スマイルプリキュアS   作:友だち

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(2) 夕焼け色の友情 ①

 転校してきて二日目。

 やはりみんな、自分のことを何も知らないことに違和感を感じる。近かったはずの距離が、自分だけ遥かに遠くなっていて、やはり孤独を感じた。

 椅子に座りながら、そんなことを考える。

 すると。

「なあ、星空さん」

 と、前から声が聞こえた。前の席に座るあかねちゃんが、こちらを覗き込みながら聞いてきた。

「星空さんって何かスポーツやってたりするんか?」

「え、し━━━━」

 知ってるでしょ、と言いたくなった。そうだ。みんな私のことを知らないんだ。今確認したはずなのに。

「してないよ……、特に……」

 めげない。一度友達になれたんだから、もう一度友だちになれる。

 あかねちゃんのことをよく知っている。何が好きなのか、何が得意なのか、そしてどんなことに悩んでいるのかを知っている。

 そうして仲を深めていけば、きっともう一度友だちになれる。そしてもう一度、プリキュアをやれる。

「じゃあ何か好きなこととかあるんか……?」

「私、絵本が好きなんだよ」

「絵本かあ。ええなあ。ちなみにどういうところなん」

「私ね、絵本のハッピーエンドが大好きなんだ。ハッピーエンドになると、とてもハッピーな気持ちになって……、昔から絵本は友だちみたいな存在なんだ」

「へえ。星空さんって絵本は宝物なんやな」

「うん」

「ちなみにうちは、日野あかね。ま、昨日言ったけどな。あとうちは……」

 大阪出身の関西人。家ではお好み焼き屋をしていて、両親と弟との四人家族。お笑いに対しては拘りがある。七色ヶ丘中学校ではバレー部に所属している。

 全部私が知っていることだ。

 どんな子どもで、どんなことをやってくれるのか、自分は多分、ほぼ知りつくしている。

 特にバレーボールの腕は超一流で、今日やる体育のバレーで━━━━。

 

 

 

「日野ちゃん━━スペシャルアタッァァァァク!!」

 あかねちゃんの放ったバレーボールのアタックは、相手コート内で大きくバウンドをした。

「くそー。またやられた」

「さすがはバレー部のエース候補ですね」

 向こうのコートでは、なおちゃんが悔しがり、れいかちゃんが今の攻撃を称賛している。

「ナイストスや!」

 あかねちゃんは私に近寄って、手のひらを見せてきた。当然、私はハイタッチで応える。

 その後も、私はあかねちゃんにトスをし続けた。彼女に渡すだけで、確実にシュートを決めてくれる。

 同じチームのやよいちゃんの方をみると、じっとこっちを見ている。そのまま勝利をして欲しい、という眼力を感じた。その通りに、あかねちゃんが殆どの点を決めて私がいるチームが大勝した。

 試合後、間違いなくMVPであるあかねちゃんが、怪訝そうな顔をしながら私のほうへ近寄ってくる。

「いやー。星空さんトス上手いなあ。バレーやったことないんだったら結構センスあるとちゃう?」

 私はこれまで、何回かあかねちゃんのバレーボールの練習に付き合っていた。特にアタックの自主練によく取り組んでいたので、そのためのトスはかなりやっていたのだ。

「そうかなあ。あかねちゃんはバレー部なんだよね。やっぱり凄いよ。このままいけば、全国大会でも活躍できるんじゃない?」

 私はこの先、あかねちゃんがどんな選手になるかを知っている。大会でも大活躍をして、どこかの高校のスポーツ推薦も間違い無い。それどころか、世界レベルのプレイヤーになれると言っていた同級生もいた。

「せやろか……」

 あかねちゃんは少し苦笑いをしながら答えた。

 だけど、私があかねちゃんにあったときのことを思い出す。

 ちょうどその時は、あかねちゃんがスランプに陥り、バレーがうまくいっていない時でもあったのだ。

「そうだ!」

 勢いのままあかねちゃんに声をかけた。

「あかねちゃん! 一緒に! バレーの練習しない!?」

「ええ!?」

 仰天されるも、私は構わず続ける。

「このあと! 放課後!」

「今日?」

「うん!」

 あかねちゃんは上を向いた。すると次は腕を組んで考えた始めた。

「うーーん」

「駄目……かな?」

 突然すぎたのか。

 あかねちゃんの実家はお好み焼き屋だ。その手伝いもやることはあるだろうし、そうじゃなくてもなかなか都合がつかないこともあるだろう。

 しかし。

「ええよ!」

 と、了承を貰うことが出来た。

「ありがとう!」

「何言うとんねん。普通お礼言うのはうちの方なんやけどな」

 確かに、私は人生の二週目のようなことをしている。だから、誰がどういうキャラクターであるのか、誰がどんな悩みを知っているのかを知っている。だが、悩みがあるのならば消してあげたい。今は友だちで無いとしても、きっと友だちになれるのだから。

