転生したら坂柳有栖だった件   作:烏兎 満

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第三話 プール

 

 

 入学して一週間と少し。

 月日が経つのは早いもので、すでに私たちAクラスはこの学校の授業にも慣れてきました。

 慣れてきたとは言いましたが、流石はAクラス。

 原作のDクラスとは違い、真面目に授業を受けています。

 今のところ、原作のSシステムの罠にはかかっていません。

 入学して一ヶ月間は抜き打ち特別試験みたいなものです。この調子でいけば、クラスポイント950くらいは残るのではないでしょうか。

 

 なら、別に少しくらい授業サボっても大丈夫ですよね?

 私、これからサボった分以上に働いてクラスポイントを獲得するので、少しくらい、体育くらい、仮病で休んでもバチは当たらないはずです。

 

「ねぇ、有栖。いつまで教室に残るつもり?」

 

 真澄さんは机に張り付いて離れない私を見て、呆れたようにため息を吐く。

 

「私は、正直いうと、泳げないんです。カナヅチなんですよ」

 

「まぁ、あんたが泳いでいる姿想像できないからなんとなくわかるけど」

 

 そう、今日はこの高校初めてのプールの日。

 この高育ではプールが室内にあり、国主導の名に恥じない素晴らしい設備が施されています。

 しかし、私はそんな設備があろうと泳げないものは泳げない。

 犬掻きしかできません。惨めな私の姿をAクラスのみんなに見せるわけにはいかないのです。

 

 そう決意した私は、仮病を使うことに決めました。

 

「あ、いたた、急に腹痛が」

 

 お腹を押さえ込んで座り込む私。

 ふふ、演技だって得意なんですよ。原作では演技をして山内くんのハートを射抜いていましたからね。まぁ、女子なら誰でもできそうですけど。

 

 真澄さんは胡散臭そうにこちらを見下してくる。

 

「へぇ、お腹痛いんだ。じゃあ保健室行かないとね」

 

「そ、そうですね。では、真澄さんは先に更衣室に向かっていてください。後から私も向かいますので」

 

「仮病だよね、それ。さっきまで森下と腕相撲で盛り上がってたじゃない」

 

「いや、本当に頭痛がひどいんですよ。先ほどまでは大丈夫だったんですが………」

 

「腹痛って言ってなかったっけ?」

 

「……………」

 

 流石に真澄さんの目は誤魔化せなかったらしい。

 

「ほら、もう観念していくわよ」

 

「はい………」

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

 更衣室に入ると、すでに他の女子たちは着替えを終えていて私と真澄さんだけだった。

 

 とてつもなく憂鬱な気分ですが、真澄さんが私を監視しているため逃げ出すことなどできません。

 私は仕方なくスクール水着に着替えている時、ふと着替え途中の真澄さんの姿が映る。

 

 で、でかい………!

 何カップあるんですかあれ!?

 え、着痩せするタイプなんですか?

 いや、確かに制服着ててもおっきいなぁ、なんて思ってましたけど想像以上なんですけど!!

 

 エベレストもびっくりな双丘をお持ちの真澄さんは私の視線に気づいたのか、不思議そうに首を傾げる。

 

「なに、有栖」

 

「い、いえ、別に………。その、いつからそんな立派な富士山をお持ちで………?」

 

「え? あー、バストのこと? 中学らへんよ。何その目」

 

「…………いえ、なんでもありません」

 

 私は、ふと自分の胸を見る。

 

 ない。

 

 もう、これ以上考えるのはよしましょう。

 あれ、なんで、視界が滲んで………。

 

「ちょっと何してんの? ただでさえ少し授業に遅れてるのに、早く行くよ」

 

「はい…………」

 

 真澄さんが言ったように、私が駄々を捏ねていたせいで授業の開始時刻はとっくに過ぎていました。

 

「遅いぞ、そこの二人。まぁ、見学はいないようだから多めに見てやる」

 

 遅れて登場した私たちに男子の視線が突き刺さる。

 しかし、確かに私も見られましたが、真澄さんへの視線がすごいです。特に胸。

 

 私は今一度、自分の質素な胸をみる。

 男子の視線が羨ましいとは思いませんが、なんか女子として負けたようで、ない胸の底から悔しさが湧いてきますね……!

