まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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番外編50 (MEMちょ視点, 高千穂編②)

 

 今日の成果が多すぎるくらいにいろいろ撮れたみたいで、アネモネも満足そうだったなぁ。

 その代償というべきか、普段とは別の意味で疲れたけどねぇ。

 

 この団体で貸し切りな温泉に入ることもできて、ここ数か月で感じていた疲れまで一気に癒された気がするよ。

 

 かなちゃんやルビーちゃんはまだ現役JKなのもあって、B小町チャンネルのショート動画なんかも私が担当してるもん。

 その代わりちょっぴり、私ことMEMちょがメイン多いかもだけどぉ、そこは作業担当のご愛嬌ということでね。

 

 にしても、ちょっとした肩こりまで完璧に治ってる。

 いつもシャワーを浴びるくらいだったけど、湯船にゆっくり()かったほうがいいのかなぁ。

 

「お兄ちゃんの浴衣だよ!? 絶対見るべきでしょ!?」

「冷静になりなさい。行くなら隠れて向かうべきよ」

 

 いつもあの子たちは若くて元気だなぁ。

 ルビーちゃんはすぐに全力前進しそうだし、かなちゃんも枕を持って欲望を抑えきれてないし。

 

「かなちゃん落ち着いて。姫川さんや鳴嶋君もいるんだよ?」

 

 あかねちゃんがスマホの無音カメラアプリで連写してるの、そろそろ私か誰かがツッコミしたほうがいいのかなぁ。できるだけ気づかれないようにしてたみたいだけど、温泉でもすごいガチオタクな表情だったよ。

 

「せ、せやで? 男子部屋やもん。な、何かあったらいかんよ?」

 

 みなみちゃん、そんなに可愛くそわそわしてどうしたのかなぁ。

 どしたん話聞こうか?

 

「姫ちゃんにそんな度胸ないでしょ。お兄さんたちも奥手っぽいし」

 

 肘をついて横になってるフリルちゃんは、冷静にくつろいでて男前だなぁ。

 

 ドラマで見せる清楚系ヒロインとはギャップあるねぇ。

 そんな超美人で有名な子が私のガチファンのようで、車の中だとずっとそわそわしてて可愛かったよ。

 

「甘いよ! お兄ちゃんは絶対いろんな女の人と付き合ってたんだから!」

「なんですって!? 一体いつの話よ!?」

 

 『ずっと前にだよ! きっとナースさんたちとかさ!』『まさか赤ちゃんの頃からハーレムを!?』って言い合ってて、もしかするとちょっとしたケンカになっちゃいそうかな。

 そろそろお姉さんが仲裁に入ろうか。

 

「まぁまぁ、『生まれて誰とも付き合ったことない』なんて言ってたじゃん。そりゃ前世ではハーレム築いてそうな子だけどぉ」

「MEMちょさんの言う通り」

 

 アクア君って最近のなろう系主人公よりイケメンだし。

 前世じゃどこかの王様してたかもしれないねぇ。

 

 ところでフリルちゃん、そんなにチヤホヤしてくれるなんてさ。

 私の中に自己肯定モンスターが生まれちゃうよ?

 

「そう、絶対そんな感じなの!」

「はぁ~ どんな感じよ」

 

 『アクアに問い詰めるべきなのよね?』『のらりくらり(かわ)されそうだけどね』って和解しながら、2人して枕を持って向かおうとしてるねぇ。

 

 こりゃ止まりそうにないや。

 もうアクア君がなんとかしてぇ。

 

 そうあきらめかけていたとき。

 

「アクアなら、ご飯食べてからクリス君と出かけるってさ」

「そうなの!?」「そうなんですか!?」

 

 ひょこっと入口から顔を覗かせてきたのはアイさんだった。

 

「ん、お風呂もまだなんじゃないかな?」

「「ふへっ」」

 

 2人してすごい声出てたよ?

 ないよ? ここ混浴ないよぉ?

 

「こうしてると修学旅行みたいだね~ みんな若くていいな~」

 

 私は若くないですけどね!