 そしてプリキュアをやってもらう。太陽のように、皆を照らして、ムードを作ってくれる。そんなあかねちゃんが必要なんだ。

 

 

 

 放課後、私はあかねちゃんの練習を手伝うために、二人で河川敷に向かう。

 大河川を横切る大橋の下では、夕方の涼しい風が吹き抜け、流れる川の流れの音が反響し轟く。

 その中で、あかねちゃんは真剣な表情でボールを持つ。彼女の目には集中と決意が宿っており、その姿はとても輝いて見えた。

 続いて私は、ボールを渡される。大橋の支柱に対面する彼女から2メートルほど離れて立つ。

「あかねちゃん、いくよ!」

 あかねちゃんは私に声かけに、「ええよ!」と答えた。すぐに構えを整え、深呼吸をして体勢を整えた。

 私が投げたトスに合わせて彼女は力強くアタックを放った。ボールが一直線に飛び、大橋の支柱に当たる音がバチン! と響いた。

 この繰り返しの中で、あかねちゃんの動きはますます力強く、正確さを増していったように感じた。その成長を間近で感じることができて、私は本当に嬉しかった。

 練習は1時間くらい続いた。夕方の空気が徐々に冷たくなり、そろそろ日も落ちてきて辺りは真っ赤に染まっていた。川面に映る夕陽がゆらめき、時間の流れを忘れるほど美しい光景が広がっていた。

 練習を終えた時、あかねちゃんの顔には達成感が溢れていた。

「みゆき、ありがとう。今日はすごくいい練習ができたよ」

「こちらこそ、あかねちゃん。すごく頑張ってたね。また一緒に練習しよう」

 彼女の成長を共に感じられるこの時間が、私にとっても大切なものになっていたことに気が付いた。

「うん、また練習しようね」

 二人で帰路につき、夕闇に包まれていく街の風景を感じながら歩いた。住宅街の中に入ると、少しずつ家々の窓から漏れる灯りが見えてきた。

 ある路地に差し掛かる。ここで私たちは別れるはずだが、あかねちゃんが立ち止まった。

「そうや、練習に付き合ってくれたお礼に、今度、うちに招待するで」

「え? あかねちゃんの家に?」

「そうや。うちの店はお好み焼き屋なんや」

 彼女は両親と弟がいる四人家族の長女で、両親が経営するお店を手伝うこともあるのだ。父親がぎっくり腰で動けなくなった時などには、あかねちゃんが代わりにお好み焼きを振る舞うこともあるらしい。

「そうなんだ、今日はさすがにお母さんが作ってくれてるはずだけど━━またお願いしようかな」

「うん、楽しみにしててな」

「そうか。じゃあ今日はここでお別れやな。練習、ありがとうな」

「こちらこそ、楽しかったよ。また一緒に練習しようね」

 あかねちゃんは笑顔で手を振りながら、自宅の方へと歩いていった。彼女の背中を見送りながら、私は彼女との友情がさらに深まったことを感じ、心が温かくなった。

 家の方向へ歩き出し、頭の中にはあかねちゃんの笑顔と、次に会う日の楽しみが浮かんでいた。

 

 

 

 次のバレーボール部の練習で、私はあかねちゃんの練習を見に来ていた。バレーコートには既に部員たちが集まり、活気に満ちていた。午後の日差しが眩しく、汗がキラキラと輝いている。練習の様子を見ていると、あかねちゃんがコート中央に立ち、ボールを手にしていた。

「あかねちゃん、頑張って!」と心の中でエールを送った瞬間、「やあ!」という声が響き渡り、あかねちゃんのスパイクが相手コートの地面で折れ曲がる。ボールはまるで地面に突き刺さるかのような威力で打ち込まれた。

