スマイルプリキュアS   作:友だち

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(3) 私のスーパーヒーロー ①

 昼休み。私はあかねちゃんと学校の屋上で弁当を食べる。心地よい風が吹き抜け、穏やかな時間が流れていた。春の香りが漂い、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。

「へー。プリキュアって全部で5人なんやな」

 あかねちゃんが感心したように言った。彼女の興味津々な様子が微笑ましい。私はポケットからソウルフルパクトを取り出し、彼女に見せる。これは私が《キュアハッピー》に変身するためのものだ。桃色の縁取りが輝いている。あかねちゃんも自分のソウルフルパクトを取り出し、それをじっくりと見つめた。彼女の手に持たれたパクトも、同じように美しく光を反射していた。

「基本的なデザインは私のと変わらないんだけども、私の桃色以外に黄色と緑、それと青色のラインが入った私のものと違って、あかねちゃんのは橙色のデザインが入っているんだね」

 私は彼女のパクトを指さして説明する。あかねちゃんはパクトを回しながら、私の言葉に耳を傾けた。真剣な表情の彼女に、私も少しだけ誇らしい気持ちになった。

「でもここの線、ラインバランス悪いとちゃうか」

 あかねちゃんが指摘したのは、私のソウルフルパクトの四色が上から見て時計回りに桃、青、緑、黄と入っているが、桃色と緑のラインの距離が他と比べて遠い点だった。このピンクと緑の間にもう一本入れば━━。

 何かに気が付き、二つのソウルフルパクトを見比べ始めた。

「うちのオレンジの線がここに入ったということか?」

 あかねちゃんが問いかける。私は頷いた。

「そうだよ。プリキュアは5人いるから、もともと5本線だったんだよ」

「だから、これから私たち以外にあと3人プリキュアがいるってことやな」

 あかねちゃんが理解してくれた瞬間、私は嬉しくなった。彼女の目がキラキラと輝いているのを見て、私の心も踊った。

 しかし、突然あかねちゃんが耳打ちするように話しかけてきた。

「うちもたった今まで盛り上がって申し訳ないんだけど、ほらプリキュアって内緒だったとちゃうん? だから━━」

 あかねちゃんはある方向を指さした。指の先には、人影が一つ座っている。後ろ姿しか見えないが、その人物が誰かはすぐにわかった。

 金髪というより黄色の髪のミディアムに白のカチューシャを付けたその姿。

「大丈夫だよ。だってやよいちゃんは、プリキュアの一人なんだから」

 私は高らかに宣言した。

 あかねちゃんは少し待って「えっ」と反応した。

 

 

「やよいちゃん。何をしてるの?」

 私が話しかけると、やよいちゃんは持っている画用紙を私から遠ざけた。描いているのは、絵なんだろう。

 やよいちゃんは絵が大好きで、いつも自分の作品を作っているんだ。けれども、別の世界で初めて会った時は恥ずかしくて言えなかったんだよね。みんなに、やよいちゃんは素晴らしい絵を描く友だちって知ってもらいたいんだけど━━今は━━。

「やよいちゃん! 私とプリキュアをやって欲しいの!」

 頭を下げて単刀直入に伝えた。

「プリキュア?」

「えっとねー」

 私はソウルフルパクトを見せようとした━━。

 ドーン。

 地響きが聞こえた。

 やよいちゃんは私の後ろを見て怯えている。振り向くと、そこにはコアソウルがいた。

 どうしてここに━━、私は周りを見る。だけどヒオリの姿はない。

 コアソウルが雄たけびを上げる。私に対しての敵意は変わらないようだ。

 後ろでやよいちゃんの震えた声が聞こえる。

「安心してやよいちゃん。プリキュアってのはね、みんなを守るスーパーヒーローなんだよ」

 ソウルフルパクトを取り出す。

「よっしゃあ。やるで」

 あかねちゃんとともに唱える。

 

 プリキュアスマイルチャージ!

