スマイルプリキュアS   作:友だち

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(12) 決して忘れない(一章最終話)⑦

 重力の崩れた虚無の空間に、砕けた瓦礫と死の静寂が満ちていた。

 その沈黙を破るように──サニーの叫びが響く。

 

「……行くでっ! 《エレクトリュオネ・ノヴァ》!!」

 

 全身に込めた怒りと、悲しみと、そして決意。炎が唸りを上げ、空間を裂くように飛んでいく。

 

「《ガラクシア・トルナード》!!」

 

 マーチが竜巻とともに蹴りを打ち込む。

 

 

「《アストラル・ド・ブリッツ》!!」

 

 ピースの両手の人差し指と中指から放たれた雷撃がハッピーのコアソウルを撃ち抜く。

 

 最後に、ビューティの剣技が静かに場を引き締める。

 

「《クライオゼニック・ヘソン》!!」

 

 四人の同時攻撃が、ハッピーの体に強い衝撃を与える。巨軀は直線的に下へ吹き飛び、近くに当たったものも壊しながら、下の大きな岩場へと着地した。土煙が舞う。

 

 近くの足場に降り立ち、煙が舞うのを見る。

 

 だが。

 

「……効いてない……?」

 

 ピースの声が揺れた。汗ばんだ額に泥がにじみ、息が上がる。さっき放ったはずの浄化技が、まるで空気を裂いた程度でしかなかったように感じられた。

 

「いや、効いてはいる……はずや。でも……耐えてるんや。だって相手は、あのハッピーやで……」

 

 サニーが歯を食いしばりながら言う。その目は正面、迫りくる黒い影──コアソウルと化したハッピーに釘付けだった。

 

「でも……じゃあ、どうすれば……なにか……!」

 

 マーチが振り向くより早く、コアソウルが飛び、すぐさま近くに。

 

 「──うわあっ!」

 

 ドカッ!

 

 鈍い衝撃音が空間を揺らした。マーチの腹部に重たい何かがぶつかり、弾かれたように空中に浮く。

 

 「……速っ……!」

 

 間もなく、コアソウルが空中で旋回し──そのまま頭突き。

 

 「うわああああッ!」

 

 叫び声とともに、マーチが吹き飛ばされた。地面がない空間に、彼女の体は岩肌にぶつかり、滑り落ちる。

 

「……なんて速さ……!」

 

 ピースは負けじと、空気に折れ曲がるように高速移動し、コアソウルの側頭部へ蹴りを入れた。

 

 しかし、コアソウルは動かない。

 

「そんな……! きゃああああ!」

 

 払われるようにピースは吹き飛ばされる。

 

 そんななか、サニーが自分が考えた攻略法を叫ぶ。

 

「ええか、みんな! とにかく、あいつの動きをよく見るんや! 攻撃パターンを掴めば、隙は絶対にある! あいつ、昔から複雑なことはあんまりせえへんからな!」

 

 サニーはすぐさま、近くの足場へ飛び移る。

 

 その言葉に、全員が頷いた。

 

「私も、そう思います……!」

 

 ビューティが氷の結晶を放ちながら応じる。鋭い氷柱がコアソウルに突き刺さる。そこから氷があふれ出て、氷の檻に閉じ込める。。

 

「──しかし、問題は……すいさんたちが、まだ動いていないこと……!」

 

 ピースが叫ぶ。視線の先、遥か上空に浮かぶ“すい”は、ただ腕を組み、微笑を浮かべたまま戦場を見下ろしている。

 

「時間がありません……! いずれ、私たちの体も消える。実体としてこの空間に存在できる時間が、刻一刻と削られてるんです……!」

 

「確かに……!」

 

 ビューティの言葉に、マーチが苦悶の表情で立ち上がる。全員、息が荒い。疲労は確実に蓄積していた。変身の持続時間も、すでに限界に近い。

 

 「もう……この場所に時間という概念が残ってるかどうかも怪しいけどな……!」

 

 サニーの声には焦りが滲む。空間は歪み、軸がねじれている。距離も方向も、もはや正常ではない。

 

 氷の檻にヒビが入る。コアソウルはそこから出てきた。

 

 それでも。

 

 「だったら……!」

 

 マーチが叫び、上から飛び降りて踵落としをハッピーの頭に落とす。

 

「攻撃の手を緩めない! 捨て身でもいい! 持てるすべてを……全部、ぶつけよう!!」

 

 

 ***

 

 

 

 

