スマイルプリキュアS   作:友だち

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(8) 私の居場所 ③

 夢を見ていた。

 ヒオリは、城の中にある自室のベッドの上で目覚めた。

 木製のダブルベッドに敷かれた、白い敷布団の上で目覚める。

 外から見れば異空間に浮くこの城は、大理石で作られた巨大な城に見えるだろう。しかし、彼女の寝室は、外見に似合わないものだ。部屋の内壁は白色だが、石ではなく、横に線が入った塗り壁だ。床は木材だ。

 夢の中で見たのは、誰か男性と小さな子ども━━のはず。記憶の中で躍動する暖かい風景は、川に流れるようにあっけなく消えていった。ヒオリは所詮夢だと思い、部屋から出る。

 今日は私の当番だ。コアソウルを”あの世界”の七色ヶ丘に出現すること。

 しかし、その前にせねばならないことがあった。この空間は地球上ではないが、自分たちは決まった時間に寝て起きるので、さっき起きてから、寝るまでのこの時間を今日としよう。

 ヒオリは今日睡眠から目覚めたらしたいことがあった。

 最近、仲間ふたりの様子がおかしい。マリとジラの間に異変がおきていた。最初はちょっとしたことかと思っていたが、意外とそうではないらしい。二人とも互いに口を聞くことを見るのがなくなっていった。それを気にしたヒオリは、二人と話をしたいと思っていた。

 白を基調とした廊下は、静寂と冷たさを漂わせていた。天井は高く、アーチ状の石造りが連なり、その白い石は時間を超越した冷たさを感じさせる。壁は厚く、白く磨かれた石材が一面に広がり、反射する光が淡く光る。

 床は白い大理石で覆われており、歩くたびに響く硬い音が廊下全体に反響する。

 しばらくして、ジラの部屋が見えてきた。

 ドアをノックすると、中から「どうぞ」と小さく無機質な声が返ってきたので、ヒオリは迷わずドアを開けた。

 部屋の床と壁の素材と色はヒオリの部屋と同じだった。しかし、ヒオリの部屋と違うところは、青いカーペットが敷かれていることと、地球地図が壁に貼られていることだ。小学生の部屋を彷彿とさせ、ヒオリは懐かしくなった。

 部屋の隅には小さなベッド。そして木製の机が置かれている。その前には深緑色のキャスターチェアがあり、ヒオリに背を向けジラが座っていた。彼は読んでいた本を閉じ、机の上に置く。