 

 きらきら輝く未来の光 キュアハッピー

 太陽さんさん熱血パワー キュアサニー

 

 コアソウルの姿といえば豚さん。ウルフルンみたいに、動物と人が混じったものだ。二足歩行で頭が豚っぽい。

「先手必勝や!」

 サニーが勢いよく飛び出し、コアソウルに向かう。左手で、右手首を握りしめる。そのとたんに右手拳には炎が宿る。地を蹴り、拳を振りかざす。

 その時豚さんの前に、黒い泥のようなものが集まった。それは壁のようになり、サニーと首を拳を受け止める。

 ガツンと、鈍い音とともにサニーが弾き返された。その後に、右手を左手で摩りながら、「かったーーー!!」と叫んでいる。

 見ると、コアソウルが作った壁はレンガだ。

 豚、レンガ。これしかない。

「あかねちゃん。あれ、三匹の子豚だよ」

「狼がレンガの家を壊せなかったやつか」

「うん。でも、この前の浦島太郎が野球やってたみたいに、なにかもう一つ、何かあると思う」

 爆弾を使うシンデレラに、バットを振る浦島太郎。コアソウルは絵本の要素と、私たち人間の要素を組み合わせて戦ってくる。きっと今回も。

 ゴトン。

 何かが下に落ちる音がした。気になるままに、下に目を向ける。私の一メートルくらい先に、レンガが落ちていた。それはさっき、サニーの攻撃を防ぐために積み上げられたものじゃない。ただそれだけ、ただそれだけだったからこそ、私はそのれんがを見つめていた。

「ハッピー!」

 その、サニーの言葉ではっと我にかえる。コアソウルに目を向ける。怪物はレンガを持っていた。そのレンガを持った手で振りかぶる。私は、商店街で戦ったシンデレラを思い出した。かぼちゃが爆弾になった。まさか、今回も……。

 コアソウルはレンガを投げた。プリキュアでなければとらえることのできない速さだろう。私は地面を蹴って避けようと、足に力を入れていた。しかし、投げられたレンガが私に当たらないのは明白だった。その方向は、斜め下。私の足元の少し前側にあたるだろう。短い時間の中、私はここで思考を止めようとした。

 すると、私の少し前、そこには先ほど突然地面に置かれることとなったレンガが頭に浮かんだ。一度上げた視線を下に戻した。

 投げられたレンガは、置かれたレンガに命中した。その拍子に置かれたレンガは浮く、いや、私の感覚からしたらもう‘”飛ぶ”だ。剛速球で投げられたレンガの衝撃があまりにも大きかったのあろう。その向かう先は。

 ゴチン、という音が体中に響いた。

 向かう先は、私の頭だった。もっと詳しくいうと、私の顎。顎にあたることで、私の顔は上向きになり、つま先が浮く。視線の先は真っ青の空。

 ━━まさか。

 私の予想はたぶん当たっている。

 後ろ向きに倒れかける体に対して、腕を回してなんとか体が倒れるのを防いだ。そして前を向く。

 私の顔に当たり地面に落ちたレンガが見えた。するともう一度レンガが降ってきて、レンガがこっちに飛んできて。もう一度レンガが顔に当たった。

「ま…また…」

 今度は地面に倒れた。

 やっぱりこれは。

 ガラガラガラガラ。コアソウルの方向から、たくさんの硬いものが地面に落ちる音が聞こえた。硬いものが何なのかは言うまでもない。

「これってまさか━━」

 サニーは、はっと気づき、思わず口に出したんだろうけど、その直後に

「レンガってめんこか━━」

 わかったけれども、それでも納得できないような口調で、私と同じ答えを口に出した。

 地面に落ちた札を、地面に向かって勢いよく投げる。その衝撃で地面に落ちたを札をひっくり返して楽しむ有名な遊びだ。

「た、たぶん━━」

 顔の痛みへのと半分こした意識をコアソウルに向け、顔だけをコアソウルに向けた。

 豚と人間が混ざった形の━━ウルフルンが自分のことを狼っていってたし、これからは豚でいっか━━コアソウルは、大量のレンガを地面にたたきつけるように投げた。そして、やはり地面に散らばる数十のめんこ代わりのレンガとぶつかる。