 すいは、戦場の遥か上空──崩れゆく空の裂け目から、その様子を飄々と見下ろしていた。

 崩壊しかけた世界。宙に浮かぶ廃墟。捻じれた空間。そして、その中心で必死に戦う四つの光。

 

「まだ……抵抗してるのですか?」

 

 彼女は面白そうに目を細め、口元に笑みを浮かべた。その瞳には、憐れみではなく、好奇心が浮かんでいる。まるで昆虫が最後の足掻きを見せるのを、顕微鏡越しに観察しているかのようだった。

 

「でも……ふふっ、いいでしょう。きっと今まで、“世界が消える直前まで”抵抗されたことはなかったのでしょうから」

 

 

 その下では、コアソウルと化したキュアハッピーが、圧倒的な力で攻撃を仕掛けていた。黒く巨大なその肉体が、拳を振るえば大気が弾け、蹴りを放てば空間が軋む。

 だが、最初こそサニーたちは翻弄され、地に叩きつけられていたものの、次第にその様子が変わっていく。

 

 攻撃の軌道、重心の傾き、呼吸のタイミング。仲間として2年間共に戦った経験が、無意識のうちに体を動かす。彼女たちは、キュアハッピーの戦い方を“知っている”。

 

「それで、ここからハッピーが工夫してくることは?」

 

 空に浮かぶ自動車に降り立ったマーチが、電信柱の上に立つビューティに聞く。

 

「どうでしょうね。ここ二年の“ハッピー”なら、確かにそうかもしれません。でもその前の彼女は、頭を使う場面ではほとんど”向こうの私”に任せていたでしょう」

 

「やろうな。だから……このまま攻撃を続ければ、いずれは押し切れるかも……いや…………」

 

「そこからやろ!」

 

 ジャングルジムにぶら下がるサニーが叫ぶ。

 

「ハッピーは、追い詰められた時にこそ、底力を見せてくるタイプや! これまで何回あったと思ってんねん!」

 

「うん……それ、わかる……!」

 

 ピースは頷く。彼女の表情には、これから来るかもしれない事態に対しての不安が見えた。

 

 七色ヶ丘中学で生徒会の活動をしていた時、生徒会長のれいかから、自分がコアソウルにした人物についての話は聞いていた。

 

 すると後ろに時空間を移動するトンネルが開く。

 

「ねぇ、あのコアソウル……“この世界”から出したらそれで終わりじゃないの?」

 

 ヒオリが自分に注文をしてくる。

 

「別に”この世界”から出すのと、このまま”この世界”が消えても、結果は変わらないじゃないですか」

 

 世界から出すか、世界が壊れてこの場所も世界の外になるのも変わらない。

 

「それはそうだけど、もしあいつらがコアソウルを浄化したら? 魂はオリジナルの器に戻るわ。またそこから回収することになるとか面倒じゃない?」

 

「いいですよ。そこからどうやったら取り戻せるのか考え、答えを出すのが楽しいですし…」

 

「こっちは楽しみとかじゃないの! だから━━━━ぐ…………」

 

 その言葉に、すいはようやくヒオリに目を向けた。ゆっくりと、右手を上げる。

 

「効率? ああ……それって、あなたの価値観ですよね?」

 

 次の瞬間、ヒオリの身体が苦しみによじれた。頭を抱える。。

 

「ぐっ……また……!」

 

 次第に、ヒオリの苦悶の声はしなくなる。頭から手を外し、ゆっくりと前を向く。目には光が無く、虚空を見ていた。

 

「……少し調整が必要そうですね。行きなさい。《時計の間》へ」

 

「……はい……」

 

 感情の無い機械のように声を出し、ヒオリは姿を消した。

 

 その直後、すいの視線が再び地上──コアソウルとプリキュアたちへと向けられる。

 黒い巨影の前で、4人はなおも戦っていた。

 

 だが──ハッピーのコアソウルの動きが、明らかに変化していた。

 

 鈍い。重たい。荒くなっている。

 

「……倒れる直前ですかね」

 

 すいは静かに呟いた。

 このままなら、いずれは4人が押し切るだろう。

 

 ビューティが瀕死に見えるコアソウルを見て提案した。

「じゃあ……そろそろ、こっちの最大火力を仕掛けましょう」

 

 その目には決意の光が宿っていた。

 

「ハッピーが“無茶”に走る前に……この世界ごと、終わらせるってことだね」

「はい」

 

 マーチが確認を取る。

 

「全力でいくで!」

 

 サニーが拳を握る。

 

