まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編45 (MEMちょ視点, 日常⑤)

 

 youtuberとして、TikTokerとして活動する日々。

 

 2代目B小町のチャンネル登録者数もウナギ登りで、相乗効果もあって私のチャンネル自体も50万人を突破した。

 

 アイドルとしても、最推しのアイさんがいるとこに所属できてて、かなちゃんやルビーちゃんと一緒なら、いつかドームだって行けると思ってる。

 

 ママもすっかり元気になって、弟たちは大学生活を楽しんでる。

 あの子たちもバイトをするようになって、直接渡すのは恥ずかしいからって、たまに『ほしいも』でプレゼントを送ってくる。可愛い子たちだよもう。

 

 とにかく、私はとても幸せ者だと思う。

 

 もちろん大変な時は多いし、アイドルのレッスンは体育会系でハードだし、(つら)いことだってたくさんあった。動画作りでほとんど寝れない時とか、移動のために早起きする時とか、テレビ出演でいろんな大人と関わるだとか。

 

「はふぅ~」

「MEMちょ、お疲れ~」

 

 今日みたいに疲れた時には、身内の誰かが支えてくれる。

 この苺プロも我が家のように温かく感じる。

 

 制服姿のルビーちゃんがスマホを片手に笑顔を見せてくれた。どんどん似てきてて、アイさん推しの私としては、内心ドキドキしちゃう時があるんだよねぇ。

 

「今日はクリスさんたちいないから、ご飯も考えないとねぇ…… ところで、かなちゃんどうしたん?」

 

「いつも通りじゃない?」

 

 ルビーちゃんはそう言ってて、別に学校で良くないことがあったとかはなさそうだけど。

 

「どうして白にしたのかしら。あいつの普段着は白が多いから、実は白が好きだった? でもあいつが自分で買うときは黒が多いわ。もう直接聞いて、白黒つけるべき? いや、そんなこと聞いて……もし『お可愛いこと』なんて言われたら……」

 

 ブツブツと何かを考えながら、頬を赤く染めたり、うが~って頭を抱えたり。

 相変わらずアクア君のことになると愉快な反応を見せる子だ。

 

 今の表情はどう見たって恋する乙女だよぉ。

 それもライブや撮影とかではプロとして隠し通すとは思うけど。

 

「動画撮るまでに調子戻るのかなぁ」

 

「こういう姿を見せても面白そうだよ。普段は猫を被っているからね」

 

 私の呟きに返事をしたのは、ソファの上で毛布にくるまっていたルナちゃんだった。

 

 アイさん譲りの綺麗な髪や容姿、ちょっと大人びた雰囲気、もし子役をやってたら、苺プロの子役部門の人たちも涙を流して喜んだだろうねぇ。

 

 かなちゃんとアクア君の天才子役コンビの売れっぷりは凄かったもん。

 

「そういうルナも結構カッコつけたがりじゃない?」

「やれやれ、私の場合は神の威厳というものだよ、お姉ちゃん」

 

 ルビーちゃんに毛布越しに撫でられてて、そんなルナちゃんがまるで猫のように私は見えるなぁ。

 

「もしかして、今日もお外で遊んできたの?」

 

「そう! 公園で缶けりしてきたんだ! メイちゃんとアオト君のお友達、あとタイキ君と一緒に!」

 

 んー1人、知り合いの成人男性が混じってた気がするけど。

 

 ルビーちゃんって、幼稚園の先生くらい囲まれてる姿が想像できて、子どもに好かれやすそうだよね。

 

「まったく、あんたも有名人で顔が広まってきたんだから、スキャンダルには気を付けなさいよ」

 

 あっ、かなちゃんが少しずつ持ち直してきた。

 でも少女漫画な『今日あま』を読み始めたから、まだまだ恋愛脳っぽい。

 

「分かってる分かってる。知らない人を推さないように、迷子にならないようにって、お兄ちゃんやミヤコから口酸っぱく言われてるもん」

 