 サニーの叫びと、レンガの爆発が重なった。

「れんがでめんこするなーーーーーー!」

 無数のレンガが地面を舞う。跳ね返ったレンガが、空中のレンガとぶつかり、さらにぶつかり、予測できない攻撃が全方向からくることとなる。

 私以外にも、周りの建物にレンガが当たる。視界の横で、屋上にある唯一の扉にレンガがあたるのが見えた。ドアを吹き飛ばし、階段を転がり落ちていったことだろう。飛び出したレンガも学校中、いや、周りの住宅にも落ちていくに違いない。

 私は後ろを振り向き、やよいちゃんを見た。まだプリキュアになっていないのだから、ここにいてはあまりにも危険すぎる。まだ大丈夫だろう。私に2回、それも頭に、レンガがあたる。つまり私が盾となっているのだ。そうだ。私は逃げられない。しかし、いつ私の知らない方向から、やよいちゃん向かってレンガが飛んでくるかわからない。

 コアソウルに視線を向けなおすと、もう一度、地面に置いた大量のレンガを、メンコのように、レンガを投げつけていた。もう一度、レンガが爆発するように四方八方に飛んでいく。

 私に向かって飛んでくるレンガ。それを。「ふん!」と力を入れて頭突きで粉砕した。その途端、私の右斜め上前から差し込むレンガが。ふっと、私の頬の横をとおりすぎる。

「や━━」

 思わず振り向くと、座っていた椅子に当たり、その衝撃で倒れるやよいちゃんの姿があった。持っていた画用紙は地面に落ちる。ふと、視界の端から私の視線を覆う。

「どりゃあ!」

「サニー!」

 やよいちゃんに向かっていった。もう一つのレンガを壊していた。

「こりゃあまずいな」

 私だけならともかく周りにまで被害が及ぶのがとにかく危ない。

「こうなったら、すぐに決めるしかない!」

 サニーと視線を合わせた。

「わかった」

 私たちはコアソウルの相対するように横並ぶになる。

 桃色のハートを空に描く。

「《プリキュア・ハッピーシャワー・シャイニング》!」

「《プリキュア・エレクトリュオネ・ノヴァ》!」

 この二つの攻撃がともに豚さんに向かって突き進む。もちろん、レンガの壁が上がる。

「いけーーーーーー!」

 私たち2人なら突破できるはず━━。

 少しは止められたものも、壁にヒビが入り、そして突き抜けた。そのまま豚さんにあたる。私の攻撃に巻き込まれ、後方の建物にぶつかった。その衝撃で、コアソウルの体が弾ける。中から青色の霊魂のようなものが現れ、消えていった。

 

 私たちは変身を解いた。

「ふう。どうなるかと思ったけど、案外簡単に何とかなったな」

「そうだね」

 私たちは互いの健闘を称えあう。

 まあこんな感じにプリキュアやってるよ、とやよいちゃんに伝えるのにはうってつけの戦いだった、かもしれない。

 私は後ろを向く。

 やよいちゃんが倒れながらこっちを見ていた。

 混乱しているんだろう。私だって、初めてプリキュアの存在を知ったときはびっくりしたからね。アカンベェに襲われて怖かったし。だけど、今みたいに力を合わせて戦えばどうということは無い。

 右手を差し出し、やよいちゃんはその手を取る。やよいちゃんを起き上がらせた後、離れた右手と空いていた左手を合わせた。

「じゃあ、プリキュアやってくれないかな。やよいちゃん!」

 私は笑いかける。

 すこし沈黙が流れた。

 やよいちゃんを見る。視線を左下にそらしながら、口は小さく開いたり閉じたりしている。

 ━━最初はやってくれないのかなあ。

 前の世界でも気軽に受け入れてもらえることはほとんどなかった。でも最終的にはなってくれたんだ。

「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、私運動苦手だし」

 という言葉が返ってきても、私は動じない。やよいちゃんはきっとやってくれるって信じてる。

「別に運動が得意なのが絶対ってわけじゃないよ。私なんて、跳び箱だって頭から落ちてばっかりだし。ハードルだって抜き足が引っかかって頭から落ちるし……。ドッチボールなんて…いつも…キャッチできずに顔面セーフになっちゃうし……」

