私が家の外に出ると、ジラが門塀奥に立っていた。約2年前の出来事を思い出す。
ジラの後ろにはコアソウルがすでに用意されていた。
見た目からして熊さんだ。だけど、二足歩行で立っていて、明らかにこれから相撲の《はっけよい》の姿をしている。私はすぐに、金太郎に出てくる熊だとわかった。
あとは人間の要素━━━━。野球や、風船も持つようなもの。今の状態じゃ全く分からないけど、変身して戦えばわかってくるだろう。
だけどまだ変身しない。ポケットにあるソウルフルパクトは取り出さず、ジラに視線を向ける。
その前に、私はジラに聞きたいことがあるからだ。あっちだって、わざわざ私を待ってくれているのだから、話はできるはず。
熊のコアソウルは四股を踏む動作を続けている。ドシンドシン、大音量が周囲に響く。緑川家の中からは悲鳴が聞こえている。この音がせいで、なおちゃんの弟たちが怯えている。逃げす時間を作るという意味でも、この会話の意味はあるだろう。
「ねえ」
「なんでしょうか?」
ジラがいつも通り冷たく、私に反応した。
「どうして、私がこの世界にいるの━━━━?」
私は率直に聞いた。2年前、”この世界”で初めて私がキュアハッピーになったあの瞬間、ヒオリは”この世界”にきたばかりの私のことを知っていた。
聞いても答えてくれるなんて思ってもないけど、彼らは絶対に、私たちが知らない重要なものを知っている。
偶然知りえたこともあるけれど、聞かないと分からないことなんて山ほどあるんだ。
するとジラは眼鏡を光らせる。淡白に質問を返してきた。
「あなたはこの世界に来て━━━━どのくらい経ちましたか?」
「それは━━━━2年くらいだけど」
質問の意図などわかるはずもなく、私はジラの言葉を待つように真実を告げた。
「そうですか」
ジラは右手を自分の顎に添え、考え始める。彼の頭の中には何が浮かんでいるのだろうか。
私は彼の言葉を待ち続ける。
そしてたっぷり十数秒達して、ジラの口から感想が零れた。
「早いですね━━━━」
ジラはそれだけ言った。いつもは常に無表情で、口数も多いとは言えない。感情見え隠れすることは見たことが無い、だけど、今口にした「早い」という言葉は、声に抑揚があり、実際に彼は驚いているのだということがなんとなく読み取れた。
「はやい━━━━?」
だけど、今必要なのは、ジラの言葉の意味を知ることだ。はやい。漢字はきっと《日に十のやつ》だと思う。
2年が━━━━早い━━━━?
「どういうこと?」
ジラは少し眉を動かしたが、再び無表情に戻ると、静かに首を横に振った。
「あなたが知る必要はありません。知ったところで、意味のないことですから」
そうだ。彼らは私を勝手にこの世界に置いて、情報についても自分たち主導でしか教えない。
「ただあなたは、あなたの”役割”を果たせばいいのです。なんの意味もなく、堕落したままこの世から消え去るだけではないのですよ。結構なことでしょう」
「それは、”この世界”にいる人は、私以外無意味だということ?」
私はジラに問いかけた。
「そうなりますかね…………。いえ、あなたと共にいて、あなたに影響を与えた。それだけなら、意味があるのかもしれないですね」
ジラは少し考えるように言ったが、その言葉からは冷酷さが滲んでいる。彼の目には、ここにいる人たちはただ”私を囲む存在”として映っているだけのようだった。まるで私の付属品か背景のような存在。それ以上でも以下でもないのかもしれないという考えが、私の胸に鋭く突き刺さる。
「でも、そんなことないよ」
私は思わず、声を震わせながら言葉を続けた。
「この世界に来てからの2年間で、私にはわかったんだ。ここにいる人たちはそれぞれ違う人生を持っていて、誰もが特別な存在なんだって。彼らには彼らの過去があって、未来がある。そして、新しい命も生まれ続けている」
ジラは無表情のまま、私の言葉をじっと聞いている。それが逆に、彼がどれほどこの世界の人たちに無関心であるかを浮き彫りにしていた。
私はジラにまっすぐ向き直り、力を込めて言った。
「この世界の人たちは、別世界の誰かと同じDNAや同じ体を持っているかもしれない。でも、だからって同じ存在だって決めつけるのは違うと思う。過去が違えば、未来も違う。彼らの心や想いも変わる。ここにいる人たちが、ただの誰かの代わりなんかじゃないって、私は知ってる」
そう言ったとたん、私の中に電流のようなものが浮かんだ。
━━だとすれば、ジラがその考えに至るまでの過去には、いったいどんな出来事があったのだろうか?
