魔法科高校の劣等生〜想いの果て〜   作:希栄

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第二話 夜神家の裏事情

帰路に着いた蓮都は真っ直ぐ自宅へと向かう。

 

都心部にある、とある一軒の前で立ち止まる。辺りの住宅と同化しているため、大きさも見た目もごく普通の家と変わらない。ただ、雰囲気だけは異様であった。

 

蓮都は玄関の前に立つ。この家は面倒くさいほどセキュリティが念入りに施されている(指紋認証やらカードキーなどなど)のでそれらを素早く行う。すると、ロックが解除された音が聞こえ、蓮都は扉を開いた。

 

靴を脱ぎ、自分の部屋に戻るとまず制服を脱ぐ。手早く着替えを済ませると、リビングのソファでくつろぐ事にした。だが、特に何かをする気力もない。

 

「……はぁ」

 

蓮都はぐったりと深いため息をついた。コツコツコツと、秒針の音が妙に大きく響いているような気がしてならない。そんな時、

 

「蓮都様、何かお飲みになられますか?」

 

いつ来たのか、楓が目の前で首を傾げながら尋ねてくる。楓が居るということは蒼夜も来ているのか、と蓮都は解釈した。

 

「……コーヒー」

 

とだけ、答えた。すると楓は嬉しそうに返答する。

 

ちなみに、護衛者である二人はよく家に来ている。もちろん住んでいる場所は違うのだが、なぜかわざわざこうして来てくれているのだ。

 

「蓮都様」

 

「ん?」

 

扉の外から声が掛かる。視線を向けると、そこには真剣な面持ちの蒼夜が立っていた。蓮都はどうした、と言いかけて言葉を止める。わかっている。蒼夜があの表情をする理由は一つしかない。

 

「父君がお呼びです」

 

「……わかった。ありがとな」

 

そう短く応えると、蓮都は重たい腰を上げた。二人は心配そうに蓮都を見つめる。この二人は知っているからだ。蓮都とその父親との複雑な関係を____、

 

 

 

蓮都の父は大抵、家の一番奥にある部屋にいる。そこを書斎として使っているのだから仕方がないのだが、

 

(毎回思うけど、何か遠いんだよな…)

 

先ほどくつろいでいたリビングから書斎まで一直線の廊下を歩くだけ。それも、距離にしてみればわずか十メートルそこそこ。本来なら苦にならない程度のものなのに、足が重い。

 

理由としては、これから会う人物なのだろう。

 

コンコンッとノックをすると扉の向こうから、どうぞ、とだけ声が聞こえる。ドアノブを回して開けると椅子に座った父が目を伏せて腕を組んでいた。同じ赤い髪をしているので、血縁者だと一目でわかる。

 

ちなみに、なぜ赤いのかと言うと、

 

あまり詳しくは知らないが、夜神家はある代償にこうなってしまったとのことらしい。それが代々受け継がれているとのこと。

 

目立つんだよな、と考えていると蓮都の実父であり、夜神家現当主である夜神悠一(ゆういち)が瞼をゆっくり開けた。それにしても、自宅にいるのに服装が普段着ではなくエリートビジネスマンならぬ黒いスーツを着こなしている。実に堅苦しい。

 

「来たか。座りなさい」

 

言われるがまま、悠一の前の三人掛けのソファに腰を下ろす。必然的に悠一の青い瞳と蓮都の紫の瞳が交差する形になった。ただ悠一は左眼に眼帯を装着しているので片目だけしか見えないが。

 

「今日はどうだった?」

 

「普通」

 

「普通って何だ」

 

「普通は普通だよ」

 

たわいない親子の会話に聞こえるが、どちらも目が笑っていない。それに顔は笑ってはいるものの、完全な作り笑顔だ。

 

「で?学校は?」

 

父親の問いに、チッと軽く舌打ちする。これは悠一お得意の「誘導尋問」だ。実の息子にもこの手の小作な手を使ってくる所が蓮都は気に食わない。

 

「別に。普通」

 

「また、それか」

 

「ああ」

 

「だが、第一高校にはあの十文字家の総領と、七草家の御令嬢がいらっしゃるはずだが?」

 

悠一の唇が少しほころんだ。あれは全てを知っていて自分に問い掛けている顔だ、そう思うと腹が立つ。特に、十年前までは十師族ともそれなりに関わりがあったはずの父が何も知らないわけが無い。

 

「出会いませんでしたから」

 

しれっと蓮都は即答する。

 

「はは……そうか。しかし、十文字家の総領はそうかもしれないが、七草家の御令嬢がお前に会いにこないとは思えない」

 

人当たりの良い笑顔が心のうちを読ませない。そういえば、十年前もそうだった。悠一と十師族の間に何があったかは知らないが、突然関係を断ち切り、仕事上だけでの付き合いとなった、あの時と同じ顔をしている。

