然、スケジュール帳にも書いてる」

 

「ならよし」

 

 今後の予定でワクワクする有馬たちを見ていると、こっちまで童心に帰るようだ。

 

 

 旅行のための買い出しなんだけど、この子の中ではデートなんだろう。

 そろそろ僕も、ちゃんと向き合わないとな。

 

 

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