「あなたは、誰なの? 何があって、こんなことをするの?」
私は、ジラに問いかけた。彼の謎めいた存在が、冷たい視線の奥にどんな秘密を抱えているのか、どうしても知りたかった。
ジラは少し目を伏せ、私の質問にすぐには答えようとせず、沈黙が場に流れた。普段はいつも冷静で無表情を保っている彼だけれど、今この瞬間だけは違って見えた。
「僕には、必要のない━━━━はずです」
「はず━━━━?」
それは、ジラが始めて言い切らなかったことだと思う。彼の口調を一言一句覚えているわけではないので確証はないけど、きっとそうだ。
ジラの表情がさらに曇り、無表情だった顔があきらかな苦悶に歪んでいった。彼の眉がひそめられ、冷たい瞳にもわずかに焦りが混ざる。何かを思い出しそうで、それでいて思い出したくない、といった複雑な表情だ。彼は悩んでいるのだろうか? 本当に「必要ない」と感じているのか、それとも心の奥底に抑え込んでいる何かに揺さぶられているのだろうか?
ジラが、低い声で何かを絞り出すように呟いた。「……ない……必要ない……ない……」
「え……?」
私は耳を澄ませた。なにか言っている。コアソウルの四股踏みのなか、聞こえるように一歩、ジラに歩み寄る。
「必要ない! 必要ない! 必要ない! 必要ない。必要ない。必要ない。必要ない必要ない必要ない必要ない必要ない必要ない必要ない必要ない」
「な…………」
必要ないと連呼している。自分の苦しみを断ち切るように、自分に言い聞かせるように同じ言葉を連呼するジラの姿に私は困惑した。感情を抑え込むように言っていた連呼は次第に機械的な復唱に変わる。私は恐怖すら覚えた。その異様さに、歩み寄った足を止めるばかりか、後ずさってしまう。そのまま重心が後方により━━━━体が━━━━。
「みゆきちゃん!」
倒れこむ私を支えたのはなおちゃんだった。
「なおちゃん━━━━」
「大丈夫━━━━?」
「私は大丈夫だよ。それより━━━━」
私は前も向こうとした途端━━━━。
「わかってる。けいたたちは逃げさせた」
なおちゃんは即答した。
わかっていない、確かになおちゃんの弟たちは大切だ。何も悪いことなんかしていない100パーセントの被害者で、最も守らなければならない存在だ。だけど━━━━私が今気にしていたのは━━━━。
「ジラ━━━━」
なおちゃんは静かに、それでいてこれ以上ないほどに怒りの感情を見せて彼の名前を呼んだ。
その声と表情に、私は身震いをした。
これほどまで怨嗟のこもった顔は、私は16年の人生の中で初めて見たのだ。人はこんな表情が出させるのだと、なぜか冷静に考えてしまった。
「誰かと思えば━━━━この家だったんですね」
さっきまでの苦悶の表情はどこへ消えたのか。名前を呼ばれた少年の顔は一転して無表情だった。私が緑川家を出た直後の━━━━いや、それ以上に無表情に思えた。ただ感情を見せないだけではなく、感情そのものがないようで、心が無いようで、まるでマネキンのような人工物を彷彿をさせる顔だった。
さっきのジラとのやりとりは本当にあったのかと思いたくなる。
「誰かと思えば━━━━?」
逆に低い声で言い返すなおちゃんの口からは一つの感情で満たされていた。
何もいわず、私はなおちゃんの腕から離れ、自分の足で立つ。
ジラを見つめる。すると、彼は私のほうを向いていた。なおちゃんに興味を全く示さなかった。それが、隣に立つ彼女の怒りをさらに買いそうな行為だということを、ジラが理解できているのかは分からなかった。
ジラは指を鳴らした。その合図に応じるように、熊のコアソウルの動きが変わる。ずっと四股を踏み続けていた熊がぴたりと動きを止め、強く張り詰めたような姿勢を取った。その姿はまるで、《はっけよい》をする力士のようだった。
変身しなければ。
私はそう感じた瞬間。
「いくよ。みゆきちゃん」
私の前に、なおちゃんが変身の合図を出した。今は戦わないと、まずはコアソウルを倒さなければならない。
プリキュア・スマイルチャージ!
キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!
勇気リンリン直球勝負! キュアマーチ!
光に包まれ、私たちは変身した。
ジラは私にもう一度目を向けた途端、コアソウルに命令を下す。
「さあ、戦ってくださいコアソウル。僕は━━━━
その途端、旋風が舞う。
緑川の前の道路に沿うように、コアソウルの体が一瞬で跳んだ。
マーチがすぐさま蹴りを入れたということを理解したのは、コアソウルが動いて3秒後のことだった。
「やああああああ!」
マーチの掛け声とともに、立ち上がろうとするコアソウルにもう一度蹴りが炸裂する。蹴りは目にも留まらぬ速さでコアソウルに炸裂した。あまりの勢いに、コアソウルが巨大な体を揺らし、道路沿いに体を後退させる。それでもなお、なおちゃんは攻撃の手を緩めることはなかった。彼女の怒りが、ひとつひとつの攻撃に乗せられて、まるでコアソウルに食らいつくかのように迫っていく。
横目でその姿を見ながら、私も感じた。なおちゃんには、どんな哀れみも慈悲も存在していない。ただ、家族を危険に晒した存在への鉄槌を下す、という一点だけが彼女を突き動かしているのだ。
家族思いで、優しさと情熱に満ちたなおちゃんが見せる冷徹で激しい怒り。すべてを凍らせるような冷たさで押し殺しながら、相手を容赦なく打ち砕こうとしていた。
マーチは、次々と容赦なく攻撃を繰り出し続ける。力強い蹴り、回し蹴り、拳の一撃、すべてが怒りと決意の結晶となって、コアソウルに叩き込まれていった。
私も加勢しよう━━━━。
緑川家の前に立っているだけの私は、動き出そうとする。
「待ってください」
ジラが私の目の前に立ちはだかったかと思うと、冷たい視線を私に向け、静かに手にした黒い本を開く。見開きには、ジラが何か描かれていた。それを確かめようとする前に、ページから濃密な黒い光が溢れ出し、辺りに広がっていった。
「出てきなさい」
ジラの声が低く響き渡ると同時に、本から噴き出した黒いエネルギーが渦を巻き、次第に一つ、また一つと姿を変えていく。その暗闇から現れたのは、まるで地獄の門から呼び出されたかのような兵士たちの軍勢だった。彼らの姿は恐ろしいほど不気味で、ただの人間とは程遠い。龍のように長い顔、鋭い牙、そして全身を覆う鈍く光る黒い鎧。
それぞれは長剣、槍、斧、弓と様々だ。
「これがあなたの”対戦相手”です」
ジラが不敵に笑みを浮かべると、兵士たちは私を取り囲むように配置についていく。その数は、ざっと数えただけでも三十体以上。彼らの目は血のように赤く光り、その目でじっと私を見据えている。その視線には、人間らしい感情は一切感じられず、ただ無表情で私を無力化しようとする冷たさだけがあった。
私は思わず息を飲み込み、体が自然と戦闘態勢に入る。マーチを助けに行きたい気持ちは強いけれど、目の前にいるこの数の兵士たちを放置するわけにもいかない。兵士たちが間合いを詰め、剣や槍を構え直して私を狙ってくる様子が、無言の圧力となって襲いかかってくる。
最初の兵士が鋭い槍を持ち、私に突進してきた。目の前で繰り広げられる戦闘のスピードは驚くほど速いが、私はその動きに合わせて一瞬で反応する。槍の先端が私の胸元をかすめる寸前、素早く身をかわし、その勢いを利用して兵士の肩を蹴り飛ばした。
すると私の意思関係なく、蹴りに光が纏う。兵士一匹(?)は弾けるように体を霧散させ消えていった。