 

まだ、その頃の蓮都は幼かったので理由は知らされていなかったが、今ではもう十六になる。そろそろ事実を教えてくれてもいい年齢だ。だが、あえてそれは聞かない。

 

「嘘をついて何の特になると?」

 

蓮都は顔色ひとつ変えずに淡々と答える。相手に手の内を読まれれば終わりだ。それが血の繋がった家族であっても。

 

「……まあいい。だが、忘れるな。誰にも……」

 

が、悠一の言葉を遮って言う。

 

「問題ない。誰にも夜神家の裏の顔を知られるな、だろ?もう聞き飽きた」

 

「わかってるならいい」

 

その言葉を聞いた蓮都はもういいだろ、と思いソファから立ち上がる。だが悠一はそれを許さないかの如く、低い声で蓮都を呼び止めた。

 

「これからが本題だ」

 

どうでもいい、それが蓮都の本音であったが、向かい側から放射されているただならぬプレッシャーによって自制する。そして、再び蓮都は腰を下ろした。

 

「最近、『ブランシュ』の動きが活発化しているらしい」

 

蓮都の表情が僅かに曇る。

 

(ブランシュか…またそれは面倒な)

 

『ブランシュ』とは、裏の世界では有名な『反魔法国際政治団体』だ。魔法能力による社会差別を根絶することを目的とした組織である。____が、簡単に言えば、ただわがままの武力行為によく走るテロリストだ。そもそも、彼らの言うことは具体的な事実がない。それをどうこうしろという方が無理な話なのである。

 

「奴らが何をするつもりなのかは興味ないが、『ブランシュ』関係の仕事依頼が近々入る可能性があるかもしれないからそのつもりでいろ」

 

「……了解」

 

仕事、それはとてもいい物ではない。

 

夜神家は裏の世界では『執行人』と呼ばれている一族。その言葉から分かるように、主に暗殺や抹殺という仕事を生業としている。依頼が入れば、受けるか受けないかはこちら側の有無だが、どんな仕事でもこなす。例えそれが、国のトップだろうが、軍のお偉い方だろうとも。これが夜神家の裏の顔、真の姿だ。

 

「じゃあ、もう行くから」

 

立ち上がり、返事を待つこともなく扉に手を掛ける。すると、背後から、

 

「蓮都。闇は常に一つではない、注意しておけ。半端なことはするなよ」

 

と、そんな悠一の言葉に蓮都は少々驚く、そして同時に怒りを覚えた。

 

だが、悠一がそんな事を口にしたのには、何かの手がかりがあったからに違いない。悔しいが、悠一の人望の厚さも情報網も全てが蓮都に勝る。その点はとてもじゃないが力だけでは補えないものだ。伊達に蓮都より長くは生きていない。

 

だが、

 

「わかった。でも、勘違いしないでほしいな、俺はあなたの駒じゃない。自分のやり方でやらせてもらう。それに俺は“あの日”から今まであなたを父と思ったことも、あなたを許すつもりもない事をお忘れなく」

 

そう言うと、今度こそ踵を返し、廊下へと歩み出る。

 

バタンッと扉が閉じられる音だけが、静かな部屋の空間に響いた。

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

とある屋敷の一室。女の子らしい明るい部屋も、今は不穏な空気が漂っていた。

 

その不穏な空気の原因はこの部屋の主である七草真由美。むぅと柳眉を逆立て、彼女はベッドの上で自分の膝を抱えるようにして座っていた。しかし、彼女が不機嫌なのは今日だけということはない。ここ数ヶ月以上、入学式の日が近づいてくるごとに時折このような表情を浮かべては消していた。

 

普段なら姉に纏わりつく妹たちも、そんな時は少し離れた場所から姉の様子をうかがうことに徹すると決めている。それは年の離れた兄たちも、そして七草家で働く全ての者たちも同様だった。

 

そして、裏でそんな事が広まっていると知りもしない真由美は、合わせた膝に額を擦りつける。

 

「…………はぁ」

 

彼女にそぐわない重々しいため息を吐いて、膝を抱えたままコロン、と横へ倒れるように転がった。髪が僅かに乱れるがそれを気にもせず、真由美は先ほどより幾分かましになったため息を吐く。

ため息は幸せを逃がすと言うが、それならば現在の真由美に幸せは後どれくらい残っているのだろう。それほど、真由美はため息を何度も繰り返していた。

 

「どうしようかしら………」

 

口から自然に漏れ出した言葉は、蓮都に対する今後の接し方に対してのものだ。

 

 

 

今朝、真由美は無駄に緊張していた。

なぜなら実に十年ぶりの再会になる、元恋人___もとい初恋の相手に会えるのだから。しかも、その十年前の別れ方が最悪に近い形であり、真由美自身まだ納得いっていない部分が多々ある。そしてあれから連絡を一度も取らず(取れなかった)、幾つもの季節が流れ今に至るのだ。

