③と変わらなかったので、直しました。
また直すかもしれません(11/1 13:00)
━━ついに来た!
とやよいは心の中で叫んだ。
「な、なんだあいつ?」
やよいの近くで、蘇我先輩が聞く。
「俺らの同い年の豊島ってやつです。バンドが大好きらしいです」
「それでギター持っているのか」
「はい」
豊島は、みゆきのために文化祭で弾き語りをすると言い出した。もちろん本人にそのことを言えば、去年自分がバンドができないことにへそを曲げ、クラスから孤立しそうなところをみゆきに助けてもらったお礼だなんていうだろう。だがやよいは確信している。決してそれだけではないと。
豊島は突然、そのみゆきを指さした。
「星空あ!」
「な、なに?」
みゆきは、美術部男子が座るテーブル席に、ブラック一つ、ミルク入り砂糖なし一つ、砂糖のみのブラック一つ、ミルク二杯砂糖一つ、そしてミルクいっぱい砂糖入り少し温めのコーヒー一つを置き終えたところだった。
びくりと体が震えていた。置いている最中だったら、間違いなくコーヒーを零していただろう。
「俺がこうして曲を作ってやったんだ! そんなことしてないで、俺の曲を聞け!」
普段の彼に比べて、やけに機械的で、かつうわずった声だった。
そして後ろで待機していた豊島の連れの男子が吹き出すように笑い出した。
━━あれは吹き込まれたね。
みゆきの前では照れ隠ししかやってなかったような豊島が、あんなはっきり言うとは考えられない。後ろで笑っている男子たちが考えた文句をそのまま音読しているだけだろう。
あかねが、適当なテーブル席から椅子を一つとって、教室の壁際に置く。
「ほれ豊島。椅子や」
「あ、ああ」
豊島は椅子に座る。ギターを抱え、弾く準備をした。
どうやら、この場にいる全員が雰囲気を察したらしい。教室の中がふっと静まり返る。レモンティーを注文した女子なんかは、突然始まった物語に目を光らせている。美術部男子たちも、コーヒー片手に二人の行く末を見ようとしている。
やよいはみゆきを気にすると、今何が起きているのかを全く理解していない様子だ。豊島が行ったことに唖然としながら見ている。
みゆきは豊島の気持ちに全く気が付いていない。
一年ほど前、イギリスから留学生が来るころだっただろうか。みゆきはよく恋バナを自分から話すようになっていたことがある。恋愛に興味がないわけではないのは確かだ。
だがこうしてはっきり伝えないと、伝わらないし、ピーターパンというライバルを倒すことにはならないだろう。
やよいは、見るからに緊張している豊島を我が子のように見守る。
豊島は一つ大きな息をして、ギターで演奏を始めた。
「君と僕の間」
君の瞳が映す世界に
僕はいつも迷い込む
触れるたび、壊れそうなほど
儚い愛を抱きしめて
君と僕の間にある
見えない絆、解けない魔法
言葉を越えたその瞬間に
永遠が始まる気がした
夜空に舞う星たちのように
僕らの夢も輝くだろう
不安も涙も、君がいれば
すべて意味を持つから
君と僕の間にある
静かな熱、止まらぬ鼓動
触れた指先、その一瞬で
永遠を感じたんだ
演奏を終えた。
すると、教室がざわめきと拍手で埋まりだした。
豊島は歌詞を創ることに相当抵抗感を持っていたが、いざ作ってみるといい歌詞だと思った。
「きゃああああああああ」
テーブル席に座っていた女子生徒二人が思い切り拍手をした。
今の演奏は素晴らしかった。
もちろん本番はここからだ。
やよいはみゆきはちらりと見た。驚いたまま固まっていた。豊島が歌った歌詞の内容が頭に入ったのか、彼女の精神状況と言語能力両方の面から心配だが、変に口出ししたらこの場の雰囲気が壊れてしまう。
「やよいちゃん」
