まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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短編3 (星野アイ視点, 女子会)

 

 和な感じで、折り紙模様っぽい壁紙がオシャレ。

 

 茶碗蒸しや卵焼きから、白い湯気がふわふわしてる。

 鳥のお店って聞いてたから、もっと焼き鳥でいっぱいかと思ってたけど、タマゴ料理も美味しそうだね。

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 私のオレンジジュース、ヨリ子ちゃんのカクテル、アビ子ちゃんのビールが、いい感じに音を立てた。

 

 なかなか予定が合わなかったけど、やっとこの3人で女子会ができる。

 クリス君はここまでの送り迎えしてくれて、アクアやルビーのお迎えにも行ってくれてる。感謝感謝(かんしゃかんしゃ)だよ。

 

「わっ! すごくおいしい!」

 

 早速食べてみると、なんというか上品な味だった。茶碗蒸しも卵焼きも、これが名店の味ってやつ?

 って浮気してるみたいだけど、クリス君の卵焼きが家庭の味として最高だからね。

 

「でしょ? メニューも多いし、どれも美味しいのよ」

「冬だと鍋いいですよ。料理も洗い物もしなくて済みますし」

「あー、1人暮らしだと料理サボっちゃいそうだよね」

 

 私も、クリス君や子どもたちに食べてもらいたい気持ちで作ってるとこはあるもん。

 

「家で漫画を描いてると、余計にねぇ」

「です。寝てるか、描いてるかって時期も多いですし」

 

「わー、漫画家さんってメリハリ大変そう」

 

 私にとって、おうちは家族と一緒に休むとこだし。

 漫画家さんは徹夜で作業とかも多そうだ。

 

「ほら、注文も考えましょう。すみませ~ん」

 

 そんな提案をするヨリ子ちゃんが、もう追加でビールと枝豆を頼みにいってるや。

 

「何を頼もっかな?」

「とりあえず鳥の串焼き全種類よく頼んでます」

 

 机の上に置いてくれていたメニューを覗き込んだ。

 焼き鳥や唐揚げのほかにも、一品料理もいっぱい種類があった。

 

 迷っちゃうから、アビ子ちゃんの頼み方も賢いね。

 

「へぇ、すっぽん鍋とかもあるんだね。鳥じゃないのに」

 

「それは男性側に食べさせ……もごっ」

「コラーゲンって美容にも良さげよね!?」

 

 私は2人の様子に首を傾げるけど。

 せっかくこういうお店に来たし、焼き鳥や炭火焼きをあれこれと店員さんに頼んだ。

 

 文字だけ見てても、どれも美味しそうだったな。

 

「店で飲むと格別に美味いわ~」

 

 わー、ヨリ子ちゃんすごい飲みっぷりだね。

 私のお義父さんたちくらい飲みそう。

 

「アビ子先生もアシスタントの子たちが育ってきて、ようやく人間的生活に戻ってきたところかしら。やっぱ週刊怖いわ」

「その(せつ)はどうも…… いろいろ仲介してくれて」

 

 ヨリ子ちゃんはアビ子ちゃんの先生らしくて、次はアビ子ちゃんが先生になってる感じなのかな。

 私もいつの間にかルビーたちにアイドルのことを教えるようになってたなぁ。

 

「いいのよ。月刊で暇な時は暇だし、若い子たちで可愛いし」

「実力はまだまだですよ。まあ背景とか上手い人いて、だいぶ助かってますけど」

 

 漫画もみんなで協力して作り上げるものみたい。

 1人で描いてるイメージもあった。

 

 私の時のB小町もみんなでアイドルしてた。

 またいつか7人全員そろって女子会したいな。一緒にドームライブまで頑張って、ちゃんと仲良くなれたと思ってて、私の一方通行の思いじゃないと信じてる。

 

 すごく忙しそうなの、めいめいだよね。

 海外ロケが多くて事務所で会うの珍しいくらい。

 