 

 人知れずため息を吐いたとき、橋本くんがこちらに近づいてきました。

 

「よぉ、姫さん。スクール水着もキュートで似合ってるじゃん」

 

「橋本くん、それ軽くセクハラですよ」

 

「まぁまぁ、そんな怒んなって。真澄ちゃんも男子からの視線大変だな。男は生理現象だから、許してやってくれ」

 

「なんであんたが男子の代弁してんのよ。というか、下の名前で呼ぶのやめてくれない?」

 

 真澄さんはヘラヘラと笑う橋本くんが生理的に嫌いなようで、ゴミを見るような目を橋本くんに向けます。

 私は別に橋本くん嫌いじゃないんですけどね。

 ツッコミ役としてはキレがあって面白いですし。

 

「そうですよ、橋本正義。その軽薄な態度、万死に値します」

 

「それ俺殺されちゃうの?」

 

「鬼頭くん、彼が次にセクハラ発言をした場合、許可します」

 

「え、なにを、何を許可するんだ」

 

「わかった」

 

「わかるな!」

 

 ふふ、賑やかで楽しいですね。

 

「おいそこ、これから説明するから静かにしろー」

 

 おっと、騒ぎすぎて叱られてしまいましたね。

 

「よし、早速だが、準備体操が終わり次第、男女別50M自由形の競争を行ってもらう。男女別で一番タイムの早かったものには、俺から5000ポイントを支給してやろう。逆に一番遅かったものは、補習が待っているから覚悟しておけ」

 

 体育教師の理不尽な言葉に、水泳のできるものは歓喜の声を、できないものからは悲鳴の声が上がっています。ちなみに、私は悲鳴をあげる側です。

 

 くっ、補習など受けたくありません! 補習ということは、できるまで泳がされるということです。そんなことすれば毎日補習で、毎日筋肉痛です。というか、溺れて死ぬ危険性さえあります。実際、中学の頃死にかけましたし。

 どうすれば、乗り切れるでしょうか。

 

 無理ですね、学校なんて来なければよかったです。今日だけ休んでおけば…………。

 

「どしたの、有栖ちゃん。なんか死んだ魚の目をしてるけど」

 

「来海さん、今までありがとうございました。来世は魚に生まれ変わるので、なんとか泳げるようにはなると思います」

 

「あ、有栖ちゃんが壊れた!? あ、もしかして、泳げない?」

 

「全く泳げません」

 

「確かに運動苦手そうだしねぇ。クロールとかは?」

 

「犬掻きなら、なんとか」

 

「それ泳いでるって言わないよ」

 

 ですよね………。

 

「よし、そろそろ始めるぞ。女子から適当に5人ずつ並んでくれ」

 

 いよいよ、来てしまいましたね。

 クラスのみんなから笑い物にされるのはとても屈辱的ですが、なによりも命を大事にしなければなりません。

 

「真澄さん、もし私が死にそうだったら迷わず助けてくださいね」

 

「大袈裟すぎでしょ。そう簡単に人は死なないから、安心して行きなさい」

 

 安心して逝きなさいって意味で、ご冥福をお祈りするってことですか?