後ろで肩を叩く誰か。なおとれいかがいた。
「砂糖持ってきた」
「取材が終わりました」
二人とも小さな声で言ってくるあたり、今ここがどういう状況か理解してもらってるらしい。
「とりあえず、うちらは紅茶の用意をしておこう」
静かにやってきたあかねも小さく声をかけてきた。
やよいはキッチンに動きながら豊島を見る。
ギターを椅子の上に置いた。真っ赤になった顔のまま、足を動かし始める。
そのままゆっくりとみゆきを見ながら彼女に近づく。彼の動きのぎこちなさから、これも男子たちに仕組まれたことであるのがなんとなくわかった。
みゆきの2メートルほど前に近づく。ここで告げるのか、と思いきや、豊島はふとその場に左膝をつき、座り込んだ。しかし、視線は目の前の少女のままだった。左手は右ひざのほうへ、震える手を彼女に向けて差し出した。
豊島の表情は、顔がさらに紅潮している、だが普段からは想像もつかないほど真剣だった。
教室のざわめきも次第に収まり、クラスメイトたちは息を飲んで二人のやり取りを見守っている。
「君の笑顔は......俺にとっては......星のように輝いていた…………。俺のそばで…………光ってほしい…………」
豊島の声は震え、時折つっかえていたし、その理由の一つに作られ言われているセリフだというものがあるのだろう。それでも彼は真剣で、じっとみゆきを見つめている。
やよいは告白を受けたみゆきを見る。驚いていた。彼の行動に、ずっと唖然としたまま固まっていたらしい。その末にされたのが告白なんてみゆきの頭がキャパシティで耐えられるのだろうか。
ふと気が付く。いつのまにかみゆきの表情は緩み、微笑んでいた。申し訳なさそうで、目の前の男の子を慈しむ表情は、豊島にとっては天使のように見えているだろう。
「貴方の心、確かに受け取ったわ」
みゆきがくちを開いた。だがその口調は礼儀正しく、それでいてお淑やかだった。
やよいはそのことに疑問を覚えたが、すぐに豊島が口を開いた。
「で、では返事は…………」
「けれども、あまりに突然で心がまだ追いつかないの。どうか少しの間、私にお時間をいただけないかしら?」
そのセリフは待ってほしいとのことだった。
豊島はその言葉に少し戸惑いながらも、「あ、ああ…もちろん…!」と小さく返す。
その言葉を聞き終えると、みゆきは豊島に一礼した。両手でスカートの左右の裾を軽く持ち上げていた。そのまま背筋を伸ばして優雅に教室を後にした。歩いていった方向からしてみゆきは更衣室になっている教室に向かったのだろう。
やよいがふと時計を見る。
「あ、もうシフトが終わる時間だ」
「ホンマやな。じゃあ、後は豊島たちに任せてうちらは学校を周りにいきますかな」
あかねが声をかける。
「それじゃあ。やよいちゃんは、豊島とかに引き継ぎの連絡だけしてもらえるかな」
「わかったよ」
なおの指示に頷き、やよいたは豊島に近づく。すると、さっきまで北博をしていた本人は男子たちから寄ってたかられていた。
「やるじゃん豊島」
「これは漢やな」
と肩を突く間れたり、頭をもみくちゃにされながらも言われていた。
「べ、別に余裕だし…………」
豊島はいつも通り、顔を紅く染めながらも強がっていた。だが、やよいは彼はふとにやついた笑みを見せていたのを見逃さなかった。
***
中学最後の文化祭の終幕まであと数分。私たちの本日最後のシフトもそろそろ終わりを迎えようとしている。
教室内も人がいなくなってきている。終幕一時間前くらいは、学校を回り疲れた生徒たちがいたのだが、さすがにこの時間になるとみんな自分の教室に戻っているのだろう。私はキッチンの掃除をしながら夕暮れに染まりかけた教室を見渡す。プリキュアの4人が終幕に向けて片づけを始めていた。