 たかみーはだいぶ前に俳優と結婚して引退しちゃったけど、今は子育てで忙しそう。よく電話で相談に乗ってるけど、すごく腕白(ワンパク)な子っぽいよね。

 ニノちゃんも結婚生活を楽しんでるのかなぁ。なんだか引退してすぐ引っ越しちゃったみたいで、ちょっと心配なんだよね。元気にしてるって連絡は取れてるけどさ。

 

 きゅんちゃん、ありちゃん、あの2人はライブであちこち行ってても、事務所に戻ってくるタイミングはある。

 んー、まずは1番よく話すカナンちゃんに相談してみよっかな。でもあの子もバラエティに引っ張りだこでスケジュール埋まってそうだなぁ。

 

「っと、アイさんごめんなさいね。私たちだけで話しちゃってて」

 

「ん、大丈夫だよ」

 

 私も考え事しちゃってたからね。

 スケジュール考えたり、みんなの予定合わせたり、やっぱ苦手だなと思ったし。

 

「そういえば、アイさんってなんでそこまで若くてお綺麗なんですか?」

「そうね。女性としては羨ましい限りだわ」

 

 『その秘訣は?』って2人から真剣に尋ねられる。

 まあミヤコママにも聞いて実践してることも、たくさんあるけど。

 

「やっぱり愛情じゃないかな!」

 

 女の子としては、好きな人に可愛く見られたい。

 私って結構めんどくさがりやなんだけど、クリス君を好きだと自覚してから毎日欠かさず続けられてるもん。

 

「それはイチャラブってやつですか!」

「2人から何度か話を聞いてるけどね。もはやリアル恋愛漫画よ」

 

 アビ子ちゃんも目をキラキラさせてて。

 ヨリ子ちゃんが少女漫画のエピソード風に話してくれてる。

 

 この先生にして、なになにありってやつだね。

 でも私は『今日あま』や『東京ブレイド』に出てくる子たちほど、心まで綺麗なわけじゃないけどね

 

 もちろんクリス君は、優しくてカッコいい勇者みたいな人だ。

 裏表もほとんどなくて、でっかい愛をくれて、まっすぐで動くべき時に動ける。しかも実際に命まで救ってくれた。

 前世でも人間を守るために戦っていたらしくて、みんなのヒーローやみんなの勇者という言葉が似合う。

 

 だから私は悪い魔女だ。

 私と子どもたち、あと身内だけで、彼を独占したいと本気で思ってる。

 

「というわけで、2人に取材をする時のコツは、お互いに惚気(ノロケ)ってわけ」

 

 『いい意味でね』とヨリ子ちゃんは言ってくれる。

 だってクリス君や子どもたちのことならいっぱい話しちゃうし。

 

「おかげさまで、新しい漫画の構想もだいぶできてるのよ」

「かの吉祥寺頼子先生のイチャラブ漫画が更に進化をですか!?」

 

 愛してる人たちのステキなところを、知ってもらえるなら嬉しい。そんな気持ちは本当だと思う。

 

 もちろん、クリス君が私のことを話してくれるのもね。

 

 私が小学生の頃のこととか特に、だいぶ美化してそうだけどね。だいぶ女子に嫌われてたと思うし、男子にちょっかいかけられたし。

 仲良くしてくれた子たちにも、クリス君にも、たくさん嘘を()いてたはず。しかも自分でも、わからないほどに。

 

 んー、今はもう、だいぶ外で嘘を()くの減ってきてるのかな?

