まずなおは、煙の中から家族を助けなければならないと思った。息を止めながら一人ずつ運んでいく。家族全員は今はただ眠ったように見える。だがそうではない。この家の前に突然現れたジラが、コアソウルという化け物を召喚し、その化け物が発した煙で自分の両親と弟妹が眠らせれた。しかし、その後ジラはこういった。
「言っておきます。その煙は毒です」
「それと、睡眠薬も入っていますね。家の中の人間はぐっすり眠っているでしょう。ですが……、あと1時間くらいですかね」
一時間。いや、それが発せられた言葉からの時間を考慮して残り30分くらいだろうか。
なおは部屋の庭で倒れこむ7人を見つめる。彼らの顔色は悪くなったように見える。さっきまでは気持ちよさそうに眠っていた彼らの表情は、いつのまにか苦しそうにも見えた。
ぞれを確認した途端、なおの中から激情が溢れてくるのを感じた。
━━許せない。
拳を握り、そう思った。
「お──い! なおか!」
すると、突然声が聞こえた。
振りかぶると、違う声が自分を呼んでいた。
緑川家の敷地に入った二人の少女。彼女たちはハッピーに頼まれ、ここに呼んだ二人だ。
家族を全員外に連れ出した時には、すでに煙は収まっていた。なおは家に戻り、固定電話を手に取った。クラスに配られた連絡網を見ながら、ハッピーに言われた通り、日野家、次に黄瀬家に電話をかける。二人ともすぐに駆けつけてくれるという返事に、なおは深く息をついた。
「二人とも……もしかして……?」
なおは驚きと期待が入り混じった表情で尋ねた。彼女の心の中には、何か大きな秘密を共有するような不思議な感覚があった。
「あー、もうみゆきがスカウトしとったから隠す必要ないんか。うちはあかね、キュアサニーや」と一人が答えた。
「私がやよいでキュアピース。ハッピーは?」
「えっと、さっき怪物と走っていったはずだけど……」
なおが答えたその時、大きな足音が響いた。その音はまるで地面が揺れるほどだ。
そして家の横の道路を物凄い速度で、黒くて大きい何かが通り過ぎた。
「うわ! さっきの怪物だ!」
「何や! 今回は何の絵本や!」
あかねが叫んだ。
「絵本……?」
なおは、今通り過ぎた怪物と、サニーの発した絵本という言葉の関係性は知らない。
そしてサニーとピースも今ここで何が起きたのかは知らない。
3人で知っている情報を共有する。
まずサニーがコアソウルという化け物について説明した。
そして次になおが今ここで起きていることを説明しようとしたときだった。
ピースが叫んだ。
「ハッピー!」
息切れしながら現れたハッピーの姿に、全員の視線が集中した。家の塀に手をつき、項垂れている。わずかに見えるその表情が曇っていることをなおは確認した。なおはその姿に心が痛んだ。彼女たちの力が及ばない現実を突きつけられた気がした。
「速すぎるよ……どうすれば……」ハッピーは息を整えながら言った。
「もしかして、今通ったコアソウルを追いかけてたってこと?」
ピースが問いかけると、ハッピーは首を縦にふった。
「この七色ヶ丘の町で、ずっと同じところをぐるぐる回っていたけど、追いつけない」
彼女の声には、焦りと無力感がにじみ出ていた。ハッピーは頭を両手で抱え、何をすべきかを考えている。
「じゃあピース! この前みたいにバリバリってできんか!」
サニーが提案した。
バリバリ? なおはまた知らない言葉に疑問を浮かべるうちに、ピースはかぶりを振った。
「私の雷の力は、確かに高速移動はできるけど、その距離は限られているから一気に長距離は跳べない。それに、私の攻撃は強くないから触っても吹き飛ばされちゃう。むしろ、サニーならパワーで受け止めるとか出来ないの?」