 

 というかアイさんの、なんというか浴衣姿の色気がヤバい。

 美しい所作で座ろうとしてる間に、私がすかさずお茶を注いで目の前に置くと『ありがとっ』って笑顔を見せてくれる。推しが今日もまぶしいぜ。

 

「アクアたちが戻ってくるまで話そうよ。私のお母さん、疲れて早めに寝ちゃったし」

 

「いいですけどぉ」

 

 私が代表して頷いたら、フリルちゃんもゆっくりと身体を起こしてる。

 

 どういう話題を出すか少し考えていると。

 アイさんはキラキラと目を輝かせた。

 

「もちろん修学旅行なら恋バナだよね!」

 

「おぅふ、それはまた」

「私たちに縁のなさそうなことを」

 

 私たちはアイさんのこういうのに慣れてるけど、あかねちゃんとみなみちゃんとフリルちゃんはビックリしてそうだねぇ。

 

 なぜなら芸能人は表立って恋愛するわけにはいかない。

 実際にはアイドルであっても、意外と彼氏がいる子は多いみたいだけどねぇ。

 

 週刊誌とかそういうのを対策することは、苺プロに入ってから教えてもらってて。

 

 その1つに、『そこそこ親しい人からのリークには気を付けろ』ってのがある。記者たちも芸能人のあれこれな情報を売り出すために、昔ながらの張り込みは当然として、芸能界の誰かからのリークも記事に使うらしい。

 

「みんなの好きなタイプとか聞きたいな~」

 

 本来は共演者や友人といえど、あまり弱みを話すのはオススメされないけど。

 私が年齢不詳アイドルで通してても、身内のみんなは実年齢を知ったうえで受け入れてくれてる。すごく幸せにやらせてもらってるなぁ。

 

 同じアイドルのメンバーや事務所の人からのリークだって芸能界にはあるらしい。

 でも2人は絶対そんなことしないし、フリルちゃんたちもお互い不利になる情報をリークしないはず。

 

「はいはーい! 私のタイプはお兄ちゃんせんせ! すっごく優しい人!」

 

 『知ってる』ってたぶん私以外も思ったはず。

 それに、こういう純粋さがルビーちゃんの良さで、私もいろいろな現場でガードを固めたくなる。苺プロの人たちも、私すら子ども扱いしてるほどには過保護だけどね。

 

「さすが私たち自慢のアクアだね!」

「そう! ずーっと昔から好き! 愛してる!」

 

 私はともかく、修学旅行で恋バナなんて、JKで芸能人なこの子たちは貴重な機会だろうねぇ。

 

 アイさん自身も経験してみたくて提案したんだろうけど。

 なんだかこのメンバーが運命共同体のように思えた。

 

「私は、カッコよくて、同じ目線で横にいてくれるような…人です」

 

 かなちゃんは対抗するようにそう話して、ガチ恋勢なだけはあるよ。

 2人のことをお姉さんはどっちも応援してる。ずっと一途に想ってきてるのを見てるもん。

 

 ただなぁ、最終的に選べるのは1人なわけで、アクア君はどうするのやら。

 

「分かるなぁ~ 私ももし誰か付き合うならカッコよくて、年上みたいな安心感がある人がいいですから」

「カッコよ!?」

「年上みたいな!?」

 

 あかねちゃん、2人の好みを意識して言ったよね?

 もし恋のライバルになったら強敵になりそうな子だねぇ。

 

 アイさんも優しく頷きながら『分かる~』って相づちを打っている。

 まぁクリスさんもそういうとこあるもんね。

 

「私は同い年か年下か、ちょっと奥手なほうがええかもなぁ」

 

 みなみちゃんはそういう子が好みらしくて。

 守りたい、この笑顔。

 

「学校だとね、みなみちゃんのことは私たちでガードしてるんだよ、ママ!」

「ルビーえらいね~」

 

 アイさんにヨシヨシされてるけど、そんなルビーちゃん自身もアクア君たちにガードされてそうだなぁ。

 

「それこそ再会できた鳴嶋メルトはどう?」

 

 ほうほう、フリル氏(いわ)く、2人はすでに接点があったんだねぇ。

 お姉さんワクワクしてきたぞ。

 

「再会は大げさよ~」

「え~ なんか遊んでるっぽいイケメンじゃない?」

 