すぐに別の兵士が現れ、今度は長い剣を構えて私に向かってきた。彼の動きは一瞬も止まることなく、剣を真横に振り下ろす。瞬時に体を捻りながら飛び、背後に回り込んだ。そして、相手の背中を思い切り拳を突き刺す。その兵士の体も消える。
次々と目の前の兵士たちを打ち倒していく。
槍を持った兵士にはその槍の先端を蹴り飛ばし、素早く間合いを詰めて目の前に放った拳を叩き込む。すると10メートル遠くのほうから、弓を持った兵士が矢を放ってくるのが視界の端に見えた。私はその矢を避けるために一瞬で地面に伏せる。そこを2匹の兵士が長剣を振り下ろしてくるが、私はその兵士の地面を蹴りで払う。一瞬で立ち上がる。
「やあ!」
両手を横に伸ばす。手のひらから大きく光のエネルギーを発射させ、私を斬ろうとした兵士二人に浴びせる。
戦いの最中でも、私の心は冷静を保とうとする。倒した数は増えていくけれど、敵の数は減らない。次々と新たな兵士たちが現れ、私を囲んでくる。今まで感じたことのないほどのプレッシャーが体に圧し掛かるが、それでも私は足を止めることなく、戦い続ける。
ジラの顔が、静かに、無表情のまま私を見つめているのが視界に入る。その顔はいつも通り冷たく、そこから何を考えているのかを読み取ることはできない。だけど、その彼の唇からぽつりとこぼれた言葉が耳に届いた瞬間、全身に緊張が走った。
「━━すばらしい」
「━━━━え?」
その言葉の意味を考える間もなく、私はその場に凍りついてしまった。ジラが何を指して「すばらしい」と言ったのか、理解が追いつかない。ただその抑揚のない言葉に、内側に潜む冷酷さを感じる。
その一瞬の隙を見逃さなかったかのように、背後から不穏な空気が迫ってくる。反射的に振り返ると、巨大な兵士が斧を振り下ろしてくるのが目に入った。私は瞬時に体を捻って反応しようとするが、攻撃をかわしきれず、かろうじて地面に飛び込むようにして刃の軌道から逃れた。だが、その瞬間、別方向から次の攻撃の気配が感じられた。
「まずい!」
顔を上げると、兵士たちが取り囲むように矢を放つ準備を整えていた。そして、一斉に無数の矢が私を狙って放たれる。避ける隙間などほとんどなく、逃れる術も限られている。私はすかさず体を丸めて地面を転がり、何とか矢の雨をかわす。そのまま地面に向かって右手から小さくエネルギーを放ち、空中へと飛び上がった。
「まだ……いるのね」
空中から見下ろすと、地面には無数の兵士がまだ私を狙って武器を構えていた。ジラの魔力で生み出された異形の兵士たちが、動きを止めることなくこちらに向かってくる。
「《プリキュア・ハッピー・シャワー・シャイニング!》!」
心を込め、空中で桃色の光を集中させる。そのまま一気に下方の地面に向かって放つと、光線がまっすぐに放たれ、次々と兵士たちを飲み込んでいく。まばゆい光が広がり、兵士たちが次々と光の粒子となって消えていった。
一瞬の静寂が訪れるが、まだ残った兵士たちが私を目がけて再び向かってくる。その数は確実に減っている。
その中で、ジラの「すばらしい」という言葉の意味を考えていた。
再び地面に降り立ち、次の兵士を睨む。彼らは機械のように整然とした動きで武器を構え直し、無言で私を囲んでくる。私はその無機質な兵士たちに対し、しっかりと拳を握りしめ、兵士に向かって突撃した。剣を振り上げてくる兵士の攻撃を素早くかわし、光を纏った拳で胸元に一撃を叩き込む。その瞬間、兵士の体が光の中で弾け飛び、霧のように消えていった。
そうして数十秒経って、すべての兵士が倒れた。戦場は静寂に包まれる。その場に残ったのは、私の荒い呼吸と、ジラだけだ。
ジラは自分の本を持ったまま、私を見つめてくる。
━━今は構っている余裕はない。