ふとみんなと過ごした時間を思い返す。シフトとこれから先はきっと勉強しかなくなるのだろう、と考えればこの日が終わってほしくない気持ちが大きくなる。青木軍曹がいるからサボることができないだろうからだ。それに、私は今他人の体を借りて生活しているということを忘れてはならない。
身体が疲れ切っているのを感じながら、オレンジジュースが入った紙パックをゴミ箱に入れる。すると最後に紅茶だけが残っているのを感じた。これはなおちゃんに飲んでもらおう、と考えたところだ。
「紅茶いっぱいいただけないかしら」
という注文が入った。
多分一般客の女性だと声から推測した。
「はーい」
と軽く返事をした。
「それと砂糖を少し入れてくれないかしら」
「分かりました」
砂糖ってやっぱり入れるんだな、という感想を胸の中で響かせながら最後の一杯になった紅茶を紙コップに注ぐ。そして砂糖と塩と間違えないように注意しながらいっぱい入れる。
「だれか渡してくれない?」
と、ホールスタッフに呼びかける。
「はーい」
やよいちゃんが駆けつけてくる。私が紅茶を一杯トレイに置いたのを見て、それを女性に持っていった。
「どうぞ」
「ありがとう」
女性は黒い長髪の女の人だった。歳は多分30は超えてると思う。顔立ちは容姿からして日本人かな。だけど、紅茶を飲んでいる女性は日本らしからぬ服装を着ていた。赤い着物を着ていた。背中には天女の羽衣のような飾りがつけられていて、よく見ると髪には豪華な真紅の簪。絵本でいう織姫の━━━━。
「「ヒオリ!!」」
私とやよいちゃんが叫ぶ。女性は紙コップを口から離した後、こちらに得意げに目を向けた。
「気が付くのが遅かったわね」
「また何かをしに来たんか!」
あかねちゃんが詰めるも、ヒオリは気分よさそうね。
「ええそうね。この学校にコアソウルを放ちにね」
私はそれを聞いた途端、私は居ても立っても居られず、おもむろにポケットからソウルフルパクトを取り出した。
また学校のみんなを絶望させるなんて━━━━許せない!
私たちは教室にプリキュアのことを知っている人がいないことを認識し、すぐさま変身した。
「それと、実はもうコアソウルは召喚してあるの。喧騒の中いるのも面倒━━━━
プリキュア・スマイルチャージ!
キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!
太陽サンサン熱血パワー! キュアサニー!
ピカピカぴかりん、じゃんけんぽん! キュアピース
勇気リンリン直球勝負! キュアマーチ
シンシンと降り積もる清き心 キュアビューティ!
変身を終えると、私たちは息を合わせ、瞬時にコアソウルの気配に集中した。いつの間にか、それは教室の一角に静かに立っていた。大きさは私たちよりわずかに高い程度で、容姿も驚くほど普通の人間の男性のようだった。そして何やら頭に輝くものが見えた。しかし、立ち姿はどこか女性らしい。手を腰にし、自分たちに向けてやや半身で、足はV字に開いていた。
その瞳は冷酷で無機質な光を放ち、何かを確実に捉えようとする狩人のように静かにこちらを見据えていた。
「みなさん! まずはコアソウルを教室から追い出して、外で一気に仕留めましょう。今は私たちしか教室にいないのは好都合です。短期決戦で叩きましょう!」
凛とした声で指示を出したのはビューティだった。
「ちょっと、待って……今私、話してたのに━━━━」
まずビューティが氷の力を使い、手元に生み出した剣がキラリと輝くと、彼女はすばやくコアソウルに突き立て、鋭い氷が彼の全身を覆い始めた。コアソウルの動きが一瞬止まり、氷に閉じ込められるようにしてその場に固まる。