 そのとき、すいの唇が僅かに持ち上がる。

 

「なら……私も、そろそろ混ぜていただこうかしら。彼女たちが最後にどんな顔を見せるか……楽しみですね」

 

 空間がねじれた。すいの手が動いた瞬間、空間が一瞬で張り詰めた。

 

 ──来る。

 

 その予兆は、微かな音すら呑み込む“気配”のようなものだった。世界の天蓋がぐにゃりと歪み、その歪みに沿って無数の黒い亀裂が走り始めた。

 

「これは……!」

 

 ビューティが即座に察知していた。空間の“外側”──世界の縁から、何かが滲み出してきていた。

 

 「《虚空の泥》……!」

 

 《虚空の泥》は亀裂から出た後、4に分かれ、各々がサニーたちのもとへ飛んでいく。

 

 全員が自分が立っているところから跳んで回避する。しかし、泥は急旋回して4人それぞれを追い始める。

 

「……くそっ、撒いても撒いても無限に来る!」

 

 まるで意志を持つように、泥は四人それぞれの足元へと蠢き、距離を詰めてくる。逃げても逃げても、どこまでも追いかけてくる。

 

「まさか! このままじゃ……“コアソウル化”される!」

 

 すいがハッピーをコアソウルに変えたのを見ての判断だろう。正しい。ピースが叫ぶ。虚空の泥に完全に呑まれれば、彼女たちもまた──魂を核にした怪物へと変わってしまう。

 

 逃げ切ってもいいが、逃げきれずコアソウルにすればよい戦力になるかもしれない。

 

 そして、ぼろぼろになったハッピーのコアソウルが、両手が立つ。

 

 「まさか、あれ……最後の手やないか!」

 

 サニーの声が轟く。

 

 まだ立てたとは━━━━。

 

 彼女は両手でハートを描く。そこに桃色と、黒のエネルギーが集まる。

 

 そして両手でハートを形作り、前へ突き出し、エネルギーを放つ。

 

 《ハッピー・シャワー》。

 

 キュアハッピーがかつて最も好んだ浄化技。

 

 その光線は途中で軌道を変え、上へ。

 

 しかし今回は違う。

 

 すいの目に映っていたのは、もはや“技”という枠を超えた“意志”だった。対象を狙うのではなく、世界そのものを包み、敵味方の区別もなく、ただ、“裁き”を降らせる光。雨のように降り注ぐ。

 

 逃げ場はない。

 

 「……こんなの、ハッピーもろとも……!」

 サニーの声は震えていた。

 

 ビューティの静かな声が聞こえた。

「きっと、ハッピーは『自分が耐えればいい』と思っているのでしょう」

 「やばい、逃げ──っ!」

 

 マーチの叫びに、4人は逃げだした。

 

 

 すいは右手の人差し指を上に差す。

 

 頭上にワープホールを作った。すいに降り注ぐ光線はすべて穴の中へ消えていく。

 

 逃げても、逃げても、泥は追いついてくる。そのなかで光の雨から逃げようんて。

 

「きゃあ!」

 

 ピースが足を滑らせた声が聞こえた。

 

 しばらくして雨が止む。

 

 すいはまばたき一つせず、その光の終焉を見届けた。

 

 ──四人は倒れていた。泥に囲まれ、岩の上に横たわり、息も絶え絶えの姿。

 

 そう呟きながらも、すいの目はすでに先を見ていた。

 

 遠くで、ハッピーのコアソウルが、よろよろと立ち上がっていた

 

 ***

 

 ──立ち上がらなければ。

 

 その思いだけが、サニーの体を辛うじて引き上げていた。

 

 もはや「体を起こす」という単純な動作にさえ、気力も体力も尽き果てていた。膝は笑い、足は泥に沈み、両腕は震えていた。だが、それでも。

 ここで終わるわけにはいかない。ここで倒れてしまえば──ハッピーが、永遠に帰ってこなくなるかもしれない。

 

 手の甲を地面につける。重さに負けそうな自分の体を支えながら、ふと見たその手が──透けていた。

 手の奥に地面が見える。いや、正確には地面すらも透け、その下にあるはずのない真っ暗な、果てのない空間が見えていた。

 

 間もなく自分は消える。

 冷静に思った。恐怖や悲しみが沸き起こるよりも先に、それは事実として心に降り積もった。

 

 《虚空の泥》が、ぬるりと足元から絡みついてくる。その感触は現実にある泥と変わらないはずなのに、触れられるだけで、内側を削られていくような錯覚に陥る。

 苦しい。気持ちが悪い。皮膚の奥まで染み込んで、自分という存在を“外側から”剥がされていくような感覚。

 

