やよいちゃんのポスターコンテストの結果を聞いて驚いた。
その理由は、”前の世界”での結果とはほぼ正反対の結果だからだ。まさか銀賞までいくとは━━━。
聞いた途端に、「えっ」と盛大に声を出してしまって、普通に失礼なことをしたと反省した。
あかねちゃんの時も思ったけど、私が知っている世界とさまざまな結果がちがうみたい。原因は私、なのかな。普通は1秒先のことなんて誰も知らない。だけど、私はこの先に起きることを知っている。
でも、結果は違ったのでは。
じゃあ私は未来を知らないことになるわけで━━━。
私は連立方程式を立式するときのように頭が熱くなったので、思考を止めた。
とにかく、今やることはたった一つ。残り二人のプリキュアを“今の世界”でも《復活》させること。
私は校門を抜けて学校の敷地内を見渡した。
コアソウルが七色ヶ丘中学校に現れたのは昨日のこと。
不思議なパワーで、コアソウルに壊された学校は元通りになった。一応その日の学校は休みになったりはしたけど、本当に学校への影響は無かったので、本日から普通通り学校が再開した。
“前の世界”では、アカンベエと戦うときはバッドエンド空間という場所に入れられていた。そこでの人たちはネガティブになり、逃げるどころではなくなる。
しかし、学校のみんなは恐怖で逃げるし、コアソウルはアカンベエとはまた違った怪物なんだろう。
私はグラウンドに目を向けた。
活気ある声、そしてボールが蹴られる音も聞こえて、サッカー部も朝練をしているだろう。カキン、と金属音も聞こえる。これは野球部だろう。
どうやら部活も当たり前のように行われているようだ。
とすれば、ここからはわからないけど弓道部も練習をしていると思う。
するとその途端に。
「よう」という、軽快な声が聞こえる。
私はその方向を見る。
橙いろのお団子、ペケ印の髪留め、あかねちゃんだ。
そして隣には、カナリア色の髪のボブとカチューシャが特徴的な女の子、やよいちゃんもいた。
「みゆきちゃんおはよう」
「おはよう」
私は笑いかけた。
「で、みゆき。今から教室か?」
「ううん違うよ。来てほしいところがあって」
私はグラウンドを指差した。
「なるほど」
あかねちゃんは私がこれから何をするのか理解してくれたようだ。一方やよいちゃんは「どうしたの?」と声を出した。この差はあかねちゃんは一度私とやっているからかな。
疑問を抱くやよいちゃんに向ける。
「プリキュアに誘いに行くんだよ」
七色ヶ丘中学校のグラウンドでは、20人以上の生徒が長方形のコートに集まっている。
コート幅は縦100メートルくらいと横70メートルほど。サッカーのコートサイズだ。サッカーとはこの中を一つのボールを中心に動くスポーツだ。しかも時間は90分! 45分でいったん休憩できるし、中学生や女子では時間が短くなるとも聞いたけど、私じゃ体力が尽きていつか動けなくなるだろう。
グラウンドの端には、町中にボールが飛んでいかないように緑色のネットがある。私たち3人はネットにもたれかかるように座る。その中で私はコートの中で動く一人を眺めた。
千歳緑のポニーテールをなびかせる彼女の名は、緑川なお。
右足を踏み込む、広大なコートを風のように走り抜ける。
手を挙げてたった一つのボールを呼び込む。
「こっちだ!」
転校初日の日にあかねちゃんは、なおちゃんのことを「女番長」と表現した。言われた本人は否定していたが、年上にも引けをとらず、男勝りな口調でもの申すその姿を見た人はそう言いたくなるんだろう。
ボールが彼女にわたる。
そこに一人のディフェンダーがやってくる。しかし、右足で彼女を抜く。そのまま加速。ボールを足で蹴りながら移動することを”ドリブル”というらしい。簡単に見えて難しいその動作は、自分がただ走るときよりもはるかに小さいスピードでしか動けない。
しかし、なおちゃんのスピードは変わらない。
ただでさえ学校の中で一番といっていいほどの俊足の持ち主なのに。
抜かれたディフェンダーは追いつくことはなく、なおちゃんにシュートを撃たれ、ゴールを許した。
その姿に私は圧倒させられる。
「かっこいい……」
ため息をついた。
そこで試合が終わる。
朝練もここで終わり、ということを意味する。
その途端に。
グラウンドの脇から私と同じ女子がなおちゃんに集まってくる。多分一年生たちだ。
