これだけの煙の中。マーチがいくら風で周りの煙を散らしたところでほとんど意味はないと思う。周りの煙は一度吹き飛ぶもののすぐに近くの煙が周囲を覆うことになる。そう考えることができるほどに周りの煙は濃かった。
私とサニーは二人で煙の中を進んでいくと。
「はあああああ!」
という声が左手から聞こえた。
私はその声がマーチだとわかった時に、その方向から風が私たちを包んだ。炎によって暖められた熱風は思わず火傷してしまう、と思った。
「走るで!」
「うん」
時間を食ってしまったのは本当に申し訳ない。
私たちは一直線に走っていく。この煙と灰の中見えないどころか、次第に息も苦しくなっていった。
ごほっ。ごほっ。
咳をしながらも構わず進んでいく。
白い世界の中、私たちは進んでいくと、次第に声が大きくなっていく。
「やあああああ!」
ピースの声も聞こえた。きっとみんな一緒なんだ。
そう確信しながら、足を動かす。
直後。
目の前の灰を切るようにするどく現れた黒光りするボディにピンクの縁。マリのスマホが横に回転しながらやってきた。
「うわっ!?」
私は思わずジャンプして避ける。だが直後、黒く光る巨大な体━━コアソウルが私たちの目の前に現れた。コアソウルは長い管を私たちに向けて、伸ばしてくる。先端に取り付けられたノズルの中が赤く光る。ここから火が━━。
「させるか!」
素早くサニーは右腕を引いて叫んだ。
「《プリキュア・エレクトリュオネ・ノヴァ》!」
火球を吹っ飛ばし、コアソウルが噴射した火にぶつけた。
見事噴射された火は、サニーの炎に相殺された。途端にコアソウルは向かって左方向に飛んでいき、その姿を消す。
「その声は、サニー!」
灰煙の奥から、私たちに気が付くピースの声が聞こえた。
「うん! 私もいる。他のみんなは!」
「あたしもいるよ。ビューティも!」
マーチの声も聞こえた。5人揃った。
私とサニーは、ピース、マーチ、ビューティと合流した。
「みなさん……」
ビューティは、いかにも激しい疲れを見せていた。笑顔を見せているけど、汗の量は尋常じゃないほど流れている。危険な状況だと分かった。
「とりあえず、全員で背を向けて攻撃に対処するで」
サニーの言葉に、返答もなく動く。私たち5人は均等に━━気持ちビューティに寄りつつ━━たがに背を向け合って周囲を見張る。
「あのコアソウル。神出鬼没やな」
「そもそも、あたしたちの位置が分かっているようだよ」
マーチの言う通り、この煙の中、コアソウルはどこに誰がいるのかを正確に把握して攻撃してくる。
「この灰、コアソウルが作ったものだから、コアソウルも見えているのかな」
ピースの言葉。だけど私は否定する。
「だけど、さっき私たちにスマホが飛んできた。多分マリも把握していると思う」
「確かにそうか……」
すると、私とピースに挟まれながら立つビューティが答える。
「そう考えるなら、コアソウルとマリにあって、私たちに無い何かが、この灰煙の中での視界を手に入れている理由のカギになるでしょう。すると、あのスマートフォンでしょうか。いえ……」
スマホの力で私たちの場所を特定しているのは、自分でも気が付かなかった観点だった。さすがビューティと思ったが、当の本人はさらなる思考の先があるらしい。
「どうしたの? スマホじゃいけないの?」
「はい。マリが私たちの位置を確かめる唯一のものを手放すでしょうか?」
さっきの私たちへのように、スマホを投げてきたが。
「じゃあ、それが唯一じゃないってことじゃないの?」
マーチの言葉。唯一じゃない。つまり、二つ以上ある。私はこの思考ににた思考をどこかで行ったはず━━━━。
「あ!」
私の頭の中に電撃が入ったようだった。
「何ですか?」
