転生したら坂柳有栖だった件   作:烏兎 満

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おひさ

あと、誰かかっこいいサブタイトル考えて



第四話 疑心と欺瞞

 

 

 4月30日。

 月日が経つのは早いもので、入学してから一ヶ月ほどが経ち、Sシステムのネタバラシまであと一日となりました。

 いよいよ、本格的なクラス闘争が始まります。

 

 さて、そんな私たちのグループ(私、来海さん、森下さん、真澄さん、橋本くん、鬼頭くん)は、今、ボーリングをしています。

 

「よっしゃ! これで俺が一位だな」

 

 橋本くんが投げたボーリング玉は、のっぺりとした弧を描くように曲がると、規則正しく並べられた10本のピン全てを倒した。ストライクです。

 

 私は素直に拍手で彼のプレーを賞賛しました。

 ちなみに、拍手したのは私だけです。

 

「おいおい、盛り上がりが足りねーぞ」

 

「橋本正義、次は私の番です。早く退いてください」

 

「辛辣!? もしかして俺って結構嫌われてる?」

 

 森下さんの辛辣な言葉に、橋本くんは自分のことを指差して私たちに聞いてくる。

 

「うーん、好きか嫌いかでいうと、嫌いかなー」

 

「嫌い」

 

「私は結構好きですよ。橋本くんのようなムードメーカーがいてくれると、一緒にいるだけで楽しいですし、面白いです」

 

「そういってくれるのは姫さんだけだ〜!」

 

 私の言葉が相当嬉しかったのか、抱きついてこようとする橋本くん。

 しかし、それを妨げたのは成り行きを見守っていた鬼頭くんでした。

 

「お、おい、鬼頭! 離せ! 俺は姫さんに………ちょ、腕痛い、ごめん、冗談だって」

 

「坂柳、許可をくれ」

 

「手加減はしてあげてくださいね」

 

 ぐぎゃあああ、と鬼頭くんに絞技をかけられて悲鳴をあげる橋本くん。可哀想ですね。

 そんなやりとりをしている間にも、森下さんはガーターで0点を記録。今の森下さんの点数は8回目にして21点です。なかなか手強いですね。

 

「次、坂柳有栖の番ですよ」

 

 なぜかガーターでゼロ点を記録したにもかかわらず、森下さんは満足したかのような顔で私にそう伝えてきます。

 

 よし、私の現在の点数は11点。

 なんとかして最下位を脱しなければなりません。最下位は全員に一本ジュースを奢る賭けをしていますからね。負けるわけにはいけません。

 

 私はボーリング玉を両手で持ち上げる。これ、めっちゃ重いんですよね。初めてボーリングをやりましたが、片手で持つと、指が取れそうで怖いんですよね。あと、持ち上がらないし。

 

「えいっ」

 

 私は両手でボーリング玉をレーンの軌道に乗せ、ボールがノロノロと転がっていき────

 

「坂柳有栖、あなたはどれだけガーターにボールを転がせば気が済むんですか」

 

「坂柳、何回やるんだそれ」

 

「掛け声の可愛さだけは100点だったよ!」

 

「シンプルに下手」

 

「……………」

 

 ひどい言われようです………。

 初めてやったので、仕方ないじゃないですか!?

 

「そろそろ子供用のガーター保護するやつつけたほうがいいんじゃない?」

 

 真澄さんが呆れたようにそう提案してくる。

 

「か、勘弁してください。流石に子供用の使うのは精神的に恥ずかしいですし、公平な勝負にはなりません! ほら、次真澄さんの番ですよ!」

 

「あーあ、有栖ちゃんムキになっちゃった」

 

「それより来海、あんた今日部活なのに休んできていいの?」

 

「えー、部活とかめんどいじゃん? それに私だけ仲間外れとか嫌だし」

 

