私たちは、体育館近くの公共トイレの陰に隠れることになった。
壁から顔を少し出して、チラリと怪物を見てみると、私を探すばっかりで周りに攻撃することはないようだ。
「全く、隠れるなんて面倒なことして..........」
ヒオリは向こうの方で立ちすくんでいる。
だけど、彼女自身は特段動いて私たちを探すことはしてないみたい。
「多分ここならもう数分は大丈夫だと思う」
あかねちゃんに伝えると私の手が解放される。
「そうか━━、これからどうするんや」
「とりあえず、ここで休んであの怪物を倒す」
「さっきは驚いて大ダメージを喰らっちゃったけど、もう一度戦ったら勝てると思う」
「そうか」
私たちは共に体育座りをして、時間が過ぎるのを待とうとした。
「星空さん、来てくれたんやな、試合」
小さな声で、あかねちゃんが私に話しかけてくれた。
「うん━━。だって、来るって言ったでしょ。ってあれ? 私が誰かって、言ってたっけ?」
「それはさっきの言葉でバレバレや」
優しく返してくれた。
あんまり覚えてないから否定できない。
「そうかな」と苦笑いとともに軽く返す。
すると、あかねちゃんの笑顔は消えていた。
「すまんな」
「え━━?」
「せっかく練習、手伝って貰おうとして、試合を見に来てくれたのに、その結果は散々で、交代もさせられて、星空さんにも、部のみんなにも、迷惑かけてもうたわ」
その目は後悔で彩られていく。
そこで私は、変身する直前のことを思い出し、かぶりを振った。
「ううん。謝るのは私の方だよ」
「あかねちゃんの体のこと全く気づかなかった。試合中、筋肉痛で痛かったんでしょ……」
「いや、うちも、うちの体のこと言えばよかったんや。けど━━━━」
「見つけたわ」
しまった。見つかった。
公共トイレの壁を掴み覗いてくる浦島太郎。
その目は確実に私を見ている。
「逃げて━━!」
力の限り叫ぶ。
「せやけど……! そんな、星空さんだって……」
「大丈夫だから━━━━」
「早くやっておしまい!」
と、ヒオリの声が耳に入った途端、あかねちゃんに集中していて、自分に飛んできたものに気がつかなかった。
ガアン、と頭の中に鈍い音が響く。意識が希薄になっていく。頭をなんどもうちつけるような激痛が無ければ、私は気絶していたかもしれない。
そんな中釣り竿が私の上から振り下ろされたのだと、なんとなくわかった。
体が重たい。
《プリキュア・ハッピー・シャワー・シャイニング》をも打ち返した力が、直に脳天に当たってしまったとしたら、今立っていられないのは当たり前。
地面にうつ伏せら倒れたまま、力が入らない。
「ははははははははははははははは」
甲高い笑い声が聞こえる。
私笑われているな。
あかねちゃんに気を取られて、攻撃を受けたから。
「あなた逃げれば良かったのに……」
朧げな意識の中、ヒオリの声が頭の中に入ってくる。
「それなのにどうしてこの子の言う通りにしたかったの?」
「それは━━━━星空さんがこんなボロボロで助けようとして━━」
違う。笑われているのは私じゃない。
「考えたのね。だけど、何もできてないじゃない! 言葉に従って逃げることもそれでも助けようとすることもできたのに、このザマ」
震えているあかねちゃんの声に容赦なく言葉の攻撃をしている。
だけど。
「ダメ━━━━」
私は力の限り、体を起こす。
「茜ちゃんをバカにしたらダメなんだから」
「は?」
冷たい声がかけられる。
まだ完全にはっきりとしない意識の中、無我夢中で伝える。
「あかねちゃんは私のために、バレー部のためにも頑張ってくれてるの! それで━━それで、上手くいったっていかなくたって、友達思いのあかねちゃんを笑うなんて、私は許さない!」
立ち上がる。走り出す。無我夢中で怪物に向かっていく。
体はやっぱりボロボロで、さらに筋肉痛で体が痛い。
それでもあかねちゃんは大切な友達だ。
浦島太郎はもう一度、釣り竿をバットのように振りかぶる。
私を吹き飛ばす気だ。
でも負けない、振り下ろした釣り竿を、両手で思いっきり掴む。腕だけでは受け止められない。おでこにも釣り竿を当てて、歯を食いしばって、足で踏ん張りながら、全身で受け止める。
私の持てる力のすべてを使って釣り竿を止めようとする。けれども、後ろに引きずられていく。
「もう一度吹き飛ばして、もう戦えないようにしてあげる」
そろそろ体に限界が来る。今にもはちきれそうな体を気合いで繋ぎ止める。その時、左の小指が何かに触れた。視線だけをその方へ。すると━━━━。
「あかねちゃん━━━━」
私の親友が、共に釣り竿を持って受け止めていた。
「なんつう重いもん止めとんねん……、こんなん……、役に立てるかどうか……わからんわ」
「体、試合で疲れてるんでしょ」
「関係ないわ……そっちだって体、ボロボロやん」
2人でどうにか 釣り竿を受け止めるも、どうしようもなく体が後ろに寄せられていく。
「人間1人でコアソウルとの力関係を変えられるわけないでしょ」
体の力が抜けていく。足もそろそろ地面から離れそう。腕が限界になって、もうダメかも━━━━。
「2人まとめて吹っ飛べえ!」
人一倍大きいヒオリの声が聞こえて、終わりだと感じ始めた時だ。