ビューティに向かって素早く答えた。「マリ! さっきまでスマホを二つ使っていたよ!」
「なるほど……。確かに、攻撃用のスマートフォンに、感知用のスマートフォンと、スマートフォンごとに用途を分ければ──」
ビューティも納得したらしい。
「そうだとしてもスマホを使って、マリは私たちの位置をどうやって特定しているんだろう?」
ピースが首をかしげ、疑問の声を上げた。周囲は煙と灰に包まれ、視界がほとんど遮られている中で、どうやって私たちの動きを見ているのか。
……熱い。
知恵熱なのかただ熱いのか。
私の隣にいるマーチが零す。
「スマホって温度とか見えたりするのかな……?」
「さあ」
「ふたりとも……」
背筋が震えた。集中力が切れていてつい言葉を漏らしたことをビューティに怒られる、と思った。
「──それです。サーモグラフィーです」
ビューティが真剣な顔で答えていた。
「さも……?」
予想外の反応と、初耳の単語に、マーチが困惑した表情で問い返す。
「サーモグラフィーというのは、赤外線を感知して温度の分布を画像として表示する技術です。赤外線は、可視光線の赤色よりも波長が長く、電波よりも波長が短い電磁波です。私たちの目では見ることができない光ですが、この技術を使えば、温度差を視覚化することができます。説明はしましたけれども、ハッピーたちには難しいでしょうか」
「うん。さっぱり分からなかった。とりあえず私たちから出る見えない光を感知されているんだね」
この言葉にビューティは微笑み頷く。
「今はそれをわかってくれれば十分です。サーモグラフィーを使えば、煙や灰で視界が遮られていても、私たちの位置を特定することができるのです。これがマリの戦略でしょう」
ビューティから作戦を言い渡された私たちは、コアソウルをじっと待つ。コアソウル自体はそこまで強くない。だが、スマホとコアソウルの攻撃コンボが危険なのだ。私たちは集中し、その一瞬の機会を逃さないように緊張感を高める。
白い煙が立ち込める中、視界はほとんどゼロに近かった。息を吸い込むと、肺の中まで灰が入り込むような感覚が広がる。私たちは互いに背を向け合いながら、周囲の動きに敏感に耳を澄ませていた。
突然、金属が風を切る音が聞こえた。
「今や!」
サニーの声が響いた。サニーの目の前に、横に回転するスマホが現れたのだろう。彼女を信じて、私たちは何も見えないまま上に跳んだ。足元に黒色の物体が通過し、その勢いで私たちは空中に浮かび上がる。冷たい風が顔を打ち、体が軽くなる感覚が広がった。
問題は次だ。スマホが横に回転しながら襲ってくるが、その高さは私たちの腰のあたりだ。つまり、私たちが思わずジャンプで対処してしまうようになっていることになる。そこにコアソウルの攻撃が来る。このコンボがわかれば問題は無いとビューティは言った。
途端に空気が熱くなった。私の左方から炎が見えた。
「こっち!」
ピースの掛け声に反応するのはマーチだ。神出鬼没なのはこの煙のせいだ。だけど、現れた瞬間だけならそうではない。マーチは思い切り足を横に振った。そのせいで爆風が起きる。コアソウルが噴いた炎だけでなく、灰が一瞬にして吹き飛び、視界が開けた。コアソウルが目の前に現れ、その黒光りするボディが鮮明に映し出された。
それと同時に私たちも吹き飛ばされる。
マーチ以外の4人は、マーチが起こした爆風で、私たちの体を一気に前へと押し出す。
爆風に乗って、私たちはまるで矢のようにコアソウルに向かって飛んでいく。視界に映るコアソウルの姿が、徐々に近づいてくる。
逃さない。ここで確実にコアソウルを弱体化させる。
「行きますよ! ハッピー! サニー!」
「わかった!」
「ラジャー!」