もうそれは滝のごとく。なおちゃんに憧れる女の子たちが群がる群がる。
「緑川先輩! お疲れさまです!」
「これ、タオルです!」
「ありがとう」
なおちゃんは動揺することなく笑みを浮かべる。後輩に差し出された若緑のタオルを手に取り顔を拭う。その中に私はもぐりこもうとする。
「忘れてたああ!」
そういえばなおちゃんの周りはこんな感じだったなあ、って思い出しながら体を前に前に。だが割り込めない。
「これ、おにぎりです!」
「サンドイッチです!」
「家でラーメン作って持ってきました!」
待ってそれどうやって持ってきたの、と言いたくなるような言葉を聞きながら、なんとか彼女の前までたどり着いた。
顔を上げると、なおちゃんの右手にはおにぎりやパン、左手にはどんぶりを持っていた。どんぶりの中にはラーメンがしっかり入っていた。いやなんで。
右手にあるおにぎりにかぶりついた後、なおちゃんは私を見て怪訝そうな顔をした。
「君は、星空さん……!」
七色ヶ丘中学校のグラウンドのベンチに、なおちゃんと隣り合わせで座る。心地よい風が吹き抜け、青空の下で私たちは一緒に弁当を食べる。なおちゃんはあっという間に弁当を食べ終わり、その食いしん坊ぶりを改めて確認させられた。
私の朝の目的は、なおちゃんに少し時間をとってもらうことだった。
「プリキュア……?」
私の申し出を了承してくれたなおちゃんが首をかしげる。
「うん。この前、学校にバイクに乗ったかぐや姫が現れたのを覚えてる? あんな怪物たちからみんなを守るのがプリキュアなんだ」
「あの騒動、星空さんがなんとかしたの? じゃあここに転校してきたのって……?」
「ううん。それとは関係ないよ」
多くの生徒が目撃した、バイクで暴れ回る大きな女性。しかし、校舎から避難してしばらくすると、その女性の姿は消え、壊れたはずの校舎も元通りになっていた。
なおちゃんは、その事件を解決するために私がこの学校に引っ越してきたと思ったらしい。
「それに、あかねちゃんとやよいちゃんもプリキュアになってくれたんだよ」
と付け加えた。
「ええ! あかねとやよいちゃんも……!」
「そうだよ! だから、なおちゃんにもプリキュアになってほしいの! なおちゃんは真っすぐで正義感が強いから!」
弁当を横に置き、私はなおちゃんの手を掴んで懇願する。別の世界の話だけど、屋上で弁当を食べている時に、意地悪な先輩たちが場所を横取りしようとしたことがある。私は先輩の圧力にたじろぐことしかできなかったが、なおちゃんは臆さずに言ってくれた。
「ここはみんなの場所だから、先輩だからといって後から来て場所を譲ってもらうのはおかしい」と。
その時に確信した。なおちゃんならきっとプリキュアになってくれると。世界を脅かすアカオーニたちから自分の家族を守るために、《キュアマーチ》へと変身したなおちゃんの姿を思い出す。だから、きっと━━━。
「━━━ごめん」
だけど、人が同じだからといって、結果が同じだとは限らない。あっちの世界では努力賞だったやよいちゃんは、ここでは銀賞を取った。もちろん二つの世界で、二人のやよいちゃんが描いた二つの絵はそれぞれ違う。例えばキャンディを模したキャラクターがいるかどうかみたいな違いがあるけれど、それだけの差があそこまでの結果の差を生むとは思えない。
「そっか……」
だからといって強要もできない。
「私を頼ってくれるのは嬉しいけど、私には家族がいるんだ。本当は今日の昼、自主練をしたかったんだ。サッカーが好きで上手くなりたいってのもあるけど、今日は親が夜遅くまで帰ってこないこともあって部活に出られないし……」
別世界のなおちゃんは、それでもプリキュアになってくれたという気持ちは抑えなければならない。
「……分かった」
それ以上、私は何も言わなかった。
それから数日が経った。
今のところ、コアソウルが襲来することはない。
その間、私はもう一人、プリキュアに誘うことを考えた。
だけどできなかった。私たちプリキュアは全員で5人いる。私がそこから来た、もう一つの世界ではそうだった。
修学旅行で京都大阪を回ったり、リレーのために皆で頑張ったり、1人の留学を全員で悩み合った。楽しいことを皆で共有して、苦しいことも全員で乗り越えた。
私は誰も欠けてほしくない。皆一緒がいい。そのほうがきっと、ウルトラハッピーになれる……。
だけど決めなければならない。認めなければならない。
