魔法科高校の劣等生〜想いの果て〜   作:希栄

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第六話 正体

三日目。

 

放課後になり、約束通り蓮都は生徒会室へと顔を出そうとした。副会長と顔を合わせたら直ぐに帰れる。そう思っていた蓮都を待っていたのはまたもや問題ごとだった。

内容は服部が達也の風紀委員就任を反対するものであり、それが原因で摩利や深雪が入り混じっての口論となり、一向に収束の気配を見せないでいた。

 

逃げようか、と何度も考えたが昨日の事を思い出すとそれも出来ない。

 

そんな中深雪が発した「実戦なら誰もに負けない」と言う言葉が服部の何に触れたかは知らないが、深雪の言葉を身内贔屓として聞き入れようとしなかった。確かに、深雪は冷静さを欠いていたが、蓮都は彼女が根拠もなくそんな事を言うとは思わない。

そこで深雪は先の発言に更に言葉を重ねようと口を開きかけた所で、達也に遮られてしまった。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

「達也も苦労人だな……」

 

蓮都の呟きは、誰の耳にも届かないほど静かなものであった。

 

「意外ね。蓮くんまで立ち会いに来るなんて」

 

そう言うのは真由美だ。

その言葉通り、今回の事は蓮都には関係ない事なので帰ろうがどうしようが本人の意思と言う事になっていた。「それなら、帰ります」と、いつもの彼ならそう言い残し立ち去っただろう。だが、彼は意外な事に立ち会いを申し出たのだ。

 

「意外、と言われても、ただ確かめたくなったんですよ」

 

「何を?」

 

真由美は小首をかしげる。

 

「……彼が本当にただの二科生なのかを、です」

 

嘘は言っていない。入学式の日からずっと気になっていたのだ。あの纏うオーラと言い、起動式を一瞬で分析する並外れた能力と言い、普通の高校生のそれも二科生であるはずなどない。

 

「それを確かめたいと?」

 

「そうです。彼は自ら服部副会長に模擬戦を申し込んだ。彼が、『勝てる』自信も無くそんな事を言うはずはありませんから」

 

その根拠がこの一戦でわかる。全てとは言わないが、基盤となるものが見えるはずだ。

 

「そんなに真面目な理由だったのね……。私はてっきり、深雪さんへの点数稼ぎのために、着いて来たのかと……」

 

真由美が安堵の言葉を漏らす。

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「う、ううん!何でもないのよ、何でも!」

 

「はぁ……」

 

良くも悪くもどうやら蓮都には聞こえてなかったようで、真由美は胸を下ろした。

 

その時、模擬戦のルールを摩利が説明し始めた。

 

直接、間接攻撃を問わず、相手を死に至らしめる術式・回復が不可能な傷害を与える術式・相手の肉体を直接損壊させる術式・武器の使用の禁止。打撃に至っては捻挫以下ならば直接攻撃や素手、足(ただしソフトシューズ使用)が可能。

 

勝敗はどちらかが降参するか、審判である摩利が続行不可又はこれ以上は無意味だと判断した際に決まる。

 

開始の合図を待つ間、達也は銃型のCADの銃口を地面に向けながら静かにその時を待っていた、対する服部は腕輪型のCADに手を添えながら策を練っているようであった。

 

「………決まったな」

 

そんな蓮都の呟きは、摩利の戦闘開始宣言によって掻き消された。

 

____そして、勝敗は意外な形で幕を下ろす。

 

「勝者、司波達也……」

 

無音の第三演習室に、摩利の控えめな勝利者宣言だけが響いた。

 

思い返せば勝負は僅か数秒の出来事。

開始の合図と共に服部の迷いのない指が汎用型CADを滑る。流石、と言うべきかその動きに淀みはない。だが、それ以上に感心したのは、達也の動きであった。視界の端で達也が動いたと気づいた時、蓮都は無意識のうちに達也の動きを追っていた。きっと達也の姿が消えたと錯覚しても仕方がないほどの速さで達也は服部の背後をとる。そして、達也は自身の拳銃形態の特化型CADを構え、引き金を“三度”引いたのだ。その直後、服部は地面にうつ伏せで倒れ、勝敗が決定した。

 

静まり返った中で、達也が一礼した。そして、淡々とCADの片付けに向かおうとする。

 

「待て」

 

そんな達也を、摩利が止めた。

 

「今の動きは……あらかじめ自己加速術式を展開していたのか?」

 