 

事の始まりは数ヶ月前、生徒会長という立場である真由美は今年度の新入生の名簿に目を通していた。とても全員の名前を覚えられる訳ではないが、最低限入試の成績上位者の名前は覚えようと彼女は端末を眺めることにしたのだ。

 

そこで、真由美は驚愕した。それも今までにないほどに。

 

 

『総合成績優秀者』

 

 

____二位、夜神蓮都。

 

 

 

「れん…くん……?」

 

気がつけば生徒会室で無意識の内に呟いていた。幸いとは言えないが、その場には悪友と言う名の親友である摩利しかいなかったので一安心。摩利には色々と話してある。だが、その他の人達に一から話すのは正直面倒だったし、今は話したくない気分だった。そんな真由美の心情を察したのか、摩利は呟きに触れなかった_____が、変わりにニヤニヤと意味深な視線を送ってきたのは言うまでもない。

 

 

そんな事があり、真由美の心は揺れていた。出会ったらまず何を話そう、いや、その前に自分は十年も会わなかった彼のことが分かるのだろうか。そんな期待と不安が混ざり合い、数ヶ月もの間不機嫌のような表情になっていたのだ。

 

(よし、女は度胸よね!)

 

当日、そんな決意を胸に不安を抑えながら、真由美は入学式のリハーサルと本番前の僅かな隙を見逃さず蓮都を探すことにした。無論、蓮都が早く来ている可能性などない。それでも真由美は探さずにはいられなかった。

 

数分ほど学校の敷地をウロウロしていた所で真由美は僅かに目を見開き、足を止める。

 

その視線の先には舗装された道の真ん中で考え込むようにして歩く一人の少年の姿が。遠目からでも分かる。彼だ、彼が夜神蓮都で間違いない。

 

だが、おかしい、と真由美は困惑する。

 

言いたいことは山ほどあった。数日前など、心配させた事を後悔させてやるんだから、と私設射撃練習場でサイオンが枯渇する寸前まで打ち続けたりもしていた。まあ、妹たちに途中で強制的に止められたが。

それでも、いざこうして顔を合わすとなるとそれらが全て脳裏から消え去る。もしかして、自分は思っていたより簡単な女なのかもしれない。真由美はそんな自分に呆れながら、懸命にかける言葉を選び出す。

 

そして、

 

「新入生ですね?どうかしましたか?」

 

そう言ってから十年ぶりに話しかける言葉を選び間違えた、と真由美は内心で焦っていた。もちろん焦っているのは内心だけで、それを隠すように出来るだけ穏やかな口調を保つ。

 

ゆっくりと振り返る彼の姿に真由美は思わず見惚れてしまった。十年前までは勝っていた身長もとうに抜かされ見上げてしまう。どこか幼い頃の面影があるような気もするが、元々顔立ちの良かった蓮都の容貌は凛々しくなり、更に美少年へと成長している。

 

これを見惚れるなと言う方が無理な話しだった。

 

だがそこで、ハッと我に返る。自身を映すアメジストの瞳に気づいたからだ。どうしよう、何て話しかけたらいいのかしら、と考えた末に述べたのは入学に対する祝福の言葉。

 

あの日から、十年以上が経った。自分も彼も今までとは違う。一目見てそう理解した真由美は、ならばまた最初から始めればいいと結論を出す。

自分もそれなりに力を付けた。助けてもらってばかりいたあの頃より強くなった。もう自分のせいで彼を傷つけたくない、その一心で今日まで勉学に励み、魔法の練習を怠らなかった。真由美を見た彼の瞳が僅かに、本当に僅かに揺らいだ瞬間、安心した。大丈夫、私たちは一緒に歩んでいける、と。

 

 

 

 

____そう思っていたのに。

 

 

 

 

彼から返ってきたのは遠回しの拒絶。十年という歳月の壁が二人を引き剥がす。敬語で、話しかけても単調な答えしか返ってこない。そして、遂には避けるように逃げられてしまう。

 

結局、最後まで彼の笑顔を見ることはなかった。

 

 

真由美は寝返りをうち、枕に顔を沈ませる。今朝の事を考える度に胸が痛くなってしまう。

 

「……彼女、いるのかな」

 

無意識のうちにポツリと呟いた。もしそうなら、今朝の冷たい態度と合致がいく。十年、時間にすれば長い長い時もの間彼にいない方がおかしい。そんな相手無論、真由美にもいた____________経験などないが、きっとモテだろうな。

 

そんなことを考えてしまっている自分に呆れながら真由美は重たくなる瞼をそのまま閉じた。




夜中に作ったノリなのでおかしな点が多々あると思います。



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