まぁ我慢強い勇者ならどんな苦難も乗り越えてアイドルを推せるだろう 作:ヒラメもち
バタバタしてたら、もう8月になっていた。
だって毎日続けてるようなこともあれば、特別なイベントがたくさんあるから。
朝の涼しいうちに走ったり、高校に通ったり、平日に深掘れワンチャンとかの撮影したり、事務所でレッスン受けたり、B小町チャンネルの動画撮ったり。
土日祝日は全国あちこちでライブしたり。デビュー1周年記念に合わせて苺プロ全体でファン感謝祭の準備してたり。
そして今年もジャパンアイドルフェスに参加して、無事に終了。
1度経験したとはいえめっちゃ暑かった。ファンのみんなと楽しめたのは熱々な展開だったけどね。初代B小町の曲だけじゃなくて、私たちの新曲のコールまで完璧にマスターしてきてくれたもん。
しかも、さすがに2日間の最初から最後までってわけじゃないけど。家族や友達がたくさん応援に来てくれる。物販の時は、さすがにママが来たのバレちゃって、撮影会まで始めちゃってた。
それでね、他にも物販の時は、カナちゃんとメムちゃん、明らかに動揺してて。
でもホントに嬉しそうだったから、たぶんファンに混じって、2人も家族が来てくれてたんだと思う。私も嬉しくなっちゃった。
こうしてジャパンアイドルフェスからの帰りは夜中になって、ヘトヘトだけど。
おうちに帰ると、さらに心がポカポカする。
「つっかれたぁ~~」
「えらいよ~ ルビーもすっかりアイドルだねぇ」
はわぁ、ママのオギャバブランドに包まれて安らげる。まさしく極楽浄土だよ。
ヨシヨシしてくれるママよりも背が高くなったけど、溢れる母性は偉大すぎ。
「おつかれさま、今日も楽しめた?」
「ん! 大変だけど楽しかった!」
病院の中で生きてた頃じゃ、想像もできない毎日だよね。
「ママもおつかれさま! 今日は映画撮影とかで忙しかったんでしょ?」
「ん、私をナデナデしてくれるんだ? そっかぁ~」
どぅへへ、ママの髪うるサラなロングヘヤぁ。
5億個ある魅力の中でも代表的なとこだよ。
「ほら、ママも癒されてね」
「ん、うれしいよ、ほんと」
瞳が潤んでて、大好きなママが嬉しそうにしてくれるのが嬉しい。
「尊い」
お兄ちゃんがオタクモードで満足してくれてるみたい。そりゃあ、そっくり美少女な母娘だもんね。最推しな箱推しなんでしょ。
「アクアもおいで~」
「いやいや、こっちからいこうよ!」
だってお兄ちゃんは照れ屋さんだもん。本当はママに甘えて癒されたいだろうし、それに私もメロメロにするためアタックのためだし。
「「とぉ~!」」
「ちょっ……」
ぎゅうってする。
ほらほら、この美少女サンドイッチで、もっとマザコンでシスコンになって。
えっ、わ、ひゃあ、お兄ちゃんの細マッチョ好きすぎる。
「ヤバイな…これがうるサラロングヘアーなのか……」
「でしょ! なでてなでて~」
その言い方と反応は、せんせの頃から変わってないや。
想像してたよりずっと、髪の手入れは大変だけどね。ママや美容師さんに教えてもらえるし、女の子としては可愛い姿を見せたいから続けられる。
「アクアも髪型、前見たやつとか可愛かったよね」
「そうそう、モデルで可愛い感じのも増えててぇ~」
「可愛いって……僕は任せっきりだよ。編み込みかなんだかまで、撮影の度に勝手にされてる」
そういうところもお兄ちゃんらしくて好き。
まあ美容師さんやメイクさんのおかげで、お兄ちゃんの様々な成分を、私たちファンに供給してもらえてるということだね。
「んー、お兄ちゃんさ、前髪ちょっと長めになってる?」
お兄ちゃんもせっかく美男子なのに、シンプルな髪型が好きだよね。
青い瞳も、カッコいい顔も、よく知ってる雰囲気も。
見つめてると、引き込まれそうなくらい大好き。
「さ、さて、ルビーは早く休もう。母さんもお風呂まだだろ」
「「え~」」
まだほんのちょっとしかスキンシップできてないじゃん。私もっと癒しが欲しいのに。
「続けてくれていいのに」「逃げたね」
「父さん、ルナ、わざわざ気配を隠すなんて高度なことして、見物しなくていいから」
そう言い残して、お兄ちゃんがリビングから出ていっちゃった。
思い返せば、疲れてたのもあって全力スキンシップしちゃったし、怒らせてないといいんだけど。
「照れていただけだよ、ルビー」
「そう、顔を真っ赤にしていたよ」
パパとルナがそう教えてくれて安心した。というか、ほんのちょっぴり悩んだだけなのに、そんなに表情に出てたのかな。
「そっか」
でもよかったぁ。
「さっ、お風呂に入ろっか。どうする? ママと入る?」
「入るぅーー!!」
前に一緒にライブした時も、ママは若々しくて綺麗で可愛くてカッコよかったなぁ。
生まれ変われて、私は幸せマックスすぎる。
しかも私は娘として、一緒にお風呂という特権まである!