「確かに。それなら……」
サニーが考え込む。
「無理だと思う」
しかし、ハッピーが否定した。
「そうなん?」サニーが問い返す。
「あのコアソウルについて言ってなかったね。あれは魔女、りんごを持っていたから白雪姫の魔女なはず。それで人間のタイプについてなんだけど、あれは陸上選手じゃないかな。車とかポンポン跳ねて逃げてたし、後ろからのハッピーシャワーにも気づいて避けてたの」
彼女の言葉は重く、なおは彼女の心の内にある苛立ちと絶望を感じ取った。
「何やその厄介な相手は……」
サニーは頭を抱えた。彼女もまた、無力感に苛まれているようだった。
「……ーチがいれば……」
ハッピーが呟いた。
「どうしたの? ハッピー?」
ピースが心配そうに尋ねた。
「何でも無いよピース。とにかく、私たちに何ができるか考えないと……」
ハッピーは苦しそうに答えた。
全員が考え込んでいる中、時間が過ぎていった。なおは、家族に冷やしたタオルを当てながらも、焦りと不安が心に渦巻いていた。彼女の心の中では、家族を守りたいという強い思いが燃え上がっていた。しかし、今の自分たちの力ではどうにもならない現実が、彼女を一層追い詰めていた。
なおは、家族に冷やしたタオルを当てる。
ある程度時間が経った。定期的にコアソウルが緑川家の前を通る。その間、作戦を考えるが何も思いつかない。多分あと……、15分くらい。こんな時、こんな時、彼女がいてくれれば……。
まだプリキュアは3人しかいない。もう2人いない。たったの2人が今はとにかく必要だ。だけどいないのはいない。1人は誘ってない。プリキュアのことを知ってすらいない。そしてもう1人は……。
「大丈夫?」なおちゃんは家族を見る。両親や弟妹たちの顔色が悪くなっていく。ジラの言ったことはハッタリでは無いんだ。
当のジラは緑川家の塀の上にずっといる。
「こうなったら……」
ピースは突然自身を雷のように動かし、塀の上にいるジラの方へ攻撃した。右手拳がジラの頬へ当たりそうな瞬間だった。
その拳は━━。
「へぶうううう」
何故か、私の頬へ。
「ご、ごめん!」
倒れる私を抱きかかえるピースは涙目になっていた。
「大丈夫だよ…………」
私は笑顔を作って答えたが、心の中は焦りでいっぱいだった。だけど、不思議な現象についてあれこれ考える力も時間も、“彼女”がいない限り、私たちには無いに等しい。
「僕に干渉することは不可能です。それを見越してずっとここに居座っているのですから……」
ジラは冷たく、私たちを見下す。
どうすれば……。どうすれば……。
このままだと、なおちゃんの家族が……。本当に……。"前の世界"で、マジョリーナに弟妹を消されたと思った時の彼女の表情を思い出す。
私には力も無い。速さも無い。頭も無い。リーダーとしての能力も無い。だから気合いだけは誰にも負けたくないと思っていた。だけど、それだけじゃどうしようも無い。1人じゃ出来ないことなんていくらでもある。どんなに頼られる人だって、完璧に見える人だって出来ないことだってあるし、限界はある。そんなこと知っている。
「もういいですかね」
「何が?」
なおちゃんはジラに食らいつく。
「時間の無駄です。あなた達が打てる術は無いようですね。そろそろコアソウルを引き上げて帰りましょうか」
「そんな……妹たちは……!?」
「知りませんね。ま、プリキュアでも助けられない人はいる。それだけのことです。所詮赤の他人、他人の家族でしょ。助けられなかったとして、この世界の戦いに影響なんて無いですし、それでいいじゃないですか。ね、キュアハッピー」