その瞬間、ピースが雷のような速さで教室のドアに駆け寄り、廊下に続く扉を勢いよく開いた。そればかりか、教室のドアの真正面にある窓を開ける。
「サニー!」
ピースが叫ぶと同時に、サニーが拳に炎をまとわせ、氷に閉じ込められたコアソウルに一撃をお見舞いする。その一発で、氷の檻ごとコアソウルが吹き飛ばされ、教室のドアをすり抜けて廊下の窓へと突っ込み、潜り、校舎の外へ出る。
「ハッピー、いくよ!」
マーチが合図を送ってくる。私はそれに頷き返すと、マーチは軽やかに跳び、空中で仰向けになりながらヒールを私に向けて伸ばした。私はそのヒールを私のヒールを合わせる。
「飛んでけぇーーーー!」
マーチの掛け声とともに、マーチを発射台として飛んでいった。
教室の窓から勢いよく飛び出すと、外の空間に溶け出したコアソウルの姿が目の前に捉えられた。サニーの炎によって氷が解けていた。
そのときだった。
「サニー! 私も飛ばして!」
教室の中からピースの声が響き、サニーの「あ、ああ!」という返答も聞こえた。直後、ピースは一直線に、私に向かって飛んできた。
「ピース!」
私は呼びかけると、ピースも力強い表情でこちらを見返しながら、
「ハッピー! 一緒に合体技を使おう!」と頼んできた。
その瞳には揺るがぬ決意が光っていて、私は迷うことなく頷く。
「行くよ、ピース!」
私は彼女に声をかけると、ピースも笑顔で頷き返し、私たちは互いにしっかりと視線を合わせた。
空中で私たちは並ぶ。その瞬間、私のソウルフルパクトから光のエネルギーが、ピースからは雷のようなエネルギーが、空高く昇り、私たち二人の体に降り注ぐ。まるで全身が光で満たされるような感覚に包まれた。ピースの瞳にも、私の瞳にも決意が宿る。
「《プリキュア・ライトニング・ドゥア・スター》!」
叫びと共に、稲妻のように、眩い閃光が私たちの足元を中心に広がっていく。二人の動きが一体となり、一直線にコアソウルへと突き進む。
バリバリと轟く雷鳴が空気を震わせ、コアソウルの姿がその中で一瞬浮かび上がる。そして、光と雷の圧力で一気に蹴り砕かれた。砕けたものは黒い絵の具のようなものに変貌し、中からは黄色の霊魂のようなものが現れて、消えていった。
私たちは地面に飛び立つ。
周りには、上空で起きたことにざわめく一般人の人たちがいたので、私たちはそそくさとその場を後にした。
変身を解くと、私たちはそのまますぐに教室へと戻った。先ほどの戦闘を終えたばかりだが、どうしても気がかりがある。そう、ヒオリがまだ教室に残っている。残っている仲間は確かに3人いるが、念のために万一に備えて、私は急ぎ足で3年2組の教室へ向かうことにした。周りの人に騒がれないように変身はしていないが、ヒオリがまだいるようなら私たちはもう一度変身する。
教室のドアをくぐると、待ち構えていたかのように、あかねちゃんがすぐ私の方に詰め寄ってきた。彼女は不思議そうに問いかけてくる。
「やよい!さっき、どうして急に『自分も飛ばして』なんて言い出したんや?」
どうやら、戦いの最中に私が突然お願いしたことで驚いていたようだ。そうだ、教室で聞こえてきたサニーの声が、あのとき少し動揺していたのを思い出す。
やよいちゃんは、胸を張って答えた。
「だって、私とハッピーの合体技だけが、まだ無かったんだもん!」
私の言葉に、あかねちゃんは一瞬驚いたようにこちらを見つめるが、すぐに納得したように頷いた。
「そうか……」
実際、ハッピーとサニーには《スターバースト・ライト》という合体技があるし、ビューティと私には《グラソンレイン・ライト》がある。確かに、ピースとハッピーのペアには合体技が無かったのだ。
そのとき、不意に、なおちゃんが軽くため息をつきながらぼそりとつぶやいた。
