魔法科高校の劣等生〜想いの果て〜   作:希栄

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第七話 迷走の眼差し

生温い風が鼻孔を刺激し、赤い髪をなびかせる。

 

蓮都は一人、コンテナの上に座り星空を見ていた。月が優しく輝く空には、満点の星が瞬いている。東京の都内では街の光のせいで見えない星の声に、蓮都は魅入っていた。

 

___こんなのだったか。

 

昔から蓮都は星が好きだ。小さい頃など星の名前を覚える為に、本を買ったり、プラネタリウムにも行ったことがある。もちろん、今夜のように本物の星空も見た。だが、最後に見たのはいつだったか。すでにそれほどの月日が経っていた。

 

 

 

ーまた、一緒に見ようね。約束よー

 

 

 

不意に幼き頃の記憶がよみがえる。

そうだ、最後に見た時『彼女』もいた。よく一緒に家を抜け出しては、お気に入りの場所に行き、傾斜のついた草地で仰向けになると、星空を見て感嘆の声を上げていたのを思い出す。あの時はそれが当たり前で、ずっとそれは続くと思っていた。けど、自分は何も知らない子供だったとすぐに理解させられたのだ。

 

結果、彼女との約束を果たす事も出来ず、家の命に従い、一方的に別れを告げここまできてしまった。

 

あの日、自分に力があれば彼女を傷つけることも、こうして再会を果たした今、彼女との距離の取り方に悩まずにすんだのではないのだろうか。力は付けた、勇気を出せば、きっと自分の手が届くことだって、可能なはずなのに。

 

考えるのをやめるように蓮都は小さく被りを振った。

 

「蓮都様」

 

その時、背後からタイミングよく声が聞こえる。「ん?」と言って振り向くと、そこには楓と蒼夜の二人が立っていた。

 

「時間です」

 

そう彼女が静かに告げる。

 

今、蓮都たちがいるこの場所は東京の郊外にある『とある組織』の支部の正面。今夜は仕事でここにいるのだ。蓮都はゆっくり時刻を確認すると、すでに深夜の二時を回っていた。

 

「しかし、今回は『ブランシュ』ですか…。お偉い方々は何を考えてるんすかね」

 

理解出来ない、と言うように蒼夜は肩を竦む。

 

今回の仕事は、ブランシュ日本支部の二つある拠点の内、一つを壊滅させろ、という内容だ。

 

「興味ない」

 

基本、依頼は匿名で届く。だが、ここまでアジトの位置や構成人数を掴んでいるということは、それなりに地位のある人物だろう。

 

「……さて、行くか」

 

そう言うと蓮都はコンテナから飛び降りた。そして、地面に降り立つと同時に黒い革手袋を装着する。今の蓮都の服装は黒いトレンチコートに、黒のジーパン、といった全身真っ黒の服装だ。後に続いて来た楓と蒼夜もそれぞれ黒を基調とした仕事服を纏っている。

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

静かに呟く蓮都は、腰にある日本刀の特化型CADをぽんぽんと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしますか?」

 

ブランシュのアジトの正面入り口を、コンテナの陰から見つめてそう問い掛けてきたのは楓だ。深夜二時とはいえ、見張りの数が片手で数えるくらいしかいない。油断しているのか、これも策略の内なのか、定かではないが詰めが甘いの一言に尽きる。

 

「突っ込むか」

 

「いいっすね、それ!どこからにします?」

 

「正面だ」

 

さらっと答える蓮都に、二人は顔を見合わせ苦笑いを浮かべて、頷いた。どうやら、二人は蓮都のとんでも発言に慣れているようだ。

 

迷う事なく正面から歩んでいく主に続いて、彼等は雑居ビルの中へと侵入した。無論、見張り達は気づいたが彼等を視覚で確認した時には、すでに見張り達はこの世に存在していなかった。

 

 

 

 

 

ブランシュの日本支部は、二つ存在している。一つは、第一高校近くの廃工場に。もう一つはここ、東京郊外の雑居ビルだ。この雑居ビルは最近出来た為、今は特に機能していない。だが、一度機能されれば、収集をつけるのは手を焼くに違いなかった。だから、先手をとったのだ、『この世から排除する』事によって。

 

「だっはー!最高だぜー!」

 

「ほんと、酒はうめーな!」

 

これから起こる悲劇など知りもしない男達は酒を浴びるように飲んでいた。

 

「あ!いけね、こんな時間だ」

 

「女かよ」

 

「まあまあいい女だ。脅したらすぐに堕ちたんだぜ」

 

キャハハハハッと男が笑う。

 

「ずりぃ奴だな」

 

「言ってろタコ」

 

そんな会話をしながら、男はアジトの出入り口へと向かう。が、男が扉に手を掛けるより前に、鈍い音をたてながら扉がゆっくりと開く。

 

「あん?」

 

「どうした?」

 

「いや。何かガキ共______」

 

男が全てを言い終える事はなかった。なぜなら、男の喉を日本刀が貫いていたからだ。

 

その場に静かな沈黙が流れる。

 

そして、日本刀を容赦無く横に振り抜くと、男は屍と化す。血に染まる床を平然と歩く少年少女達を見て、思わず誰かが息を呑む音が聞こえた。

三人の内の赤髪の少年が、静かに告げる。

 

「殲滅する」

 

ただ、それだけを____。

 

 

 

 

 

 

 

雑居ビルの中では、惨劇が繰り広げられていた。

男たちの怒号や悲鳴が飛び交い、すでに血で染まっていない床などはどこにもなかった。鼻はいつしか麻痺して、血の匂いすらわからなくなる。それは、もの言わぬ骸と化した『人だった』ものが原因なのだろう。血なまぐさい殺し合いは、もはや一方的であった。

 