「よっしゃあ!」と拳を握りながら叫ぶあかねちゃんの姿を見て、私は心から嬉しくなった。彼女の頑張りがこうして成果として現れているんだ。

「すごい。日野さんのスパイク、また威力上げた?」

「これは次の試合のエースは決まりね」

 部員たちも感嘆の声を漏らす。

 私の記憶では、この日はあかねちゃんの様子がおかしくて、なかなかプレーが上手くいっていなかった日だった。友だちが落ち込む姿は見たくない。バレーのことは詳しく知らない私だけど、今日のあかねちゃんはバレー部の中でも特段強い存在感を発揮していたことが分かった。周りの人の誰しもが、次の試合のエースは決まりだと思っているに違いない。

 練習が終わってすぐ、あかねちゃんは私のほうに来てくれて、「星空さん。見てくれたんや」と、嬉しそうに声をかけてきた。

「うん。気になっちゃって」と答えると、あかねちゃんの目がさらに輝いた。

「次の試合、頑張るからな!」

 少し息を整えながら続けられた彼女の声には、自信と意気込みがしっかりと込められていた。

 私はその瞬間を逃さず、「あかねちゃん。今日も一緒に自主練しない?」と提案した。彼女のためにもっと力になりたい。

「今日も?」

 あかねちゃんは驚いた表情を見せた。予想外の提案に、一瞬戸惑ったようだった。

「駄目?」

 私は彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

 あかねちゃんは少しの間考えた後、ふっと微笑みを浮かべ、柔らかな声で答えた。

「分かったわ。お願いするで」

「うん! お願いされました!」

 私は喜びを隠すことはなかった。

 胸が高鳴り、これからの練習がますます楽しみになった。あかねちゃんの努力を支えることができるという思いが、私に新たな力を与えてくれたのだ。

 

 

 

 もう少しでバレー部の試合があるようだった。とりあえず私は、その日まであかねちゃんと練習することを約束した。それから私たちは試合の前日まで毎日一緒に練習した。

 夕方になると、再び河川敷の大橋の下に二人で集まり、あかねちゃんのスパイク練習を続けた。日が暮れても、彼女の集中力と情熱は途切れることがなかった。私はひたすらにトスを上げ続け、その度にあかねちゃんは力強くジャンプして鋭いスパイクを放っていた。

 そして、明日がその試合の日だ。夕陽が西の空に沈みかけ、河川敷は深い茜色に染まっている。私はあかねちゃんの練習が終わり、河川敷の青々とした草地に座っていた。風が気持ち良く吹き抜け、日が徐々に沈んでいく様子が、静かで美しい夕暮れの情景を作り出していた。

 すると、隣に座っていたあかねちゃんが、疲れた様子で大の字になって倒れ込んだ。

「つっかれた〜〜〜」

「お疲れ、あかねちゃん」

 私は”日野あかね”という人物を見慣れているからか度々忘れてしまうけれど、私たちが出会ったのはつい最近のこと。あかねちゃんは気軽に私の提案に応じ、一緒に練習を続けてくれている。

 そう考えると、ある予想が浮かんだ。

 本当に、私と出会ったばかりなのかな。私が別の世界、または過去から来た人だということを隠して暮らしている。それはもしかして、それはあかねちゃんもではないのか。

 そんな疑問が浮かび、私はかまをかけるように切り出した。

「ねえ……」

「なんや?」

「もし私が……別の世界から来た人だったらどうする?」

「別の世界……?」

 あかねちゃんは首をかしげた表情で私を見つめた。私の疑問に対して、彼女は真剣に考え込んでいる様子だった。

 少したって、彼女の口元がほころんだ。

「そんなん関係ないやん。星空さんが星空さんなのも、うちらが友だちなのも変わらんやん」

 帰ってきた言葉は期待通りでは無かった。

 本当に、自分だけが飛ばされている。あかねちゃんが本当に“ここ”の人だとしたら、やよいちゃん、なおちゃん、れいかちゃんも同じだと思う。そのことに心の中でがっかりする。

 けれども、あかねちゃはあかねちゃんだということを改めて確認させてくれた。

 私はあかねちゃんを不安にさせないように、おもいきり笑顔を作った。

「あかねちゃんの試合、絶対見に行くよ!」

 そう言って私は帰路についた。明日、あかねちゃんが試合でどれだけ輝く姿を見せるのか、その期待と興奮が私の胸をいっぱいに満たしていた。

 

 今日はあかねちゃんが所属するバレー部の試合だ。

 会場はちょうど七色ヶ丘町営の体育館なので、私も応援するために行くことができた。

「私も見に行く」、とは言っているものの、わざわざバレー部の方に突っ込んでいくのはマナー違反だと思う。 だから今は応援するだけ。話しかけるのは試合が終わった後にしよう。

