すでにあたりは暗闇の中だ。
太陽が沈み、空には星々がちかちかと瞬いている。
その暗闇を覆い隠すように空を駆ける黒龍の姿があった。私はそれを見上げる。高度数キロ先を飛ぶ巨大な龍は、星の光を遮る。その光景を探しながら私たちは龍を探す。
5人全員で闇に沈む街を駆ける。人の営みの証たる文明の灯は、近くにある電灯含め消え去っている。
「私はあそこに行きたいんだけど」
空を飛びたい、という私の願いを全員に伝える。
「それはうちもや。でもどうすれば━━」
ピエーロとの最終決戦ではあたりをビュンビュン飛び回っていた記憶があるが、いまのところそんな力はない。ハッピーシャワーをロケットエンジンにして空を飛ぶことなんて、それに比べたらお茶を濁すに等しいだろう。
「まさか。さっきみたいにやるつもりとちゃうんか」
「いやあ。あれやってもなにかできる気はないし━━」
先ほどの空の旅を経て、改めてその結論にたどり着いた。
だけど、あの空を駆ける龍にたどり着き、何かを起こす必要がある。
そのことを間違いなく理解しているのはビューティだ。彼女なら━━。
「降りてくるのを待ちましょう」
と、自分にとって意外な回答が投げられた。
「な、何で」
「あの龍が私たちを攻撃する気にさせます。そこに最大出力であの龍を打ち倒します」
非常に現実的。そう感じた私は「わかった」と答え頷く。
「でも、どうやるの?」
ビューティの隣で、ピースが怪訝そうな声を出した。
「まず私たちの存在を龍に知らせます。この暗闇の中、あちらも私たちを探しているのでしょう。せめてこちらに灯りを灯せれば━━━━」
その途端。サニーが立ち止まる。
「ちょっと?」
マーチの静止に耳を傾けずに、サニーは握った拳を自分の肩の横側に持ってくるように腕を開く。
「ふうう..........どりゃああああああああ!」
一つ息を吸い、そのまま叫んだ。すると胸から大きく炎の渦が現れ、サニーを包む。そのまま上のほうへ、柱となって伸びていった。
その灯と熱に包まれながら彼女を数秒見ていると、自分たちを貫く獰猛な気を感じた。
サニーが照らした灯りが、あの黒龍の気を引いたのは言うまでもない。
上空を見上げると、星空を覆いつくす闇は次第に大きくなる。サニーの光により、真っ黒い顔が姿を現し、こちらへ向かって牙を向けてくる。
炎の光と、熱が消えた。
私はふとサニーに視線を向けた。
彼女は左ひざをついている。暗い中表情は見えにくいが間違いなく、サニーは苦悶の表情をしていた。
ビカリと空気が震え、ピースが彼女を抱き助ける姿が見えた。
私はそれをみて、安心感と共に空に跳ぶ。半壊した屋根の上に立つ。隣にマーチとビューティが立つ。そして私は空に大きなハートの円を描いた。
すると、この世界ならざるエネルギーがマゼンタの光を帯びて私の目の前に集まっていく━━。これが私の最大出力━━。
「ハッピー前!」
マーチの焦った声が耳に届いた。
「え」
集中が途切れ、目の前のエネルギーは霧散した。集まった光が遮っていた視界は、黒龍が長い胴体をくねらせ、こちらへ向いている姿だった。そして、龍は自分の口を大きく開き、闇を詰め込んだような黒い塊を用意していた。
「━━あ」
気づけば、私はマーチに抱えられていた。
マーチの脇下で捕まえられていた私は、後ろ側で爆発が起きたことを感じることしかできなかった。建物内にあった電気か、摩擦などから生じた熱か。後ろからすさまじい熱を足元から体を覆う。音も私のみみをおかしくするくらいうるさかった。
私は、マーチの着地の後解放された。そして黒龍に目を向ける。
闇夜をさらに黒く染める龍は、口から放った攻撃をよけられたことをなんとも思わないかのように、ぎょろりとこちらに向きなおした。
ふと龍から見慣れないものがあった。ものではない、人だ。あの━━蒼海のような長髪は。
「「ビューティ!」」
二人で声を重ねた。黒龍の頭の上にはビューティが立っていた。周りが爆発により燃え、鼻を刺激するようなにおいの中、確かに彼女は私たち二人を見上げている。
とたんに龍は上昇を始めようと、顔を上のほうに向ける。ビューティはぐらりと体制を崩す。しかし、雪のように美しく麗しい手を伸ばし、龍の頭部に二つくっついている、鹿のような角にしがみついた。