 過保護な人の多い苺プロの中でも、トップレベルに過保護な人たちだ。

 

「堂々と子どもたちと遊んでいると、案外気にされないものだよ」

 

「しっかり者のルナちゃんが付いてるなら大丈夫だねぇ」

 

 私がそう褒めると。

 ふふん、とドヤ顔をしてるのが可愛い。

 

 私の弟たちは、もっとおてんばで照れ屋だったなぁ。

 

「そうそう、みんなは私のことを優等生で清楚系アイドルと思ってるから大丈夫!」

 

 んー、妹系で元気系じゃないかな。

 バラエティによく一緒に出てて、アイさんとまるで姉妹みたいってネットでも有名だもん。

 

 こういう時のツッコミは、かなちゃんがしてくれるはず。

 

「清楚、そういう路線で行くべきだったのかしら。言われてみれば、アイさんを見て育ってるもの、背が小さいからといって、私という素材の可能性を小さく見るべきじゃないわよね…」

 

 さてはアクア君とデートしてきたね?

 幼馴染同士なリア充でうらやましい限りだよぉ。

 

 アイドルとか動画とか、私は目の前のことだけで手一杯なのにね。

 

「そだ、今日は何食べよっか?」

 

「黒毛和牛のステーキを食べられる予定ができたし、今日はあっさりと寿司でどうかな」

 

「むふふ、回らないお寿司も予約しちゃったりなんかしてくれるかしら」

 

 『次は私がお兄ちゃんとデートするんだから!』『あんたも相変わらずのブラコンね』って。

 そんな2人の幸せそうな姿を見てたら、こっちも幸せになってくるけど。

 

 友達としても、同じB小町のメンバーとしても、かなちゃんのこともルビーちゃんのことも、大好きなんだけど。

 

 私にも嫉妬の気持ちがないわけじゃない

 

 新野(にいの)さんたちも、アイドルの頃はこういう気持ちだったのかな。

 

 

 youtuberになってから、ちょっとした炎上ネタも作らないように、そして家族に迷惑がかからないように。

 私は『MEMちょ』というキャラクターを演じてきた。金髪に髪を染めて、青色のカラコンをつけて、お化粧をして、ずっと実年齢すら隠して活動をしている。

 

 ルビーちゃんは『アイの()』として、ありのままの姿を見せればいい。でも意外なとこなんだけど、生まれた時から優しさに包まれて育ってきたはずなのに、しっかりと世界が残酷だということも知ってる。

 あの子も実は(シン)が強いというか、ファンのみんなを幸せにしたいって本気で思ってる。

 

 かなちゃんには『天才子役』から積みあげてきたキャリアがあって、しかも演技派女優として名を揚げていってる。とても努力家な子でどんどん技術や知識を身に着けていって、太陽のように自分が輝くこと、周りを照らすこと、その両方ができる。

 向上心もあって、今じゃ大女優なアイさんすらライバルだと思ってそうだし。

 

 私の隣には凄い子たちがいる。

 アイドルとして輝いてて、『愛』に溢れてて、自信も感じさせる。

 

 確かに私も頑張ってる。

 なんとかこの2人と同じステージに立っても、黄色のサイリウムがたくさん見えるくらいにはね。

 

 アイさんは成果を褒めてくれて、クリスさんが過程を褒めてくれて、世間のみんなにも評価されてて、アイドルとしての自信は持つことができてる。

 

 でもさ、夜に寝る前とか、ふとした時に暗い気持ちになっちゃうんだ。

 

―――私じゃ、1番星には届かないかなぁって。

 

 それくらいに才能や実力の差を感じてしまってた。

 

 私も子どもながらに、初代B小町ではアイさんだけを推してたもん。

 

 今は苺プロでそういう方針だからって、私にセンターの機会も与えてくれてるけど。

 初代B小町の頃は苺プロも全然大きくなくて、アイさんが引っ張り上げることでしか、出演機会を確保することが難しかったんだと思う。

 