 みなみちゃんは照れた顔の前で手を振ってて、ますます話を聞きたくなっちゃうねぇ。

 押しに弱そうな子で、ルビーちゃんがお姉さんしてるのも分かるよぉ。

 

「でも舞台で一緒に稽古してる時とか、打ち上げの時とか、年上の女性はちょっと苦手そうにしてたよ」

「そうだったかしら? 打ち上げもあまり覚えてないわね」

 

 『かなちゃんはジンジャーエールと雰囲気だけで酔っちゃうからね』という話を『やれやれそんなわけないでしょ』って信じてないけど、それ私も知ってる真実だからね。

 

 それよりあかねちゃんの話の通りなら、いわゆる『メルみな』も気になってきますなぁ。

 

「えっと~ フリルちゃんはどういう人が好きなん?」

 

「そうね、その人の前で演技を続けなくていいかどうかが1番」

 

 ここにいる何人かが、何度も頷いちゃうようなことだった。

 私も『MEMちょ』というキャラで通してて、そんな私の側面を恋愛的な意味で好きになられてもどうすればいいのやら。

 

「そういう意味だと、姫ちゃんとかお兄さんは条件バッチリ」

「「う~~!」」

 

 ここに来て新たなライバル登場だと、かなちゃんもルビーちゃんも落ち着いてられないよぅ。

 

「それに加えて、恋愛的な意味で好きになった人がタイプ」

 

「そっか、自然と好きになることもあるよね。私とクリス君もそうだったし」

 

 明確に恋をしてる子が言うタイプも正解だし、フリルちゃんみたいな答えも正解なんだろうねぇ。

 

 私もまた誰かを好きになるのかなぁ。

 高校時代に付き合った彼と喧嘩別れしちゃってからは、あまり恋愛について考えてこなかった。

 

 いやはや、我ながらよく恋愛リアリティショーを乗り越えたものだよ。

 ケンゴ君たちもみんないい子だったんだけど、ほぼ同年代の弟たちがいる身としてはどうしてもお姉さんしちゃってたもん。

 

「じゃあ最後! メムちゃんは?」

 

 進行役のルビーちゃんに大トリを務めることになったけど、私も『好きになった人がタイプ』と思うし。

 

 とりあえず一瞬だけ身近な男性陣を思い浮かべてみて。

 

「カッコよくて、優しくて、家庭的な人で……」

 

 『もし何かあったら守ってくれる人』だといいかも。

 

「「ライバル多すぎない!?」」

 

 かなちゃんとルビーちゃんはまた焦り始めるけどぉ。

 いやいや、アクア君のことは普通の友達だと思ってるからね。

 

 そんな感じのことを2人に伝えようとして。

 

「へぇー そっかー」

 

 アイさんはニコニコと笑っている。

 あれ私、詰んでない?

 

「芸能人に憧れてるみたいなものですからね!? だから、えーと……」

 

 『ん、そうなんだね』とほほえんだ。

 そしてゆっくりと立ち上がった。

 

「そろそろ帰ってきそうだから行くね。いろいろ聞けて楽しかったよ」

 

 なんとか導火線に火がつかなくてよかったよぉ。

 

「みんなおやすみなさ~い。あまり夜ふかししないで寝るんだよ~」

 

 私たちもそれぞれに『おやすみなさい』ということを伝えれば、身体の前で手のひらを小さく振りながらアイさんはどこかに向かっていった。

 

 

「てことはお兄ちゃんも温泉?」

「ちょっと様子見にいこうかしらね」

 

 結局2人は枕を持って向かうようだし。

 

 当然あかねちゃんも付いていったし。

 みなみちゃんも悩んだ末に付いていったし。

 フリルちゃんも面白そうだからと付いていったし。

 

 私はお布団の準備をして先に寝ておこうか。

 

「現役JKの行動力すげー」

 そう呟きながらフカフカのお布団に潜り込む。

 

 今は、親友もとい『心の友たち』の恋愛模様を見守るくらいがちょうどいい。

 

 でもいつかは、こんな風に素の自分を見せられる人と、また恋愛してみたくはあるなぁ。

 

 

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