私たちはさっき話した通りの作戦。ビューティの指示に、空中で移動したままの私とサニーは即座に反応した。彼女の炎がコアソウルの右側に向かって勢いよく放たれる。同時に、私の光線がコアソウルの左側を攻撃する。
左右を防がれ、コアソウルの動きは止まる。
するとピースがビューティを抱え、雷のように空中で折れ曲がり、コアソウルの上空へ。そこからピースはビューティを振り下ろした。コアソウルの後ろ側へ斜めに降下するビューティは、氷の剣を取り出す。この灼熱の中、剣として使える時間は少ないだろう。
そういう意味でも、ここで確実にコアソウルの火炎放射器を壊す必要があった。
ビューティは、剣を持ったまま体を縦にひねり回転する。横から見れば、ビューティの剣筋は回転するタイヤのような軌跡━━ビューティ曰く《サイクロイド》と言うみたい━━を描いているはず。
「《プリキュア・クラオゼニック・ヘソン》!」
ビューティの剣は、コアソウルが背負っていた火炎放射器の燃料タンクを縦に真っ二つにした。
だが私は一瞬だけ息を呑んだ。火炎放射器の燃料タンクが切り裂かれると同時に、中から勢いよく燃料が噴き出し、空気に触れて火花が散る。
爆発する。
「ビューティ!」
私は叫び、彼女を守るために身を投げ出した。ビューティは爆発の中心に近い位置にいたため、直撃を避けることができなかった。私は彼女の元へと飛び込むと、彼女を抱きかかえるようにして覆いかぶさった。
「ハッピー……」
ビューティの声が微かに聞こえたが、爆発の音がそれをかき消した。私の背中に熱波が襲いかかり、痛みが広がる。しかし、それでも私はビューティを守るために体を張り続けた。
爆発の衝撃が私たちに襲いかかる。周囲は一瞬にしてさらなる灼熱地獄と化しているはずだ。
爆風が過ぎ去ると、周囲は再び静寂に包まれた。私はビューティを抱きしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。彼女の青い目が私を見つめ、張り詰めた表情を浮かべていた。
「大丈夫ですか……」
「大丈夫。私より、ビューティのほうが心配だよ」
この熱気でただでさえ弱っているのに、あの爆発が直撃したとなれば。
激しい爆発の余波が収まり、周囲の煙が徐々に晴れていく中、私はあたりを見渡した。視界が広がると、まず目に飛び込んできたのは、顔を腕で守っていたサニー。同じようにして爆発から身を守っていたマーチの姿。
そして、燃え上がった木々が焦げた黒い枝を空に向かって伸ばしている姿が見えた。木々の葉が火に包まれて、燃え尽きた後の灰が風に舞い上がっている。炎がまだ勢いよく燃え続け、周囲の熱が肌に感じられる。残念ながらたくさんの木々が焼失してしまい、その光景は悲しいものだった。火の勢いがこれほどまでに広がっているのは、コアソウルの火炎放射器が放った炎の威力の強さを物語っていた。
そして遠くには、濃緑の服を着た女の子の姿、マリがいた。
「あれは━━━━」
私が遠方へ視線を向ける。すると私の視界の端のほうで見えていたマーチも動いた。私と同じ方向に首を向けた。
すると、私の下側でかすれるように聞こえた。
「ハッピー……。マーチをマリのもとへ」
「う、うん。━━━━マーチ! マリを追って!」
ビューティは疲れで大声を出せないのだろう。だから私がマーチに呼びかけた。
「わかった!」
マーチは私の声に応え、全力で駆け出した。彼女の動きは速く、焦げた草むらの上を進んでいく。
「よし、私も」
駆けだすが、ビューティが私の手を掴んだ。
「待ってください……。私たちは……コアソウルです……」
ビューティは震える声を発した後、もう片方の腕を使ってどこかを指さそうとした。その方向を予測して視線を動かすと、コアソウルは倒れたまま、数十メートル先に横たわっていた。動かない姿を見て、私は浄化しなければならないと感じた。