私の名前を呼ばれる。
「そんなの知らない。赤の他人なんて知らないよ!」
体を起こし、必死に叫んだ。
「僕は思ったんです。母親や父親を助ける理由は分かります。朝起こしてくれて、ご飯を作ってくれて、着たものを洗濯してくれて、自分の部屋も掃除してくれて、いつも助かっている存在です。ですけど、それ以外の人なんて助ける理由ありますか……友人、仲間、そして兄弟……」
「ある!」
真っ先に声が上がったのは、なおちゃんだった。
ジラはなおちゃんに視線を向けた。
「家族っていうのは、暖かくて、とても大切なものなんだ。弟たちや妹はあたしが助けてばかりだって。違うよ。そりゃ怒ったり、困らされたときだってあるけれども、いつも元気で、笑顔でいてくれる、それだけで助けになるんだよ!」
「僕の記憶にはそんな情報はありません」
「星空さん、ううん。みゆきちゃん」
「どうしたの……?」凛々しくこちらを見て叫ぶ
「あたしもプリキュアになる!」
「ええ!?」
「この前は断ったけれども、やっぱりやる」
「待て!」
瞬間、サニーの声が届いた。コアソウルが眼の前に━━━。
ピースはなおちゃんを抱え、後ろに飛んで避ける。コアソウルは右手のパンチを繰り出すものの当たらなかった。ピースに抱えられていたなおちゃんは、地面に再び立つ。
「あたしの家族を、あたしの家族を、馬鹿にするなんて、危険な目に遭わすなんて、絶対に許さない!!!!」
力の限り叫んだ。風が吹いた気がした。なおちゃんからのもとに、もとに、もとに━━━━?
「え?」
何も……何も……起きない……?
「プリキュアになるつもりですか? 残念でしたね……」
無感情に、残酷に事実を告げられる。
「そんな……。私も、あかねちゃんも、やよいちゃんもプリキュアになったのに、なおちゃんは…………」
「まただ!」
だけど、プリキュアにならなかったことを嘆く暇は、彼女にはなかった。
すぐさま庭にあったサッカーボールに向かって走り出し、そのままコアソウル向かって蹴った。二年生ですでにサッカー部のエースとなっているだけあって、ボールは見事命中してコアソウルにぶつかる。だけど、変身していなければ、ダメージを与えることすらできない。コアソウルはりんごを用意し、すぐ投げた。
「うわああああああ!」爆弾だ。
なおちゃんは避けようとするも、爆風にのまれて倒れる。
━━そうだ。変身できるかなんて関係ない。
もう一度、コアソウルは爆弾を投げてくる。
私は、ううん。私たちプリキュア3人は、倒れるなおちゃんの前に立ち、盾になった。ボボン!
爆風に倒れそうになるも気合で堪える。
「大丈夫だよ。だから、一緒に、一緒に戦おう」
私は手を差し伸べる。なおちゃんはそれに反応して、がしり、と私の手をつかみ取った。
その時だった。
風が、私たちを飲み込んだ。
突風。コアソウルどころか、サニーとピースまで吹き飛ばした猛烈な風は、私たち二人だけには関係なかった。そして、私のソウルフルパクトに入っている緑色のラインが光となって消える。私と向かい合うなおちゃんの胸の前で新たなパクトが生まれた。
「な、なにこれ……」
「プリキュアだよ」
「これが……、で、でも時間が」
「そうだね。ソウルフルパクトに気合を込めながら『プリキュア・スマイルチャージ』って叫ぼう!」
「わかった」
風が凪ぐ。なおちゃんは凛々しく、高らかに叫んだ。
プリキュア・スマイルチャージ!
勇気りんりん、直球勝負! キュアマーチ!