 以前ほどの頭痛や吐き気はない──それだけが唯一の救いだった。プリキュアとしての力が以前よりも強くなったからだろうか。

 

 でも、それも一時のことにすぎない。

 もしこのまま泥に呑まれれば、自分も──ハッピーのように、コアソウルにされてしまう。

 

 それでも。

 それでも、立たなければならない。

 

 「皆……立つんや……!」

 体がふらつく。足が震える。でも、立てる。立つのだ。

 

 「言われなくても……!」

 横でマーチの声がした。視界の端に立ち上がる姿が映る。力強さはない。でも、意思の強さは確かにあった。彼女の肩も呼吸に合わせて上下し、泥にまみれたその顔の奥には、暗闇すら透けて見えていた。

 

 限界──いや、限界なんてもう超えて久しい。

 振り返ると、ピースとビューティも立ち上がっていた。

 

 だが、二人は──違っていた。

 顔の右半分が泥に侵され、まるで仮面のように濃い闇が貼り付いていた。右目が……変わっていた。

 「右目……!」

 サニーの呼びかけに、二人は目を見合わせた。そして気づいた。目の色が、闇夜のような深い紫に染まっている。

 すでに、存在の半分が侵食されているのだろうか。

 

 「それよりも……」

  理由は《虚空の泥》によるもの、以上の考察は時間の無駄。そう判断したのか、ビューティはサニーの後ろ側へ指をさす。

 振り向けば、遠くでハッピーのコアソウルが膝をついてはいるものの、動いている。

 

 「ハッピーも……もう限界に近い」

 でも、あの中に──確かに、ハッピーがいる。

 

 目が合った。

 その瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

 でも今は、戦わなければならない。

 

 ──両手を横に広げるハッピーのコアソウル。

 目の前に暗黒のエネルギーが集まり、徐々にその大きさを増していく。空間が唸るような低い震動を伴い、無慈悲な意志だけを含んだ一撃が、今にも放たれようとしていた。

 

 「まずい……!」

 サニーの思考を焦燥が蝕む。

どんな攻撃が来るのか……。また自分が耐える前提の無差別攻撃をしてくるのか、その場合自分たちは逃げられるのか。その前に倒すことは可能か……。いや、もうそんな時間は……、そもそもそんな力を出せる━━━━。

 

 「──あたしたちも、直球勝負で迎え撃とう」

 闇の中で、凛としたマーチの声が響いた。

 

 二秒遅れて、サニーは反応した。

 「なんやて……!?」

 

 振り返ると、マーチの目が真っ直ぐ前を見ていた。顔は泥に塗れている。傷だらけだ。それでも、揺るぎない。

 

 「私も賛成です」

 静かにビューティが言う。

 「この戦いは、私たちが知っている“キュアハッピー”の戦法を分析できたから、対処できているのです。けれど、あれは……これまで戦ったコアソウルの中で最も純粋に“強い”存在。普通の方法ではもう通じないでしょう」

 

 「だったら、全力でぶつかる。力と力の勝負ってことだね」

 ピースも頷いた。彼女の顔も限界を超えているのに、不思議と迷いはなかった。

 

 サニーは息を吐いた。すでに肺がきしむほど苦しい。でも──

 

 「了解や」

 

 しかし、不思議と不満などは感じなかった。

 それはきっと、全員がハッピーをもとに戻す、コアソウルから解放するという目的で繋がっていて、各々が全力だということを知っているからだ。

 

 今のこの瞬間が、自分たちの二年間の旅の“終着点”になる。

 だから、最後は……全力全開で、真っ正面から叩き込む。

 

 「次が最後の攻撃や……!」

 サニーは叫ぶ。その声は、誰の耳に届いたかではない。自分の魂に届くかどうか、それだけだった。

 

 体の奥が、軋む。

 

 「……行くで!」

 

 声が震えた。けれど、迷いはなかった。

 

 ビューティが下側。左手にピース、右手にマーチ。そしてサニーは上側。

 

 四人の位置は、自然と十字を描いていた。

 

 空間に風が走る。ハッピーのコアソウルもまた、全エネルギーを一点に集中しつつあった。

 

 「──今や!」

 

 サニーの叫びと共に、四人の胸に宿る光が、いっせいに脈動する。

 

 手を前へ。心を一点へ。四人の力が、想いが、命そのものが、ひとつの線に収束してゆく。

 

