拙者、影を帯びた男をヒロインが追いかける展開大好き侍。義によって助太刀致す。   作:黒歴史マン@目指せ蘭学者

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オラッ!見切り発車!


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人生で最も重要なモノとはなんだろう。

 

友情や愛情といった人との関わり?

没頭できる趣味?

 

確かにそれらは重要だと思う。だが、もっと根本的な部分で、何をするにしても、ただ生活するためだけにも必須と言えるモノがある。

 

 金だ。

 

 人と遊ぶ、書籍を買う、学校に通う、食べる、住む──あらゆることをする為に金が必要だ。金はあやゆるモノやサービスの代替手段である。

 金さえあればなんだってできる。

 金が無ければ何も出来ない。

 

なんでこんな話をしているかって?

 

「桐間、3卓のローズマリーとスコーンOKな!あー、先に8卓のカモミールとパンケーキ頼む。生クリーム溶けそう!」

 

 俺に金さえあれば、クソ忙しい時間帯の喫茶店でバイトなんていう愚行をする必要が無いからだ。

 

 奇っ怪な音と共にレシートプリンタが作動し、細長い紙を吐き出す。新たな注文が入ったのだ。目算で2cm程。無機質な文字でパンケーキとだけ書かれていた。死んだ目で見つめていると、出来上がったフードを受け取りに来た同僚に肩を叩かれた。振り向く間もなく、頑張ってと鈴の様な囁きが聞こえた。返答に迷い、ん、とだけ返す。同僚──桐間紗路は、完成した注文をひったくると、小走りで配膳しに行った。転ばないようにな。少しだけ活力が湧いた気もしたが、やはりまた成長してゆくソレに辟易しながら、床まで伸びてしまったレジロールを睨めつけた。

 

 

 

 

「あ"~~。やっと終わった。死ぬ。パンケーキ焼きすぎ。パフェ盛りすぎ。生クリーム絞りすぎ。仕込みダルすぎ。既製品にするだろ普通」

 

 風を感じながら鈍い半月を見上げると、思い出したみたいに疲労の足枷が絡み付いてくる。帰って勉強しないと。あと飯……は食わないでいいか。あーでも明日の食べ物無いから買わねーと。深く、深く息を吐く。

 

「ま、どうでもいいか」

 

 今は考え事なんてしたくない。特に自分のことは。安物の鞄から安物のヘッドホンを取り出して、耳を塞いだ。音楽を聴きながら、ふらふらと薄暗い道を歩く。俺はヘッドホンが好きだ。自分だけの世界が作れるから。どうでもいい世界に、どうでもいい自分だけが存在していて、そこそこ気に入った曲に集中できる。そして、どうでもいい世界と自分に似つかわしくない闖入者が現れた。

 

悠里(ゆうり)、お疲れ様」

「桐間か。お疲れ、今日特にヤバかったな」

 

 ヘッドホンを首に掛けながら言うと、溜息混じりに「全くよ」と返ってきた。隣への視線を切って前を向く。桐間とはたまたま同じ学校に通っていて、たまたま同じバイト先なのだ。そしてたまたま住居が近いので、バイト帰りや登下校でよく一緒になる。で、お互い独居なので飯を作って一緒に食べたりすることがある。断っておくと、俺たちは恋人なんてものではない。少なくとも、相手から特別な感情を向けられることは無いだろう。

 

「悠里、今日はご飯何食べるの?」

「んー?……まあ、テキトーに済ませるよ」

「アンタねえ……また食べないつもりでしょ」

「え。なんでわかるんだよ」

 

 桐間は先程よりも大きく息を吐くと、携帯をいじり始めた。そして、一通り操作を終えると、俺の手を取って半ば引きずるように歩き始める。滑らかな感触に心臓が跳ねた。

 

「そっち家じゃねえけど。どこ行くの?」

「スーパー。アンタの家で今からたこ焼き」

「なんでたこ焼き?てかウチにたこ焼き器ないんだが」

「千夜が持ってくるから大丈夫よ」

 

 会話の流れが超越している。アレか、お前は"木組みの街の黄色い閃光"か。会話に時空間忍術を使うな。抗議の気持ちを込めて桐間を見つめていると、桐間の携帯で視線が遮られる。トーク画面を見せてきた。

