まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう   作:ヒラメもち

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 思い立ったらなんとかってやつ。

 次の日の放課後には、イチゴさんの部屋をノックした。もう別荘のように感じる苺プロ事務所だけど、さすがにこれくらいはしないとね。

 『どうぞ』ってかしこまった声がしたから、私はバーンってドアを開ける。

 

「イチえもん! お兄ちゃんが出てる番組に私も出させて!」

 

「……なんだ、ルビーだったか」

 

 染めた金髪でサングラスで、ツンツン頭で、ちゃんとしたスーツな格好してる。でも頬杖をつき始めたし、お客さん来ないときはリラックスしてるよね。

 だから私たちも事務所で、気楽に過ごせるんだけどさ。

 

「ん~……このソファの座り心地、よくないね!」

 

 とにかく硬いし、背もたれなんて低すぎるし。

 

「お前それSNSで言うなよ。炎上ネタにされるぞ」

 

「へーきへーき!……ちゃんと全部管理されてるからさ…ミヤえもんとメムちゃんとカナちゃんに…アイドルとしてのアカウント……」

 

 私のSNSの自由は、友達用の鍵垢にしかないんだよ。

 

 それにしても真っ白な壁に、シマウマ模様な絨毯で、机は真っ黒だし、ソファは茶色だし、大人な雰囲気だよね。こういう高級そうな部屋を見ると、イチゴさんは社長なんだなぁって感じがする。

 だからこそ思うよ。

 

「私って社長令嬢なんだなぁ」

「傍若無人の()だろ」

 

 ボージャック武人? どっかの敵の名前?

 社長令嬢というのは合ってるはずなんだけど。

 

「それで、アクアの出てる番組で、お前が出れるやつか……」

「話が早いね。えーと、さすが10秒で話がわかる社長!」

 

 初代B小町がドームまで行けたのは、ママの可愛さカッコよさ魅力がほとんどだろうけど。イチゴさんとミヤコさんたちの手助けのおかげとも思えてる。

 つまりイチえもんとミヤえもんで、頼れる人たちだよね。

 

「10秒どころか3秒だ。お前の母親も、最初の一言がお願いごとだからな?」

「さすがママ! 天才アイドル!」

 

 そんなママをずっと支えてきてくれたんだもん。

 四次元ポケットや秘密道具がなくても、片手で操作しているスマホで、ちゃちゃっと番組出演可能にしてくれるはず。

 

「ないな、今のところ」

「……え? 冗談だよね?」

 

 思ってた展開と違いすぎるんですけど。

 ママの子どもたちで、パパ譲り金髪な美男美女の双子なんて、どの番組も欲しがるコンビのはずでしょ。

 

「やだやだ! たぶん鏑木さんのやつ! お兄ちゃんが学校休んでまで撮ってるやつがいい!」

「大げさな身振り手振り、話し方……アイのやつを更に図太くした感じだな、お前」

 

 『そのキャラは大事にしろよ』なんて言ってくれて、イチえもんから褒められた。

 

「そっか」

 

 私、もしかしてママよりすごい感じなんだ。そりゃいつかは超えようと思ってたよ。でもまさか私の魅力の1つが、もうママを超えてるなんて思ってなかった。

 

「イチえもん、わかってるじゃん!」

「あー、それでいい。ほれ、あとは家に戻ってから、アイに褒めちぎられてこい」

 

 よーし、ママに褒められたことを教えて、ナデナデしてもらおっと。

 身振り手振り、話し方、あと私のキャラだよね。覚えたぞ~。

 

 あれ? 思わずソファから立っちゃったけどさ。

 

「って、お兄ちゃんとの共演どこ!? 話に10秒以上かかってるよ!?」

「その反応を自然とやってるのか、すごいなお前」

 

 む~、さては話をはぐらかそうとしたね。

 だから、褒めちぎってきてたんだね。

 

「あの番組の業界視聴率は高い。テレビをあまり見ない若年層にも人気がある。地上波でできない深掘り、ネット配信のバラエティだからこそだな」

 

 聞けば聞くほど、いいことづくしにも思えたけど。

 

「炎上ギリギリ、そんな火薬庫みたいなものだぞ」

「そっか…なんか……ヤバイ感じなんだね?」

 

 イチゴさんの声の変化に合わせて、私も真剣になる。

 