 時刻はそろそろ七色ヶ丘中学校の試合が始まる頃だ。

 私は観客席がある二階へ向かって階段を上る。

 しかし。

「し、しんどい━━━━」

 昨日もあかねちゃんの練習に付き合っていたため、疲労が溜まって今筋肉痛だ。それもあって、なかなか思うように歩けず、体育館につく時刻も遅れてしまった。

 1段1段が普段より高く感じながら、手すりにしがみついて、何とか登りきった。

 ピ────。

 2階にたどり着いた瞬間、試合開始と思われる笛の音が鳴り響いた。

 1階のアリーナを見下ろすと、確かにあかねちゃんの姿が見える。

 チームのスターティングメンバーだ。

 ボールが七色が丘中のコートへ来て、チームメイトがレシーブ。もう一人のチームメイトがトス。

 当然だけど、私よりも完璧にアタッカーに渡していた。

 そこに合わせるのは、もちろんあかねちゃん。

 エース候補として扱われ、プレッシャーもあった中、なかなか調子が上がらなくて、辛い思いもして、それでも必死に頑張ってきたのだ。

 練習以外での自主練をいかに頑張ってきたのかを、私はきっと本人の次に知っている。

 バチン。

 あかねちゃんは全力で地を蹴って、力の限り右手を振ってボールを叩いたんだと思う。

 ━━━━だけど。

 アタックは相手チームの手のあたり、自分チームのコートに落ちた。もちろん得点したのはブロックに成功した相手チーム。

「うっそ〜〜」

 私は、あかねちゃんのアタックが止められたことに驚いた。それは相手のブロックが高かったからではなく…………。

 あかねちゃんは私に背を向けて立っているため、どんな表情をしているのかは見えない。

 私は彼女を信じて試合を見守った。

 

 

 

 結果は散々だった。

 ━━あれだけ練習したのに。

 私は無常感を覚えた。

 あかねちゃんのアタックはことごとく相手にブロックされたり、拾われたりで、チームに貢献しているとは思えなかった。

 相手チームのアタックが放たれる。

 あかねちゃんは必死に手を伸ばし、ボールを拾おうとするも、ボールは地面に落ちた。

 そうして相手の得点と同時に長い笛が鳴った。

 コート横の得点板で、相手チームの得点が25になったことを確認した。第1セットを奪われることになったのだ。

 選手たちは互いに自らのベンチに歩いていく。

 これまで私はずっと観客席の柵に身を乗り出して試合を見ていたことに気がついた。

 近くの席に後ずさり、腰をおろす。

 そして今日のあかねちゃんのプレイを思い出す。

 私は1年近く親友を見てきた 。もちろんそれは別の世界か別の時間軸でのあかねちゃんだ。

 だけど、私が見ているこの世界のあかねちゃんでも、その姿は変わらない。

 明るくて、友達思いで、やっぱり私たちを照らしてくれる太陽のような存在だ。

 ここ数日で確信した。どの世界に行っても、あかねちゃんの根っこは変わらないんだと。

 でも、今日のプレイはこれまで見てきたものとは全く違う。

 その時、ズキリと腰が痛んだ。

 昨日はあかねちゃんと練習したから、そのせいで、体が━━━━。

 ━━体が━━━━。

 もしかして、あかねちゃんは私と同じ━━。

 私と同じ筋肉痛━━?

 第2セットが始まろうとしている。

 コートの中に七色が丘のユニフォームを着た選手が6人。

 だけど、その中にあかねちゃんはいない。つまり交代されたてことだよね。

 勝負の世界において、それは飲み込まなければならないこと。調子の悪かった選手を交代させるのは、何も間違っていない。

 だけど、その原因を作ったのは━━━━。

 その中で突然。

「面倒ね」という、聞き覚えのある女性の声がした。

 はっと方向を振り向く。

 柔らかな絹や織物で作られた赤い着物。背中まで降りる髪には、真紅の花をモチーフを模した飾り。

「ヒオリ━━!」

「いたのね、星空みゆき」

 私に気がつき、ぎろりと睨んでくる。その視線は冷え切っている。

 どうして私のことを知ってるの。どうしてあんなことをしたの。商店街をめちゃくちゃにしたの。それで多くの人が逃げ惑い、恐怖したのに━━!。

 そんな私の憤りなど気にもせず、ヒオリという女性は右手の平から赤色に光り、ゆらゆらと動くものをどこから取り寄せていた。あのオーパーツはもしかしたら霊魂的なものなのかな?