 来海さん、結構適当ですね…………。

 しかし、部活を頑張れば成績に応じてプライベートポイントやクラスポイントをもらえるらしいですが、今はまだ説明されていないのでわからなくてもしょうがないですね。

 

 真澄さんは華麗にストライクを取ると、涼しげな顔でこちらに戻ってきます。正直、運動神経がいいの羨ましいですね………。

 

「次は、鬼頭の番だぞ」

 

「お、鬼頭くんはうまそうだね」

 

「鬼頭隼、その実力見せてもらいましょうか」

 

「ふふふ、楽しいですね、真澄さん」

 

「………ほんとバカみたい。私はやらされているだけ」

 

 私がそう真澄さんに笑いかけると、真澄さんは嫌そうに顔を歪める。けれど、その表情の裏では、確実にこの状況を楽しんでいるのが見て取れる。ふふ、私の目をごまかせるとお思いですか? 残念! 真澄さんは本当にツンデレなんですから。

 

「あんたのその顔、凄いむかつくんだけど」

 

「ふふ、そうですね。真澄さんは私に命令されて楽しんでいるフリをしているだけですもんね」

 

「むかつく」

 

「あいたっ! ちょ、暴力反対です!」

 

 真澄さんは軽く私にチョップを入れてからそっぽを向いてしまう。あらら、少しいじり過ぎましたね。

 

 こんな感じで私たちは4月最後の日を充実させました。

 しかし、明日からはそうはいかない。明日から、いえ、今日から本格的に動きましょうか。やることは山ほどあります。ふふ、これからどうなるのか、とても楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーリングは無事? 坂柳が最下位という結果で終わり、ケヤキモールからみんなで一緒に帰ろうという話になった時、坂柳が俺に話しかけてきた。

 

「橋本くん、少しこの後時間ありますか?」

 

「ん? いきなりどうしたんだよ? あ、ひょっとして俺とデートがした「いえ、違います」……そんな食い気味に言わなくても」

 

 坂柳が俺に気がある、なんて微塵も思ってねぇ。

 それにこいつは普段はバカっぽくて面白いが、それだけの女ではない、と思う。俺の勘だけどな。

 

「えー、有栖ちゃんこんな男がタイプなの? ほんとにマジでこいつのどこがいいの?」

 

「坂柳有栖、考え直した方がよいのでは?」

 

「お前ら、俺に対して当たり強くない? ひどくない?」

 

「二人とも、すぐに恋愛に結びつけるのはやめてください。私も微塵も彼に恋愛的な興味はございませんので、ご安心を」

 

「姫さん、それはそれで傷つく」

 

 傷ついた俺の心は置いておいて、とりあえず、坂柳が何の話かは知らないが俺と話したいらしい。

 

「どうです? 時間は大丈夫ですか?」

 

 再びそう聞いてきた坂柳は、今までのバカっぽさは嘘のように消え失せ、誰もが見惚れてしまうような妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「ま、いいぜ。で、どこで話すんだ」

 

「そうですね。カフェがいいですかね」

 

「私もいく」

 

 普段は仏頂面で可愛げのない神室がそう発言する。

 

「申し訳ございませんが、今回ばかりは私と彼だけで話したいので。今日はここで解散、という形でお願いします」

 

 神室は少しだけ面食らったかのように、顔を歪ませるがそれは一瞬だかであった。

 すると、他のみんなが寮に向かい始めたところで、俺のところに神室が近づいてくる。

 そして、すれ違いざま俺にだけ聞こえる声で小さくささやいた。

 

「あんた、有栖に何かしたらわかってるでしょうね?」

 

「何もしねぇって」

 

「そう」

 

 それだけ言い残すと、神室も寮へと帰宅して行った。

 ったく、普通じゃねぇな。心酔しきってるとは言えないが、過保護すぎるのか、なんというか。まぁ、俺にとっちゃどうでもいいな。

 

「では、行きましょうか」

 

「へいへい」

 

 

 

 

 

 