「みゆきの顔面お祓いいるやろ」

「う……」

 自分は”そういう”星のもとに生まれてるらしい。

 ふと思ったところで、今自分が何をしているか思い出した。

 なんかこれ以上説得しようとしてもうまくいく気がしなかった。

「とにかく、やってほしいの!」

 もう一度両手を合わせ、目を閉じ頭を下げて懇願する。

 やよいちゃんの顔が見えない。左目をおそるおそる開けた。それはやっぱり私の見たかった反応では無かった。

「そういうのできない!」

 そう吐き捨て、校舎のほうへ走っていった。

「待って」

 と手を伸ばすが、届かない。コアソウルに壊されるも元に戻った入り口へ入っていき、見えなくなってしまった。

 すぐに走って止めればよかった。もう遅いだろうけど。

「なんやこれ? やよいのものっぽいけど」

 あかねちゃんは何かを拾っていた。スケッチブック。私のものじゃない。で、あかねちゃんが誰のだと言ってるわけだから、やよいちゃんのものだ。まあ、スケッチブックが学校に持ってくるなんて、まずやよいちゃんを疑うんだけどね。《前の世界》の記憶のことなので、胸の内でつぶやく。

「あんま人のもんは見るもんとちゃうしな」

 あかねちゃんが律儀にスケッチブックを閉じる。その時見えたのが、フリフリ衣装の女の子。スカート。薄黄色の胸のリボン。ぱっと見だったから確証は持てないけど、プリキュアらしい衣装だった。

 やっぱり、この世界のやよいちゃんも、ヒーローものが好きなんだ。

 うーーん。

 腕を組み、頭をひねる。

「どうしたんや」

「いや、どうしたらやよいちゃんがプリキュアになってくれるかなって」

「まあ、別に━━」

 あかねちゃんが何か言いそうだったところ。学校のチャイムが鳴った。

「まずい予鈴や! 次の授業移動教室だっとはずや!」

 とにかく、授業にいかないと!

 

 

 

 放課後。屋上に向かうやよいちゃんの姿を追った。

 画用紙を落としたところに気が付いたから、取りに行こうとしたのだろう。

 そこであかねちゃんが呼び止めた。

「ほいこれ。落ちとったで」

「ありがとう」

 あかねちゃんから差し出されたスケッチブックを受け取った。

「いやー、まさかやよいにそんな特技があるとはなあ」

「だ、誰にも言わないでね..........」

 やよいちゃんはうつむき、スケッチブックを胸元に隠すように両腕で抱え込んだ。

 でも私はやよいちゃんのこれからのことを知っている。漫画の賞に応募して、小さいながらも賞を獲ったんだ。その絵は必ず認められる。だから私は、そんな自分を隠すようなことをやってほしくない。

「なんで? 好きなことがあるなら隠すことはないよ。私はやよいちゃんの絵、とっても魅力的だと思うよ。やよいちゃんの絵を誰かに見てもらう機会があれば━━。そうだよ。そういえば《ポスターコンクール》やってたでしょ」

 《ポスターコンクール》とは、学校が環境に向けるために、環境に関するポスターをクラスごとに一枚つくって、グランプリをする催しのことだ。

「まあ、確かに、れいかが明日までにやってくれる人を決めるみたいなーー」

 いてもたってもいられなかった。私はやよいちゃんの肩を掴んだ。

「ちょうどいいよ。絵が得意なやよいちゃんならぴったりだよ。プリ..........、だってやればできるよね。やよいちゃんはとても優しくて、勇気がある━━」

「みゆき」

 私の左肩にも、誰かの手が乗る。振り向いた。

「あかねちゃん」

 私とともにプリキュアになった、キュアサニーなる彼女は、私に待ったをかけるように私の説得を遮った。その眼は真剣だった。

「それはちょっと、押し付けがましいんとちゃうか」

「え━━」

 突然のことに、私は理解できなかった。

「今、そのポスター作るのやつがおらんで、学級委員のれいかも探しとる状況やろ。それで、やよいに『あんたならできる』いうて、やらせて、それでうまくいかんかったらどないするつもりや? 責任とれるんか? もちろんこれもや」