「なんでしょうか」

 眼鏡がかけられた童顔がこちらを向く。それと同時にキャスターチェアの向きも変わる。

 ヒオリは部屋に入り、ドアを閉める。腕を組んでドアにもたれかかる。

「ねえ。最近マリと何かあった?」

「いえ、何もありませんよ」

 淡白に帰ってきたその表情に、マリは白を切るようにも、本当のことを言っているようにも見えた。

 何もなかったのならばそれでいい。何かがあった時の対応は正直面倒だ。それに自分の思い上がりだった場合、ジラたちに━━━━。

「私の勘違いならいいけど、最近マリとあなたの会話が無さ過ぎるんじゃないかしら」

「━━そうですか? 今日話しましたけど」

 ジラの目は一度開き、心外だというかのように答えた。その眼は噓は言っていないように思えた。

「そうなの」

「はい。それも今日。ヒオリさんが爆睡していたのが悪いでしょう」

「……まあ。それはそうね」

 自分の当番ではない日の朝は貪るように惰眠を繰り返すヒオリ。起きた時間は、地球の時間で12時頃だ。

 自分が寝ている間に、見たところないように思えた二人の会話はあった。ジラは言う限りでは二人の関係に問題は無いとのこと。

「ちょっと手伝ってほしいことがあると言ったら目の色を変えて飛んでいきました。ちょうど他のこともしたかったので良かったです」

 だからこそ、ヒオリは問題だと思った。

「……ジラ。マリのことは考えた?」

 そうジラに問う。教え説くように、新しい視点を与えるようにヒオリは切り出した。

「え? マリさんは僕の提案に二つ返事で了承しましたよ。あの人がやりたいっていって、僕もやってほしい立場でした。それで十分じゃないですか」

 やはりジラは分かっていない。ヒオリは思わず、ジラの愚かさにため息が出そうになるが、なんとか飲み込む。

「最近のマリ。どういう状況か説明付く?」

「そうですね。失敗続きで大変そうですかね。それで挽回に夢中な感じがします」

「そうね」

 ヒオリは左脇に入れていた右手をジラに向け、両手に上にして差し出した。言葉を続ける。

「だけど、今マリって少し挽回することに夢中になりすぎじゃないの? それで余裕を失っているじゃないの」

 ジラは無言のままだったが、眼鏡の奥で目が少し見開いたのが確かに見えた。

 少し悟ってくれたのだろうか。ヒオリは少し安心するのを感じた。

 だったらこれ以上話す意味は無いと思った。

 ヒオリはそのまま部屋を離れることにした。もたれかかっていたドアを開けて白い廊下へ出た。

 ドアを閉めてふと考える。

 どうして自分はこんなことをしたのだろうか、と。そして自分が”あること”をやろうとしているのはなぜだろうか。

 自分の身体、そして魂のことについては分かっているつもりだ。

 なのにどうして━━━━?

 

 ***

 

 マリはイライラをしていた。

 それは”この世界”で数か月前のこと、自分がプリキュアを、正確にはキュアハッピー以外の4人を消し去ろうとしていたが、失敗した。そればかりか、キュアハッピーが押さえていた他4人を完全復活させてしまったのだ。

 あの日からマリは自分に対する怒りが収まらなかった。

 その後、あれやこれやとコアソウルを使ってプリキュアを倒そうとしたが無駄だった。自分の中では最もプリキュアを追い詰めたのは、帳のコアソウルを使った時だった。

 最近、自分の持っている自信が壊れていくような気がした。

 だから今回は死力を尽くそう。

 そう考えマリはあることを考えた。

 

 ***

 

 私たちは桜の木の陰に隠れて、桜の木が囲む広場から人がいなくなったのを確認した。

 と同時に大きさは5メートルはありそうな、黒い怪物が広場近くの森の中から現れた。もちろんコアソウルだ。体が大きくて、木の隙間を通ることはできていなかったので、強い力で木の幹を手で押しのけていた。

 桜の木はオオシマザクラでできた根本ともども地面から離れ、ぱきぱきと幹が割れる音とともに倒れていく。私たちがさっきまで見て楽しんでいた木々が一瞬で死んでいく。

 コアソウルの前に私たちは進む。この横暴を決して見逃すわけにはいかないのだ。

 私は、私たちは、ポケットからソウルフルパクトを取り出す。それぞれのパクトには、各々違う色のラインが入っていて、一人一人の魂の色の表しているようだ。

「みんな。いくよ」

「「うん!」」

 私の合図に、4人から返事が返ってきた。

 5人で力強く変身の合言葉を叫ぶ。

 

 プリキュア・スマイルチャージ!

 キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!

 太陽サンサン熱血パワー! キュアサニー!

 ピカピカぴかりん、じゃんけんぽん! キュアピース

 勇気リンリン直球勝負! キュアマーチ

 シンシンと降り積もる清き心 キュアビューティ!

 

 ビューティが変身が終えた。

 ”前の世界”ならば、

 

 五つの光が導く未来! 輝け! スマイルプリキュア! 

 

 と名乗る。こういう合言葉があったことは伝えたが、私はこの合言葉は”前の世界”のものだけのように感じてならなかった。とはいえ、プリキュアひとりひとりで見た時の名乗り文句は変わらないため、どうしようかと相談した。するとみんなは、個人の名乗りは今のままでいい。逆に”この世界”でそういった合言葉はまた考えようとしていた。が、半年経ってもうまいこと考えられていない。

 そんなことを一瞬で再確認して、コアソウルを見上げた。

 黒い人間の巨体。黒塗りされているようだけど、麻や綿で作られたような質素な服装。顎下に伸びる髭。頬にはハの字に伸びる線━━皺だ。

「昔話のお爺さんだね」

 私はまずそのことを伝える。

「そのようですね━━━━」

 単なる見た目で判断できることなので、このことはみんなも見当がついているようだ。しかし具体的にどの物語かは私が調べないと。この前、中国の逸話から出てきたコアソウルは、私がよく知らないものだった。それを防ぐために、少しずつ絵本になりにくい(ように感じる)中国の本も読むようにはしているが、これまでその努力が実を結んだなと感じることは一度もない。