 午後六時ということもあり、カフェにいる生徒たちの姿は少なかった。

 俺と坂柳はお互いにドリンクを頼んでから向かい合うようにして席に着く。

 席についてから坂柳はメニュー表に目をやりながら、俺に話しかけてきた。

 

「高校生活が始まってからもうすぐ一ヶ月。どうですか、この生活には慣れましたか?」

 

 この女は、そんなことを聞くために呼んだのか。

 いや、そんなわけはない。

 こいつが何を話したいのか全く見えてこないのが少し不気味だ。

 俺はそんな世間話を始めた坂柳に合わせるように質問に返答する。

 

「慣れたは慣れたんだが、寮生活ってのは案外大変だな。親にどれだけ依存してたかがよくわかる一ヶ月だったぜ」

 

 その回答の何が面白かったのか、坂柳は小さく笑う。

 

「ふふ、確かにそうですね。しかし、親の手を放れて生活するのは将来の自立を促す素晴らしい取り組みだと思います」

 

 外部との接触を一切禁じるってのはやりすぎだと思うけどな。まぁ、俺にとっては、あそこから離れられるっていうのは魅力的な話だ。それに加えて、希望の進学、就職先に100%応えるっていうんだから行かない理由はない。俺は、あいつらを見返さなければならない。

 

「橋本くんはどうしてこの高校を志望したんですか?」

 

 まるでこちらの思考を読んでいるかのような質問に思わず、いつもつけているポーカーフェイスが剥がれ、眉間に皺が寄ってしまう。

 

「あら、申し訳ございません。少々踏み込み過ぎましたね」

 

 特に悪びれもせずに謝る坂柳に少しイラつく。

 こいつは俺の過去を知っている? いや、そんなわけはない。

 でも、確かに俺の核心に触れてきた。

 こちらの心を逆撫でするような、言葉に態度。

 

 今までとは別人のように切り替わる坂柳に対して、恐怖を覚える。

 今までが演技だったのか。こちらが本性なのか。そう思わせるほどに、目の前の存在が未知なるものに変貌していく。

 

 くそ、なにビビってんだ俺。相手はただの女の子だ。

 震える心を抑えて、俺はいつもの態度を取り繕う。

 

「いやいや、そんなことはないって。志望理由? そりゃ、進学就職100%ってとこだろ? みんなそうなんじゃねぇの?」

 

「ふふ、やはりそうですか。では、少し残酷なことを申し上げましょう」

 

 坂柳は注文した紅茶を一口飲んでから、口を開く。

 

「その恩恵を受けられるのは、おそらくAクラスのみです」

 

「は」

 

 Aクラスだけがその恩恵を受けられる?

 その恩恵ってのはつまり、進学就職先に100%応えるってところだよな? なんでそんなことがわかる? こいつは何を知っている? ただの戯言? いや、そんなはずはない。目の前の相手は、そんな嘘はつかない。

 頭の中では疑問ばかりが膨らみ、混乱に陥るが、目の前の相手の言葉をそう簡単に信じることはできない。

 一呼吸おいてから、俺はまず最初の疑問を投げかけた。

 

「もし坂柳の話が本当だったとして、俺たちは坂柳の言ったAクラスだぜ? なんの問題もないと思うんだが」

 

「確かに、私たちはAクラス。このままいけば、特に問題はありません。しかし、私は何かの影響によってクラス変動が起こりうると考えています。そして、恩恵を受けられるのは卒業時にAクラスに在籍している生徒のみ」

 

 確かに、入学しただけで将来が約束されるなんてそんな甘い話はない。

 俺は頭の中でそれを否定する材料を探し出す。

 

「明確な根拠はありません。しかし、上級生のある人物に会う予定があったので、ついでにこのことについて確認をとりました。少なくとも、その人物が嘘をつくとは思いません。橋本くんは私の話を信じられませんか?」

 