 私たちがここまで数字を伸ばしたのは、社長たちや初代B小町のおかげなんだ。

 プレッシャーみたいなのもかけてこなくて、むしろみんなが応援してくれてる。他の事務所だともっとシビアなとこはあるんじゃないかな。

 

 

「ところで今日はお父さんたちがいないけど、誰かお寿司は握れる?」

「どうせアクアならできるでしょ」

「今日お兄ちゃん、監督のところに泊まるってさ」

 

 『じゃあ』って3人でこっちに目を向けてきた。

 この子たちのことも妹のように思えるんだよねぇ。

 

 モヤモヤした気分が、ちょっぴり晴れやかになるくらい。

 可愛い子たちだよ、ほんともう。

 

「本格的なやつはできないけどぉ、お刺身を買ってきて、酢飯で握ればいいんでしょ?」

 

 この子たちもいつか誰かと結ばれるとしたら、料理できるのは得だろうし。

 

「よしっ、今日はお姉さんが、お買い物から玉子焼きの作り方まで教えてあげるよぉ!」

 

「たしかに玉子焼きも綺麗に作ってみたい! まだ目玉焼きしかできないから!」

「そうと決まれば、出る準備をしましょ。クリスさんもいないから、どっかでタクシーを拾わないとね」

 

 『車と言えばタイキ君が春から免許取りにいくんだってさ』『あの人って漢字がだいぶ不安じゃなかったかしら、筆記どうするのよ?』って2人が話しながら、コートを羽織ったり、マフラーを巻いたりしてる。

 

 なんだか制服が懐かしいや。

 もうあれから10年くらいになるんだもんね。

 

 高校を休学して、バイトで忙しかった時に免許を取りに行ったこともあった。車を買うタイミングも思いつかなくて、今じゃペーパードライバーだなぁ。

 

 そんなことをふと思い出しながら。

 私が部屋の暖房を消すとか、机の整理とか、あれこれしてると。

 

「人には永遠なんてないよ」

 

 耳元でそう囁いてくる声に振り向くと、ソファの上に立っていたルナちゃんが大人びた笑顔を見せていた。

 

 そう…だよね…

 

 ルナちゃんの言う通り、私もいつかはアイドル引退しなきゃなんだよね。

 どうやっても一生のお仕事にできなくて、この世界は残酷なまでに、若さという限界がある。

 

 今はアイさんたちもマルチタレントとかやってる。最近聞いた話だと新野(にいの)さんは付き合ってる人と結婚するらしくて、今年度いっぱいで芸能界からも引退するんだっけ。

 

 

 私もこれから数年後の未来について、ほんの少しでも考えてみると。

 

「あぁ、そっか……」

 

 すごく簡単な悩みだった。

 

 我ながらとても単純な答えにたどり着いた。

 

 

 まだまだ、ぎりっぎりまで、アイドルを楽しんでいたい

 

 

「アイドルになってよかった?」

「もちろん!」

 

 私は自信を持って即答できた。

 

 ルナちゃんは出会った時から賢くて優しい子だよ、ほんと。

 

 

「2人してどうしたの?」

「ゆっくりしてると動画の撮影が遅くなるわよ」

 

「ならちょっとだけ急ごっか! よいしょ~!」

「ちょっ!? 自分で歩けるし!」

 

 よしっ、この『ギリギリまでアイドルでいたい』って気持ちを、新しい夢にしよう。

 

 25歳現役として、アイドルに対する執念ならアイさんをとっくに超えてる。しかもこちとら2年間で、かなちゃんとルビーちゃんの何倍もの時間かけて(ライブ)を見せてきたんだ。

 

 三十路になろうと、年齢不詳のまま夢を追いかけ続けてやる。

 

 

 さて、今日も全国50万人以上のファンのために、私たち3人の幸せな姿をお届けするとしましょうか!

 『バズらせのプロ』として、そして2代目B小町のお姉さんとしてね!

 

 

 

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