 しかし、このおじいさんの風貌からして多分━━日本の人がモチーフだと思うから心配はないはずだ。

 そう考えていると、5人とコアソウルの後方上空に、少女の姿があった。もちろんコアソウルを生み出している誰かだろう。目をこらしてみてみると印象的な赤パーカー━━マリだ。

「でも様子が変だね」

 顔がこちらを向いていない。いつも通りエア椅子に足を組んで座っているが、スマホは触っていなかった。その代わりに左手は右の脇下に、右手は顔下を掴むようなしぐさを入れていた。何か考え事をしているのだろうかな。こちらに意識を向けているとは思えなかった。

 するとサニーが一つ提案した。

「ちょっとマリのほうに声をかけてみようや。様子見で」

 サニーは両手をイヤホンの形にして叫んだ。

「おーーい。お前何しとんねん!」

 ビューティの反論が聞こえた気がした。

 大声の関西弁に呼びかけに、マリの体はぴくっと震わせた。

 するとマリは右手を自分の顔から離し、こちらを向いた。そしてすっと椅子ごと移動していくように、身体を平行移動させてこっちに向かってきた。

 次第に鮮明になっていくマリの顔は普段のあざ笑うかのような笑顔、または面食らったような驚きの表情ではない。余裕がない緊迫した雰囲気が見て取れた。

「確かに、いつもと様子が.......」

 ピースも異変に気が付いたらしい。

 マリは訴えるように私たちに問い詰めだした。

「ねえ。マリってすごいと思う?」

 顔を私たちめがけて突き出してきた。その表情は明らかに作り笑いで、余裕がなさそうだった。

 5人は少し黙った。予想外の質問に少し止まった。

 だけど私たちは少し顔を見合わせて、お互いの考えが一致したことを確認した。代表してサニーが答える。

「んなもん。うちらはそっちのことなんも知らんし、わかるわけないがな」

 その返答に、マリは前にだした顔を大きく項垂れた。私たちは後彼女を見上げるような立ち位置にいるけれども、マリの顔は見えなかった。より深くうなだれる顔に、私は何か嫌な予感がした。

「そう。だったらマリがすごいことを━━━━見せてあげる」

 顔をこちらに向けた。より必死な表情が見えた瞬間、私の予感は確信に変わった。

 コアソウルが大きくうごめいた。

 左手から何かが現れた。楕円形の浅いバスケットのような形をしていて、竹で上下に編まれたような形をしている。()だ。おばあちゃん家の近くの人が農作業で使っていたのを見たことがある。

 コアソウルは右手で、箕の中に入っている何かを掴んだ。そしておもむろにこっちに投げるようなしぐさを見せた。

 ぼわっという音が聞こえた気がした。灰色の粉、まさしく灰が私たちの前に舞った。コアソウルの司会をくすんだ色が多い、見えなくなった。

 と、今の状況を確認した途端。黒い影が私たちの前に現れた。

 私たちは驚くと同時に後ろに跳んだ。黒い姿━━すなわちコアソウル━━は自分たちとの距離が離れていくと同時に、その姿が朧げになって消えた。

 この白い視界の中、辺りが全く見えない。ふと右を見た。ビューティまでの距離は3メートルはないと思う。それでも鮮やかなブルーの髪は白くかすんでいた。

「とりあえず! 灰の中から離れよう」

 ピースは叫び、後ろを向き走り出す。私たちも続く。

「それにしてもサニー。すぐに攻撃すればいいんじゃなかったんですか? コアソウルに」

 走りながらビューティが、サニーを問い詰める。

「す、すまん……」

 変に考えてしまう癖がこの世界のキュアサニーにある。客観的にみたら考えものかもしれないが、”前の世界”では浄化技を考えなしで放ったことがたくさんあるので、正直私は責めにくい。