 だとしたら、笑えないんですけど。

 

「………なんか、有栖があんな真顔になってるの見たことないんだけど」

 

「ですね。というか、神室真澄。あなたいつから坂柳有栖との関係が?」

 

「つい先日だけど。なに?」

 

「入学して一週間。全く話しているところを見たことがなかったので、少し不思議に思っただけです」

 

「………たまたま帰り道が同じだったから仲良くなった。それだけ」

 

「ふーん」

 

 なんか二人が話し合っていますが、今の私にはどうでもいい。

 私は嫌なことは先に終わらせてしまいたいタイプなので、1レース目から参加しようと思います。

 せめて、25メートルだけでも、泳ぎ切って見せます。

 

「じゃ、よーい」

 

 ピー! っという甲高い笛の音が鳴り響き、私は勢いよくプールに飛び込む。

 まぁ、飛び込むって言ってもそんなたいそうなものじゃありません。

 こう、ぴょんって感じで飛んだら足で水面に着地しました。

 

 そこからの記憶は曖昧です。

 クロールも平泳ぎもできるはずもなく、私は唯一行使可能な犬掻きを全力でやりました。間抜けすぎます。

 

 が、全力でやったところで犬掻きにも体力にも限界が来ました。結果は25メートルほどで撃沈。溺れかけたところを真澄さんに助けてもらわなければ、私は死んでいたでしょう。二度目の死がプールの授業での溺死なんて笑えません。

 

 そして、私は保健室にて目を覚まし、ことの顛末を真澄さんから聞き補習が確定したことを伝えられました。

 まぁ、わかっていたことです。この際ですから水泳のプロからなんとかクロールくらいは泳げるように指導してもらいましょう。

 

 こうして私の補習が確定し、Aクラスで少しの間犬掻きの坂柳、と馬鹿にされる日々を過ごすのでした、ちゃんちゃん泣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

 

 プールの日から翌日の放課後。

 私は補習の授業を受けるために、更衣室へと向かいました。

 

 そして更衣室にて、偶然にもある生徒に出会いました。

 薄い水色の髪をセミロングくらいまで伸ばしていて、私に負けず劣らずの整った容姿をしている。

 

 って、椎名ひよりじゃないですか!

 

 椎名さんは更衣室に入ってきた私を見つけて、ほっとしたような表情を浮かべ、話しかけてきました。

 

「あ、よかった。もうすぐ補習の時間なのに、私しか来ていなくて不安だったんですよ。あ、申し遅れました、私はCクラスの椎名ひよりです」

 

「Aクラスの坂柳有栖といいます。お互い、補習頑張りましょうね」

 

「ところで、坂柳さんはどのくらい泳げたりするんですか?」

 

「お恥ずかしながら、犬掻きしかできないんですよ」

 

「え、私もです!! 私も犬掻きしかできないんですよ!」

 

 な、なんと!?

 椎名さんも私と同じくらい泳げないとは!?

 確かに文学少女って感じで運動できなそう、だとは思っていましたが、まさか私と同じ犬掻きだけしかできないとは………!

 ちなみに、おそらく誰かツッコミ役が一人でもいれば、犬掻きは水泳ではない、と突っ込んでくれるでしょうが、この場にそんなツッコミ役はいません。

 

 このできないことが共通しているという点で、私たちは意気投合。

 二人で一緒にこの地獄を乗り切ろう、と強く誓い合いました。

 

「よーし、補習組集まったな。じゃあ、まずはバタ足の練習からだ。そこのビート板を一人一つ持ってくれ」

 

 熱血体育教師がやってくると、私たち水泳ダメダメ組は、言われた通り一人ずつビート板を手にしていく。

 

 というか、このビート板ってなんですか。中学でも見たことないんですけど。

 私はこの発泡スチロールのような奇妙な板を観察する。先生はそんな私を置いてけぼりにして、その板の説明もなしに話を進める。

 

「ビート板を使って25M泳いでくれ。バタ足がうまくできていなかったら一人ずつ教えていくからな」

 

 私はとりあえずビート板をプールの中に放り込む。

 すると、なんということでしょう。このビート板水の上に浮いたんです! それも私が体重をかけても全く沈みません! こ、これがあれば、私は泳ぐことができます!