だけど、さっきの爆発で自分の体は思うように動かせない。マリと戦えはするだろうが、浄化は難しいだろう。
「サニー! コアソウルを浄化できない?」
私はサニーに頼むが、サニーもまた疲れ果てている様子で、力を振り絞るのが難しそうだ。
「ごめん、ハッピー……。今のウチは力が足りんかもしれへん。」
サニーは息を吐き、無力感を隠せていない。その理由がさっきの爆発なのは明白だった。
ならば━━━━。
「じゃあ。二人で一つの技を撃とうよ」
するとサニーは少し面食らった表情を見せた。
「確かに……。でもお前。少しピースに毒されとんちゃう?」
「ええっ」
最近、黄瀬家にいってロボッターのアニメを見てたし、なんなら昨日、やよいちゃんと二人で見た。あまりの面白さに二人で興奮した。ちなみにあかねちゃんは終始真顔だった。
私とサニーはコアソウルの前に立つ。
手を繋ぐ。サニーの温かい右手が私の左腕と繋がる。そして私たちはソウルフルパクトに互いに気合を込めた。そして、私たちを炎が包んだ。ところどころスターダストのようにキラキラと光っていた。
私たちは繋いでいない手、私は右手を、サニーは左手を前にした。
「《プリキュア・スターバースト・ライト》!」
左右の手から放たれたのは炎渦巻く光の粒子。カタカナのハを逆から描くようにして進む。コアソウルの近くで合流、爆発を起こした。
衝撃でコアソウルの体は弾けた。黒い絵の具のようなものが飛び出て、中からは紅色の霊魂のようなものが現れて、消えていった。
それと同時に、焼け野原となった桜並木が元に戻っていった。
私はビューティを背負いながら、焼け跡の中を必死に駆け抜けた。周囲の木々はほとんどが焼失し、黒煙と灰が漂っている。ビューティの重みが背中に感じられるものの、彼女は決して足を止めることなく前進し続けた。
「ごめん。遠くに飛ばされて」
隣に走るピースが謝る。
「空中にいたから仕方ないやろ」
サニーが反応する。
音を頼りに進む。この先にマーチがいるはずだ。
元に戻った桜並木の中を進む。
その中で、ハッピーの目が急に引き寄せられた。桜の木々の間に、マーチが戦闘を繰り広げているのを発見したのだ。マーチは、桜の木々をバックにして、マリと激しく戦っていた。マーチの動きが機敏で、強烈な蹴りがマリのスマホの壁に当たり、花びらが舞い上がる中でその力を証明していた。
マリはその緑の服を揺らしながら、スマホを手に構え、必死に戦っていた。むしろマーチのほうに余裕があるように見えた。
激しい戦いの中、マーチは前に進みながら強力な蹴りをマリに向けて振りかざした。彼女の足が空気を切り裂く音を立てながら、その蹴りがマリ命中しそうになる。しかし、スマホの壁がその攻撃を遮る。
するとマリは、素早く反応してスマホのフラッシュ機能を発動させた。突然、白い閃光が戦場を照らし出し、マーチの目を一瞬眩ませた。そのフラッシュが一時的に視界を奪うと、マーチは一歩後退し、目をこすりながらも再び戦闘態勢に入った。
しかし、マリはその隙を逃さず、すぐに二台のスマホを取り出し、その壁を使ってマーチを横から押し潰そうとする。しかし、マーチはその攻撃を華麗にかわす。
さらにマーチは素早く反応し、マリの隙間に向かってダッシュし、直接マリに向かって突進する。マーチの蹴り攻撃がマリの防御のために胸の前に組まれた腕に命中し、彼女はよろめく。
「マーチに任せよう」
私の言葉に、サニーたち3人は了承してくれた。
「これで終わりだ!」
マーチは空に飛び、自分を回転させた。そして生まれる渦巻く風。それは竜巻のように見えるし、もしかすると、銀河のように見えているのかもしれなかった。風のプリキュアは、右足を伸ばし、直線的にコアソウルへ蹴りを入れた。