 走り続けてあたりのスモークが薄くなった。これなら突然コアソウルが現れても簡単に対処できる。

「ここはあたしが━━━━」

 マーチが真っ先に煙が濃いほうへ向きなおる。自分の右足を地面から離した。そして足を目いっぱい伸ばし、右から左へと振った。

 若緑色の風が前方へ広がるように駆け抜ける。灰の中を押しのけるように進む。白くくすんでいた景色は増えていく。次第に煙が薄くなっていった。

「おおーーー」

 私は思わず声を漏らす。

 大きくて黒いコアソウルが、広場のほぼ中央にいることが見えるようになった。

「でも、あいつなんか持ってるで」

 サニーの言う通り、コアソウルの背中には直方体の箱のようなものを背負っていた。そこから柔軟性のある管がコアソウルの手元へ。手元からは真っ直ぐに2メートルほど伸びている。コアソウルは銃のトリガーを持っているようにチューブを掴んでいた。私は、コアソウルの後ろはタンクで、持っているチューブから何かを発射することがわかった。

 すぐにカチっという音が聞こえた。すると管の先端から、灰のように濁っていない、綺麗な白い煙が現れた。ひときわ太い円筒状のものが取り付けられているのが見えた。多分、ノズルというものだろう。ノズルによって、管から出るものが放射状に発射されるようになっているのだと思う。

 するとコアソウルはこちらへ管を向けてきた。

 危険を感じ、私たちは横に避ける。私、ピース、ビューティが左へ。サニーとマーチが右へ。

 そしてコアソウルから吹き出すように火炎が飛び出た。淡い黄色から渦巻く紅色になり巻き上がる。炎の壁ができて、サニーとマーチの姿が見えなくなる。炎によって空気が歪んでいるように見えた。同時に凄まじい熱気が私たちに突き抜ける。

「熱い……」

 ビューティが苦悶の声を露わにし、よろけた。氷を変幻自在に操るビューティ。だけど氷は火によって融けてしまう。それをあらわすかのように、熱はビューティ自身も得意ではないんだと思う。

「大丈夫?」

 隣にいたピースが倒れかけたビューティを抱えた。

「私は問題ありません。ですがあれを━━━━」

 ビューティがふと右手と、人差し指を伸ばした。

 私は振り向く。

 炎は広場の外へ、つまり、桜の木々に襲い掛かっていた。

 桜の木々が燃え上がる様は壮絶だった。美しい花びらが鮮やかな火に包まれ、桜の木全体が赤々とした炎に覆われる。細かな枝がパチパチと音を立てて燃え、幹は黒く焦げていく。

 今日私たちはお花見に来た。私が”あの世界”に戻るとして、絶対に心に刻まれる思い出の一つになるのは間違いない。しかし、私の目の前に広がる赤黒い光景はそれを否定するものだ。

 確かに、コアソウルを倒せばあの桜は元に戻るはず。だからといって、私は、あの悲鳴をあげるかのように燃える桜の木々を見て、じっとしていられなかった。

 熱気にまだ慣れていないビューティと、ビューティを支えるピースを見て、私は一人で駆けだす。コアソウル向かって、走り出した。

「やめてえええええええ」

 無我夢中で足を動かしながら、コアソウルに近づいていく。

 コアソウルが持つ道具は、火を噴くから火炎放射器だ。

 火炎放射器を持ったコアソウルは、手元が放せない。はなさかじいさんの悪いおじいさんとして巻いた灰は、薄くなっていたのでよく見える。私の攻撃があたるに違いなかった。

 だけど、それはコアソウル以外に私の攻撃を邪魔するものがなかった場合のこと。目の前に黒い壁が現れた。現れたと認識をした瞬間にはすでに、私の顔面が壁にぶつかっていた。

 鼻を抑えながら壁を見つめる。壁は縦3メートル、横は縦の半分くらいの大きさだった。壁は黒く光り、私の顔を反射して映していた。長方形にはピンクの枠があった。

 途端に壁がうごめいた。地面に付いていた巨大な壁は空に浮く。壁の下側が後ろに引くように回転したと思えば、壁は縦にしなり逆回転。私の身体を吹き飛ばした。

 私の体は後方上のほうに浮いた。体も頭が後ろのほうに一回転するが、そこまで大きな衝撃ではなかったので、上手く地面に着地できた。

 もう一度壁のほうを見る。壁の形状は少し遠くから見れば明らかにスマホだった。壁となっていたスマホは縮小しながら飛んでいく。進行方向の先を見れば、コアソウルの肩近くで空に座るように浮くマリがいた。