 ヨリ子ちゃんやアビ子ちゃんの前だからってのもあると思うけど。

 

 店員さんが来てくれると、ついつい癖で笑顔を作っちゃう。

 頼んでいた料理が次々と並べられていって、再び身内だけの空間になると、肩の力が抜ける。

 

「どれも美味しそうだね!」

「そうね。だからついつい通っちゃうのよねぇ」

「私は遠慮しませんからね。アイさんもテキトーに取っちゃってください」

 

 アビ子ちゃんはすでにモグモグとしてて、焼き鳥の串を両手に持って、交互に食べるなんて発想が面白いね。

 

「タレと塩で交互だと、味わからなくなるね!」

「そうですか? 味が引き立ちません?」

「はいはい、好きなように食べればいいわよ」

 

 ヨリ子ちゃんにまるでお母さんのように止められるけど、さすがにこれくらいじゃケンカしないよ。

 

「はぁ~ それにしても、アイさんも、アビ子先生も、出会いがあって羨ましいわ~」

「およ? アビ子ちゃんも誰かと?」

「私はまだそういうんじゃないですから……」

 

 頬っぺが赤くなってて、これは問いただしたくなる。

 私って身内の恋愛事情には興味津々なんだよね。

 

「アイさんも知ってる人よ、脚本のGOAさん」

「一緒に舞台見た人だよね」

「だ、だからですね……」

 

 今は日本酒っぽいの飲んでて。

 だいぶ酔ってる感じのヨリ子ちゃんが教えてくれたけど。

 

 あれから何度か2人で東京ブレイドの舞台を観にいったんだって。

 しかも脚本を作る時なんて、2人で通話しながら完成品にしたって。

 

「すごくドラマティックだね!」

 

 共同作業ってやつ。

 しかもあんなにすごい物語を一緒に作り上げるなんて。

 

「あの白黒のプロデューサーとか編集も、いましたからね!?」

「でも2人で意気投合してハジケたんでしょ?」

 

 『それはそうです……』ってアビ子ちゃんがもじもじとしてて可愛いや。

 

「彼は東京ブレイドのファンでいてくれて、私自身もスマッシュヘヴンの舞台は好きな感じでしたし、だからクリエイターとしてですね」

 

「わかるなぁ~ 好きな人から推してもらえるって」

 

 思いっきりブンブン首を振ってて、GOAさんのことめっちゃ好きそうだ。

 

「アイさんも気になってるわよ。さあ白状しちゃいなさい」

「うっ、だって今は最終章描いてて、だいぶプレッシャーあって…… でも身近な人にファンがいて応援してくれると……」

「会えない時も電話するだけで、幸せな気持ちになれるよね」

 

 アビ子ちゃんは恥ずかしそうにコクりと頷いてくれた。

 アイドルになりたてでいろいろ疲れてる時、声を聞きたいなって電話よくしてたなぁ。

 

「最初会った時なんて、酷いことたくさん言っちゃったのに、許してくれる優しい人ですし」

 

「そうね。あそこまで言って縁を切られてないの、あれだいぶ聖人レベルよ?」

 

 ヨリ子ちゃんが急に真顔になった。

 どんなことまで言っちゃってたんだろう。

 

「そっか、ならアタックしなきゃだね! すぐモテモテになりそうな人だよ?」

 

「ひぇ……た、たしかにありえますね」

 

 ()を出してもいいかなって思わせてくれて、一緒にいて気が楽で、安心できて、幸せで。

 

 実は嘘をついてて良い人ぶってるんじゃないかって、昔はあれこれと試した気がするけど。

 でも世の中には、意外と打算なしに助けてくれる人もいるんだと気づかされる。

 

「アビ子ちゃん、心の底から応援するね!」

「当然、私も応援してるわよ」

 

「えっと、ありがとうございます、なんだか心強いです」

 

 こうやって誰かに歩み寄って、友達を作ること、いつの間にか私もできるようになってる。

 クリス君と、みんなのおかげなんだろうな。

 

 

 

 もしもクリス君と出会わなければどうなってたんだろ。

 

 嘘()きで、嫉妬深い魔女で。

 

 こんな私でも幸せでいていいんだって思えてる。

 まるで勇者に救われたお姫様かのように、恵まれすぎてるよね。

 

 だから、今日帰ったら『いつもありがとう』を伝えようかな。

 

 

 

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