私はすぐに、戦っていた緑川家の敷地から出る。しかし、兵隊との戦いが終わった直後、私は気が付くべきだった。戦いの音が私の場所と、マーチあいるであろう場所からもいなくなっていることに。
「い、いない…………」
緑川家の外はがらんとしている。そこには一般人もいないし、マーチもコアソウルもいない。
冬の寒風が吹き抜けるだけだ。
「おーーい」
すると、後ろのほうからサニーの声が聞こえた。
「みんな!」
振り向くとサニー、ピース、ビューティの三人が、走ってやってくるのが見えた。多分、マーチが電話で呼んだんだ。
「と、いう状況か」
二分くらいかけて、今の状況を整理しながら説明を終えた私に、ピースが首をかしげて尋ねた。
「でも、どうしてマーチはいないの?」
その問いに、サニーが即座に答える。
「コアソウルを追いかけたか、戦ううちに戦闘場所がどんどん移動していったからとちゃうか。実際、マーチはコアソウルを追いかけてくれたこともあるし」
サニーの推測はもっともだ。けれど、ビューティはすぐさまその意見を否定した。
「でも、それなら逃げられる可能性は低いはずです。一度この逃走方法は試されて失敗しているのでしょう? それに、少なくとも私がキュアビューティとして戦ってきたこの2年弱の中、同じ手段で何度も逃げるような敵には遭遇したことがありません」
「確かに━━━━」
私はふと緑川家の塀の上に視線を向けた。私たちを静かに観察しているジラが立っている。まるでこちらの動きを見極めるかのように、ただ不気味に私たちを見つめ続けている。逆にいえば、今のところ攻撃してくる様子はない。
ジラがこんな風に余裕を持って私たちを見ているのも気になる。彼が冷静なまま、わざわざ失敗するような作戦を繰り返すとは思えない。
「もしかして、逃げるスピードがアップしているってこと?」
その考えに他のメンバーも思案の表情を浮かべる。すると、ビューティが小さく首を振りながら、落ち着いた口調で言った。
「いいえ、逃げる速度の向上も確かに可能性として考えられますが、それ以上に、そもそも追いつかれることを前提にして作戦を取っている可能性もあります」
「それって……まさか!」
ピースが驚いたように声を荒げた。ビューティは彼女に真剣な視線を向け、神妙な顔で静かに頷く。
「そう。待ち伏せです」
「そんな……!」
ピースが唖然としたように口を開けた。
「そもそも、なおの家に現れる時点で、ただ逃げるだけが目的ではないのです。もしかすると━━」
「いや━━」
私はその推測をかき消すように首を振った。今の状況を見つめ直しながら、自分の胸に抱えていた疑念を口にする。
「狙われているのは、私だと思う」
「どういうこと?」
ピースが不思議そうに眉をひそめた。
私は右手を額に当て、少しずつ思い出すように話し始めた。
「ジラとなおちゃんが話していたとき、どうもジラはなおちゃんに特別な興味があるようには見えなかった気がするの」
「気がする……?」
サニーが問い返す。
「私はあの時、なおちゃんの形相にびっくりしてたの。あんな顔するんだって思ってて」
「怒って当然でしょう。なおはまた家族を危険にさらされたですから━━━━」
ビューティがそう語るその表情は、今どこかにいるマーチの無事を願っているかのように見えた。彼女の言うことはまったく正しい。なおちゃんがどれほど家族を大切に思っているかを、ビューティは、幼馴染としてずっとそばで見てきたから知っているのだろう。
ビューティの視線は一瞬遠くを見つめ、そしてまた私に向き直ると、静かに言葉を続けた。