摩利の疑問も無理はない。先ほどの達也のスピードは、魔法を使ったものと遜色ない速度だった。だが、それはない。俺の『眼』には、サイオンが改変された様子はなかったからだ。つまり、魔法は未使用だ。

 

「そんな訳がないのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが」

 

確かに。摩利は審判として不正がないか注意して見ていたはずだ。それは委員長が一番分かっているはずなのだが、納得いかないような顔をしている。

 

「しかし、あれは」

 

「魔法ではありません。正真正銘、身体的な技術ですよ」

 

「わたしも証言します。あれは、兄の体術です。兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」

 

思わず蓮都は、驚愕に目を見開いていた。自身も、対人戦闘に通じているからこそ分かる。古式魔法の使い手にして、高名な格闘家。まさか、達也がその人の指導を受けているとは思いもしなかったのだ。ならば恐らく、体術の面では達也はまだまだ底を見せていないだろう。

 

「じゃあ、あの攻撃に使った魔法も忍術ですか?私には、サイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったんですが」

 

とはいえ、この中にいる誰もが驚いているばかりではなかった。生徒会長___つまりは真由美が、同じようにサイオンの弾丸を駆使するが故の興味で達也に問いかけた。

達也が服部を昏倒させた魔法。あの時はサイオンが改変されていた。恐らく、あれは振動系の魔法だろう。技術で劣る達也でさえあの素早い展開から予想するに、振動の基礎単一系魔法。それで、サイオンの波を作り出していたはずだと蓮都は推測する。しかし、それだけでは服部先輩が倒れたことにはならない。ならば___、

 

「酔ったんですよ」

 

「酔った?一体何に?」

 

その言葉で、蓮都は己の立てた推測が当たったと悟った。

 

「魔法師はサイオンを、可視光線や可聴音波と同じように知覚します。それは魔法を行使する上で必須の技術ですが、その副作用で、予期せぬサイオンの波動に晒された魔法師は、実際に自分の体が揺さぶられたように錯覚するんですよ。その錯覚が肉体に影響を及ぼしたのです。催眠術で『火傷をした』、という暗示を与えられることにより、実際に火ぶくれが生じるのと同じメカニズムですね。この場合は『揺さぶられた』という錯覚によって、激しい船酔いのようなものになったというわけです」

 

淡々とした口調で語られる魔法のタネ。しかし、真由美達は達也の今の説明では納得できない部分があったようだ。

 

「そんな、信じられない……魔法師は普段から、サイオンの波動に晒されて、サイオン波に慣れているはずなよ。無系統魔法は勿論のこと、起動式だって魔法式だってサイオン波動の一種だもの。それなりに、魔法師が立っていられないほどのサイオン波なんて、そんな強い波動を、一体どうやって?」

 

真由美の言う通り、魔法師は普段からサイオンに触れ、サイオンに脅かされている。だからこそ、サイオンの暴風には慣れているはずなのだ。驚愕を露わにしている真由美の質問に答えたのは市原だった。

 

「波の合成、ですね」

 

「リンちゃん?」

 

(やっぱりな……)

 

達也は、振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波が丁度服部と重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波動を作り出したのだ。異なる波長の波を三つ作り出す。そのために、達也はCADの引き金を三回引く必要があったのだ。しかし、その魔法の再現には、余程精密な演算が必要となるはず。

しかし、その演算能力の高さを差し引いても、まだ疑問が残る。

 

「それにしても、あの短時間にどうやって振動魔法を三回も発動できたんですか?それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いはずはありませんが」

 

市原に正面から成績が悪いと言われて、達也は思わず苦笑いを浮かべた。だが、残念ながらそれは紛れもない事実だ。

二科生は、魔法技能となる三つの項目である、処理能力、キャパシティ、干渉力を総合した『魔法力』が劣っているから二科生なのだ。だが、今の達也の『波の合成』を通常でやれば、相当『処理能力』が優れていなければ不可能。よって、達也が二科生という事実と矛盾が生じてしまう。

しかし、それはあくまで『通常の方法』だったならば、という話だが。

 

「あの、もしかして、司波くんのCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」

 

と、そのとき今までチラチラと達也の手元、つまりCADを見ていたあずさがおずおずと口を開いた。

 

「シルバー・ホーン?シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」

 

真由美にそう問われて、あずさの表情がさっきとは打って変わって明るくなった。

 

「そうです!フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールのすべてが謎に包まれた奇跡のエンジニア!」

 

嬉々として語り出したあずさに、蓮都は確信した。

 

