スマイルプリキュアS   作:友だち

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(5) 選ぶべき自分の道 ③

 ハッピーが離れたことを確認したビューティは、もう一度コアソウルへ目を向けた。彼女の言う通り、対面するコアソウルにはすべて真っ黒でも認識できる眼光があった。つまり、あれがあるのが偽物で、無いのが本物ということだろう。

 これから自分がやるのは、3つだ。

 帳のコアソウルが一体、こちらへ向かい襲ってくる。筆を右腰から振り回し、彼女を打つつもりだ。ビューティは右の剣を右上から左下へ下ろし、その剣を切る。そのあと、次は剣を振り上げ、コアソウルを左右に断った。

 その奥を見る。走っておとりに使った分、コアソウルは100体以上ついてきている。

 自分の狙い通りだ。ここを離れたハッピーについていくコアソウルがいないのは僥倖というべきか。戦う前にあの緑の服に赤いパーカーを着た少女が言った《キュアハッピーは消さない》という言葉を思い返し、ハッピーがここから離れても大多数のコアソウルはここに残ると踏んだ。もしその想定から離れる、つまり大多数のコアソウルがハッピーのもとに走ったのならば、作戦におおきな変更点はないが、少々厄介なことになっていただろう。

 ビューティは左右に断ったコアソウルの一つ奥のコアソウルに向けて素早く右手の剣を突き刺した。

 自分はなぜか、氷や雪を操る力を持っている。それをなぜか、知っている。その理由がどこにあるのかはわからない。だが、自分が今すべきことは、与えられた力を使い、自分に課した役目を果たすこと。

 突き刺されたコアソウルは、前のコアソウルがブラインドとなって反応できなかったのだろう。これもビューティの狙いだ。

 ビューティは突き刺した直後、右腕の先に精神を集中させた。すると剣先から冷気とともに氷の体積が増える。いや、すさまじい冷気で空気を、コアソウルを凍らせていく。氷は波となって、瞬く間に奥のコアソウルまで押し寄せ、飲み込んだ。ビューティが剣を刺してからわずか15秒のことだった。

 自分がやるのべき3つのうち最初の1つは、偽物のコアソウルを凍らせることだ。

 まだ終わらない。いくつものコアソウルが鋭い目つきでこちらへ向けて走ってくる。それならビューティの5メートル先で止まったと思いきや、筆をこちらへ振りかぶる。リーチがあまりにも足りない。ビューティがそう思ったとたん、頭に反響したハッピーの言葉。

 ━━黒い液体には気をつけて! あれがかかったらマズイから!

 ビューティは一つ後ろに飛んだ。

 予想通り、黒い液体が筆からどろっと出てくる。

 右手にある氷の剣を前方斜め下に投げた。屋根上に零れた液体の中にギイインという強い音を立てて突き刺さった。剣の先端からは氷が現れ広がる。黒い液体どころか、さらに奥にあるコアソウルすらも飲み込み凍らせた。

 ハア。ハア。

 息切れを感じた。

 変身して数分しか経っていない。比べてハッピーたちは変身してからすでに一時間は経過している。

 もう一度氷の剣を右手に生成して、それを杖代わりに地面に立てた。左ひざをつき、十数秒息をついた。少しばかり息が落ちつき、視線をハッピーたちのもとに向けた。

 黒龍の大きな足が、家の上に立つハッピーたちの上から降ってくる。

 全員が屋根から飛ぶ。

 その途端、家は音を立てて崩れた。

 ━━早くしなければ。

 ビューティはもう一度周りを見る。

 白目を探さないと。魔物を構成する液体の大本は、本体から出ているだろう。確かに一度描き現実になったコアソウルは、一度破壊されても、もう一度描く必要はない。だがそのコアソウルがすべて拘束されたらどうなるか。

 考えを自分のなかで整理しながら屋根の上からあたりを見渡す。どこに、どこにいる。

 地面に黒龍の影に現れ、覆いかぶさる。地面が黒くなった。

 ━━もしかして黒い液体を隠している━━?

 その思考が頭の片隅でよぎった。

 その瞬間。

「ビューティ!」

 後方から、非常に聞きなれた声がした。振り向くと同時に、自分の横を通り過ぎる一陣の風。それが自分が幼いころからの馴染みである緑川なお、もといキュアマーチの声だった。

 もう一度振り向く前に、あたりを覆う影がより一層濃くなっていくのを感じた。龍の腹が自分のもとに落ちてくると気づいた瞬間、自分の後方から斜めに駆け上がる竜巻が見えた。龍の腹へ、勢いよく激突し、へこませる。