蓮都は静かに眼前を見据える。二百人近くいたブランシュの構成員たちはすでに十人程になっていた。リーダーと思わしき男も初めは逃げまとっていたが、ついに最奥の地下部屋で足を止める事となった。

男たちは迫る少年たちを呆然と見つめる。たった三人で、それも高校生ぐらいの子供が、彼等には途方もない怪物に見えていた。

 

「かかれっ!」

 

突如、一喝が空間に轟く。リーダーの男のものだ。構成員たちは一様に身体をびくりと震わせ、己のやるべき事を思いだす。数十をも超える銃口が蓮都たちに向けられた。

 

「まだやる気か…」

 

蓮都は呆れたように呟きを漏らし、刀を持つ手に力を込める。

 

「蓮都様、ここはお任せを」

 

そう言ったのは楓。彼女が自身の携帯端末型CADに手を掛けているのを確認すると、蓮都は一歩彼女から距離を取る。

 

楓は何の迷いもなく、指をCADへと素早く滑らせる。そして、腕を拳銃を構えた男たちへ差し伸べた。

微かに風が吹き抜け、髪をもてあそぶ。

 

だがその瞬間、男たちの首や腕が床に次々と転がって鈍い音をたてた。男たちは声をあげることすら許されず、最後には身体さえも木っ端微塵に切り刻まれる。

 

「さようなら」

 

いつもの彼女からでは考えられないような、感情を一切消え去った酷く冷たい声。

 

今の魔法は風を操る、移動加速系広域魔法。

 

彼女の得意とする魔法だ。これは簡単に言えば、『鎌鼬』なのだが本来の威力は今と比べようもないほど絶大であり、この雑居ビルを吹き飛ばす事など意図もたやすく出来たであろう。しかし、このビル全体を魔法により音を遮断しているとはいえ、崩壊するとなれば流石に周りが気づく。それを考慮した上で、彼女は威力を抑えたのだ。

 

残る男たちは怯みかけたが、彼らの背後から放たれるリーダーの男の威圧に、逃げることはおろか立ち止まることすらも許さない。再び上がるリーダーの一喝に残った男たちが突き動かされて、斬りかかった。

 

だが、先手をとったのは蒼夜。ガントレット型の特化型CADで既に展開していた起動式を用いて、地面に拳をあてる。

 

ー『大地の怒濤(グランドバスター)』ー

 

地面から岩の槍が無数に突き出された。巨大な岩の棘は蓮都たちを避けながら、周囲の物を破壊し、あるいは吹き飛ばして空へと先端を突き上げる。男たちはむろん逃げられなかった。彼らの顔といわず身体といわず、鋭利な岩の槍は貫き、彼らの姿を紅く染める。

 

頭部を砕かれて即死した者もいれば、もがき苦しみその生涯を終える者もいた。

 

そして、残るはリーダーの男のみとなる。

 

「動くな」

 

先ほどまで余裕を残していた男も、表情に恐怖の色がうかがえる。蓮都が首筋に突きつけた刀の事もあるとは思うが。

 

「お前たちの目的はなんだ。政府か?軍か?魔法大学か?それとも……魔法科高校か?」

 

蓮都は単刀直入に問いただした。最後の言葉に男が身じろぎするのを、蓮都は見逃さなかった。どうやら、彼らが狙っているのは魔法科高校。そして、恐らく東京郊外に隠れ家を置いたと言う事は、狙われているのは第一高校だろう。

 

「……そうか」

 

そう言い、僅かに目を伏せるとすぐさま顔を上げた。次の瞬間、男の首が空に舞う。頭を失った身体は痙攣し、ほどなくその場に倒れた。そして、何故か男の亡骸はもちろんの事、あちらこちらに転がっていた全ての亡骸は姿を消す。まるで最初から『なかった』ことのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブランシュの日本支部を壊滅した蓮都は、最初に座っていたコンテナに来ていた。着けていた黒い革手袋を海へと投げ捨て、短いため息をついた。

 

「蓮都様、これはどうするんですか?」

 

後ろから話しかける楓は、箱に入ったある物を指差して尋ねる。その白い箱からは赤い雫が伝い落ちていた。

 

「警告、だそうだ。もう一つのブランシュ支部に送りつけといてくれ」

 

それを聞き遂げると、はい、と承諾して楓と蒼夜は姿を消した。再び、蓮都はため息をつくと、空を見上げるようにその場で寝そべる。相変わらず、空には無数の星たちがキラキラと輝いていた。

 

「俺はもう、人間じゃないんだろうな」

 

人を殺す、その事に罪悪感などない。殺さなければ、殺される。そんな命の駆け引きをしていく内に、他人の死に麻痺してしまった。人が死ぬことに慣れてしまったようだ。

 

 

 

ー約束の約束の、約束だからね!ずっと待ってるから……ー

 

 

 

無邪気に笑う少女の顔が不意に頭の中をよぎる。帰り道、繋いでいた手を強く握り彼女が何度も言った言葉。それを思い出すだけで、胸に刃が突き刺さったように痛んだ。それはどんな痛みよりも、今の蓮都には辛いものだった。

 

「……約束、守れそうにないな」

 

自身の手を空に向け、開いたり閉じたりを何度か繰り返した所でそう呟いた。

 

その呟きは誰かに届く事もなく、空へと虚しく消えていく。後に残ったのは、ぽっかりと何かを失った空虚な手だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みなさん、こんにちは!

今回の話でよくおわかりになられたと思いますが……。作者は、戦闘描写を書くのが苦手なようです。

なので読みにくければどんどん言っちゃって下さい!

さて、今回の話は蓮都の今の心情を主に書いてみました。まあ、蓮都の本音ですねw
素直になれない性格ですので、暖かく見守ってあげて下さいw

感想やアドバイスがあれば、よろしくお願いします!
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