転生したら坂柳有栖だった件   作:烏兎 満

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やっぱ面白く書こうとすると筆が乗る。


第二話 服選びと万引き少女

 

 

 入学式。

 それは新たな門出を祝う行事の一つ。

 

 まぁ、ただお偉いさんのお話を長々と聞くだけの退屈な時間ですが。

 

 一時間ほどで何事もなく終了した入学式。ホームルームはなく流れ解散となったため、私たちは当初の予定通り買い物をしにケヤキモールまで足を運んでいました。

 

「有栖ちゃん有栖ちゃん、好きな食べ物なにー?」

 

「甘い食べ物ならなんでも好きですよ」

 

「え、じゃあ今度さ、学校にパレットっていうカフェがあるらしいんだけど一緒に行こうよ!」

 

「いいですよ、私も少し気になっていたので。森下さんもご一緒にどうですか?」

 

 私はそう言って、アイスクリームに齧り付く森下さんを誘ってみます。

 

「ほう。甘い食べ物には少しばかり興味があります」

 

「では、女子会ということで3人でいきましょうか」

 

「え〜! 二人で行きたいんだけど!」

 

 その露骨に二人きりになろうとするのやめてくれませんかね……。

 来海さんと二人きりになると少々身の危険を感じるので、できれば森下さんを盾にして避けたいところですね。

 

「あら、鬼頭くんは一体どこに行ったんでしょうか?」

 

「あ、それならさっき洋服店に吸い込まれていったよ」

 

 来海さんの指さす方向には有名なロゴの洋服店がありました。

 というか、来海さん、私に執心しているようで、意外とよく周りが見えているようですね。

 

「では、私たちもそちらに向かいましょうか。私服なども調達しておかなければなりませんからね」

 

 私たちはそれぞれ好きなように洋服を見ることにしました。

 

 私は適当にブラブラと店内を歩いていると、二つのジャケットを見比べている鬼頭くんを発見しました。

 何か悩んでいるのか、眉間に皺を寄せてより凶悪な顔つきになっていて、通りかかった店員がビビっていますね。少し面白いです。

 

「どちらを買おうか、迷っているんですか?」

 

「………坂柳か」

 

 ジロリ、と目玉を動かしてこちらを一瞥した鬼頭くんは、私に二つのジャケットを見せてきます。

 

「どっちがいい?」

 

 なるほど、これは試されているのでしょうか? 

 彼の将来の夢はデザイナー。

 つまり、私のファッションセンスがどのくらいなのか、彼は私を試そうとしてる。

 ふふふ、いいでしょう。受けて立ちます。

 

 一つは落ち着いた紺色の布ジャケットで、丈も余裕がありますね。

 ワンポイントでロゴが胸あたりに付けられています。

 

 そして、もう一方は赤い革ジャケット。周りの目を引くような派手な色で、外国人が着ると様になる革ジャンですね。

 

 なるほどなるほど。

 私のファッションセンスがこっちだと叫んでいます!

 私は赤い革ジャケットを指さして、ドヤ顔で答えます。

 

「……この革ジャケットか」

 

「ええ、鬼頭くんが着るものと考えると、落ち着いたこの紺色のジャケットでは鬼頭くんの存在感に服が負けてしまいます。その反面、この赤い革ジャケットは鬼頭くんのイカつさをより強調することができ、相手を威嚇することが可能です!」

 

「それは褒めているのか?」

 

「もちろんです」

 

 鬼頭くんは紺色のジャケットを商品棚に戻すと、赤い革ジャケットを持ってレジへと向かって行きました。

 ふふ、私のファッションセンスは彼のお眼鏡にかなったようですね。

 

 さて、私は何を買いましょうか。

 ふと、店内に置いてある鏡に自分が映り込む。

 

 黒いベレー帽を被った儚げな銀髪美少女の姿がありのままに映し出される。

 

 私ならどんな服でも似合いますね。

 シミひとつない透き通るような肌、紫がかった瞳は宝石のアメジストを彷彿とさせる。そして、極め付けは輝くような銀色の髪。

 スタイルは全然良くありませんが、美貌は完璧です。

 

「お、姫さんいたいたー。ってなんで鏡の前でポージング決めてんだよ」

 

「あら、橋本くん。どうかしましたか」

 

「どうしたもこうしたも………まぁいいや。姫さんは何か買わなくていいのかい?」

 

「私はどんな服でも似合うので、何か一つに絞るとなるとなかなか決められないんですよね」

 

 前は両親が全て私服を選んでくれていたので、自分で選ぶことは初めてなのでどうすれば良いのかわからないんですよね。

 橋本くんはちょっと引いたように、ため息を吐く。

 

「とんでもない自信だなおい」

 

「自信? 事実の間違いじゃないんですか?」

 