 グアアアアアアア。

 耳をつんざくような獰猛な叫び声。

 そして龍は空へまた逃げていく。そしてビューティが視線をおろした瞬間、たしかに見えた。黒い風貌の人型のコアソウルが、建物の陰からこちらを見ていた。そして足の先、道路には暗さで見えにくいが、いくつもの黒い絵が描いてあった。えの中央に立つコアソウルは、今まで自分が凍らせたものと変わらない。

 しかし、目の光は無かったのだ。

「あれです!」

 ━━あれが本体です。

 と、言おうとしたその時にはすでに雷の音が響いた。

 意外な展開で二つ目、コアソウルの本体を見つけ出すことに成功した。

 まだ薄暗い空間を雷光で明るくし、ピースがコアソウルのほうへ向かう。その軌跡は一直線ではなく折れ線を描き、コアソウルの横に回り込むように、そのまま拳を一発下へ。

 コアソウルの本体は地面にめり込むようにうつぶせに倒れた。

「いまだよ! ソウルフルパクトに気合を込めて!」

 ピースの声掛けに反応した。

 3つ目。コアソウルの本体を倒す。

 ビューティは走る。おそらく、ハッピーから帳のコアソウルを倒すことを伝えられたのだろう。とはいえ、少し手伝ってもらったこと、そして最後のとどめをもらったのは申し訳ないところだ。

 そんなことを考えつつも、まずは、地面から立ち上がろうとするコアソウルを仕留めなければ。

 右手でつかむ氷の剣を握りしめ、前に跳躍した。浮いた体をひねり、体を一回転させる。その体とともに剣も円を描く。青白い光の軌跡はまるで、宇宙を廻る彗星のよう。鋭い剣筋が立ち上がるコアソウルの左肩から右腰を斬り裂いた。

「《プリキュア・クライオゼニック・ヘソン》!」

 コアソウルの二つに分かれた身体は霧散する。地面に落ちた黒い液体が蒸発する。すると紺色のふわふわした霊魂のようなものが現れ、姿を消した。

 それをピース、マーチ、そしてビューティの3人は眺めた。

 ━━終わった。

 ピースとマーチはそういうかのように安堵した表情を浮かべた。マーチは特に疲労の度合いが強い。近くの壁にもたれかかる。同時にピースは膝をついた。マーチほどの疲れはないだろうが、普段の日常生活のせいか、疲れに対する耐性が薄いのかもしれない。

 ビューティも剣を再び杖のように地面に打ち、大きく呼吸をした。

 ━━その時。

「まだや!」

 焦燥にまみれた声で3人はハッとする。

 サニーが3人のもとによって来る。彼女もまた、両手を地面に突き、息切れをしていた。少なくともハッピー以外の4人はすでに満身創痍だ。

 ビューティは今さっき自分がコアソウルを氷の中に閉じ込めた場所を見る。コアソウルはいない。内側をなくした氷が、音を立てて崩れていく姿が見えた。

 だが。まだ終わらない。

「建物がまだ、戻っていない」

 以前に七色ヶ丘にある大きな女性はバイクを乗り回し学校中を混乱に陥れた時があった、その女性は今思えばコアソウルだったのだろう。プリキュアの噂を初めて聞いたのもその事件があった後からだ。

 問題はその一件が終わった後、学校に傷はなかったこと。壁を破壊された教室などはすべてが元通りになっていた。学校を再開する上で大きな助けとなったのだが、その現象は不思議でならなかった。しかしそれもコアソウルが倒されたことで

 龍によって壊された建物はまだ崩れたままだ。

 ━━龍。

 ビューティ以外も、全員がその思考になったのだろう。

 4人全員が上をみた。

「噓でしょ...........」

 マーチが零した言葉には少しばかり絶望を感じた。

「ああ。まだなんや...........」

 サニーも現実を認めたくなさそうに呟いた。

 太陽の円の中にいる黒く長い動物。黒龍だ。コアソウルの本体を倒してはずなのに━━。

 ビューティは数秒後にやってくる彼女の言葉を聞くまで、空に浮く龍を睨むことしかできなかった。

 

 

 

 私は一度龍に近づけないかと試し、下に光線を放ち、体を浮かせた。

 去年の七夕あたりのころ、ジョーカーに連れ去られたキャンディを助けにバッドエンド王国へ足を踏み入れた時のことを思い出す。思わずマグマのところへドボンしそうなところを《ハッピー・シャワー》を真下に放ち、落下を防いだ。

 その経験があってか、この方法を思いついたのは難しくは無かった。

 が、龍に近づいたところで何ができそうなものかを完全に考えていなかったのは、私の大きなミスだった。発射されたロケットのように上昇する体は、龍にしがみつくことで止まった。