***
ふぅ、のぼせちゃうところだった。
ママの色気がほんとヤバかった。
ホカホカしてるうちに髪を乾かしてもらったし、手入れもしたし。あとは寝る前につけるナイトキャップを持ってきた。ちゃんと枕も抱えてきた。
「お兄ちゃん、入るよ! いいよね!」
「……いいぞ」
私と交代でお風呂に行ってたけど、もう着替えてたんだ。いつも早いよね。
「おかわわ……」
お風呂上がりお兄ちゃんがイケメンな色気ヤバいし、水色と白色でシマシマなパジャマがかわいい。
ママがお揃いで買ってくれたやつだから、私はピンク色と白色のシマシマで、おそろっちコーデになってるし。
「……それで、深掘れワンチャンの話だったか?」
「そうだよ! すっかり忘れてた!」
とりあえずジャパンアイドルフェスが終わってから、話そう考えようって思ってたことだ。結局は私が思うようには、あの番組の裏側は良い方向に変わってない。
私もリポーターがんばってて、お兄ちゃんがJKに大人気で、番組としてさらに盛り上がってる。
だからなのか、吉住さんのようなアシスタントさんが少し増えてて、ちょっと安心してたのに。
「アシスタントさん多いのに! 大変そうじゃん! どうして!?」
「注目されたからだろ。それと、多くなったのは全体人数だ」
お兄ちゃんは当たり前のように言うけどさ。
「えーと、どういうこと?」
「面白い番組を見て、次回が新しい企画なら、もっと面白いものを期待しないか?」
視聴者目線で考えれば確かに。
じゃあ毎回どんどん面白いネタを考えなきゃってことじゃん。
そりゃ絶対取材拒否ナントカ、ちょっと無理っぽい企画にもなるよ。
「というか、全体人数もまだ少ないくらいだぞ。ノウハウも足りない。それに、お前が気にかけてる班は、実質的に2人体制なのが最大の問題だな」
「……はん? はんって?」
私が質問すると、お兄ちゃんは勉強机のほうから、紙とシャーペンを取ってきた。
絨毯の上のテーブルの前に座るから、私もその隣に座って、お兄ちゃんに寄りかかる。
「1班、2班、3班、4班?」
「そう。あのバラエティの場合は、4チームに分かれて、それぞれで1回の番組を作っている」
へぇ、全部あの怖い漆原さんがリーダーで、吉住さんたちで作ってると思ってた。番組作る時のリーダーが4人いる感じなんだね。じゃあ交代でできそうじゃん。
「ディレクターが班長って感じで、もしチーフアシスタントがいるならスケジュール管理、そしてアシスタントが雑用だな」
「へぇーへぇーへぇー」
紙にその文字を書きこんでいってて、まさしくお兄ちゃんトリビアだね。
そういえばあのトリビア番組も面白かった記憶あるけど、今はどうなってるんだろ。生まれ変わってからは1度も見てないや。
お兄ちゃんは、4班のディレクターのとこに漆原さん、アシスタントディレクターのところに吉住さんの名前を書いた。
そこからは、シャーペンが暇になったからか、別のところに書き始めてる。
「………えっ、てことはアシスタントが吉住さん1人だったの!? あれだけ部屋にパソコンあって!?」
「その勘違いは、別の班と同じ部屋だからだろうな」
じゃあ、ぴかちゅう君を探す回も、二郎系ラーメンを完食した回も、たぶん他の回もほとんど。
準備から編集まで、ほとんど漆原さんと吉住さんだけでやってたということ!?