「まぁ、確かに何着ても坂柳は似合いそうだけどよ………。ほら、流石にスタイルは誤魔化せないんじゃないか?」

 

「ぶっ飛ばしますよ」

 

「すみませんでした」

 

 確かに、私は低身長で胸もないですが、女性に対して外見を悪くいうような発言はモテないですよ橋本くん。

 

 そんなデリカシーのない橋本くんと漫才のようなやり取りをしていると、すでに洋服を購入した森下さんが姿を見せました。

 

「私はもう買い物終わらせたので、さっさと済ませてください」

 

「と言われてもですね。………あ、では、私の部屋着を選んでくれませんか?」

 

「部屋着ですか。………ああ、あれが似合うんじゃないですか?」

 

 森下さんが指差した方向には、猫をモチーフにしたパジャマが飾られていた。フードには猫耳もついていて、誰がどう見ても小学生用の部屋着である。

 

「森下さん、私今年で16になるんですが………」

 

「いえ、坂柳有栖には似合うと思います……ぷっ、くくく」

 

「馬鹿にしてますよね!!! 私の! 身長!」

 

 森下さんは堪えきれなくなったのかお腹を抑えて笑い始めた。

 くそっ! 間違えました。おくそっ!

 なんとか身長を伸ばして見返してやりたいところですが、原作知識を有している私はほとんど坂柳有栖の身長が伸びないことを知っている。

 

 希望は、ないのですか………。

 

「え、あのパジャマ超可愛いじゃん! 有栖ちゃんきてみてよー!」

 

 いつの間にか姿を現した来海さんは、目をキラキラさせて動物パジャマを押し付けてきます。

 

「い、いやです!」

 

 私は首を全力で振って、押し付けられたパジャマを全力で拒否する。

 

「じゃあ、わかりました。多数決で決めましょう」

 

「私の意思を尊重してくださいよ!」

 

 というか、多数決は私にとって不利なのでは?!

 

「じゃあ、きて欲しくない人ー?」

 

「はい! はいはい!」

 

「有栖ちゃん、両手あげてもカウントは1だよ?」

 

 な、なぜだ。なぜ私以外手をあげないんですか……!

 

「じゃあきて欲しい人ー?」

 

 来海さんがそう言った途端、橋本くん、鬼頭くん、森下さん、来海さんが手を挙げました。いや、全員じゃないですか!?

 

「私の、味方は……」

 

「ざんねーん! でしたね。では、これを購入しに行ってください。あなた以外もう買い物は済んでいますので」

 

「………はい」

 

 私はパチンコで十万円をとかしたかのような気分でレジに向かいました。

 ちなみに、5000円と意外と高かったのも心を削られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

 

 この高度育成高等学校に入学して、一週間が経過したある日。

 

 神室真澄は入学一週間にして早くもこの学校に退屈を感じていた。

 別に勉強ができないわけでもなく、友達がいないわけでもない。

 この閉ざされた学校に入学したからと言って、中学から変わったことなどほとんどなかった。

 

 何も、面白くない。

 

 放課後。

 神室は帰り道である寮と学校の通学路の途中に位置するコンビニに入った。

 店内に人が少ないことを確認して、2分ほどコンビニの中を商品を値踏みするかのように歩き回る。

 

 彼女はこのつまらない日常を、少しだけ面白くする方法を知っていた。

 

 万引きだ。

 

 彼女は数日前からすでにこのコンビニでの下調べは完璧だった。

 人の少ない時間、監視カメラの死角、盗むものの配置。

 

 今一度店員が近くにいないかを確認してから、お目当ての缶ビールを躊躇なくバックの中に入れる。

 ちなみに、お酒は飲まない。理由は単純で、美味しくないからだ。

 

 なぜ飲むわけでもないお酒を万引きするのか。

 お酒は未成年者は購入してはならない、という法律がある。

 それは、神室のスリルをより際立たせる一つのスパイスでもあった。

 

 しかし、そんな小さな犯罪を犯した程度で、心が満たされるのは一瞬だけ。いや、満たされたと錯覚しているだけかもしれない。

 

 我ながら変な考えが頭に思い浮かんだものだ、と首を振って雑念を振り払う。

 

 そして、いつも通り万引きしたあとは、何も買わずに店を出る。

 

「待ってください」

 

 コンビニから出て少し歩いた先で、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには小柄な少女が立っていた。

 しかし、ただの少女ではなく、その容姿は10人中10人は一目見れば振り返るだろう美貌の持ち主であった。

 

「なに?」

 

「そうツンケンしないでください。今日は少し、同じクラスメイトとしてお話がしたいと思って勇気をだして声をかけたんですから」

 

 そう言って優しく微笑む少女に、神室は自分の記憶の中を探る。

 言われてから気づいたが、確かに自分の記憶の中には彼女がいた気がしなくもない。名前は忘れてしまったが。

 