 半径7メートルはありそうな龍の丸い背中にまたがり、考える。

 その間にも龍は上昇を開始した。

 背中から落ちるように体が崩れ始める。

「うわあああああ」

 とにかく、私は龍の体を掴み、悲鳴を上げながらも落下を防ぐ。風をきり、ひたすら上空へ。何十秒か経ったのち、私はおなかが地面にたいして平行になった。

「ぶへーーー」

 と自分でも情けないとわかる声を出して安堵した。ちらりと下を見る。

 町が小さく見える。上空何キロだろうか。私は自分の家がある場所と七色ヶ丘中学校がある場所を眺めながら考えた。地平線には海に沈む太陽も見える。私はかつてないほどの上空からこの世界を眺めている。

 ピエーロとの最終決戦では、いまにも地球を飲み込もうとする巨大な闇と化した皇帝へ向かい宇宙へと羽ばたいたこともあるが、あの時の状況では下を見る余裕などなかった。

 ”今私がいる世界”を見ながら私は考える。私はこの世界に来て何をしてきた。顔をおそるおそる横にずらし、真下を見る。一部分だけボロボロになった場所があり、そこが私が戦っている場所だとわかる。その場所に目を凝らすも、さすがにビューティたち四人の姿は見えない。今4人の救援は望めないことを直感的に悟った。

 では今自分にできることは何だろうか。私は上を見あげた。

 ふと、空はすでに暗さを増していた。小さな星が一つ一つ瞬いている。

 地球から見たら一つの屑が光っているようにしか見えないが、本当は逆に地球が豆粒になるくらいの大きさの星から気が遠くなるほどの距離を旅した光が見えているらしい。

 私も《旅》をしているというのではないか、と考えた。

 ”今私がいる世界”は私が14年以上過ごした”あの世界”とは全く別の世界だ。見た目は同じでも、私が知る未来とは別の道を歩む、未知の世界だ。そう考えれば、この世界は、私がかつていた世界からはるか彼方にあるような気がしてならない。

 今、私を産んだお母さんや、そのお母さんと結婚したお父さんはどうしているだろうか。バッドエンド王国と共に戦った仲間は何をしているだろうか。突然いなくなった私を心配して日々眠れない日々を過ごしているのだろうか。そう考えれば胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に陥ってしまう。早く戻らなくては。数々の思い出が浮かび上がり、懐かしく思う。これが郷愁の念というものなんだろうか。

 転校直後で不安だった私を助けてくれたこと、落ち込む私を励ましてくれたこと、勉強を教えてくれたこと。

 毎日私のためにお金を稼ぎ、毎朝私を起こし、ご飯を作ってくれたこと。

 胸の中に思い浮かぶ人物のすべてが今の私を形成するのに必要不可欠だったのだ。

 だけど、この世界の人には、私の影響など些細なものなのかもしれない。

 そう考えとたところで、私はすぐにかぶりを振った。

 ━━違う。はるか遠くにある私の故郷にいる人など、この世界の人にとっては星屑に感じるだろう。しかし、かつて近くにいて、触れ合った私はそうではない。一つ一つが太陽のような輝きをしている。それが合わさって遠くにある暗闇も照らす星空となるのだ。

 その彼方からの光の集合体とは、私だ。《星空みゆき》。おばあちゃん、お父さん、そしてみゆきと繋がる私の苗字と重なった。

 端から見れば単なる偶然と思うような私の思考も、私はそれを運命と感じるような子どもなのだ。

 と、考えたところで見上げたところどころ星が瞬く黄昏がぐらりと歪む。私はまたがった黒龍の動きにより、体が横に倒れる。

「あ、あ、あ、あああああああああ」

 さっきまでもの思いにふけっていた私は反応できず、龍の体から離れる。そのまま一直線に落下していった。

 

 

 

 地面に落ちたことで、一瞬意識が飛んだ。気が付けば目の前は暗闇に覆われており、自分の頭が地面に埋まったことを理解した。

 両手で地面を押さえ、「ぐうううう」といいながら頭を抜こうとするがなかなか抜けない。

「ちょ..........っと待ってな」

 姿は見えないがサニーの声がした。そのまま足を持たれ、《かぶ》のように引っこ抜かれることで私は助かった。

「助かった。ありがとうーー」

 私はサニーにお礼をいった。そして周りをみるとどうやら、5人全員がここにいるようだ。アスファルトの上で固まっている。

「どうしたの?」

「実は、コアソウルを倒したんだけど、あの龍が消えなくて」

 ピースが俯きながら、私にぎりぎり聞こえる声で呟いた。

 あたりを見渡すと、コアソウルを作っていた黒色の液体は見えない。きっと帳のコアソウルの本体を倒したのだろう。私は空にいたけど、おそらくビューティがやってくれたのだ。

