チョコレート救出大作戦   作:回者

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チョコレートケーキに、チョコレートパフェ、フォンダンショコラが食べた~い!!

「うっぷ……オイルの臭いに慣れないといけないのに……」

 

 あのときは元気で溢れていたチョコだったが、今はというと怪盗の俊敏さとはかけ離れたとろい動きで、ゆらゆらと揺れながら前に進んでいた。

 

「チョコさん、臭いに慣れようと気にしすぎるから、却って駄目になってしまうんです。こんなときは、好きなものでも思い出して気を紛らわせないと」

 

「そ、そうだよね! いよーし! チョコレートケーキに、チョコレートパフェ、フォンダンショコラが食べた~い!!」

 

「チョコさん、声が大きいです!」

 

 チョコを元気づけるために提案したが、失敗だったみたいだ。気合を入れたかったのか、それともチョコレートを食べたい欲求が強かったのか。チョコは辺り一帯に響く大声で、それを宣言したのだった。

 

「おい、お前たち」

 

 当然、そんな大声を出せば周りの注目を浴びるわけで。私たちはあっさりエージェントに気づかれた。私たちに声をかけてきたのは、端末で見た画像と瓜二つの少女だ。黒の戦闘服の上に防弾チョッキを見に付けている。見た目は幼く、人間だと11,12歳ぐらいだろうか。

 

「ひゃっ! わ、わたしはただのパティシエです! 食べても美味しく――やっぱりチョコレートばっかり食べてるしちょっとは甘いかも……?」

 

 チョコはすぐに手を上に掲げて白旗を上げた。その体はぷるぷると震えていて、言葉の後半は少し涙声になっていた。

 

「ごめんね! この子、昨日ホラー映画を見たせいで寝不足で、寝ぼけてちょっぴりおかしくなってるんだ!」

 

(アンナ、何言ってるの! アンナも降伏しないと何されるか分からないよ!)

 

 私の言動にびっくりしたチョコが、慌てて耳打ちしてくる。けど、今回ばかりは上手くフォローできたと自分をほめてやりたいほどだ。

 

「そうか、それは大変だな。だが、寝不足でも仕事は変わらずやってくるからな。怪我しないように気をつけろよ」

 

 エージェントは合点がいったようで、翻って去ろうとする。

 

(どういうことなの!? わたしたち、ばれちゃったんだよ!)

 

 チョコが私の肩を掴む。その頭からは、疑問符が浮かび出そうなほど、何が何だか分からないという表情をしていた。

 

(チョコさん……もしかして、今の自分の姿をよく見てないんですか)

 

 チョコは目線を下に向け、すぐさまわぁっと声をあげた。チョコの容姿はあのエージェントと似ていた。黒色の服に防弾チョッキ、そして銀色の三つ編みが頭から垂れている。因みに、私の容姿も似たようなものだ。

 

(チョコさんが拾った髪の毛のデータと、キュクロプセクターのエージェントの情報を組み合わせて、即席のメンタル映写を作ったんです)

 

 キュクロプセクターとオアシスは同盟関係にあるから、全てではないがエージェントの情報に私もアクセスすることができるのだ。

 

(流石にシグネチャコードは偽装できませんから、よく観察されたらばれて終わりですけどね)

 

 特に、監理型エージェントの場合だとシグネチャコードを見なくてもかなり違和感を抱いてしまうだろう。どちらにせよ、あまり目立った行動はしない方が良い。

 

「なんだあ……あれ、安心したら、力が――」

 

「チョコさん!?」

 

「ん!? 大丈夫か、しっかりしろ!」

 

 突然、チョコが前に倒れこんだ。私の声に反応したのか、離れていたあのエージェントも慌てて駆け寄ってくる。エージェントと協力して、チョコの肩を持って支える。

 

「チョコさん!? 本当に体調が……」

 

 グーー。間抜けな音が、チョコの腹から鳴り響いた。

 

「朝から何も食べて無かったから、お腹すいちゃって……」

 

 本当、いつになっても緊張感がない人形だ。私は返す言葉が見つからず、ため息をするほかなかった。

 

 

 

 まだ昼食には早い時間だから、食堂には誰もいない。だが、流石はスヴァローク重工のセクターというべきだろうか。コーヒーメーカーのように、ボタンを押せば機械的に料理が作られる仕組みになっているようだ。

 

「も……もしかしなくても、これがご飯?」

 

 隣から絶望した声が聞こえる。ただ、今回ばかりはチョコに同意できる。

 

「食堂というよりかは、配給所ですね……」

 

 出てきたのは、肉とパンとスイーツ。そう表すと聞こえが良いが、中身はしょっぱすぎる分厚く硬いハムに、パサパサしていて硬い乾パン、甘ったるく棒切れのように硬いチョコバーの三つだ。正直、食べれたものではない。軍のレーションは不味いと聞くが、さながらそのレーションを食べている気分だった。

 

「あぅぅ……こんなのやだよぉ……」

 

 食に強い関心があるわけではない私ですらそう感じるのだ。その手のプロであるチョコがどう感じるのかは一目瞭然だった。

 

「別に、全然いけるけどな。おまえたち、今まで何食べて生きてきたんだ?」

 

 私たちに反して、エージェントは平気そうに手を進めていた。その姿を、チョコは信じられない様子で眺めている。

 

「それはこっちの台詞だよ! こんなもの食べてたら、今より具合が悪くなっちゃうよ!」

 

 チョコは椅子から立ち上がると、食堂の奥、キッチンの方に歩き出した。料理人の一人として、我慢ならなくなったのかもしれない。

 

「もっと美味しくできる調理法があるはずだよ! アンナ、手伝って!」

 

 私も、こんなものをこれ以上食べるのはごめんだったし、チョコの誘いを断る理由はなかった。機械に料理を頼り切っているのに反して、キッチンの設備は意外に豪華だった。調味料も、材料も基本的な物はそろっている。もちろん、チョコレートも。これがあの棒切れになると思うと、恐ろしくてならないが。

 

「いよーし! これなら、とびっきりのスイーツが作れそう!」

 

 ただ、いつものエプロンがないのは違和感があるけど。チョコはちょっぴり呟いた後、早速スイーツ作りに取り掛かるのだった。

 

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