 やっぱり表情に余裕はなく、執着心のようなものが見えた。

 スマホはマリが上に向かせた手のひらの上で静止し、くるくると回転する。

「こんなこと! 今すぐやめて!」

 正直話が通じるとは思えなかったが、できれば戦って解決したくないという思いのまま要求をした。

「しないよ。マリの目的は、あなたたちを倒すことだもの」

 私は睨まれる。私に突き刺さる憎悪の視線に私は不快感を感じた。

 やっぱり、話が通用しない。そればかりか、マリの目的が私たちプリキュアの打倒であることが分かった分、私の願いはよりなくなった可能性しかない。

 このまま長い時間をかけることはできない。私は拳を握る。

「じゃあ。私はそんなことをすることを止める。たくさんの人たち、そして私たちが楽しみにしていたお花見をむちゃくちゃにするなんて許せない」

「そう.......!」

 マリは左手を、ポケットに入れた。濃緑のスカートから出てきたのは━━またスマホだった。そして取り出されたスマホは左手の上で、右手のソレと同じように回転しだした。

「えぇい!」

 マリは右手を私に向かって振り下ろした。右手の上で待機していたスマホが膨れ上がるように拡大し、さらに平べったい部分を上下にして横回転をしながら私に近づいてきた。

 私は跳んで避ける。スマホは後ろのほうへ飛んでいく。

 狙うはコアソウル。未だ火炎放射器で火を噴いている化け物を、すぐに倒さないとならない。みればさっきより噴射機を向ける方向が変わっている。ここら一帯を火の海にするつもりなのだと分かった。だったらなおのこと倒さないと。

「《プリキュア・ハッピー・シャワー》!」

 私が放った桃色の光線は一直線にコアソウルめがけて進んでいく。

 しかしその前にもう一度マリのスマホが壁となり立ちはだかった。光線は壁に当たり、周囲に弾けるように消えていった。

 さらに背後から感じる空気が変わった。振り返ると先ほど跳んで避けたスマホが背後からやってくる。思わずもう一度跳んだ。バク宙返りとなりながらも着地し、マリのほうへ見る。

 ブーメランのように飛び道具として使った右腕のスマホ。壁として使った左手のスマホが両方、持ち主の掌に戻った。

 近づけない。そう感じながら、マリを睨む。しかし、どうしようか考えてもよい方法は思いつかない。じっとしていると次第に煙が周囲に立ち込めていく。コアソウルの出した炎によって、煙となり灰となり、私を白色で埋めていく。

 コアソウルの姿も、マリの姿も白くかすんでいく。

 このままだと敵を逃がしてしまうがどうしようもなかった。私は立ち止まるまま、マリとコアソウルの姿が消えていくのを見ることしかできなかった。

 私はとにかく足を動かし始めた。どこにいるか分からないコアソウルを探しながら歩く。しかし、なにも見えない。

 私は煙と孤独の中にいる。

「おーーーーい!」

 私は叫ぶ。耳にはぱちぱちと木が燃える音、煙が膨れ上がる音で周りの音はうまく見えない。だけど明確に聞こえる小さな声があった。

「おーーーーい!!」

 私の叫びに反応して、声が聞こえた。山彦ではない。

 声のする方向へ走り出す。声だけを頼りに進み続ける。10秒ほどすると、目の前に人の顔があった。

「うわあああ!?」

「あああああ!?」

 私、だけでなく私たちは頭同士をぶつけあい、顔を抑えた。

 しかし、私は仲間と合流することができた。燃えるような橙色のお団子がよく見える。

「サニー!」

「ハッピー。大丈夫やったか」

「うん」

 だけどまだ3人いない。はぐれたピースとビューティ。そしてマーチはこの煙の中に多分いる。

 私たちは仲間とどうはぐれたのかを伝えあった。サニーはコアソウルのほうへ。マーチはハッピーたちが飛んでいった方向へ向かおうと離れたらしいが、煙が立ち込めて互いに一人ぼっちになっているだろうと予想した。

 ビューティがこの炎の熱にも覆われた灼熱の中、明らかに苦しそうにしていたので、ピースとは必ずセットでいるだろうと考え、マーチと合流して3人一緒にいるか、それともできずに2人と1人かの二択だろうと考えた。