 だけど、黒龍は消えなかった。ビューティと話した《画竜点睛》という話はこうだ。帳が龍の絵に眼を描きいれたことで、龍が絵から飛び出し、そこで物語が終わる。自分の分身である人型のコアソウルと違って、龍は実際に作中で描いたものだ。うまく理屈をつけて説明はできないまでも、そこに本体が消えても、龍が消えなかった意味につながるのだということは予想できた。

 だけど、終わりの見えない無限に感じる時間を戦っていた分、もうすでにあの黒龍を浄化すれば終わる━━というところまできたのだ。

「大丈夫だよ。あとは上にある━━」

 龍を倒せばいいよ。

 そういいかけたところで、私は、私と4人の温度差をひやりと感じた。

「私たちにあれを倒せるでしょうか」

 ビューティは不安げな瞳を向けて、私に尋ねる。

 私たち全員が満身創痍だ。体やコートに傷がつき、息も切れ切れになっている。

「私たちはもう限界だよ」

 マーチがいつのにか膝に手をつきながらこちらを向いた。

 サニーもピースもこちらを向く。脳裏にちらついたのは、七夕の日のこと。キャンディが攫われ、助けに向かうも、道中のメルヘンランドに現れたジョーカーに完膚なきまでに叩きのめされた。私たちは一度絶望を味わい、それでもキャンディを助けに行くか迷った。もしかすると行って負ければ、自分たちは日常に戻ってこれないかもしれない。そんな最悪に近い可能性と向き合いながら。

 ━━私の意志は、願いは、そこから決まっている。

「ううん。私は戦うよ」

 私の最悪はこのまま逃げて、町の破壊をただ見ていることだけ。黒龍の暴虐を見過ごしながら、仮に”前の世界”に戻ったとしたら、私はみんなに顔向けできるだろうか。そう考えれば、私は背筋が凍死してしまうほどに冷えた。

 だけど、私一人であの黒龍を打ち負かせるかはわからない。

 みんなが不安になのも理解できる。

 でもこの5人で力を合わせることができれば、きっと大きな力になる。私はふと、そんな確信が心の中にあることに気が付いた。だって、”前の世界”でもそうだったからだ。

 バッドエンド王国でピエーロと初めて戦った時、私たちはその強大な力に蹂躙された。でも諦めなかった。その願いが奇跡を呼び、私たちは新たな力が目覚めたのだ。だから”この世界”でも大丈夫だ。

 そう考えれば、自然と笑みがこぼれる。

「でも、私だけじゃなくて、みんなにも戦ってほしいんだ。5人で戦えば、勝てるよ。どんな不可能だって、可能にできるんだよ!」

 私が静かに語り始めた言葉は次第に熱を帯びていく。

 これは憶測じゃない。確信だ。

 なんとかなる、という妄信ではない。

 私が”この世界”に来て、変身した日の夜。5本のラインが入ったソウルフルパクトに向かってこの世界でもプリキュアが揃うと考えた。そして幾たびの奇跡を超えてここに来たのだ。もしかするとそれは奇跡なのではなく、運命なのかもしれない。私が”この世界”に来たのは、この5人で、この世界を救うためだったのかもしれない。

 何から何まで憶測をすることのできない今の中で、5人のプリキュアが生み出す強大な力と絆だけがなぜか信じれらた。

 すると、ビューティの表情が緩んだ。一度閉じた瞳は、穏やかな光ともにもう一度私に向けられた。

「ハッピーは少しばかり強引なようです」

「━━え..........」

 心外、と一瞬思い自分の顔が引きつるのを感じた。

「でも、それもいいかもしれませんね」

 ビューティは私の目の前まで来て、ふと私の右手を握る。

 どうして、と聞く前にそのまま私の前にその手を無理やり移動させた。

「そうやってハッピーに頼まれるとなあ」

 サニーが立ち上がり、照れくさそうにも頬を緩めながら私とビューティをつなぐ手に重ねた。

 その直後にピースが立ち上がる。そして私に向かい言葉を出した。

「ハッピーは私を導いてくれた。私にとってヒーローは何なのかを考えるきっかけになったんだ」

 そして、サニーの手の上へ重ねた。

 最後は、5人のなかで特に疲れがあったマーチだ。だけど、彼女の表情と覚悟はもう決まっていた。

「ハッピーがこなければ、あたしはただ家族を脅かす怪物にただ震えるだけだったかもしれない。だから、ありがとう」

 私がよく知る、凛とした笑みで、重なる四人の手の上に自分の右手も重ねた。ビューティに握られた私の手はいつの間にか解放されていた。その代わり、私の上に4つの手が連なり、重力による重さ以上に彼女たちの手がのしかかるようだった。

 そして私は全員の言葉をかみしめるように頷き、叫んだ。

「行こう。みんな!」

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