四人目のプリキュア━━━。
私はその姿を待っていた……。
「ほう、新しいプリキュアですか? 実験がてら、やってみましょうか!」
ジラは指を鳴らす。
その途端、コアソウルは地を蹴り、走り出す。そのコアソウルは多分白雪姫と多分陸上の選手の組み合わせ。だったら速いし、体力もある。
私たち三人ではどうしようも出来なかったコアソウルの全力ダッシュ。サニーが止めようとしても機動力で躱され、ピースが止めようとしてもパワーで吹き飛ばされ、私なんて何もできなかった。
だけど━━彼女ならば。
マーチは走りだす。
初速で分かった。一陣の風のように視界から消えた。私たちが絶対に到達できない速度で走り始めたのだ。
コアソウルは闇に包まれた七色ヶ丘の住宅街を駆け抜けていた。その動きはまるで闇のように静かで、目にも止まらぬ速さで地面を蹴り上げていく。彼が目の前に見える塀や一軒家を華麗に飛び越えるたび、その姿はまるで夜の闇に溶け込む影のようだった。家の屋根に着地し、次々と進んでいくその動きには、一切の迷いがなかった。
しかし、その後ろには一人のプリキュア、キュアマーチがしっかりと食らいついていた。彼女の瞳は鋭く、コアソウルを見逃すことは一切なかった。マーチもまた、塀を飛び越え、屋根を駆け抜けながら、その存在を追いかけ続けた。闇の中で彼女の決意はますます固くなっていく。
七色ヶ丘町は比較的田舎といえるかもしれないが、その近くには大きなビルが立ち並ぶ地区が存在している。コアソウルは、自分を追いかけてくる新しいプリキュアの速度を見て、逃げる場所を変えた。これまでは同じコースを周回して他の三人のプリキュアの追跡をかわしていたが、今回は違った。ビル街へと逃げ込むことで、さらなる混乱を引き起こすつもりだったのだ。
ビル街は大混乱に陥っていた。人々が多く、バイト帰りの学生、退勤の社会人、外食に出かけていた家族などが入り混じっている。七色ヶ丘で怪物が出たという噂は、まるで都市伝説のように広がっていたが、今やその噂が現実であることを知らしめるに十分な光景が広がっていた。
コアソウルは片側三車線の大通りの中央線を駆け抜ける。車が次々と避ける様子がまるで波のようだった。マーチもその後を同じように追いかける。街行く人たちが携帯で写真や動画を撮ろうとするも、その速さについていけない。コアソウルの速度は常人の理解を超えており、その姿を捉えることはできなかった。
前方に分かれ道が現れた。コアソウルはステップを踏んで一瞬止まり、左側へターンを決める。その動きは洗練され、計算されたものであった。一方、マーチはその動きを見て驚いた。
「え、曲がり角……ちょっと、前、ビル……、うわああああああああ!?」
彼女は足を踏ん張ってブレーキをかけようとするが、勢い余ってビルにぶつかってしまった。建物にも彼女にも大きなダメージはなかったが、彼女にとって大きな時間ロスだった。
「いたたたた。このおおおお!」
コアソウルの知恵は召喚者によるものか、それとも独自のものか、それはわからない。だが、今やコアソウルは命令を忠実に聞くだけでなく、自らの意思で作戦を変更し、プリキュアを巻き上げていった。その追いかけっこは数十キロに及び、街の風景が次々と変わっていった。
キュアマーチは幾度となくビルにぶつかりながらも、必死に食らいつき、徐々に距離を詰めていった。彼女の体は痛みと疲れに覆われていたが、心には家族への思いが強く根付いていた。残り数分で、弟たちの、家族の魂がこの世界から消えてしまう。その恐怖を押し殺しながら、彼女は前へ進んだ。
その途端、マーチは進んでいる方向が七色ヶ丘であることに気づいた。コアソウルが遥か彼方へ逃げればいいものを、再び同じ場所へ戻ろうとしていることに驚いた。しかし、彼女の頭にはただひたすらに追いかけることに集中した。前方に見えるコアソウルの影を追いかけることで、彼女は自分の使命を果たすことができると思っていた。
ビル街を抜けると、再び住宅街の風景が広がり始めた。コアソウルの動きは一貫して素早く、まるで風のように駆け抜けていく。マーチの体は限界に近づいていたが、彼女の心は折れなかった。どんなに遠くへ逃げようとも、どんなに速く走ろうとも、彼女は決して諦めることはなかった。
マーチは心の中で自分に言い聞かせた。「絶対に逃がさない。家族を守るために、私はここにいるんだ」と。コアソウルの影が再び近づいてきた時、彼女の瞳には強い決意が宿っていた。どんなに困難な状況でも、彼女は必ず乗り越えると誓っていた。
マーチとコアソウルが何処かに行ってしまった。私たちは何も出来ないので、ただマーチを信じるしかない。
とりあえず再びここに戻ってきたときのためにどうするかを考えていた。少しばかり時間もあるので、多分いい知恵が……思いつかなかった。
すると。
「そろそろ撤退しますかね」
ジラの声が聞こえた。
その途端に声が聞こえる。
「あれは! コアソウルや!」
サニーの声が聞こえる。しかし、3人では止めるすべはない。力で止めようにもサニーしかいない。その上に、道をふさぐサニーを避けることもできる。さらに、私とピースでは止められない。
でも、マーチならなんとかできるかも…………!
