スマイルプリキュアS   作:友だち

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(10) みんなで一緒に ①

 病室のドアが開く。

 みゆきはまだ、ベッドの上で今なお覚める気配ない眠りについている。人工呼吸器から、曇った寝息が病室の中反響している。

 部屋にやっておきながらやよいは、彼女の表情を見る。

 穏やかだった。もともと幼げな顔であるが、こうしてみるとさらにあどけなく見える。

 いつもは耳元にくるくる巻きにされた桃色の髪は、今は下ろされている。数か月眠っている分、髪は伸び、今では背中まで伸びているであろう長さになっていて、ベッドに上に広がっている。まるで王子様を待ち眠る姫のようだと、一瞬思った。

 そう考えると、みゆき今にも起きそうだと感じてしまう。いや、みゆきのことだからそのまま眠ったままで、学校に遅刻を━━━━。

 そんな疑念を振り払う。

 あかね、なお、れいかは各々が部活らしく、4人を代表してここに来た。なにか果物などの差し入れは無い。みゆきは今、管による栄養でしか補給することはできないからだ。

 だからやよいは、自分が書いてきた漫画のことについて語り始める。

「ねえ。私、また漫画を描いたんだ。みゆきちゃんにも見てほしいの」

 一度受賞した自分の漫画。新作を書いてもう一度コンテストに応募することを伝えた。あかねたちには見せた。あとはみゆきに読んでほしいと伝えた。

 だけど、みゆきは起きることはない。ただ眠る。

 きっと、自分たちが笑顔で話しかけつづければ、みゆきも起きるだろう。立場が逆ならば、みゆきはそうしたに違いない。

「そうだ。今日はみゆきちゃんのママにお願いして、これを持ってきたの」

 やよいは、持ってきたバックの中から一冊の本を取り出した。

 本と言っても、印刷用紙を並べ、上から太い画用紙を張り付けただけのクオリティだ。

「これ、みゆきちゃんが作った絵本だよ」

 みゆきの父親は出版業に努めているが、その会社が作るような出版できるものではない。

 だが、やよいはその作品を何の疑いもなく、絵本だといった。

 絵本の定義とは何かと言われれば、文字に比べて絵が多い本ということで説明はつくと思う。

 だけど、それよりもやよいは思う。絵が多いかなんて単なる形式に過ぎない。子どもたちを笑顔にする。物語に対して、楽しんだり、悲しくなったりすることが最も大切なのだと。それは、みゆきと同じように物語を紡ぐ自分だからこそ感じる、絵本が大好きな少女の信念だった。

 かくして、みゆきが書いた絵本《最高のスマイル》は絵本となり、一つの物語となる。出版はできないし、シンデレラのように時代、場所、人種を問わず楽しまれるものになるかは分からない。だが《最高のスマイル》は少なくともやよい、そしてみゆきと共にプリキュアとなって《バッドエンド王国》と戦ってきた仲間たちにも、記憶に、そして魂に刻まれることになる。

 やよいは一つ一つ、彼女の作った物語を読み始める。

 内容は、自分たちのプリキュアとして軌跡。

 みゆきが空から降ってきた妖精キャンディと出会うところから物語が始める━━━━。

 

 ***

 

 文化祭!