 「《プリキュア・ラステッド・テトラグラム》……!」

 

 それは、願いだった。

 

 四つの光が、それぞれの色を放ちながら交差する。燃えるような紅、雷光の黄、疾風の緑、凍てつく青。それぞれが異なる色であるはずなのに、どこかでひとつに重なって、虹色へと変わってゆく。

 

 ――ひとりでは届かない。でも、四人なら。

 

 虹色の光線が放たれた。まっすぐに、力強く、たった一つの答えを貫くかのように。

 

 

 同時に、眩い闇色の光線が放たれた。ハッピーの最後の攻撃。《プリキュア・ハッピー・シャワー・シャイニング》。

 

 その光と、サニーたち四人の光線が空中で激突する。

 

 

 

 虹と闇。祈りと狂気。

 二つの力は空中でぶつかり合い、炸裂する。

 

 「っぐ……!」

 サニーは歯を食いしばった。まるで腕の先から魂を引き剥がされるような感覚。それでも光は絶やさず、必死に踏ん張る。

 

 「こんの……!!」

 マーチが呻く。その声は、悔しさと恐怖に滲んでいた。

 

 ビューティの震える声、ピースのうめき声も聞こえる。四人全員、力の限界をとうに超えていた。

 

 ──しかし押されている。

 

 《ラステッド・テトラグラム》は確かに、魂の限りを注いだ最強の光だったはずだった。なのに今、闇に染まった《ハッピー・シャワー・シャイニング》に飲み込まれつつあった。

 

 ぎりぎりの拮抗を保っていた光線の交点が、わずかに押し戻されている。

 

 サニーは肩で息をしながら、それでも腕を前へ伸ばし続けていた。脚が震える。視界が霞む。喉が痛い。

 ──駄目や。もう、持たへん……。

 

 心が、軋んだ。

 

 それでも……それでも……!

 

 「ッ!」

 

 そのとき、脳裏に浮かんだ。

 

 ハッピーとの思い出。

 

 この世界に来たばかりて不安なみゆきと、転校したばかりの自分と重ね、バレーボールの練習をした。

 ポスターコンクールは、したいこと、して欲しいことに付いての考えた。

 時には家族の大切さ、失う強さと向き合い、

 やりたいこととの出会いに付いて考えたこともあった。

 

 そして、ハッピーが別世界から来たということを隠す本人と、隠された自分たち。不安や不信感、罪悪感に善意がぶつかり合った。

 その先に見えたものとは、この世界がでの自分たち5人の絆だった。

 

 花見では、もう一度その絆を確かめ合い、

 夏に別世界の自分の存在について考え直し、

 文化祭で協力して、全員で最高のものをつくりあげた。

 

 しかし終わりが来る。

 この日常は永遠には続かない。寂しいとかんじるのは当たり前だ。その事実をのみ込み、前に進もうとして、そして━━━。

 

 この世界は消える。

 ここで過ごした全てが無に帰す。

 

 ━━そんなことにはなってほしくない。

 

 だって自分たちは生きているのだから。せめて、自分たちが生きた証を…………。コアソウルに、そして絶望に囚われたハッピーを解放する。

 

「ぐおおおおおおおおおおお」

 

 その思いが全身を駆け巡る。

 

 

 全身が、熱を取り戻していく。沈んだ体が浮き上がるように、全ての細胞が再び目を覚ます感覚。

 

 「……うちらが、ハッピーを取り戻すんや!!」

 サニーの叫びに、光が応える。

 

 虹色の光が再び明滅する。

 

 押し返されていた光が、じり……じりと前へ進みはじめる。

 

 《プリキュア・ラステッド・テトラグラム》──その核に、過去から現在へと繋がる“絆”が注ぎ込まれた。

 

 「絶対に負けない……!」

 ピースの瞳が輝く。

 

 「今、ここで──全部、取り戻す!」

 マーチが強風のように吠える。

 

 「私たちが、守る!」

 ビューティが氷のように研ぎ澄まされた声で言い放つ。

 

 「うちら、絶対、諦めへんで……!!」

 サニーの言葉と共に、光が爆ぜる。

 

 虹色が一瞬、白に近いまでに純化される。

 それは──ただの力ではなかった。

 祈りであり、誓いであり、存在そのものだった。

 

 「いっけええええええええっ!!」

 

 四人の雄叫びと共に、光が炸裂する。そして眩い虹が闇を貫いた。

 

 光は、《コアソウル》の中心へ。

 

 

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