左目の上のでもがくなにかに不快感を感じたのか、龍は雄たけびをあげた。
耳を塞ぎたくなるも、なんとか龍に喰らいつくビューティを思い、この手で何かできるのかを考える。だが何も思いつかない。そればかりか、さっきなにもできなかった私のように、ビューティも何か変化を起こすことはできず落下するしかないのではないか。
そう考えたその瞬間、顔に水滴がついた。その水は雨や生活用水などではなく、ビューティが作った氷が融けたものだと、考えることなく確信できた。彼女にはなにか策があるのだ。
パキパキパキ。
凍り付く音が聞こえる。龍の頭の頂点から氷が見える。ビューティが龍の頭頂から氷の檻をつくろうとしているのだ。すぐの龍の目が氷で覆われた。いま、目の前の怪物の視界は、ゴーグルなしでプールに入った時に近いものになっているはずだ。
つまり、龍の雄たけびの理由は頭上から凍らせられるからだ。
龍の動きはしどろもどろになる。それでも次第に空に上がっていく。ゆっくり、ゆっくりと。
━━今はビューティが作ってくれた時間。ここを逃したら。
私はそんな思考が遮る。今最大出力の力を撃ったとしても、ゆらりゆらりと揺れ動きながら上昇する龍にあたるかわからない。しかも、龍の上に乗る彼女を気づつけてしまうかも。
私はそんな思考を断ち切るかのような声がした。
「ハッピー! マーチ!」
そこにはピースと、ピースに背おわれているサニーの姿があった。ピースは私を呼んだあと、自分の肩から顔を出すサニーに視線を向けた。
「マーチの脚力でハッピーを空へとばすんや..........」
消えていく蝋燭の明かりのようにかすんでいく声は、一刻の猶予も残されていないことを示す。
「━━え?」
私は具体的な手段がわからずに茫然とした。
「ハッピー。龍のほうに向いて5メートルくらい跳んで!」
するとすぐにマーチの声がしたので、私はお腹を龍に向けて跳んだ。ふわりと体が浮く中で、龍のしっぽが完全に地面から離れているのを見た。上空数キロ上空まで飛翔する龍の先端たる頭はもう(私のガバガバな目測で)上空200メートルほど。
跳んだ体が空中で地面に浮くまで、少しばかりこの方法に疑心暗鬼だったが、時間は無い。必死に考えてくれたこの方法を信じようと下を向く。すると「ええっ」と声を出さずにはいられなかった。
マーチは地面に背をつけている。しかし、腰下は地面から浮かせている。そればかりか足を私のほうへ向けている。その意図を理解した私は足を固定した。
ヒール同士がくっつく。その後、私はマーチの体のほうへ沈み込み、そして跳んだ。上空へこれ以上ないくらいの速度で龍めがけて跳んでいく。ここで一発与えて、あの龍を撃ち落としたいが、私はどうすれば━━。みるみるうちに龍に近づいていく中で、私は一つ感じた。
いや。このままぶつかろう。
私は体へ力を入れる。そして、私が”この世界”で最初に戦ったシンデレラのコアソウルの時みたいに、龍の頭へ、正確には顎下に命中した。
ガゴーーンという音が体の内外で響いた。痛いがまだ終わりではない。
私に当たり、龍はのけぞる。私も龍に当たった衝撃で、よろける龍の3メートル上空で止まった。顔を裏側を空に向けるのが見えた。その奥に間違いなくビューティが━━。
「ハッピー!」
角にしがみつきながら、体を起き上がらせ、《龍の顎下》の上に乗る姿が見えた。私たちは視線が合う。意図も合った。
私は空に光線を放ち、下へ舞う。一度頭が下になったが、今度は体をぐるりと前側へ、おもいきり回す。そのまま私はかかとと落とす。
ビューティもかかとを龍の顎へ落とす。
完璧なタイミングで落とされた二つの足は強大な雷のようになり、龍を落とした。
「今です!」
そしてビューティの声が聞こえた。
私はうなずき、持てる力のすべてを使った。
「気合いだ気合いだ気合いだ気合いだ気合いだ気合いだ気合いだーーーーーーーーーー!」
力の限り叫んだあと、力を絞り出すように、空にハートを描く。桃色の軌跡は膨れ上がらず、そのまま小さな光の粒となった。
━━フシギだ。
私はなぜか知っているこの技名を叫んだ。
「《プリキュア・スターダスト・ライト》!」
光の塵はきらきらと光りながら、ハート型の渦を描くように、私が描いた軌跡から離れていくも、そのまま一つの生き物のように龍に襲い掛かった。