 私も大好きな学校のビックイベントだ。

 ちなみに去年は”前の世界”と同じファッションショーをした。

 授業もうれしいことに一旦止まり、学校中が文化祭に向けて動いている。

 3年生はどうやら教室での出し物らしく、私の組の3年2組は喫茶店をすることになった。私たちは受験もあって、比較的簡単にできるものになったらしい。

 でもただジュースとか出すだけならつまらないとのことなので、一度クラス案をだすことになった。

 2組のみんなは授業に座り、学級委員の北原君が教壇の前に立ち、クラスに向けて話し始めた。

「ではみなさんがやりたいことを言ってください」

「はい」

 真っ先に手を挙げたの私は、自分の席を立つ。

「では、星空さん」

「はい。私はメルヘンにしたいです」

「メルヘンとは━━━━」

 北原君は、すこし困惑した様子で聞いてきた。

「はい。私のイメージでは、きれいな森の中に喫茶店があって、妖精たちが飲み物を作ってるんです。そこで私たち人間じゃなくて、動物たちと一緒にお茶会をするんです」

 という私の言葉に、クラスのひとの反応は様々だった。女子のみんなは結構気に入っていた。

「結構面白そうじゃない?」

「絵本の中みたい」

 そう。私が子供のころから読んできた絵本では、さまざま動物が出てきて人間と同じように話す。

 だけど、逆に男子は不評らしい。女子と比べて悪くないかなーーみたいな反応だった。感覚として楽しそうとは思わなかったのだろうか。

「ふん。また絵本かよ」

 隣のほうの声から私に呆れるような声が生まれる。クラスメイトの豊島君だ。やれやれといったジェスチャーをしてくる。その表情は少し小ばかにしてくるようだった。

 気に障った私は、隣に身を乗り出し言い返す。

「ちょっと。馬鹿にしないよね」

「俺は事実を言ってるだけだぞ」

 豊島君の態度は変わることは無かった。去年は”前のクラス”と一緒でファッションショーするっていったら拗ねてどっか(屋上)行っちゃたのに。

「気にすることはないぜ星空」

 すると前のほうに座っていた男子たち、去年からクラスが同じ人たちが私に笑いかけてくる。

「豊島のやつ、嬉しいんだぜ」

「うれしい━━━━?」

「おい……!」

 豊島君は態度を一変し、焦っりながら去年からのクラスメイトに声をかける。

「去年は邪魔しちゃったから。今年は何かで手伝ってやろうってさ。それで今回も同じでお前の好きなものが通りそうだからうれしいんだ」

「おい。お前らなんてことを!」

「しかもお前、去年拗ねて教室から出たのに、その日のうちに星空に説得されてたよな!」

 この事実を聞いて、事情を知っているやよいちゃんたち元2年2組、そして他のクラスだった人たちも途端にどっと笑いだす。

「ぐう……」

 豊島君はなんだか顔を紅くしていた。

 私が一日でへそを曲げた豊島君を説得していたのは、一回経験してるからだ。

 だからと言って、みんなに迷惑をかけたことは少し引きづっているのだろうか。

 なるほど豊島君は私のことを手伝いたいのか。でも恥ずかしくてなかなか言えないと。その気持ちは私も分かる。

「ありがとう! 豊島君!」

 私は満面の笑みとともに感謝を伝えた。

 すると豊島君はもう一度得意げになった。

「まあ。俺の弾き語りで喫茶店を盛り上げてやるよ。絵本の中にも音楽してるやつはいるだろ。例えば《フラーレンの音楽━━━━」

「ブレーメン」

「う............」

 すると、豊島君は私からそっぽを向いた

「ふん」

 とだけ言ってきた。

 なるほど恥ずかしいのか。そう知ってしまえば、今の態度は少し無礼だとも思うが気に障らない。むしろ少しかわいく見えたりもしてきた。

 私たちは3年生だ。この文化祭が終われば受験へ突入する。クラスのみんなが楽しむことができるのはこれで最後のはずだ。

 

 

 

 この後、今の一件があったからか、私の意見はそのまま通ることになった。

 そして私はディレクター、の右腕に就任することになった。ディレクターは学級委員の北原君だ。北原君は私のイメージを知ってほしいとのことらしい。

「星空さん。じゃあこの教室をどのようにアレンジしたいですか」

 森の中の、というイメージだ。私はずっと店の中なら《森の中で》というイメージから外れると思った。

 私と北原君は教室で話し合う。

「私、店の外側でもコーヒーとか飲んでほしいんだ。だから外にテーブルを置きたいんだけど、どう?」

「うーーん。そうですね......」

 北原君は少し考えこんだ後、私の提案を否定した。

「正直、逆に外だと難しいと思います。学校の周りの景色が見えてしまうので......」

「そっかーー。じゃあその考えで行くと、テラスがある教室を借りて、テラスにテーブル置くのも無理だよねーー」

 ベランダから現代感のある街並みが見えるからだ。

「なので、この3年2組の教室を変えるしかないですね」

 私たちは教室を見渡す。

「じゃあ。教室全体に大きな紙を貼る感じかな」

「そうなりますね」

「でもその紙ってどうやって用意するの?」

「業者に頼んで印刷してもらうか......。それとも自分たちで描くかですかね」

 私はもう一度教室を見渡す。

「結構かかりそうだね......」

「君がいうには店員は妖精でしょ。もちろん変更が必要でしょうけど衣装づくりがありますしね」

 雰囲気づくりに躍起になりすぎて、喫茶店としての機能がおろそかになってしまっては本末転倒だ。しかも衣装作りが必要となると、背景の紙を作るのは少数精鋭にする必要があるだろう。少なくも、絵に精通した人がいるわけで━━━━。