「《プリキュア・ガラクシア・トルナード》!」
「うわあああああ!?」
マリは必死に、自身の持つスマホを二つ重ねて壁にした。彼女が待つ最大の防御だろう。
しかし、マーチの蹴りでいとも簡単に砕け散った。
そのまま、爆風が起きた。桜の花が舞い、私は目をつむった。
そして目をあけると、マーチの周りにはだれもいなかった。
その瞬間、空気が微妙に震えるのを感じた。ハッピーの視線の先、少し遠くの桜の木々の間から、赤い中華の着物を着た女性の姿が見えた。ヒオリだ。
ヒオリはその場の空気を一変させるほどの存在感を放っていた。彼女の衣装が桜の花びらと風に揺れ、まるで彼女自身が自然の一部であるかのように感じられた。ヒオリはマリを抱えていた。彼女は、マリを守るために現れたのだろうか。
「マリ、大丈夫?」
ヒオリの声が、優しくも力強く響く。
「ヒオリ……」
マリの声には驚きと悔しさの中に安堵の色が混じっていた。
私は彼女の姿に近づこうとした。
ヒオリは私に視線を向けた。私自身は興味は無いようだった。私の位置を確認しただけのようだった。
ヒオリの後ろで黒い空間への扉が開いた。
彼女はそこに入っていって、消えた。
私は立ち止まり、立ち尽くすだけだった。
***
数日後の春の朝、陽光が柔らかく降り注ぐ中、あかねは中学三年生としての新しい一歩を踏み出す日を迎えた。七色ヶ丘中学の校庭には、ソメイヨシノの桜がほとんど散り終わり、地面には淡いピンクのじゅうたんが広がっていた。風に吹かれた花びらがふわりと舞い上がり、春の最後の余韻を感じさせる。
あかねは、少し緊張しながら早朝の学校へと向かった。
校門に近づくと、遠くに見える友人たちの姿が目に入った。みゆきたち4人が、笑顔で手を振りながらあかねを迎えている。その姿を見た瞬間、あかねの心は少し軽くなった。
「おはよう、あかねちゃん!」
と、みゆきが元気よく声をかける。
その明るい声に、あかねは自然に笑顔がこぼれた。
「おはよう、みゆき!」
と、あかねも笑顔で応えながら、みゆきたちのところに近づいていった。やよい、なお、れいかとも挨拶を交わし、しばしのひとときを楽しんだ。
あかねたちはこれから玄関に張り付けられるクラス分けの紙を見に行くことにした。
玄関に到着すると、そこにはクラス分けの紙が大きく貼り出されていた。掲示板の周りには、既に多くの生徒たちが集まっており、ざわめきが広がっていた。紙には、各クラスの生徒たちの名前がびっしりと書かれており、みんなが自分の名前を見つけようと、目を凝らしていた。
「やった、一緒のクラスだ!」
掲示板の前に集まった生徒たちの中から喜びの声が上がる。
「私は別かぁ」
少し残念そうに言う生徒もいた。
「うわ、お前と一緒かよ最悪ー!」
「なんでやねん!」
軽口をたたき合う男子生徒もいた。
あかねたち五人は、そんなざわめきを感じながら、掲示板に少しずつ近づいていった。みんなの表情には、期待と緊張が入り混じっていた。近づくたびに、心臓の鼓動が高鳴り、手に汗を握る感覚が増していく。
「どうなるんだろう」
やよいが緊張しながら呟く。
「今年はれいかと一緒かな」
「まずは私の名前を探しましょう。青木の私は、おそらく出席番号が一番ですから」
なおの言葉に、れいかが微笑みながら頷く。
「今年もみんなと一緒がいいね」
みゆきが希望を込めた声で言った。
あかねは、深呼吸をして掲示板の紙に目を向けた。できる限り、三年生としてもみんなと一緒にいたいと願いながら、慎重に視線を動かしていった。目を凝らしながら、一つ一つの名前を確認していく。
「あ、私、れいかと一緒だ」と、なおが嬉しそうに声を上げた。紙の上には、2組というクラスのすぐ下に「青木麗華」の名前が確認できた。
「これで、五人中三人が一緒のクラスだね」