「私はなおがどれほど家族を守りたいと願っているか知っています。だからこそ、なおが家族を守ろうとしている今、まずは私たちもなおのために一緒に戦わなければなりません」
サニーは親指でジラを指す。
「そうやな。あいつの狙いがどちらにせよ、今はマーチを探さんと」
「そうですね。ですが私たちは、単なる推測の域から脱しているとは思えません、待ち伏せも相手が逃げた前提で話を進めています。サニーのいう通り、戦ううちに移動したという可能性も残っていますからね。
それにジラは私たちを見ている理由も気になります。ハッピーに目線を向けているのなら、どうして今私たちを襲ってこないのか。コアソウルをマーチと戦わせたのか。その理由がハッピーと離すためだということも理由の一つとして、どうして今私たちはハッピーと会話できているのか」
ビューティの思考回路は私には理解できない。正直頭の出来が違いすぎる。
━━あれ? でも私の頭、脳みそは”この世界の私”のものだけど━━━━?
という雑念は一度消しておいて、今はマーチの探索を。
「とりあえず、まずはマーチを探すことから始めようよ」
「でもどうするんや? もっと推測せんとマーチの居場所を突き止られんやろ。そういうの関係なくマーチの位置を探す方法なんて考えて思いつくとは━━━━」
「あるかも」
「えっ」
ピースが答えた。
「だって、私たちのプリキュアの力はハッピーから与えられてるものだから。それを頼りにすればいいんじゃないかなって?」
「なるほど━━━━」
私もなんとなくだけど理屈はわかる。私の意思で、目の前の3人からも、遠くにいるマーチからも、無理やり変身能力とソウルフルパクトを奪うことができる。その力は、”前の世界”のプリキュアの力と違って、私由来のものだからだ。
そして私がどうしてその力を持っているのか、という議論はいまだ置き去りにしたままだった。
それはまた考えるとして、その力の繋がりからマーチの位置がわかるのではないか、というのがピースの言ってることのはず。
「とりあえずやってみるよ」
私は目を閉じ、腰元につけてある桃色のソウルフルパクトに意識を向ける。なんとなく、エネルギーが私とともに囲っているような感覚がある。そこから延びている4本のエネルギーを感じる。本数からしてそれはサニー、ピース、マーチ、ビューティの4人だということが分かった。
その認識をした瞬間、私を囲むエネルギー、そして伸びていく4本のエネルギーに色が付いているような感覚に目覚めた。私を囲むのは桃色、そして橙色、黄色、青色が目の前に伸びている。きっとそれはサニー、ピース、ビューティがすぐそばにいるからだ。 そして遠くに伸びる緑色の線は━━━━。
「向こうだ」
私はその方向を素早く振り向いた。
「すごいですね━━━━」
ビューティは感嘆してくる。
正直嬉しいけれども、さっきふと考えた通り、私のこの力も誰かに与えられたものとしたら━━。別に私が凄いわけじゃないので、苦笑いをしながら「ありがとう」とビューティに振り向きお礼をいった。
そして緑色のエネルギーが向かっている方向をもう一度見る。
「あの方向に、マーチがいるっぽいということやな」
「うん。でも、あの方向になにかあったかな━━━━?」
すると、ビューティが答える。
「《七色ヶ丘総合公園》です!」
「「ああーーーーー」」
私、サニー、ピースの3人は納得の言葉を大きく出した。
確かに、七色ヶ丘の地図を頭に思い浮かべると、たしかに《あの方向のあたり》に《あるようになっていた》気がする。
とりあえず行ってみよう。
私は足を踏み出す。