「じゃあさ。やよいちゃんを呼ぼうよ」

「黄瀬さんを? そうですね」

 

 

 

 ということで、やよいちゃんに私たちのプランを聞いてもらうことになった。

 勧誘は私に任せられた。

 私は放課後、やよいちゃんの家でお話をすることになった。部屋の中、クリーム色の絨毯の上で互いに座る。そんな中、私は頭を下げてお願いした、

「いいよ」

 帰ってきたのは簡単な了承の言葉だった。ポスターコンクールのことがあったから渋られると思ったけど、簡単にOKをもらうことができたので、自分でも少し困惑した。

「いいの?」

「うん」

「実はいいものがあって、試してみたいことがあって」

 やよいちゃんはおもむろにその場を立つと、机の上にある、薄い板のようなものを取り出した。

「じゃーーん」

 満面の笑みで私に見せつけてくるのは━━━━。

「スマホ? それにしても大きいような......」

「お絵かき用タブレットだよ」

「どこで?」

「ママが買ってくれたの。私が練習に使いたいって言ったら」

 タブレットの隣についていた、ペンを取り出した。

 やよいちゃんはタブレットの電源を付ける。

「わああああ」

 画面に表示されたのは、和らかな木漏れ日が差すベンチだった。ベンチの上で黄色の鳥がさえずる姿が見える。ベンチは赤いレンガの道のわきに置かれたいた。

 陽ざしが差していることによる色の変化、木材とレンガの質感の違いが絵で表現されていて、すごく驚かされた。

 私には無理そう━━━━。

 図工や、私が”前の世界”で描いた絵本の絵を思い出し、圧倒的画力の差を痛感する。

「最近、背景の練習中なんだ」

「背景━━━━?」

「空気感っていうのかな? 私は春の陽ざしの中でていうイメージだったけど、ここが冬なら違うでしょ」

「そうだね。冬だったら背景の木が枯れていたりするもんね。あとこの鳥もカラスだったりするといいかも」

 脳死で描きまくれば、それだけで絵は上達しない、というのは理解できる。考えて、間違えて、試行錯誤をしかなければならない。

 やよいちゃんは、今の自分に向き合って、何をすればいいのかを考えている。

 多分、こういう機器って数万するはずで、私たちよりもお金が使える大人でも気軽に買えるようものではないはずだ。経済力でいうと、間違いなくうち(星空家)のほうがある。だけど、数万するものをぽん、とお母さんとお父さんが買ってくれるとは思えない。きっとやよいちゃんは自分がタブレットを使って、何をしていきたいのかを明確にお母さんに伝えたりしたんだろう。

 ちょっと勉強がてら、やよいちゃんの書いたイラストを見せてもらうことにした。

 さんさんと照り付ける太陽の下で、きらきらと光る海と砂浜。

 昨晩振った大雪が、朝焼けに照らされて輝く景色。

 秋が深まり、ひらひらと舞い落ちる黄色の染まった銀杏に囲まれた、木々のトンネル。

 私は、一つ一つ目に通しながら、やよいちゃんの絵のうまさに見とれていた。

 そんな中。

「あ!」

「思い出した! 私やよいちゃんに教室に張り付ける絵を描いてもらうことになったんだ」

 やよいちゃんの絵に夢中すぎて忘れていた。

 でもやよいちゃんはポカンとしながら。

「え、私いいよって言わなかった」

 ━━そうだっけ。

 視線を斜め上に動かし、自分の記憶を探る。

「そうだった」

「うん」

 少しばかり気まずい雰囲気が流れたので、私は北原と話し合った内容を伝えた。

 基本的には大きな用紙に、みんなで絵を描いていく作業だ。やよいちゃんのような絵のうまい子に、一旦えんぴつなどで書いてもらって、そこに色を塗っていくつもりだ。衣装作りや喫茶店としの機能を充実させるために、そこまで人数をかけることはできないことと共に説明した。