「嫌じゃ!」
荒んだ声の関西弁が聞こえた。
あかねちゃんを見る余裕はもうなくてただただ聞こえるだけだけど、その声はなぜか温かい。
「ここでやられるなんて、いや、そんなん! うちらの友情パワーが、お前らなんかに負けるわけないやろうがああああああああああああああああああああ」
ボワッ。
瞬間、あたりは光に包まれた。
怪物が吹き飛ばされて、炎の中には私とあかねちゃんが。この感覚は━━━━。
腰に付いているソウルフルパクトが光る。そこから橙色の光が飛び出て、あかねちゃんの胸の前で弾ける。
そして新しいパクトが現れる。
「なんや、これ」
この状況を全く飲み込まれてないみたい。
「プリキュアだよ!」
「プリキュア!……?」
すると、周りの炎が消えていく。
このままじゃ もう一度あの怪物が襲ってくる。
「とりあえず、時間がないから、《プリキュア・ スマイルチャージ》って叫んで、このパクトに力を込めるんだよ」
「よくわからんけど、やってやるわ。
あかねちゃんはソウルフルパクトを握りしめ、叫んだ。
プリキュア・スマイルチャージ!
ソウルフルパクトから飛び出るパフを受け取る。パフが燃え上がり、それを自分の胸に当てる。
燃えるように衣装が出来上がる。頭にはお団子。
太陽さんさん、熱血パワー キュアサニー!
爆発するような声を上げ、二人目のプリキュアが誕生? 再誕? することになった。
「うわあああ」
自分が変身したことに驚いている。
「とりあえず、この怪物、コアソウルって言うらしいんだけど」
「コアソウル? なんか、どっかで見たことがあるような」
「浦島太郎の姿をしているの」
「浦島太郎って……絵本のか?」
「うん、それがね」
私は野球のバッターのような構えをする。そしてスイングをしながら、
「こんな風に、釣り竿をバットのように使うんだ。それで私なんか吹っ飛ばされてたんだ」
とサニーに説明する。
すると、サニーもバッターの動きをしながら。
「こうやって、こうするんか」
「うん」
すうっと、サニーは大きく息を吸った。
そして。
「なんでやねん!」
と盛大にツッコミ入れた。
確かに、浦島太郎が野球選手の動きをするのは違和感が、こう━━すごい。
私はそれを大きく声を出すことはないけど、それをはっきりと口に出すところがサニーだよね。
その瞬間、怪物らしい雄叫びを上げバット(釣り竿)を私たち二人に振り下ろしてくるコアソウル。
「やあ!」
私たちはもう一度、両手で受け止める。
━━軽い。
さっきまでとは比べ物にならないくらい軽い。
「いける……」
「サニー……」
私とともに釣り竿を受け止める相方を見る。
「うちに任しとき!」
「え、う、うん」
私はサニーを信じて、釣り竿から手を離す。
「どりゃあああああああああああ」
サニーは釣竿を逆に振り回し始めた。
陸上のハンマー投げのようにコアソウルをグルングルン回す。
私はしゃがんでいるため、頭上で釣り竿が何十回も通過している。これに振り回されたら━━━━。
最後に、サニーは釣竿をうまいこと回し、上に飛ばした。
私たちよりはるかに大きい怪物が上空で点になる。
そしてその点はどんどんどんどん大きくなっていく。私たちの真上に落ちてくるとサニーは腕を引いていた。ボワッと炎が生まれる 。
「おらあ!」
落ちてくるコアソウルへ右の拳を垂直に振り上げ、上空へもう一度飛ばした。
「うわあ、うまいこと上に上がらんかった!」
ボールと明らかに形が違うコアソウルだから、まっすぐに飛ばなかったんだろう。
すると私はコアソウルを見ながらあることを思い出した。
「サニー!」
私は力を振り絞る。
私は昨日まであかねちゃんと何をやってきたのか。
落下地点まで移動する。そして両手を上にかざし、コアソウルを受け止める。
「ふっぬぅ……」
重い。こんな思いのよく吹き飛ばせるな、と思いながらも、自分も 丁寧に怪物を真上に上げた。
「トス!」
というか一言と共に。
「そうか……! サンキュー! ハッピー!」
サニーは大きく飛んだ。あの姿は、私が見た、バレーボールをするあかねちゃんそのもの。
「アタアアアアアアアアアック!」
右手を振り下ろし、コアソウルを撃ち落とす。
強烈な攻撃を受け、地面にめり込むように落ちたコアソウルは起き上がることはできていなかった。
「ナイスアタック!」
「ナイストス !」
私たちは ハイタッチをした。
変な形だけれども、茜ちゃんの努力が実を結んだ気がした。
「よっしゃあ! ━━でぇ、これどうするんや?」
コアソウルは地面に倒れたまま動かない。だけどもう一度動いてくる可能性がある。
「この怪物は私を狙ってくるの」
「だから私が、決着をつける━━! 最後は私に任せて」
ソウルフルパクトに気合を込める。
━━━━あれ? 力が入らない。
パクトに力が入らない。
「こうなったらあ━━━━。気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだあああああああ!」
でも力が入らない━━━。
「どうしたハッピー」
もしかして……? すでにもう《ハッピーシャワー シャイニング》が撃ってくるからか、まさかまた一回につき一回ってこと?