「驚いているようだけど、ネット番組の規模だからな。数字を取れなければ、人を増やす予算がない。そういう意味だと、ルビーのがんばりも大切になってくる」
「でも結局、お金ってことかぁ」
追加で1番上に書いたプロデューサーの鏑木さんだとか、その次に名前が2つ書かれて、あと演出の小手さん、他にもいろいろ紙にカキカキしてくれてる。じゃあディレクターの漆原さんより偉い人だらけなんだね。
あとさ、1班~4班の四角に大きさの違いがあるんですけど。
なんか私の名前を、ちっちゃい4班の下に書かれたんですけど。
「……私もしかして…補欠リポーター的な……?」
「ルビーはアイドルで、苺プロへの委託で、まだ未成年だろ。だから1番忙しくなくて……1番何か炎上した時に逃げられる場所だ」
お兄ちゃんは言いづらそうにしてるけど、それって漆原さんや吉住さんだけで責任を負うみたいで、いわゆるトカゲの尻尾切りじゃん。
炎上ギリギリな番組だから仕方ない、なんて思いたくないよ。
「漆原さんの噂も聞いている。界隈では有名らしいからな」
「あぁ~ まあね……」
悪い意味なんだろうな。
接してきて苦労人という感じもしてきてるけど、すごい怒るところがちょっとなぁ。
「そして厄介なのが、ここを第4班だとして、2人は外部の制作会社なんだ。局の制作班だけじゃ人手が足りない場合に、よくあることだけど」
ちっちゃい四角の線が、二重にされちゃった。
お兄ちゃんたちが全然解決できないのも、これのせいなのかな。
「鏑木さんがどれほど状況を把握していても、この番組の規模であれば、増員は外部会社からだろうな。以前はアシスタントが2人体制だったようだが、まだ1人か」
まだ外部のとこからアシスタントさんを増やしてくれないのは、漆原さんの怒りっぽい性格も原因になってる気がするなぁ。
「もしこのまま鏑木さんから改善策を行うとすれば、新たに局の人員で、第5班を作るのが簡単だろうな」
お兄ちゃんは新しく5班(仮)を書いてるけど、なんか4班が大きめの四角で挟まれてる感じで。
「……えっ…これ…4班が消えちゃう?」
「よく気づいたな。僕やルビーががんばってこの番組を盛り上げていった先に、そうなるかもしれない」
『あくまで可能性の話だ』なんて言ってくれるけど。
漆原さんの態度が変わらなかったり、吉住さんが疲れて倒れてしまったり、このままだと結果が予想できちゃうようだった。
「これはね……キミにとっては、初めて見るような光景かもしれない。でもこれが芸能界の……いや社会のあちこちで起きていることなんだよ」
「ん、撫でてくれてありがと、せんせ」
優しくナデナデしてくれて、きっとそのまま現状を無視することだって許してくれると思う。
「そっかぁ」
本当に難しい話なんだなぁ。
お兄ちゃんが心配で、お兄ちゃんと共演したくて、そんな思いで私は番組出演するのを頼んだ。でも今ならやっと、イチゴさんやお兄ちゃんが、止めたかった気持ちもわかる。
「他の班はだいぶ立て直しているようだ。だから僕たちが動かなくとも、番組は継続していくだろう」
鏑木さんまで過保護でいてくれてるのかもね。私は顔売りのために、安全なとこで、テレビに出られる機会を貰えてる感じがしてきた。
ホントに美味しい蜜だけ吸わせてもらってるよ。
「もし…もしもの話だよ……お兄ちゃんなら何とかできる…?」
「それは漆原さんたち、第4班を残したまま、改善しろという注文か?」
頷くけど、難しいよね。
私が思いつくような方法は、たぶん理想の話でしかないと思うから。
漆原さんを説得してみるだとか、吉住さんの作業を手伝うとか、その外部の制作会社にお願いして人を増やしてもらうだとか。
「あっ、でもお兄ちゃんがノーダメな方法ね! それは絶対だから!」
「当然だな。もし僕が炎上でもすれば、ルビーと母さんにも影響する」
無茶しない理由としては安心できたけど、本当にSNSでそういうのありそうだもんね。炎上した人に対して、安全圏から攻撃する側は一瞬の遊びだと思っていても。
攻撃された側からすれば、ただの
「……どうしても無理なら大丈夫だからね。お兄ちゃんも忙しいし」
「まったく、俺がキミに頼まれたら断れないのを知ってるだろ? 社会的にマズいこと以外ね?」
ひゃあ、顔も心もイケメンすぎるよ。
さすが私の初恋の人だぁ。
「綺麗にまっすぐ輝いてる妹の頼みだ。それならそういう方法で考えてみるさ」
こんなの我慢できるわけないよ。心が恋愛感情であふれちゃうよ。
「お兄ちゃん愛してる! せんせ大好き! 結婚して!」
「それが社会的にマズいから勘弁して……」
いつもモラリストで、のらりくらりするんだから。
「むぅ、もう16歳なったよ?」
「常識で考えて、結婚可能年齢は18歳に変更されたからな?」
そっか。
ということは、私たちが同時に18歳になったら、ワンチャンあるんだ。
恋する乙女パワーでがんばったら、最速で来年にはプロポーズを受けてくれるかもしれないんだ。お兄ちゃんせんせは相変わらず照れ屋さんだね。
「それなら目標は、漆原さんの意識改革、それと第4班の増員だな」
「ん! なんか大変そうだけど! 私も手伝うから! いっぱい頼ってね!」
頼れるお兄ちゃんの手取り足取りするつもりだよ。
全肯定オタクは、推しに頼まれたらいつでもなんでもするし。
「……次の深掘りコーナーは『コスプレイヤーへの取材』だったか。例えば夏コミを題材にするだけで話題性はありそうだな」
早速いろいろ考えてくれてて、それこそお兄ちゃんがディレクターだったら安心できるのになぁ。
めっちゃ優しいし、頼れるし、五反田監督さんのとこで演出や編集まで学んでるんだもん。
「ドラマチックな展開も、まして過激な内容も必要なし……なら出演者を増やして
ワルぶる顔してる!
そんなところもカッコいい!
せっかく出会えた人たちのために、私もがんばってみせる。