「別に、どうでもいいでしょ……」
その言葉に少し気落ちしたやよいちゃんは、肩を落とし、少し寂しそうに見えた。
「あ、そういえばヒオリは?」と、私はあたりを見渡しながら尋ねた。
「彼女なら、コアソウルが消えた瞬間に紅茶を一気飲みして帰っていきましたよ」と、れいかちゃんが答えてくれた。
「何か言ってた?」
「ああ、そうですね……彼女、『さっさと終わってよかったわ』とか『紅茶、おいしかったわ』って、そんなこと言ってました」
「あ、そう……」
少し戸惑いながらも、紅茶を褒めてもらったのがなんだか嬉しかった。れいかちゃんも微笑んでいる。
その場の空気が少し和んだところで、あかねちゃんが真剣な表情に戻りながら言った。
「それにしても、やっぱりヒオリたちも誰かに命令されて動いてるんやないやろか」
「うん、そう思う。ヒオリは、戦闘の最中も明らかにやる気なさそうだったし、嫌々やってる感じだった」と、やよいちゃんが付け加える。
「そうですね……」れいかちゃんも同意するように頷いた。
確かに、ヒオリたちの行動にはどこか強制されたようなものが感じられ、自然な意思で動いているとは思えない。彼女たちが不本意ながら従っている誰かがいるのかもしれない、そう考えると不安がよぎる。
「一応、ジラとマリといった幹部級より上の存在、まだ私たちの前には姿を現していない、いわゆる総帥的な存在が裏にいるってことなのかな……?」
やよいちゃんの言葉に、れいかちゃんは真剣な眼差しで深く頷いた。
「ところで、みゆきちゃん、さっきのコアソウルって結局何だったの?」
ふと、なおちゃんが眉を寄せ、少し不思議そうな顔で尋ねてきた。
私は答えながらその姿を思い出す。さっきのコアソウルについて思い出す。コアソウルの体格からして男性だ。あとは服装から、どの絵本に出てくるのかを想定するのだけど、服着てたっけ? という疑問に駆られる。しかし、服を着ていないのであれば答えはある。
「多分、絵本的には《裸の王様》って感じかな?」
「《裸の王様》って、あれでしょ……『馬鹿には見えない服』って話を王様が信じちゃって、実は裸のままで民衆の前に堂々と出てきた、っていうあのお話だよね?」
なおちゃんはすぐにピンと来たようだが、少しだけ首を傾げながら確認するように言った。
「そうそう!その《裸の王様》のお話だよ。でもね……実はそのお話って、私たちがよく知っているバージョンとはちょっと違っているんだよね! 実は、昔から伝わっている《裸の王様》の原作では、王様に真実を指摘するのが民衆の中の子どもってわけじゃないんだ。それに、服が見えない人の条件も、今の私たちが知っている話とはかなり違っていて……」
「みゆき、その話は一旦止めとこうか?」
横からあかねちゃんに泊められた。
「えーーー!?」と、私は残念そうに声を上げる。
本当はそこから、王様に真実を言うのが民衆の子どもじゃないことや、そもそも服の見えない条件も全く違うから私たちがよく知る話とはかなり別物だっていることも言いたかったのに。
唇をとがらせて「はっぷっぷー」と呟いた。
すると、今度はれいかちゃんが少し思い出したように言った。
「では、さっきのコアソウルにあった人っぽい要素って、例えば陸上選手みたいな素早さだったり、風船を作ったり……それはだれかわかる人はいますか?」
「うーん、それがね……」
私も一生懸命思い返す。立ち姿は女性で、どこか凛として…………。
すると、やよいちゃんが答えた。
「あ、もしかしてだけど……モデル?」
口ぶりからして自身はなさそうだったが、教室のドアの前に立っていたあのポーズを思い出すと、現実味が帯びていって━━━━。