「なるほど。なるほど」

 やよいちゃんは考え込む。しかし、「そうだ!」と何か閃いた様子を見えた。

 私がなになに? と乗り出す。

 やよいちゃんは勝ち誇った表情で、自分のタブレットを私に見せつけた。

「私がタブレットに絵を描いて、印刷すればいいんだよ」

「確かに━━━━」

 印刷は学校か、それともどこかの業者に頼めばいいということだろう。そうすると、クラスで背景絵使う人数はやよいちゃん一人になる。

 私はうんうんと頷く。

「勝ったね」

「うん。勝ったね」

 何か勝負をしているわけではないが、なぜか勝ち誇った感覚になり、共に勝利を喜び合った。

 

 

 

「だめらしいです」

「「ええーーーーーー」」

 翌日朝。北原君は先生に、昨日やよいちゃんと話したことを伝えに向かったが、見事に却下されてしまった。

 私は勝ちを確信して教室でうきうきしながら待機をしていたが、まさに青天の霹靂だった。

「どうしよう……。勝ったと思ったのに」

「ねえ」

「二人は何と勝負してたんでしょうか……?」

 やよいちゃんと二人で残念に思う。

「それで、どうして駄目だったの」

 私が「はっぷっぷ~」と口を尖らせていると、やよいちゃんは却下された理由を聞く。

「印刷代のようです。さすがに横断幕数枚分の印刷となると、10万円は軽くするらしく、学校がそれだけのお金は出せないと━━━━」

「そうかああああ」

 私はがっくりと肩を落とす。仕方ない、昨日話した通りやよいちゃんに大きく絵を描いて、私たちが塗る、ということにするしかないか。

「一応、黄瀬さんに先生から伝言で」

「何?」

「タブレットは、文化祭のために限って、持ち込みはOKらしいです」

「へーーーー」

 とはいうものの、やよいちゃんは特に嬉しそうというわけでもなさそうだった。用途が限られているし、そもそも用途に対して使えない流れになっているからだ。

「仕方ないよやよいちゃん。そろそろ衣装も作らなきゃだめだし、大きな絵を描くの、お願いするね」

「うん」

 肩を落としながらも、微笑み頷くやよいちゃん。

 もうすでに、教室では準備が進み始めている。まだ今日は午前中に授業があってから準備ではあるものの、今日中に何か決めておかなければ時間のある明日動けない。

 落ち込んでいる暇はなく、今どれだけ最善を尽くせるか、考えて、実行して、未来につなげよう。やよいちゃんのタブレットは使えるかどうかは分からないけれども━━━━。

「みゆきーー」

 教室の端で衣装について話し合っている、衣装班代表のあかねちゃんが声をかけてきた。明日以降の本格的な衣装作りまでにいろいろ決めておきたいようだ。

「何ーー?」

「妖精いうてるけど、具体的にどんな感じなん?」

「どんな感じって?」

「服とかやな。羽はあるんやろうけど、具体的にどんな衣装つくったらいいとかーー」

 私は昔読んだ絵本で考える。童話になると、時代や国によって違う。羽の生えていない等身大の妖精さんもいる。だけど、日本では羽の生えた小さな子どもという印象が強いはずだ。泉とかは背景に描かれないだろうから、木に住んだりする私たちが思うオーソドックスなものにするべきか。

「あーーそうだねーー。私のイメージではなんか緑のーー服にーー。もういいや。とりあえずいい感じで」

 だからと言って、明確に説明できるわけない。

「はーー。うちらじゃ分からんて」

 あかねちゃんは少し怒ったように、言ってきた。

「じゃあえっとーーやよいちゃん紙ある」

「一応…………」

 ルーズリーフをもらい、私は鉛筆で想像する妖精を描くことにした。少し時間はかかったが、3分くらいで描き終える。そしてあかねちゃんに見せると━━━━。

「ぬぬぬ……」

 顔をしかめていた。そうしてやよいにその紙を見せる。

「なあやよい。これ、描きなおしてくれんか?」

 私渾身の一枚をやよいちゃんに出した。どうやら、私の絵はあかねちゃんには伝わらなかったようだ。というより下手くそでよくわからなかったのだろう。等身とか足の太さとか明らかに人間離れしてるし、目の大きさが左右全然違うし。