 あかねちゃんはちらりとソウルフルパクトを見せてきた。それが意味することは分かる。でも、”前の世界”でもやよいちゃんは実際にプリキュアになった。うまくいかない、なんてことは無いに決まってる。

「あ━━」

 でも、ポスターは━━。

 あの時私も、勝手にやよいちゃんを推薦して、それで結果は━━。

 やよいちゃんの肩に置いている手の力が抜けた。

「ごめんやよいちゃん━━」

 そう謝った瞬間。

「お前が2年2組の代表者か」

 すると、廊下からは5人の男子生徒が歩いてきた。5人組の中心にいる、ひときわ背の高い生徒が私たち3人の近くで止まる。それにつられてほかの4人も足を止めた。

 真ん中に居るのは美術部長の3年である蘇我先輩。他の4人は私と同じ2年の生徒だろう。彼と仲いい人たちだと思う。

「お前もしかしてポスターコンテストに参加するつもりか」

 同級生の子はやよいちゃんを見下ろす。高圧的な態度だ。 

「う、ううん。まだわからない……よ」

 男性たちに圧倒される。やよいちゃんは小さい声で反応した。

 だけど、同級生の男子の4人は、みんなやよいちゃんにつけ込むように、さらに高圧的な態度で話しかけ始めた。

「どうせ出たとしても無理だろうけどな。なぜならこの美術部のエースオブエースにして七色ヶ丘NO.1、天才画家蘇我部長も参加されるからだ」

 それを聞いた当の部長本人はなんたる誇らしげか。

「なんや。すごいのはお前とちゃうやろ」

 あかねちゃんは今のにむってなったみたい。同級生の男子に言い返しにいく。もちろん私もいい気はしない。

「格の違いを教えてやってるのさ」

「このお方は将来圧倒的画力のセンス故に世界に羽ばたき、誰からも認められる美術世界のスーパースターになれるんだ。それに比べてお、ま、え、は、教室の片隅とかで情けない絵を描いてるようなやつだろ。お前みたいな弱々しいやつ描くものなんて、弱々しいに決まってるさ」

 ━━違う。

「あんたらな! 人を馬鹿にするのもたいがいに━━」

「違う!」

 私は声を出した。これ以上聞き続けることはできなかった。これ以上言わせることを許すことなんて、私にはできない。

 男子たちに鋭い視線を向ける。

 それに対して4人の男子たち全員がこっちを睨みつけてくる。

 その中で男子の一人が私を指差し、私のもとへ近づいてくる。

「はあ。お前最近転校してきたやつだろ。最近この学校に来て偉そうに言うんじゃない!」

「あなたたちだってやよいちゃんの絵、見たことないでしょ」

 一歩も引き返すことはできなかった。

「知った風な口聞かないでよ」

 私は、やよいちゃんのスケッチブックを指差した。

「やよいちゃんの絵はとっても可愛くてかっこいいの。あなたたちの言うとおり、絵は描いた本人を映す鏡みたいなものだと思う。だから、やよいちゃんはとっても可愛いし、みんなのスーパーヒーローになれる子なの!」

「私が……ヒーロー」

 やよいちゃんの声が聞こえた気がした。

「せや! 同じクラスでもないお前らが、やよいの何を見とんや! なんも知らんくせに、知った風な口を聞くな!」

 あかねちゃんも私と同じように言ってくれた。

「両方転校生のくせに━━」

 男子たちは、どうやら、私たち二人が転校生だという事実を盾にしてくるようだ。あかねちゃんは一年生の時に大阪からやってきたって、前の世界の本人から聞いた。

 だけど私は、周りの人からしたら転校してきたばかりの、何も知らない人間だろう。だけど私は別世界でやよいちゃんと一年近く過ごしてるんだ。他のクラスから見下すだけだった人たちより、やよいちゃんのことを知らないなんて有り得ない。