私と同じ状況になったであろうあかねちゃんはすかさず「なんでやねん!」と突っ込んでくる。
確かに《裸の王様》と《モデル》の合体なんてあまりにもあんまりすぎて━━━━。
私たちはその滑稽なイメージを思い浮かべて、教室でクスクス笑い合った。
「何か音が聞こえたけど、何かあったのか?」
その声に振り向くと、学校を一巡りして戻ってきた男子たちが教室に入ってきていた。教室の時計を見上げると、もうすでに文化祭の閉会時間を過ぎ、片付けの時間になっていた。数日かけて準備した飾りや展示物がこれから片付けられて、ほんの数分で教室が元通りになるのかと思うと、なんだか少し寂しい気持ちになった。
男子たちが笑いながら各々の持ち場を片付け始める中、ふとその集団の中に豊島君の姿が見えた。そうだ、豊島君には話したいことがあったんだ。私は少しずつ歩み寄り、彼の方へ向かっていった。
私が彼に近づくにつれて、教室にいた友人たちから微妙などよめきが聞こえ始めた。「あれ……?」とでも言いたげに顔を見合わせていたり、小さな笑い声が聞こえたりする。
私は気にせず、豊島君の前で立ち止まった。すると彼は私と目が合った瞬間、まるで不意をつかれたようにびくっとして、少し焦った様子で目を逸らした。もしかして、私が突然教室を出て行ったことに驚いてたのかな?
「豊島君、もしかして、私が《あの時》急に教室を出ちゃったからびっくりした?」
私が尋ねると、豊島君は目を丸くし、焦り気味に言葉をつなげた。
「いや、別に、そんな……いや、やっぱりそういうことかも……」
その姿が少し可笑しくて、微笑みながら私は説明を始めた。
「豊島君が悪いとか、そういうわけじゃないんだよ。ただ……あの場面では、私のセリフ的にそうなちゃったというか」その言葉が教室全体に響くと、ピタッと静まり返った。
「セリフ……?」
豊島君は、目の前で何か信じられない事実を突きつけられたかのように、驚きで固まっていた。
「あ、ごめんね!もしかして、私が怒ってるとか、そんな風に思っちゃったかな?」
私はあわてて彼に続けた。
「全然違うの。むしろ、豊島君があんなに頑張ってくれて、本当に嬉しかったんだよ。ギターの弾き語りなんて、すごく大変だったのに……それに、男の子たちと一緒に寸劇までやってくれて。もしかしたら無理させちゃったかなって思って、それで申し訳ないなって気持ちもあったんだけど、せっかくの場だから、私もその演出に合わせてみようって考えてたの。それでね、どうせならいい感じのセリフも入れてみようって思ったんだけど……でも、なんか上手い言葉が出てこなくてさ、最近読んだ絵本の展開をそのまま使っちゃったの。」
私は少し照れくさそうに笑った。
「その絵本では、告白を受けたお姫様が急にその場を去るシーンがあって、それがすごく印象的だったから、ついその場でやっちゃったんだよね━━━━豊島君?」
豊島君は完全に固まったまま動かなかった。
「すまねえ星空…………」
「豊島は別の場所で片付けしてくるよ」
「そ、それじゃあなーー」
木村、野川、宗本の三人が豊島君を連れてどこかに行ってしまった。
***
やよいは一連の出来事を、頭を抱えながら見ていた。
他の人は全員分かっていたのにどうしてみゆきちゃんだけ! という頭の中で叫ぶ。
「黄瀬さん」
横からクラス委員の北原が苦笑いをしながら話しかけてきた。彼も豊島君に同情しているのだろう。
「ああ、木原君」
「星空さんって、鈍いね」
「主人公かって言いたくなるよ…………」
やよいは豊島が男子に連れ去られてぽかんとしているみゆきを見つめていた。
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