私は屋上でご飯を食べながら考える。
「なあ、みゆき、最近元気あらへんな」
「確かにそうだね」
一緒に食べていたあかねちゃんとやよいちゃんから心配された。
「もしかして、なおに断られて落ち込んでんとちゃうか?」
ぎくり。
「そうみたいだね」
隠すことは出来ないし、いっそのこと。
「うん。この前なおちゃんに、プリキュアを誘ったんだけど、『部活と家族のことで手一杯』って言われちゃった……、さすがにもう……誘うことは出来ないよね」
私の悩みを聞いた2人は互いに目を合わせた。そして頷きあう。
あかねちゃんは、
「申し訳ないけど、一度断られとんのに誘うのは、やっぱり押し付けがましいんとちゃうか?」
と、前と変わらない答えを出してきた。
やよいちゃんは、そっと、
「そうだね。家族のことだしね……」
と意味深気味に答えてくれた。父親のことだろうな、と思うけど、この世界でそのことについて触れたことはないので黙る。大切なのは、気持ちを受け取ること。
「そうだね……」
私は頷き、それだけ答えた。
放課後。
夕焼けが廊下に差し込む。
なおちゃんは部活に行った。私は止めることはない。
覚悟を決めて、最後のプリキュアを誘おうと、生徒会室か弓道部に行こうとしていた。
その時だった。
「星空さん!」
職員室の方から、担任の佐々木先生が慌ててやってきた。
「どうしたんですか?」
「緑川さんを見なかった?」
「なおちゃん?」
グラウンドに行くと、やっぱり部活に勤しむなおちゃんの姿があった。先生から直接呼ばれて、話をされる。話し終わった途端、部室の中に入っていった。帰るのだろう。
話の詳細を聞いた。
先生はあまり他の人に言わないことを条件に教えてくれた。
「留守番するはずの、緑川さんの弟が熱を出しちゃって。両親も今手が離せなくて、それで緑川さんに帰宅してほしいんだって」
「お疲れさまです!」
部室からなおちゃんが出てくる。
それを見て、私は動かずにいられなかった。
「なおちゃん!」
「ほ、星空さん……?」
晩御飯はカレーと、お粥。
熱を出したのは、なおちゃんの弟で、長男のけいた君だった。
私は、家に帰るなおちゃんの手伝いを申し入れた。すると、買い物を頼まれたので私は食材を買って緑川家に持っていったのだ。
そのまま帰ろうとしたが、食べていきなよ、と言われたので好意に甘えることにした。ついでに、料理のお手伝いもする。
お米を煮たり、食材を切ったりと大忙しのはずだけど、手際よく料理を進めるなおちゃんには毎回驚かされる。
私にできるのは、食器を取り出したり、使ったものを洗ったり、ちょっと調味料を入れたりするくらいだ。それでも、なおちゃんの役に立てるのなら、全力でやる。
「ねえ、星空さん」
私がお粥にお塩を入れている時、なおちゃんが話しかけてきた。
「もしかして、今日私を助けるって言ってくれたのって……」
「ううん。プリキュアのことじゃないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。私はただ、なおちゃんのことを助けたかっただけ。だって友だちでしょ」
「…………そうだね」
なおちゃんは笑い返してくれた。そしてふと視線が落ちたと思えば……。
「星空さんそれ塩じゃなくて砂糖!」
「え……」
手元を確認する。
私が持っていた小さなガラス容器には、「SOLT」ではなく「SUGAR」と書かれていた。
「ご、ごめん!」
なおちゃんは近くに合った小皿を用意する。お玉で、お粥を少しだけ小皿に入れて食べる。
「大丈夫。これくらいなら平気だよ」
「良かった〜〜」
お塩は、砂糖に比べて普段使う量がかなり少ないのが幸いした。逆だったらかなり大ごとだよね、と母の日に娘特製の塩コーヒーを飲まされ微妙な顔をしていたお母さんの表情を思い出した。
とはいえ、大きく失敗してしまったのは変わらない。
「やっぱり私、あっちで弟君たちの相手してるよ」
「え、そう?」
「うん」
キッチンから離れて、畳が敷いてある居間へと向かう。
長男のけいた君が熱を出していて、別の部屋で眠っている。居間では、次女のはるちゃん、三女のひなちゃん、次男のゆうた君、三男のこうた君が遊んでいる。
これから四女のゆいちゃんが産まれてくる。多分、お母さんが身籠っているところかな。
私は一度、けいた君の様子を見る。寝ていて、特に苦しそうな様子はない。