 

「椎名さん、このビート板というものはとても頼もしいですね。初めて見ました」

 

「わ、私もです。こんな便利なアイテムがあるなら、水泳の授業はいらないのでは?」

 

「その通りですね! とりあえず、これを使って泳いでみましょうか」

 

 私はビート板(相棒)にしがみついて、先生に言われた通りバタ足で泳いで行く。

 

 おお、ビート板があると、安定感が凄まじいですね。

 

「おい、椎名と坂柳。バタ足は膝を曲げないでするものだ。足をピンと伸ばしてやってみろ」

 

 体育教師が私たちの泳ぎ方を指導してくれます。

 むむ、膝を曲げないってどうすればいいんでしょうか。バタ足なんて今まで意識してこなかったので、全然わかりませんね。

 

「お、椎名、いい感じだ。そうそうそう、やればできるじゃないか!」

 

 どうやら椎名さんは、バタ足がうまくできているようです。熱血教師がめちゃくちゃ褒めてますね。いつか、「君ならできる!!!」とか言い出しそうですよ。

 

「坂柳は………、足を固定するイメージでやってみろ」

 

 くぅ、なんでうまくできないんでしょうか。

 

「椎名さん、どうやったらうまくバタ足ができるんでしょうか……?」

 

 休憩時間。私はバタ足を習得してクロールの手の動きの練習を始めた椎名さんに、バタ足のコツを教えてもらうことにしました。

 

「先生も言ってましたが、膝を固めるイメージでやると早く進みましたよ」

 

「なるほど」

 

「おい、坂柳。今日はバタ足できるまで帰らせないからな。流石にバタ足ぐらい、小学生でもできるぞ」

 

 ぐっ! 先生の容赦のない言葉に、私の心はひどく傷つきました。

 小学生以下って、どんだけ運動音痴なんですか。これ、原作の坂柳に先天性疾患がなかったら、あんな強者感を、出せなかったのでは?

 今の私、補習組の中で唯一基礎の基礎であるバタ足ができないんですから、惨めにも程があります。

 

 休憩は終わり、私はまた相棒と共にプールの中に挑みました。

 

 15分後。

 

「よーし、坂柳と椎名以外はもう帰っていいぞー」

 

 私はなんとかバタ足合格をもらい、クロールの練習をしていましたが、これがなかなかうまく行きません。なんか、片腕あげると体が沈んじゃうんですよね。相棒が恋しいです。

 

 椎名さんもこれに苦戦して、居残り確定になったのですが………。

 

「よし、椎名もなかなか良くなってきたな。坂柳は………ちょっと難しそうだな」

 

 おい、そこは熱くてもいいから「君ならできる!!!」と励ましてくれ。

 

「椎名も帰っていいぞ」

 

 え、椎名さん?

 嘘でしょう? 私たち、一緒にこの地獄を乗り切るって約束したじゃないですか。

 

「椎名さん、待ってください、私を置いていかないでください……!」

 

 すでにプールから出ようとしている椎名さんに、私は捨てられた子犬のような視線を向ける。

 

「坂柳さん…………」

 

 椎名さんの瞳には残るべきか、残らないべきか迷っているような表情を浮かべたあと、覚悟を決めたかのようにこちらを見る。

 

「椎名さん………」

 

 私たちは地獄を共に乗り切ると誓い合った仲。出会ってからまだ一時間くらいしか経っていませんが、きっと彼女は私ができるまで、見守ってくれるはず────

 

「坂柳さん、あとは頑張ってください」

 

「え、ちょ」

 

 っと待って、と言おうとした時には、椎名さんはプールサイドを全力で駆け抜けて行きました。

 

 一人残された私は先生からマンツーマンでクロールを教えられて、一時間後、無事、解放されました。先生からは、「ちょっと不格好だが、まぁいい」と渋々了承をもらいました。

 

 最後に一言だけ言わせてもらいます。

 

 プールなんて、大嫌いだあああああいぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





原作の坂柳に先天性疾患がなかったら、多分こんな感じで水泳とか絶対苦戦してそう。
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