と、みゆきが言う。
あかねはさらに紙の下側に目を移していた。あかねの心はどんどん高鳴り、視線を下に向けると━━━━━━。
日野あかね、星空みゆきの名前が並んでいた。
その瞬間、みゆきが大声で叫んだ。
「やったーーーーーーーー!」
喜びの声が掲示板の周りに響き渡り、あかねもその嬉しさに我を忘れ、みゆきに飛びついた。「よっしゃああ!」
叫びながら、あかねはみゆきを抱きしめた。
やよいたちも嬉しさで涙と声をだす。
「よかったよーーーー!」
「ちょっとやよいちゃん。そんな泣くほど」
「ハンカチです」
れいかに差し出されたハンカチを手に取り、やよいは涙を拭いていた。
あかねも嬉しさで胸がいっぱいだった。
そんな中、みゆきが満面の笑みを浮かべた。
「私、今年もみんと一緒にいられて、ウルトラハッピーだよ!」
みゆきは別世界の住民で、姿が同じである別の自分たちと会っていた。だけど、みゆきは別の自分と、”この世界の自分”を別人ととらえてくれた。だからこそ、みゆきの言葉は胸に響く。
きっとそれは、やよい、なお、れいかも同じはずだ。
周囲には、他の生徒たちの歓声や驚きの声が混じり合っていたが、5人の喜びは何にも代えがたいもので、彼女たちの心は一つになっていたとあかねは信じた。これから迎える一年が、どれほど素晴らしいものになるかを、確信しながら、笑顔で新しいスタートを迎えた。
***
「なあ。うちら三年生になったんや。しかもみんな一緒のクラスやで」
また一年遊びたい、という言葉を押し込んだ。
春。病室の中は淡い光に包まれていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、白いカーテンを透かして室内を優しく照らしている。
ベッドの上には、長い管が延びており、彼女の腕に差し込まれ、必要な栄養を静かに送り続けていた。モニターの数字が、彼女の鼓動を示す波形として表示されており、彼女がまだ生きていることを証明していた。
わずかな呼吸によって運ばれる酸素と、点滴から押し込まれる栄養が、彼女の命の灯をかろうじて消さずに保っている。
病室に面会者としているのは日野あかね。バッドエンド王国との激闘の末、ついには皇帝ピエーロを打ち倒したプリキュアの一人だった。
意識なく、人の手を借りてその命を守る彼女を、見つめる。感情は無い。心無く眠る彼女の顔が目に入る。途端にあかねは自らの顔をしかめた。
眉をひそめ視界が小さくなった分、彼女と過ごした時間を憶う。
一緒にお好み焼きを食べたこと。コントをしたこと。空港まで行く自転車を貸してもらったこと。大切な宝物を作ってもらったこと。
それらの思い出が、鮮やかに浮かんでくる。彼女との時間は、あかねにとってかけがえのないものであり、心の奥深くに深く刻まれていた。どんなに時が経っても、忘れることはないだろう。
しかし、こんなことを思い始めることは、自分が”彼女”を諦め始めているということなのか。そんなことは無い。ぜったいそんなことはない。彼女は目を覚まし、自分にいつもの笑顔を向けてくれるはずだ。
そう信じたいけど、辛い。眠り続ける彼女を信じるのは、とても気合いが必要なのだ。
自分と彼女が逆の立場だったらどうだろう。もし自分が眠りこけているなら、彼女は必ず目を覚ますと信じ、ずっと待ち続けてくれるだろう。
彼女の姿は、あかねにとって太陽のようであり、勇気を与えてくれるのだ。
だから、だから。
「頼むから、目覚めてくれ。みゆき」
首を垂れて願う。だが、何も起こることは無い。
星空みゆきは眠り続ける。口元につけられた人工呼吸器の下で、無表情のまま。
病室にはキュアハッピーなる彼女の、心電音と呼吸音だけが響いていた。
お気に入り感想評価お願いします!