「まあ待つんだ」

 両者の間にある緊張感を和らげたのは、これまで得意げの顔をしていた。蘇我先輩だった。

 同級生の男子たちは、私に向ける敵意を和らげた。というより尊敬する先輩に心を向けた、というのが正解か。

「では、どちらが正しいか勝負しようではないか」

「勝負━━?」

 蘇我先輩は私を一瞥した後、やよいちゃんを見た。

「この子の絵がどうなのか、発表する場があるではないか」

 ポスターコンテスト。

「実際に描かせて、私たちに認めさせてもいいのでは?」

 つまり、やよいちゃんをクラスの代表にして、どう評価されるか見てみろと。

「そんな勝負をするために描くもんとちゃうわ!」

 あかねちゃんはその振る舞いに、敬語も忘れて反抗する。確かに、やよいちゃんを辱める意思を十二分に感じる。

「そう。でも、そんなことしたら、黄瀬やよいは勝負から逃げる弱々しいやつでした、ことになっちゃうかもな」

 同級生の男子たちが野次を飛ばしてくる。彼らからはやよいちゃんを馬鹿にする気しか感じない。

「それじゃあ考えてくれたまえ」

 蘇我先輩は、一度も得意げな顔を崩すことなくこの場を去っていった。それにつられて、ほか4人もこの場から去っていく。

 男子生徒の後ろ姿を見送った後やよいちゃんをを見る。

 あんな言葉で自分のことをバカにされたんだ。やよいちゃんがどう思ってるか関係なく、何か声をかけてあげないと。

 と思った瞬間、あかねちゃんのほうが早く声を出した。

「ま、自分の才能を鼻にかけてる奴だったり、そいつの取り巻きになって気持ちよくなりたいだけのやつはいる。気にすんな」

 やよいちゃんの肩を持った。

「うん。あと、さっきの話なんだけどとりあえずポスターコンテストは参加しなくていいかなって」

 私はあかねちゃん以上の声を掛け方がわからなかった。だから、とりあえず話を戻すことにした。確かにあかねちゃんの言う通り、強要はダメだし。

 やよいちゃんはうつむいていた。私たちに表情はあまり見せてくれない。まだショックは大きいのかな?

「でも誰かがやらないとなあ」

 頭をひねる。2年2組、ほかに絵が途轍もなく上手い子はいないのか。でも、前の世界と今の世界。2組のメンバーは誰一人として変わっていない。

「まあ、最悪2組はいなかったでいいんちゃう? 別に参加できんかったらって、何かまずいことがあるわけないやろ」

「でも、れいかちゃんと先生はどう思うかな」

「その時はその時とちゃう?」

「まあそうだね。帰ろう」

 私たちは帰路につく。これ以上やよいちゃんに無理を言うわけにはいかない。

 プリキュアもまた今度行ってみようか。今のところわたしとあかねちゃんでなんとかなってるし。強さだけで言ったら、正直私だけで倒せるのが実のところ。

 それじゃあ、と声をかけようとしたその瞬間。

「やるよ」

 思いがけない言葉に一瞬固まった。

「いや。別にうちらはカマをかけたとちゃうで。あいつら参加させて、うまいこと行かんかったやよいを馬鹿にする気しかなかったやろ。でも多分参加しなくても馬鹿にされそうやし。そりゃああの先輩たちを見返すには、コンテストに参加して受賞するのが一番やと思うけど……」

 あかねちゃんは勘違いさせてしまったと謝る。

「うんうん。本当にやよいちゃんが嫌だと思っているなら、やらなくて━━」

「やりたいの」

 私に視線を向けるやよいちゃんからは、強い意志を感じた。

「みんなに、私の絵を見てほしいの」

 それを言われて、私たちは何も言えなかった。

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