「さっき出した攻撃を出そうとしたんだけど、実はもう撃てないっぽい..........」
「マジか! って! また怪物も起き上がろうとしてんで!
「嘘〜〜。どうしよう〜」
「そうや! ハッピーがやろうとしてることうちにもできるのか?」
「え……ソウルフルパクトに気合いを込めれば……?」
すると、サニーのソウルフルパクトが光りだし炎が生まれる。
「《プリキュア! エレクトリュオネ・ノヴァ!》」
サニーは拳を前に突き刺す 私が知っているサニーの技は、《サニー・ファイヤー》で、それに《バーニング》がついたりつかなかったりするものだ。
聞いたことない技が飛び出る。
炎が渦巻き、敵を囲む。そして縮み、爆発した。
すると怪物の体になっていた黒い液体ははじけ、蒸発するかのように消えていく。すると赤色のふわふわしたものが溶けるように姿を消した。
そして地面、体育館の壁もいつの間にかもと通りになっていた。
ヒオリの姿もいなくなっていった。
帰り道。バレー部が解散した。私はあかねちゃんと一緒に帰り道に着く。 二人並んで歩いていると、昨日まで特訓していた河川敷が見えてきた。昨日まで練習していた場所、私たちが特訓する姿が浮かび上がった。別世界でも一緒にやって、ここ最近は特にやったけど、結果はうまくいかなかった。そればかりか、自分の考えなしな行為が親友の頑張りを無駄にしてしまった。
「ごめんね、練習なんて、とにかくやればいいって思ってた私はバカだった」
今日何回目かも分からない後悔とともに、再度謝った。
「ま、うちもこのままだとヤバいかもっていえばよかったわ」
「じゃあなんで私が誘いを断らなかったの」
私は立ち止まった。あかねちゃんに無理を強要していることになっていて、あかねちゃんは気づいていた。私は、申し訳無さでは歩くのをやめてしまった。
私が立ち止まったから、私よりすこし前にいるあかねちゃんは振り向いた。すると私から見えたその表情は、朱くなっているように見えた。その理由は夕日なのか、それとも。
「まあ、みゆきだって寂しいと思うやろ」
少しうつむき伝えた後、すぐ目をそらした。あかねちゃんも元々、転校生だったのは知っている。私のように、七色ヶ丘にやってきて、クラスに馴染めるかどうか心配だったんだ。どこにいても、あかねちゃんは優しくて、暖かい。
それと、謝ると共に、もう一つ大切なことがある。
「あかねちゃん」
「なんや」
私ははっきりと意志を伝えた。
「この世界を守るために、あかねちゃんの力が必用なの。だから、力を貸してほしいの」
「それは……プリキュアのことか?」
「うん。そうだよ」
あかねちゃんは少し待って、考えた。そして。
「分かった。乗りかかった船やし、いっちょやったるか」
拳を握りしめて決意を固めてくれた《キュアサニー》の正体はとても心強かった。それと同時に私は確信した。
━━よかった。この世界でも、みんなは、プリキュアになってくれるんだ。
凍り付きそうだった私の心が溶けていくようだった。私はあかねちゃんの手を掴む。
「いこう。あかねちゃん」
「ああ。みゆき」
名前を呼び合う。本当はもっといるけれども、私たちふたりはプリキュアだ。陽のあたる河川敷の上を、未来に向かって進んでいく。
お気に入り感想評価お願いします!