「……わかったよ」

 そうしてやよいちゃんは描き始める。

 その間に北原君と教室の机の置き方とかを話し合っているうちに完成した絵を見る。

 先ほど、「アナログの描くの久々だから大丈夫かなーー」なんて言った割には、私よりはるかにうまい。

 金髪の三つ編みツインテールの女の子。頭にはスズランでできたカチューシャ。若草色のペプラムに、桃色と白のフレアスカート。靴は白銀のハイヒール。

「おおーー。こんな感じか」

 そうあかねちゃんが喜んでいる。が、申し訳ない。

「ごめんやよいちゃん。このスカートってただ、ピンクと白ってわけじゃなくて、花びらが集まってできた感じなんだ」

 私の訂正に、やよいちゃんは悩んだ。

「そう。でも描きなおすの大変だねーー」

 と言って、消しゴムをもってくる。でも色鉛筆って消しにくいんだよね。うまく消せない様子に、さらに申し訳なく思う。

 その様子をあかねちゃんも見たらしく、

「ううーーん。こんな風に訂正しちゃあ大変やなあ」

と、何かいい手段はないかと考えている。

 やよいちゃんに全部任せるのもなあ、と考える。

 するとやよいちゃんは呟いた。

「タブレットなら一発なのに……」

 瞬間、私の中に電撃が走った。

「ん、やよい今なん━━━━」

「そうだ!」

 私のひらめきは、あかねちゃんとやよいちゃんは驚かせた。

「な、なに?」

 

 

 

 翌日の朝。

 昨日もういちどやよいちゃんの家に行った私は、やよいちゃんにあることをしてもらった。

「どうぞ」

 やよいちゃんは印刷してきたA4用紙を一枚見せた。そこには、昨日やよいちゃんに描いてもらった妖精の絵があった。やよいちゃん曰く、タブレットなら簡単に絵の修正ができるとのことなので、それにあやかることにした。私は昨日やよいちゃんに私のイメージする絵を修正してもらいがら描いてくれた。出来上がった絵を先生に頼んで、印刷してもらった紙を配れば、簡単にクラスメイトたちに服のモデルを見せることができる。

 教室に貼る大きな絵にも効果はてきめんだった。

 私たちは屋上を使って、大きな紙を広げて絵を描き、色を塗る作業をする。

 やよいちゃんが描いた妖精や動物たちが暮らす森の絵をかくのだが、大きな絵を作る分、絵全体のバランスを取りにくい━━らしい。なので、タブレットであらかじめ絵の上に黒線の格子を置くことで、絵が描きやすくなったとやよいちゃんが言っていた。しかも、途中で変更点があれば、やよいちゃんはそのまま持ってきたタブレットで修正を加えるのだ。

 やよいちゃんが大まかな線を描き終わった後はみんなで色塗りだ。

 やよいちゃんがうまいこと、絵の具で塗るだけでいいような絵を描いてくれた。髪による肩元の陰とか、頬の赤らみとか描かれたら大変そうなのは私でも想像はつくので、そう言った気遣いもしてくれたことにも感謝した。

 後は背景絵班代表のなおちゃんに後は任せよう。なおちゃんはやよいちゃんの絵の印刷を見ながら、背景絵班のみんなにお願いをしていく。

「えっとーー。君は木の緑をお願い。で、君には木の幹の茶色をやってくれるかな」

 全員が一斉に描き始めていく。

「やよいちゃんにも悪いし、紙自体もお金かかってるかねーーーー。破らないようにねーー」

「わかったーーーー。あーーーーびりびりーーーーー!」

「こらーーーーーー!」

 背景絵班所属の一人の男子生徒がふざけ、なおちゃんが怒る姿を見て私はくすりと笑う。

 するとなおちゃんが私に声を変かけてくる。

「みゆきちゃん。今空いてる?」

「空いてるよ」

「じゃあ色塗り手伝ってくれない。背景絵班のれいかが、生徒会の仕事が忙しいから人不足気味なんだ」

「いいよ。どこをすればいい?」

「じゃあ。花を塗ってくれない?」

「りょーかい!」

 私は大容量の絵の具入れに筆を突っ込み塗っていく。移動しながら、腰が痛くなりながら、木を塗りにきた男子にぶつかりそうになったりしながら、それぞれ協力して一つの絵を作りだしていく。