「いっけえええええええええ!」
地面に落下した黒龍に、一つ一つの光の塵があたる。それの呑まれた黒龍の体は融けていった。地面に黒い液体が散らばるも、蒸気をだして、またたく間に消えていった。
私はふと視線を感じる。それはちょうど落ちていく私と同じ高さにいるマリの姿だった。
よほど意外だったのか、スカーレットのマニキュアが目立つ手で口元を押さえていた。彼女は「噓━━」と言っているように見えた。
その後私は、サニーにキャッチされた。疲労が限界のなか、落ちる私を助けてくれた彼女に感謝しつつ、温かい腕の中で見えたマリは、この前のジラと同じように黒い空間への丸い扉が開き、そこへすっと消えていった。その穴も消えた後、電灯が私の視界に入る。
激しい戦いも終わったのだ。町はすでに元通りになっていた。
私たちは戦いを終え、変身も解いた。戦いの余韻が残る中、無人の商店街に一時的な静寂が訪れた。街の人々が安心して戻ってくるまで、私たちはほんの一瞬の休息を取ることにした。しかし、疲労感はすでに頂点に達しており、体が重く感じられる。20分ほど全員が座り込んだり、寝そべったりしている。
「ああーー。このまま眠りたい……」あかねちゃんが大の字で仰向けに転がりながら呟いた。その気持ちは私たち全員が思っていることだろう。
「だめだって。道端で寝ころんじゃ迷惑だろ」
「それをいうと、なおちゃんも道の真ん中で座りこけてるけどね。まあ私もだけど」
やよいちゃんが笑いながら言う。彼女もなおちゃんも道に座り込んでいる。その姿を見て、私も思わず頬に手を当ててひんやりとしたアスファルトの感覚を確認した。
「そろそろ帰ろうかな」
私は弱々しく口走った。その言葉には自信がなかった。
「その姿勢でどうするんですか?」
れいかちゃんが電柱を背もたれにして座り込んでいる姿勢から、少し驚いたように反応してきた。彼女の冷静な視線が私を見つめている。
「うーん、そうだね……やっぱもうちょっと休憩しよう」
と私は苦笑しながら答える。体がどうしても動かないのだ。
「じゃあ私の話を聞いてよ」
私はうつぶせになった体を起こし、女の子座りをした。
れいかちゃん、なおちゃん、やよいちゃんの3人は一斉にこちらを向く。あかねちゃんも私と同じように体を起こして、あぐらで私に正対していた。
それを見て、私は話し始める。
「私はこれまでずっとこの瞬間を待っていたの。5人のプリキュアが揃う瞬間を」
「そうやろうな」
だからこうして、みんなで向き合い、言葉を交わすこの瞬間が愛おしく感じる。
「あかねちゃんのにはいつもみんなのことを考えてくれて、私たちの心を温かくしてくれる。やよいちゃんの勇気と正義感にはいつも助けられてるよ。なおちゃんの強さと家族への愛が私たちを支えてくれる。そして、れいかちゃん。れいかちゃんの知恵と冷静さが私たちを正しい方向に導いてくれる。それぞれが持っている力や思いが一つにまとまることで、きっと私たちはもっと強くなれるんだ。
これまでの戦いで、私はずっと思っていたの。私一人じゃなんとかならないって。でも、5人揃った今なら、どんな困難も乗り越えられる気がするんだ」
私の言葉に、あかねちゃんが力強くうなずき、なおちゃんも真剣な表情で耳を傾けている。
「これから先、どんなに厳しい戦いが待ち受けていたとしても、私たちが一緒にいる限り、絶対に負けない。お互いを信じ、支え合い、励まし合いながら進んでいこうね。みんながいてくれるから、私はいつでも全力で頑張れる。みんなも同じ気持ちでいてくれるって信じてるよ」
やよいちゃんが少し照れたように微笑み、れいかちゃんは静かに頷く。私はさらに言葉を続ける。
「そして、私たちがプリキュアである理由、それは大切な人たちや街を守ること。この街の平和を守るために、これからも一緒に戦っていこう。誰か一人が欠けてしまったら成り立たない。だからこそ、5人揃っている今が本当に心強いんだ。どんなに厳しい戦いが待っていても、みんながいれば絶対に乗り越えられる」
4人は力強く頷いた。彼女たちはそれぞれの手を取り合い、心を一つにした。そして、新たな決意を胸に、未来へと、心で一歩踏み出していった。
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