東京の某所にある商店街。その一角にバー『HOMRA』がある。ここは《赤の王》とそのクランズマン(王に特殊な能力を与えられた部下)達が日々たむろする場所であり、赤の王と関係の無い人間にとっては絶対不可侵領域のような場所なのだが、高槻シロは迷わず店の扉を開けて中に入った。
「ちわーっす。アンナちゃんいますかー?」
シロが開口一番そう言うと、カウンターの奥にいた『草薙出雲(くさなぎ いずも)』(赤のクランのNo.2。グラサン金髪タバコイケメン)が声をかけてきた。
「お~シロか。よ~来たな。アンナなら今おらんぞ」
「は?アンナちゃんいないの?完全に無駄足じゃん」
「おいそれど~いう意味だぁ?」
シロがあからさまにガックリした態度を見せると、椅子に座っていた『八田美咲(やた みさき)』(赤のクランの斬り込み隊長。バンダナスケボー金属バット野郎)が若干キレぎみに声をかけた。
「いやだってアンナちゃんいなかったらここ男ゼロじゃん。地獄じゃん。ただのモテない集まりじゃん」
「ほうほうほう。ちょっと表出ろテメェ吠舞羅のカッコ良さをその身に刻んでやるよ」
「あ?やんのかスケボー野郎。バンダナ剥いで道頓堀に流すぞコラ」
「上等だ銀髪野郎。お前の白髪全部抜いてやるよ」
額に青筋が入った八田美咲が拳を鳴らしながら立ち上がると、制止するように草薙出雲が口を挟んだ。
「ま~ま。八田、そこまでやで。シロも堪忍な」
「う~っす」
「草薙さんが言うなら、まぁ」
若い2人が大人しく手近な椅子に座ると、お互いソッポを向いて黙り込んだ。それを見て草薙出雲がため息を吐く。周りで見ていた吠舞羅のメンバーも肩をすくめ、苦笑しながらも暖かい目で2人を見る。
もはや様式美となりつつあるコント漫才が終わったところで、再びバーの扉が開いた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「ただいま~」
無口な『周防尊』と、周防尊と手を繋いだままの『櫛名アンナ(くしなアンナ)』(銀髪ロングのゴスロリロリータ)に続いて、『十束多々良(とつか たたら)』(ヘラヘラしたイケメンお喋りさん)が店に入って来た。
赤の王のご帰還である。
「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」
店にいた吠舞羅の人達が口々に「お疲れ様です」と挨拶をするが、周防尊は目線を送るだけで黙ったままバーのカウンターにドカッと座り込んだ。
「あ、尊さん。お邪魔してます」
強者には媚びへつらうことが信条なシロが座ったまま頭を下げると、吠舞羅のお喋り担当であるところの十束多々良がシロの隣に座り、気さくに喋りかけてきた。
「久し振りシロ君。元気にしてた」
「十束さん、お久しぶりです。すみません、全然行けなくて」
「いーのいーの。例の件で悩んでたんでしょ?」
「・・・はい」
「結論は出た?」
「・・・まだ、です。この場で決めようかなと思ってます」
シロと十束多々良の会話に「例の件って何や?」と草薙出雲が割って入ってきたため、シロは黙ったまま自分を見ていた周防尊に向き直り、真剣な表情で言い放った。
「尊さん。ちょっと重めな相談いいですか?」
「・・・あぁ」
シロが椅子から立ち上がる。するとシロの髪が白銀に輝き、身体全体から白銀のオーラが吹き出した。
「お、おいおい・・・」
「・・・マジかいな」
「・・・」「・・・」
「八田さん。空に!!!」
八田が大慌てで店の外に出て空を見上げ、目にしたのは白銀色の巨大な剣だった。
「・・・・・・ダモクレスの・・・剣」
王が能力を解放する時、上空に出現する剣の形をした飛行物体《ダモクレスの剣》。白銀色に輝くダモクレスの剣が出現したということは・・・。
「シロ。お前《白銀の王》やったんか」
「・・・はい」
草薙出雲が纏めると、シロは淡々と頷いた。
「シロ、どういうことだよ!」
「吠舞羅の皆さん。黙っててごめんなさい。言えば後戻りができない気がして、言えませんでした。ごめんなさい」
「どういうことかって聞いてんだよ!!!いつだ!!いつ王に成った!!」
八田がシロの胸ぐらを掴む。シロは八田から目を逸らし、十束多々良を見た。すると十束多々良は苦笑しながら手を叩き、明るい声で補足を入れた。
「はいはい皆、落ち着いて。別にシロは吠舞羅を害そうだとかスパイだとかは考えてないよ。ただシロは吠舞羅と仲良くしたかっただけ、そこは勘違いしないでね」
「でも十束さん!!」
「八田。我慢」
「っ・・・」
「ボロボロになったシロを拾ってきたのは僕だから文句なら僕に言ってね。シロは悪くないよ」
十束多々良の全フォローに、吠舞羅の全員が黙り込む。十束多々良なくして吠舞羅なしと言えるほど『吠舞羅』は十束多々良のコミュ力に救われてきたため、反論する人間はこの場にいなかった。
「それでシロ君。ここからが本題だよね?」
「はい。
・・・尊さん。俺はこの力で雄英に行くつもりなので、何かあったらお願いしても良いですか?」
「・・・そういうことか」
王権者は力を使いすぎたり力を暴走させたりすると、ダモクレスの剣が落下して数十万の人が死ぬ大災害が起こるため、シロは悩んでいた。
このまま進むべきか、留まるべきかを。
「それだけじゃないでしょ」
シンと静まる店内に少女の声が響いた。
「アンナちゃん・・・」
固まるシロと吠舞羅のメンバー。場が静寂に包まれる中、アンナは堂々と断言した。
「シロ。喋るなら全部話して。まだ隠してることあるでしょ?」
「いや無いけど・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・手を握ったから分かる」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・はい。あります。
ただ、喋るのは尊さんと十束さんと草薙さんだけにして良いですか?かなり人の命に関わることなので」
「私は?」
「アンナちゃんは、・・・危険に晒したくないし・・・」
「・・・」
「・・・・・・はい。喋らせていただきます」
シロはアンナの無言に、最後まで耐えることができなかった。
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所変わって折寺中学校の近くにある商店街。普段は活気の溢れるその場所で、今日はヘドロの身体をしたヴィランが暴れまわっていた。
「んだよ、ヒーローも大したことねぇなぁ!!!」
「クソッ、中学生を人質にとられた!」
「誰か、有効的な個性を持つ奴はいるか?!」
「かっちゃん!!!!」
流れるように、運命であるかのように。
その場にいた緑色のモジャ髪クソナードがヴィランに向かって駆け出すと、野次馬から悲鳴が上がった。現場にいたヒーローが声を荒げるがクソナードは止まることなく、ヘドロの中に手を突っ込んだ。
「君が、助けを求める顔してた!!!」
原作は忠実に進行していた。
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「これが、俺の知る全てです・・・」
ロストクリスマスと呼ばれる大災害の真実、それはダアトと呼ばれる組織によってもたらされた隕石から始まるパンデミックであり、高槻シロの実姉がバケモノとなる形で拡大したこと。
生きるために殺し続けてきたこと。
原作知識について。
自分が転生者であること。
その全てを黙って聞いていた櫛名アンナは一言、こう言った。
「シロ。シロはシロのために雄英に入った方が良いと思う」
後悔しないために。