 私はちょうど全体絵をみているやよいちゃんの近くについた。

「大丈夫?」

「うん。それに、楽しい」

「そうだね......」

 クラスのみんなと一緒に作り上げる作業が楽しい。それを噛みしめながら、私はやよいちゃんに話す。

「やよいちゃんには悪いんだけど、私、やっぱり負けてよかったなって思っちゃった」

「そうなの?」

「うん。もし印刷してもよくて、今私たちがやってる作業が無かった場合、確かに人手はやよいちゃんだけに少なくできる。だけど、こうしてみんなでやり遂げるっていう喜びが少なくなっちゃうなって思ったの。

 もちろん、人手が少なくて済むほうがよかったと思う。その分衣装作りや喫茶店の部屋作りとかに人を回せるし。だけど、一人で済ませちゃうより私はこうやって背景絵班のみんなと協力して絵を作ることで、背景絵班のみんなともっと仲良くなってるって実感があるんだ。そう考えるとウルトラハッピーって気持ちになるんだ

 まあ、私の勝手な感覚なんだけどね」

 最後は少し、自虐的な笑いが出た。

 それを聞いた、背景絵班の男子が一人が口笛を吹く。

「星空いいこと言う~~~~」

「ちょっとーー。それ馬鹿にしてるでしょ!」

 私が反論する。

「みんな。絵を塗るよ!」

 なおちゃんが私たちに作業を進めるように言う。

 すると、今度は背景絵班の女子生徒が口を出してきた。

「でもでもでも、もう終わるよ」

「え……」

 なおちゃんが絵全体に目を向ける。確かに、あらかた、数字にすると8割は終わっているようだった。

「じゃあ何人かは教室の近くで作業中の衣装班の手伝いにいこうか......」

 すると屋上のドアが開き、衣装班代表のあかねちゃんが声をかけてきた。

「おーーい。衣装作りもう終わりそうなんやが、なんかするとこあるかーーー」

「あかね......。え……衣装班ももう終わり......!」

「え……。うわーー。絵ももう終わりかけやなーー」

「じゃあ喫茶店班に協力しようかな」

「いやーー。教室の芝生の設置とか、机の移動とか結構もう終わっとるで」

「じゃあもう終わりじゃん」

 あかねちゃんとなおちゃんの会話を聞きながら、私は屋上に取り付けられた時計を見る。

 ━━まだ午前か。

 午後どうする? やよいちゃんの絵のおかげでかなり作業効率が上がったらしく、やることが無くなってしまったような......。

 すると、男子の一人が私に一つ提案をしてきた。

「なあなあ星空。だったらもっと動物を増やしてもいいか?」

「動物の追加? 例えば━━━━?」

「ライオン!」

「ら、ライオン……」

 確かに描いてない。だが、私のイメージに合うかと言われたら━━━━。

 だが、私はさっきの言葉を思い出す。

 だけど、一人で済ませちゃうより私はこうやって背景絵班のみんなと協力して絵を作ることで、背景絵班のみんなともっと仲良くなってるって実感があるんだ。

 私は頷いた。

「そうだね。じゃあ午後からは、そういった意見をとりいれる時間にしようか! 北原君に言ってくるよ!」

 その意見に、背景絵班のみんなの表情が明るくなった。

「じゃあさじゃあさ。喫茶店のメニューに、俺ジンジャーエール入れたいけど言ってみようかな」

「いいと思う。私は変にコーヒーとか入れずにコーラ入れたい」

「俺はお酒ーー!」

「うちら中学生や!」

 午後の時間は、クラスのみんなで意見を言い合った。もちろん生徒会の仕事が忙しくしているれいかちゃんの願いも尊重しながらだ。

 そうして私たちクラスは一つになりながら文化祭の出し物を作り上げていく。

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