 

『千夜』

『悠里の家で夕ご飯食べるけど来る?』

 

『あら、いいわね』

『たこ焼きが食べたいわ』

 

『じゃあたこ焼き器持ってきて』

 

「……。…………あのな」

「いいから行くわよ」

「はいはい」

 

 

3人分のそこそこ重い食材を持って家に着く。『(みなと)』と書かれた表札を無感動に眺めると、玄関のすぐ横で3人目の少女が待っている事に気づいた。

 

「よ、宇治松。悪いな待たせて」

「あら、悠里くん。今来たところだから大丈夫よ」

「さ、千夜。悠里。早く準備しましょ」

 

 こいつ……。白々しい桐間に呆れながらドアの鍵を開ける。だだっ広い玄関に、靴の数は極端に少ない。そのまま3人で手を洗うと、案内するまでもなく勝手にリビングに向かってしまった。リビングでは、フローリングの上に机と椅子があるのみである。テレビといった娯楽は無い。ただむき出しの部屋だけがある。……我が家ながら、人を入れるにはあまりにもつまらない部屋である。

 

 てきぱきと準備してゆく。たこ焼き器の電源をつけ、タコを切り、生地用の液を作る。窪みのある鉄板に油をひき、液を入れ、具材を突っ込んだ。しばらく待つと、生地が焼ける匂いが漂ってくる。串を突っ込み、ひっくり返すと程よく焼き目の付いた球体が顔を出した。

 

「あの……悠里?」

「私たちも手伝うわ」

「いや、2人は一応客だろ。テキトーに寛いでてくれ」

 

 盛大にため息を吐かれた。何故だ。黙々と作っていると、桐間と宇治松が無理やり手伝ってきた。いや、近いわ。ありがたいけど。2人で俺をプレスするのはやめてくれ。俺がたこせんべいになる。あとやりにくい。

 

「……」

「……、…………」

「おい、恥ずかしいなら離れろ」

 

 俺もかなり恥ずかしい。左右から息使いと、身体の熱が伝わってくる。あとどことは言わないけどやわこいのが当たってる。特に宇治松!

 

「いっ!」

「……ふんっ!」

 

 右の前腕に鈍い疼痛が走った。反射的に見やると、桐間が俺の腕を抓っていた。それも、全力で。

たこ焼き自体は特に失敗するようなことは無くできた。鰹節、青のり、ソース、マヨネーズを持ってきて、タコ焼きを取り分ける。

 

「はい。出来たぞ。ソースとかは自由に使ってくれ」

「「……」」

「えっ……なに?」

「悠里」 「悠里くん」

 

 俺の名前を呼ぶ2人は、据わった目をして距離を詰めてくる。つまようじでぷすりとたこ焼きを刺すと、ずい、と目の前に押し付けてきた。

 

「「あーーん」」

「……普通に自分で食べるわ」

「いいえ悠里くん。あなたにはこれを食べる義務があるわ。それとも私のたこ焼きが食べられないっていうの!?」

「そうよ。アンタこうでもしないと食べないでしょ」

「小学生じゃあるまいし……あ、熱いから自分で食べるよ」

「あら。じゃあふーふーしてあげれば食べられるってことかしら?」

 

 そうは言ってないわい。後ずさりながら距離を離すと、同じだけ前進してくる。ついに壁に背をついてしまった。がしがしと頭をかいて、死んだ目をして口を開けた。

 

「……それで、どっちのを食べるの?」

「あらシャロちゃん、悠里くんが私たちのどっちにあーんさせられるか勝負ね」

 

……たこ焼きは熱かった。

 

 

 

 

「千夜、今日は急に呼び出してごめんね」

「ううん、むしろ呼んでくれてありがとう。楽しかったわ」

「それにしても、アイツ……自分のことを蔑ろにするの悪化してない?」

「そうね。……でも、あんなことがあったら仕方ないのかも」

「ねえ千夜」

「なあにシャロちゃん」

「アイツがどこかに行かないように、私たちがしっかり捕まえておかないとね」

「もちろん。シャロちゃん、悠里くんのことが大好きね」

「うッ、うるさいわね……それをいうなら千夜だって……」

「うふふ。顔赤いわよ」

「……千夜もね」




???「うるさいですね……」

※続きません
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