 お兄ちゃんのことだから、また1人で抱え込んでるんだ。これはもう何としてでも番組に出なきゃいけない。きっと私にできることは少ないだろうし、もしかしたら邪魔になるかもしれないけど。

 

「……教えて。どうやったら出れるの?」

 

 私は、イチゴさんの前に立った。

 

「たとえお前やアクアに、全く原因がなかったとしても、だ」

 

 イチゴさんは姿勢をよくして、社長な椅子に座ったまま見上げてきた。

 

「もしもあの番組が炎上するとすれば、企画した側に問題がある。だが、わかりやすいやつを叩く、そんなやつらも出てくるはずだ」

 

 そういうSNSで叩かれるのが、番組に出演している私たちになるかもしれない、ということなんだろうね。

 イチゴさんの黒いサングラスで隠されてるのはどんな瞳? 叱ってる? それとも心配?

 

「だからお前はこのまま2代目B小町として、じっくりと」

「ん、心配してくれてるんだよね。守ってくれてるのも感謝してる」

 

 イチゴさんも、たぶん鏑木さんも、そんなリスクをわかってて、その番組にお兄ちゃんを出してるんだと思う。

 

 盛り上がっている波に乗れば大人気へ、もし炎上しちゃえばまるで悪者の1人へ。

 もしくは何か良い変化を与えてほしいとか?

 

「ずーっと昔から、お兄ちゃんには助けられてきたもん。もしお兄ちゃんが何か困ってたら、私が助けたい」

 

 私じゃ具体的なことを何も思いつかなくて、たぶん頼み方も下手だよね。たぶんイチゴさんのような本当の大人には、すごく甘い考え方に見えるんだろう。

 

「たぶんほとんど、任せちゃうと思う。だけど、手伝えることは手伝いたい」

 

 私はもう、自分でしっかり走って、あの大きな背中に追いつけると思えるから。

 

「ったく、1人前に背伸びするところまで、母親に似やがって」

 

 そう言って、イチゴさんの表情が柔らかくなった。

 そしてスマホを操作してから、そのカメラ側を向けてくる。

 

「早く準備しろ。撮影開始するぞ、アイドル」

「えっ、どういう流れで?」

 

 イチゴさんはニヤニヤしてる。

 こっちはアイドル扱いされると、反射的に髪を整えたり、笑顔を作ったり、しちゃうんだけど。

 

「メッセージの動画だな。どうやって番組に出ればいいか、その質問の答えだ」

「メッセージ? それでいいんだね」

 

 思ったより簡単に頼める感じなのかな。でもイチゴさんが協力してくれる気になったなら、私は信じよう。

 

「企画書を作って渡すのが(すじ)なんだろうが、鏑木さんとは20年ほどコネがあってな」

 

「私はあまり鏑木さんのこと知らないんだけど?」

 

 台本とか丁寧に考えたほうがいいのかな。

 ちょっと怪しいオジサンだとしか知らないし。

 

「別にいつも通りでいい。お前みたいに顔がよくて、自分のキャラクターを印象づければ、あの人は動いてくれるだろ。気が向けば」

 

「気が向けば!? しかも今ポーンって音鳴ったよね!?」

 

 もう撮影開始されたし、だいぶ無茶ぶりしてくるじゃん。

 まあ、リテイクとか編集とか、最近いろいろできるもんね。

 

「鏑木さん! 2代目B小町、ルビーです! 届いてますか~!」

 

 まずはアイドルらしく、大げさに、可愛い身振り手振り。

 これも私の大事なキャラクターだと思ってるし。

 

「お兄ちゃんが出てる番組に、私、ど~しても出たくて」

 

 あれ、番組名なんだっけ。

 

「なんか炎上ギリギリ? みたいなやつです。お兄ちゃんが出てるからには、人気番組となってそうなので、これから目を通したいと思います」

 

 ヤバイヤバイ、話がまとまらない。

 でもこういうフリートークのようなことをしてる時に、じっくり考えてる余裕なんてない。しゃべりながら次に話すことを考えなきゃ。

 よしっ、ここはお兄ちゃんの話題で、一旦時間をかけよう。

 