「ねえねえ」
と、腰辺りをつつかれた。すると、はるちゃんが私の前に握りこぶしを見せ、手を開く。
そこにあったのは。
「うわっ!!」
すぐ近くで寝ている子がいる分、声は抑えられた。だけど、驚かないのは多分無理。だって、その手の中には、“ゴキブリ”がいるのだから。
「じゃーーん! おもちゃでした〜〜」
「え……。おもちゃ……」
ぽかんとしている私をよそに、はるちゃんはゴキブリの腹を見せてきた。地面を走るためのローラーがついていて、確かに本物ではないことが分かった。
「これ買ったの?」
「ううん? 道端で拾った。ゴミを漁ってるのかな? って思ったらおもちゃだったから、全部持ってきちゃった!」
「そうなんだ……」
子どもの頃は……いや私もまだ子どもか。基本的に小さい頃は好奇心とかのほうが大きくて、今は無理なものも大丈夫だったりするんだよね。
なんて考える。自分は活発というよりもはるかに臆病な子どもだったけど、お化けとかは、多分今よりびっくりすることはなかったはず……。
ん? 全部?
その瞬間だった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!??」
家中どころか、周辺の住宅に響くような、悲鳴が聞こえた。
すぐに分かる。なおちゃんの声。何が起きたのかは心当たりしかないけれども、私はすぐに走り出していた。
「大丈夫?」
キッチンを覗く。
そこには、尻もちをつくなおちゃん、それと三女のひなちゃんがいた。なおちゃんあたりの地面を見る。やっぱりゴキブリのおもちゃがあった。だけど、探すのには少し時間がかかってしまった。その理由は、ひっくり返った鍋から溢れたカレーが地面にも流れ、色的にゴキブリのおもちゃが擬態しているようになっていたからだ。
なおちゃんの叫び声は、近所迷惑気味になっていた。気味、で済まされるのは、笑い声だったり、楽器の音だったりではなく、驚きによる叫び声だったからだ。
それでもご近所からは、心配のために緑川家に訪ねに来た人もいて、その度になおちゃんは頭を下げていた。
少し落ち着いた後、なおちゃんは、次女のはるちゃんと三女のひなちゃんを呼んだ。そして第一声は、少し小さい「コラ!!」という叱りの言葉だった。
なおちゃんは、妹2人に料理中の人にちょっかいを出すことの危険をとにかく口に出していた。
なおちゃんは無事だから良かったものの、カレーかお粥がかかって大火傷を負う可能性もあった。もしそれが野菜を切っている時だったら……? 包丁が無意識にどこかへ放り投げられるかもしれない。そう考えるとぞっとする。
私がお母さんにやったとしたら、それはもうとことん怒られるだろう。
なおちゃんが一通り叱り終わった後、私にも話しかけていた。
「ごめんね。ご飯食べさせてあげるって言ったのに……、こんなことになっちゃって……何か作り直すから」
「いいよ。私はもう少ししたら帰るよ」
ご飯のことは、家に帰って食パンでもかじったらいい。とりあえず今は、床に溢れたカレーやお粥をなんとかしないと。
カレールーとお粥はすっかり冷えていた。それを雑巾やティッシュで拭き取るまで30分がかかった。
この作業がかなり大変だった。このようなことになったのは、妹ちゃんたちが無思慮になってしまったこと。私はともかく、なおちゃんは普段から弟や妹の面倒を見なければならないし、姉として叱ったり後始末をしなければならない。
そう考えると、なおちゃんは立派だな、という気持ちと、大変そうだなという気持ちの、両方が心の中に入ってくる。
夜もかなり遅くなった。なおちゃんの両親も帰ってきた。これ以上ここに残るのも危ないし、今から泊まりたいなんていうのは迷惑だ。緑川家に挨拶をして家を出る。
ピシャリと、ドアがしまったその時だった。
ぴら、と本をめくる音がした。
「はっ………!」
そこには、彼がいた。
「こんばんは」
「ジラ……」
「いでよ。コアソウル」
掛け声と同時に渦巻きの中心の奥に青紫の光が見えた直後、覆いかぶさるように黒く粘度の高い液体が光を飲み込むように染み出ていく。液体はこちらに染み出るように漏れ出し、形を成していく。歪みが消えた後、完全に形が固定された姿は間違いなくコアソウル。
コアソウオオオオル。
眼の前に現れたのは、魔女。かごを持っている。
とにかく━━━━変身を。
プリキュア・スマイルチャージ!
キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!
桃色の衣装を纏う。
眼の前にいるのは魔女。魔女は色々な作品の悪役として登場している。シンデレラ、白雪姫、ヘンゼルとグレーテルなど様々な作品に出てくる悪役だ。間違いなくコアソウルは絵本に出てくるキャラクターの力を持っているけれども、私じゃ絞れない。それほどまでに複数の作品に登場している。
そんな役をメルヘンランドで演じ続けなければならなかったマジョリンの気持ちも分かる。
とにかく、今はなおちゃんの家の前。ここから離れないと━━━
「星空さん!」
後ろで玄関のドアが開く音と、聞き慣れすぎた声。
「なおちゃん……!!」
「え……なにこれ……」
私を心配して外まで出てきてくれたのだろう……。だけど、それは、危ない。
「あっちから来てくれたのは都合がいい。やれ。コアソウル」
ジラの言葉と共に、魔女はあるものを取り出した。あれは━━━りんご。分かった。白雪姫の魔女だ。でも、今は━━━!
「なおちゃん!」
私はなおちゃんに、駆け寄り、抱える。
「ちょっと!」
驚かれるけれども、そんなことは気にしてられない。魔女はりんごをこちらへ投げようとしていた。
この世界に来て最初に戦ったシンデレラのコアソウルを思い出す。かぼちゃの爆弾を使っていた。
だから玄関では爆発が……。
ボン!
あれ?
爆発ではあるけれど、爆炎がでない。それと同時に出てきたのは……煙。
不発……?
私はその煙を眺めていた。家の中へ充満していく。
しかし。
「言っておきます。その煙は毒です」
と、明確な情報を話すジラ。途端私は固まる。
「え……」
「それと、睡眠薬も入っていますね。家の中の人間はぐっすり眠っているでしょう。ですが……、あと1時間くらいですかね」
「1時間……」
1時間後。何が起きているのか……。明確には分からないけれども、今まで以上にこのまま敵を放置してはならないことだけは、バカな私でも理解できる。
なおちゃんの心情なんて計り知れない。
私はすぐさまソウルフルパクトを取り出す。
「なおちゃん、電話であかねちゃんと、やよいちゃんをここへ呼んで」
「…わかった」
なおちゃんはそれだけいったあと、すぐに走り始めた。とりあえず、家の中にいる家族を、外に避難させるのだろう。
ここは危険。だから目の前のコアソウルを外へ出させる…………。か、すぐに倒さないと……。
パチン。
すると、ジラが指を鳴らしていた。
「行け」
それだけコアソウルに伝えた。
「何…………?」
私は身構えた。
その途端…………。
コアソウル目の前から消えていた。
グアアアアアア。
「ちょっと待って!」
家の敷地から出る。辺りを見渡すとコアソウルの姿が。
こちらに背を向けて走っている。
「逃げてる…………!」
このまま1時間やり過ごすつもりなんだ。そう理解するまでに時間はかからなかった。
「待ってーーーーーー!」
私は走り出した。