「ああ、もしかしなくとも、私の名前を忘れていますね?」

 

 心が読まれ、なんとも言えない不思議な感覚に襲われる。

 

「では、改めて。私は坂柳有栖といいます。あなたが神室真澄さんで間違いありませんか?」

 

「そうだけど、なんか用なの?」

 

「ええ、ついさっきあなたが万引きしたのを目撃しまして」

 

「は?」

 

 彼女は重要な内容を軽々しく笑顔で答えた。

 思わず神室は間抜けな声が漏れ出てしまう。

 

 普通は万引きがバレれば、慌てふためき自分はやっていないと否定するものだ。

 しかし神室は、バレたことに衝撃は受けたものの、だからどうした、と開き直っていた。

 この学校に未練などなく、通報するのなら勝手にすればいい。

 

 面白くない、私の人生なのだ。

 高校中退など、本当にどうでもいい。

 神室は先ほどまでの態度を崩さなかった。

 

「あっそ、それで?」

 

「ふふ、反省の色なし、ということでよろしいですか?」

 

 目の前にいる小柄な少女、坂柳は何が面白いのか楽しそうに、まるで新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりにそう語りかけてくる。

 

「学校に通報するならすれば?」

 

「なるほど。しかし、クラスメイトから万引き犯が出るとなると、少々こちらも困ってしまいます」

 

「あんたが通報しないなら、私がする」

 

 ポケットから携帯を取り出す。

 しかし、その手を止めたのは坂柳だった。

 

「まぁ、そう慌てず。先ほども言いましたが、あなたが万引きをしたことがバレるとこちらに不都合が生まれます」

 

「不都合? なにそれ」

 

「それに、いいのですか? 万引きがバレればよくて停学、普通は退学ものです。これから先、就職などに響くんじゃないですか?」

 

 ニコニコと笑顔を崩さずに、こちらの痛いところをついてこようとする。

 何がしたいのだろうか。

 全く見当がつかないが、一つわかったことはこいつに万引きがバレてしまったのは不幸だということだけだ。

 

 しかし、どんなに痛いところをついてこようと、神室には関係がなかった。

 万引きをして前科などがついてもつかなくても、結局は変わらない日々を過ごすことになる。

 そう思えば、なんだってどうでもいい。

 

「あなたの顔には、どうだっていいと投げやりな気持ちが強く浮き出ていますね。しかし、それは自暴自棄で目の前が見えなくなっているわけではなく、これからの未来への諦観ですね」

 

 何もかもを見透かしたかのような坂柳の瞳が神室を貫いた。

 

「神室さん、私とお友達になりましょう」

 

「嫌、って言ったら?」

 

「私はここで蹲り、泣き喚きます」

 

「え? あ、え?」

 

 いきなり何を言い出すんだこいつは。

 

「というのは冗談です」

 

 調子が狂う。これも彼女の思惑のうちなのだろうか。

 

「私はあなたという人間をよく知っています。堂々と万引きしてましたよね。あなたの中では万引きすることが日常化しているんです。お金がないわけでもなく、物欲があるわけでもない。ただ、満たされない心をスリルを味わうことで誤魔化しているだけ。そして、誤魔化しているだけなので、一滴も満たされてなどいない」

 

 わかったかのように語る坂柳に、神室は少なくない苛立ちを感じていた。

 図星だったからだ。

 何もかも、本当に彼女に見透かされていた。

 彼女の言葉は自分への嘘も誤魔化しも、何一つ許さなかった。

 

「もし、あなたがこの学校から去るというなら、きっとあなたは一生満たされることはないでしょう。しかし、私と共にするのなら、後悔はさせません」

 

 彼女は一呼吸置いてから、神室に手を差し伸べる。

 

「私と、お友達になってくれませんか?」

 

「………ああもうわかったから! 友達になればいいんでしょ、全く」

 

「え、本当にいいんですか?」

 

「あんたが言ったんでしょ。ていうか、私を後悔させたらあんた諸共退学してやるから」

 

「ふふふ、その時は受けて立ちますよ。まぁ、来ないでしょうけど」

 

 その自信はどこから溢れてくるんだ、と突っ込みたい気持ちを抑える。

 

「やった! では真澄さん。あなたは今日から私の足です。馬車馬のように働いてもらいますので覚悟してくださいね」

 

「それ友達って言わなくない?」

 

 今すぐ撤回したくなったが、彼女から逃げられる気がしない。

 

「じゃあ、これからよろしくお願いしますね。あ、友達なので私のことは有栖と呼んでください」

 

「………よろしく、有栖」

 

 神室真澄の忙しく、騒がしい日々が幕を開ける。

 そして、少なくとも神室真澄は、もう万引きをする必要は無くなった。

 

 

 

 

 




前半と後半で温度差が……、読者が風邪ひいちゃう!
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