 坂柳の言葉に明確な根拠などなかった。

 しかし、俺は少しずつ隠れていたこの学校の制度が見え始めていた。だが、そんな簡単に信じられるわけがない。認められない。

 

「お、おいおい、冗談きついぜ姫さん。少し思い込みが激しいんじゃないか?」

 

「ふふ、そう思われても仕方ありません。しかし、あなたはこの学校の恩恵を必ず受けたいと思っているから、この話を簡単には受け入れられない」

 

 その坂柳の核心をついた言葉に、俺はようやくこの話を受け入れる。

 それと同時に乾いた笑いが込み上げてきた。

 

「はは、マジかよ」

 

「私はマジだと思いますよ」

 

「ちなみにその信用できる上級生ってのは誰なんだ?」

 

「堀北生徒会長です」

 

「あー、そういえば前に会う予定があるって言ってたな。でも、そんな人物がこの学校の秘密をあんたに簡単に教えるものか?」

 

「誰にも言わない、という口約束をしましたから」

 

「規律に厳しそうなのに、案外その生徒会長様も口が軽いんだな。いいのか? 俺にそれ話して」

 

「まぁ、明日には学年全体に知れ渡るそうなので、問題はありません」

 

 なるほど、坂柳が入学初日に言っていたことが本当なら様々なことに合点がいく。クラス制度、Aクラスの特権、監視カメラ、ポイント制度。

 末恐ろしい女だ。

 こいつを信じられるわけがない。

 

「そこで提案なんですが、私の駒として働きませんか? あなたが協力してくれるのであれば、私がこのクラスをAクラスのまま卒業させることを誓いましょう」

 

 それが本題だな。

 この女は入学初日でSシステムを看破し、現生徒会長と接点もある。学力も学年一と聞くし、俺を駒にしようとする行動力もある。それに、このカリスマ。普段はバカっぽいのに、このギャップによってこちらの調子が狂ってしまう。

 坂柳有栖の元で働けば、こいつを信じれば、俺は必ずAクラスで卒業できる──────否。

 

 100%じゃない。

 他クラスにはもしかしたら、こいつのような頭の切れるやつがゴロゴロいるかもしれない。こいつに着いていくのが本当に正解なのか?

 俺は頭をフル回転させる。

 

「私のことが信用できませんか?」

 

 こっちはいろんな情報で頭がパンクしそうで余裕など微塵もないのに、坂柳は優雅に紅茶を口に含んでいる。

 

 やっぱり、俺は変わらないな。

 俺は誰も信じない。

 坂柳も神室も森下も鬼頭も来海も。

 

「いーや、信用できるさ。これからよろしく頼むぜ、姫さん」

 

 まずは、他クラスに移動できるかどうかを確かめないとな。

 口から出てくる薄っぺらい紙よりも軽い言葉で、俺は坂柳にそう答えていた。

 

 彼女は俺のその言葉の真意に気付いたのか、気づいてないのか。

 少し悲しそうに目を伏せた。

 その目を見た途端、俺の心が縄に縛られたかのように締め付けられた。

 

 彼女から、俺はどんなふうに見えているのか。

 なぜか、俺の全てを見抜かれたような気がした。

 そして、その上で慈しむかのようにこちらを見つめるその瞳に、俺は。

 

 彼女は、俺のありのままの姿を受け入れてくれるのだろうか。

 

 いや、裏切るに決まってる。

 俺は変わらない。変われない。

 

「そうですか。では、よろしくお願いしますね」

 

「………ああ、よろしくな」

 

 坂柳は、優しく微笑んだ。

 この時からずっと、俺はこの儚く聖母のような微笑みを一生忘れられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ちょっとリアルが忙しいので次の投稿は遅くなります。

私は結構橋本好きなんでスポットライト当てていきたい。
あと、オリキャラも深掘りしたいなぁ。せっかく作ったしね。

それにしても、いやぁ、最新刊、乾いた笑みしか出てこないよ……。

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