「お兄ちゃんと一緒なら黄金コンビ! 美男美女の双子キャラでいけると思います! 外向けクールかっこいいお兄ちゃんなんですけど、うちの兄はお茶目で可愛いところもあってぇ。そんなところもいいんですけどぉ」

 

 なんかイチえもんから、巻きで、って感じのポーズされたんだけど。

 確かにあまり長いメッセージである必要もないのかな。

 

「とにかく! 炎上ギリギリを、元気に楽しく、お届けしたいと思ってます。だからぜひとも番組に出させてください! お願いします!」

 

 そして、『ルビーでした!』って横ピースとかウィンクとか、そんなファンサをつけておく。

 これでメッセージを終わらせたつもりだけど。

 

「あのさ……ぜっんぜんダメじゃなかった!?」

「いいや、アイの指導を受けてるだけあって、上出来(じょうでき)だな」

 

 イチゴさんがスマホのカメラを一旦下げてくれたから、やっと落ち着ける。

 私もそこそこ大人になったし、もう16歳だし、こういう頼み事の時はもっとクールビューティーにしたいところだよね。

 

「むしろ鏑木さんは面白がるだろ。だってアイのファンだからな。これで送信っと」

「もう送ったの!? 私の許可は!?」

 

 これじゃあ、まるで『失礼な子ども』みたいな印象で、鏑木さんに伝わっちゃうじゃん。

 

「あー、お前は孫だろ? おじいちゃん、最近忘れっぽくてな」

「こういう時だけ、便利な設定に使うなぁ!」

 

 いつもは『そこまで歳じゃない』とか言うのに~!

 早く撮り直してよ、イチえも~ん!

 

 

****

 

 

 今でも信じられない。

 あれでまさか、本当に番組に出られるなんて思ってなかった。

 

 あと予想外だったのは、お兄ちゃんとは撮影場所も日付も全く違うことだよ。

 お兄ちゃんはスタジオで他のゲストたちとトークするだけ。その時の映像は、私がリポーターなインタビューの現地撮影みたいな流れっぽい。

 

 これじゃあ、私がまるで火薬庫の中まで来ちゃった感じだ。もし爆発炎上したらお兄ちゃんにフォローしてもらう側だよ。

 

 まあ、ほら、火薬庫が爆発する前に止められるかもしれないかぁ。

 とりあえずリポーターの1人として、メイン級になっておこう。今日のテーマは無難っぽかったけど、過去の番組はだいぶ危ないの多かったもん。

 

「このたび、深堀りリポーターに任命された、星野ルビー16歳!」

 

 ママが言ってた、『ステージの上だとどの角度からも、みんなに可愛くしなきゃいけない。けど、テレビではカメラに可愛く思ってもらえばいいし、MVと同じ要領で簡単だよ』って。

 

 しかもこれ撮ったやつ、お兄ちゃんが見て、トークしてくれるんだよね。

 それなら1人の女の子として、同時に生まれてきた妹として、可愛いって思ってほしいよね。

 

「星野アクアの双子の妹でーす! いえーい! お兄ちゃん見てるぅ! 今どんな気持ち~!」

 

 ほらほらお兄ちゃん、私を見て!

 外向けクールキャラが崩れるくらい、愛を溢れさせて!

 

「さて! 本日は人探し! その名も光宙(ぴかちゅう)くん!」

 

 ぶっちゃけ、ここからはアシスタントさんが用意してくれた場所に次々と移動して、台本通りに質問して、あらかじめ見つかっている人のところに行く。

 まあ、いわゆる『やらせ』だけど。

 

 光宙(ぴかちゅう)くんを見つけてきてくれたのは本当だし、協力してもらえるよう頼み込んでくれたのも本当だ。

 

 それに、劇的な演出を目指すなら、役者としての練習にはなるよね。

 お兄ちゃんに見てもらおうと意識すれば、ちゃんと演じられそう。しかも近くで見てくれている人たちもいるもん。

 

「では早速行ってみましょう! 深堀れ~ワンチャン♪」

 

 緊張もするけど、意外と楽しみな撮影になりそうだった。

 






「かわいい。愛してる。……いや…それよりも…マジかよ……」

 なぜルビーが、この番組にリポーターとして出ている。
 なぜ母さんとルナが、普通な親子連れとして散歩していて、背後に映っている。

 これは、うちの女性陣が、僕に仕掛けてきたドッキリなんだろうか。


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