 そして私はマリの目的も伝えた・

「うちらを倒すことに執着しとる感じか。厄介やな」

「そうだね。だからコアソウルは必ず姿を見せると思う」

「今、この瞬間にも、な」

「うん」

 しかも、私が”この世界”に来て少ししか経っていない時のことだ。人魚と漁師のコアソウルが、あかねちゃんたちを暗い空間の中へ沈ませていった。

 そのときのマリの言葉をれいかちゃんにに伝えると、『プリキュアの力についての実験をしているのだと思われます。特に私たちが消えた場合、ハッピー以外のプリキュアは生まれるのかという実験をしていたのかと思うのです』と返された。

 私はその時、あかねちゃんたちを失いかけた。でもそうしようとしたマリを何とか全員で拒んだ。そこから、今のマリの状況につながっていると思えば、今日もマリはサニーたちを中心に襲ってくるのだろうか。

 脳裏にちらつく、深い闇の沼の中に沈んでいく4人の姿を。

 自分でも顔がこわばったのを感じた。

「ハッピー?」

 サニーから声がかかる。自分の表情に気が付かれ、心配をしてくれているのを感じた。

「少し? いいかな」

 

 

 

 突然現れかねないコアソウルのために、私たちは背を向け合う。真っ白い空間はいまだに薄まることは無い。そればかりか蒸すような熱気で、プリキュアに変身している状態でも汗をかき始めている。

「それで?」

 サニーの言葉に、私は不安を切り出す。

「私が”この世界”に来たことで、みんなを苦しめているんじゃないかって」

 すると、サニーは一つため息をついた。

「なんか、そんなこと前にも聞いた気がするな。いったやろ。うちらは感謝しとるって」

 呆れられたように言われたこの言葉。だけど、それはサニーだけの話じゃない。

「前に、れいかちゃんが”この世界”にいるはずの”もう一人の私”の話を」

「そうやな」

「私が”この世界”に来たことで、”もう一人の私”の人生を奪うことになったの。本当は、”その子”と仲良くなるべきで、”私”と仲良くなるべきじゃなかったのかもしれない。お母さんも、自分が産んだみゆきではないみゆきを、何も知らずにただ育てていることになる。その愛情は、本当は”私”が受けるものではないのに。」

 私の存在は”この世界”にとって、あまりにもイレギュラーな存在だということは、”もう一人の自分”の存在について考え始めた時から感じた。そして、”私”の存在はあるべき姿から遠ざけているんじゃないか。

「そうやな……」

 サニーはぽつりと呟いた。だけどすぐに投げやりな声で言葉が帰ってくる。

「ハッピーがみんなを苦しめとる? そないなもん。本人に尋ねへん限りわからへんやないか」

「え……」

 私はサニーの態度に驚いた。

「確かに倫理的に考えて、他人の人生を奪ったって考えると悪いことやろうな。

 せやけど、少なくともうちがうちのことだけを思ったら、それが間違いだとは思わんな。いったやろ。うちらは感謝しとるって。うちは、”うちの後ろにいるハッピー”と出会って、友達になれてうれしい。それだけは間違いのない事実や。うちは”うちの後ろにいるハッピー”のことを大事に思っとる。うちにとって、”うちの後ろにいるハッピー”は大切な存在で、代替え不可能や。ハッピーがうちらに対して思ってくれたようにな」

 その言葉に、私は聞き入ってしまった。そう言われると━━嬉しい。胸がぽかぽかする。だけど、もう一つ。

「もう一人の私は.......」

「ま、どこで何しとんかはわからん。聞かんとわからんけど、ショックかもしれんな。顔も姿も同じな変なやつに、人生奪われとるってな」

「ちょっと......」

 私のことを変なやつって……。私は「はっぷっぷー」と口をとがらせた。

「だけど、それは”別世界から来たみゆき”の意思じゃないやろ。なんも気にする必要はないかもしれんな」

 確かにそうかもしれないけど。残酷であるとも思う。図らずも別人の人生を奪い、自分はその意思がなかったと知らぬ顔をするなんて。

 そんな私を見透かしたかのように、サニーは答えた。

「やからハッピーがしたいようにやり。”別世界”に帰りたいんなら、その方法を探せばいいんや」

 私の望みは。

 私は”あの世界”に戻りたい━━はずだ。だけど今は、”この世界”のみんなを守りたい。そして私は、”もう一人の自分”の人生をめちゃくちゃにしたいとは思わない。だからせめて、”この世界”で立派に生きよう。

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