 そんなことをなおちゃんに言ったら泣き叫ぶだろうな、そう一瞬考ると、自分が少し冷静になっていることに気が付いた。

 ヒオリの周りの空間が割れ、そこから泥のようなものが滲み出るように出現する。

 赤い魂と思しきものを囲い込み、大きくなり、そして「コアソウル」という怪物が出現した。

 その瞬間、会場の人々は逃げ始めた。

 混乱し逃げ惑う人たちを横目で視認した後、ヒオリに尖り声を出す。

「どうしてこのことをするの!」

「うるさいわね。面倒だからあなたには教えないわ」

 私の存在が煩わしいという態度になるだけで、話は通じそうにない。

 幸いここにいる誰も、私を見てないはず。

 ポケットからソウルフルパクトを取り出し、変身する。

 

 プリキュア! スマイルチャージ! 

 

 体が輝き、光の戦士の姿へと身を変える。

 

 きらきら輝く未来の光。キュアハッピー!

 

 私が本来いた世界の姿ではない、もう1つのキュアハッピーとしての姿。

 私は別世界から来た人間だ。でも”この世界”のハッピーは私が守る。

「コアソウル! さっさとやりなさい!」

 ヒオリの声掛けに、私を睨むコアソウル。2階の観客席の柵を飛び越え、1階のアリーナに着地した。

 前回はかぐや姫だったのに対して、今日は浦島太郎の姿。

 怪物目がけて近づこうと足に力を入れる。

 ━━が。

 ズキン。

 途端、体が、特に腕が痛んだ。

 ━━━━まずい。筋肉痛が

 プリキュアに変身しても、肉体の傷は消えないみたい。

 体中を縛る痛みを我慢して私は蹴りを入れる。伸ばした右足は体長3メートルほどの浦島太郎のお腹に突き刺さり、後ろに吹き飛んだ。

「みんなを傷つけるなんてそんなことさせない!」

 私は痛みを我慢しながら、両手で大きなハートの形を描く。

 桃色の軌跡が膨れ上がる。

「《プリキュア・ハッピーシャワー・シャイニング》!」 両手を前に突き出す。

 それと同時に膨れ上がったエネルギーが光線となって、コアソウルに向かって突き進む。

 すると、浦島太郎は持っている釣り竿を使おうとするのが見えた。

 浦島太郎が主人公である物語は亀を助けるところから始まる。その場所は砂場で、どうしてそこに来たのかは海に釣りに来たのが多い。だから、浦島太郎において釣り竿が重要なアイテムになることはあまりない。

 浦島太郎は私に向かって半身になる。そして釣り竿を両手で持ち、縦に伸びるように持つ。

 あの格好は━━━━野球。

 浦島太郎は野球のバッター━━━━?

 釣りをするための釣り竿が野球におけるバット。

 そしてボールは、もしかして《プリキュア・ハッピーシャワー・シャイニング》?

 私の怪物は自分に放たれた光線を真っ向から打つように 釣り竿(バット)を振り抜く。そして、光線を打ち返した。

「嘘━━」

 浄化技を放った衝撃で少し体が動けなかった。だけど体をすぐに起こし、逃げようとする。

 ズキン。

「あ……」

 だけど筋肉の痛みは私を自由にしてくれない。

 打ち返された光線をどうすることはできず、直撃した。

「うわあああああああ」

 吹き飛ばされる。

 背中に何か当たる。多分体育館の壁だ。

 そして地面に落ちた。体に衝撃が走る。

 気がつくと、ぼんやりと青空が見える。ここは、体育館の外だ。

 耳では悲鳴が聞こえる。周りの人が逃げているのがわかった。

 体を起こして前をを向く。打ち返された《プリキュア・ハッピーシャワー・シャイニング》に当たった私が貫通した穴と、その向こうに見える浦島太郎。

 怪物は私に向かって歩いてくる。

 何とかしないと……。

 と、思われた時。

「な、なんやこれ━━━」

 聞き覚えのありすぎる声がした。その方向を立ち上がりながら振り向く。

「あかねちゃん!」

 やっぱり彼女がそこにいた。

 あかねちゃんは私と同じプリキュアだけど、プリキュアじゃないから逃げてほしい━━━けど━━一緒に戦ってほしい━━けど危険で━━━。

「もしかして、星空さんか?」

「それは言わないことになってて……」

 あかねちゃんは私の手を掴んだ。

「それは言ってるようなもんや!」

 体がボロボロの今でも、私は変身していないあかねちゃんよりは強い。

 だけど私は引っ張られるまま連れて行かれた。 

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