(ああ、この人、デバイスオタクなのか……)

 

と、結論を出した所でふと達也の表情に疑問を覚えた。

あずさがトーラス・シルバーを誉めている中で、何故か達也は焦っているようなような顔をしていた。それを見て、蓮都の中の、ある一つの『仮説』が『確信』に変わった。

桁外れた分析力、並外れた格闘センス、謎の天才魔工師、トーラス・シルバー……。

 

(そうか……達也お前が……)

 

「___あっ、ループ・キャスト・システムというのはですね__」

 

以下、あずさの説明は長いので省略。

 

ループ・キャスト・システムとは、簡単に説明すれば一回の展開で同じ魔法を連続して、何度でも、連続発動できる起動式の事である。

 

「達也、ループ・キャストは全く同じ魔法を連続発動するシステムだよな?『異なる三つの波』は振動数や波長が変わってくる。そのために起動式も微妙に違ってくるはずだ。だったら、ループ・キャストだけだと瞬間的な連続発動は無理なんじゃないのか?」

 

あずさの長々とした説明の終了を見計らって蓮都が自身の中にあった最後の疑問を投げ掛ける。それに、市原も蓮都の言葉に付け加えた。

 

「確かに、その通りです。波の合成に必要な、振動数の異なる複数の波動は作れないはず。もし、振動数を変数化しておけば可能ですが、座標・強度・魔法の持続時間に加えて四つも変数化するなんて………まさか、それを実行しているのですか?」

 

思わす驚愕に言葉を失った市原からの視線に、達也は軽く、肩を竦めた。

 

「学校では評価されない項目ですからね」

 

学校では、と強調された達也の答えに、蓮都は思わず納得の笑みを浮かべた。

 

「……なるほどな」

 

そこで服部が呻き声を上げながら体を起こす。

 

「『魔法発動速度』、『魔法式の規模』、『対象物の情報を書き換える強度』、学校の評価はこの三つで決まる」

 

 

 

ー兄の実技評価が芳しくないのは、評価方法が兄の力と合っていないだけです!ー

 

 

 

「……司波さんが言っていたのはこういうことか」

 

模擬戦前、深雪が述べた事が脳裏をよぎる。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!」

 

覗き込むようにして身を乗り出してきた真由美に、服部は慌てたように立ち上がった。その反応に、蓮都は少し眉をしかめる。

 

「はんぞーくん……だって?」

 

「君が反応したのはそこなのか…」

 

蓮都の発言に、摩利が大いに肩をガックリさせたのは余談である。

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

「大丈夫ですか?お兄様」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

あの後、何とか騒動も丸く収まり、達也の風紀委員入りが決定した。そして、今はその帰り道。達也と深雪の二人は帰路についていた。

 

「……深雪」

 

「はい?」

 

突然名前を呼ばれ、深雪は小首をかしげる。見れば、兄が真剣な眼差しをしている事に気づき、ただならぬ事だと瞬時に察した。

 

「知っていたかい?模擬戦の時、あの中で蓮都だけが俺の動きについてきていたのを」

 

「…それは本当ですか?」

 

達也は静かに頷く。それを見た深雪は驚愕のあまり言葉を呑んだ。確かに模擬戦であるがために、達也は手を抜いていた。だが、それでもあの動きを完全に見抜き、しかも追いついていたなど信じられなかったのだ。

 

「夜神蓮都、か……」

 

夜神家の名前は何度か聞いた事があった。表の世界では実業家として、そして裏の世界では『執行人』の暗殺集団として有名だ。彼等の素性は明らかになっていない。当たり前だ、詮索した者達は一人残さず消させているのだから。

 

今はいい。だが、もし敵対するような事になれば自分は勝てるのだろうか。

 

達也は昨日の一件を思い出した。彼が放っていた殺気は通常では考えられない。実際に戦うような事になれば、全力でやらなければならないだろう。

 

その前に、もっと情報が必要だ。

 

達也にとって、今回の模擬戦で蓮都にそのような印象を抱かせる事になった。

 

 

 

 




みなさん、投稿がかなり遅くなってしまいました!

本当にすみません!色々とありまして……。

それでも、待っていてくれたみなさん、本当にありがとうございます!これからは地道に頑張って行きます。


今回の話で、蓮都は達也の正体がわかったようですね。達也も蓮都に興味を抱き出しましたので、ここから進展していけばな、と思います。

私事ですが、達也と蓮都が戦う描写もいつか書いてみたいです。
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