少しでも、コアソウルの走る速度を止める事ができたら……!
「こうなったらやるしかないで!」
サニーはコアソウルに向かう合うように立つ。ピースも待っている。二人とも形振り構わずするつもりだ。
時間が無い。考えることなんて、私には、私たち四人にはできない。だったら根性頼りに食らいつくだけ。
コアソウルとサニーとの距離が近づく。マーチもすぐ後ろにいる。少しでも、スピードを落とせばマーチが追いついてくれる。
そしていつものようにサニーの上を飛ぶ。そして私とピースが飛びつく。だけど、ピースは吹き飛ばされる。あの速度で突っ込んでくるものに対抗する馬力なんて私だって無い。
だったら。
ガシリ、と私はコアソウルの足にしがみついた。
その途端私は地面とぶつかった。痛い。
「ハッピー!」
サニーとピースがびっくりする声が聞こえる。
「気合だ────!!!」
私は力の限り叫んだ。体が引っ張られる。そのたびに地面と擦れる。だけど、突然引っ張られる方向が変わった瞬間があったのだ。
突然、左側にコアソウルが動いた。コアソウルはうめき声を上げて、近くの塀にぶつかる。私は確信した。今のはマーチのおかげだ。ついに、このコアソウルを走りを妨害できたのだ。
私が引きずられてきた方向を見ると、確かにマーチ、そしてさらに後ろから走ってくるサニーの姿が。
「絶対逃がすな! もう時間あらへんで!」
サニーは叫び、技を出した。
《プリキュア・エレクトリュオネ・ノヴァ》!
炎が球体となって、私とコアソウルを包んだ。
「すまん! ハッピーおるからこれ以上できん!」
確かにもっと縮んだら私も燃えちゃう。
「任せて!」
今のはピースの声━━━━。
そう考えた途端、電流が流れた音とともに、私は火球から脱出していた。ピースに出してもらえたのだ。ピースは私を抱えながら「大丈夫?」と声をかけてくれた。
だけど今は!
「マーチ! ソウルフルパクトに気合い…うぉーーー!」
壁にぶつかった。
「ハッピーーーーーー!!!」
ピースが泣きじゃくる声とともに、確かに見え、聞こえる彼女の声。
「コレでいいのかな? よ、よーーーし!」
マーチは空に飛び、自分を回転させた。そして生まれる渦巻く風。それは竜巻のように見えるし、もしかすると、銀河のように見えているのかもしれなかった。風のプリキュアは、右足を伸ばし、直線的にコアソウルへ蹴りを入れた。
《プリキュア・ガラクシア・トルナード》!
彼女の蹴りは炎の盾を突破し、コアソウルにぶつかる。その途端、コアソウルの体は弾けた。黒い絵の具のようなものが飛び出て、中からは青紫色の霊魂のようなものが現れて、消えていった。
「まさか。想定外でしたね」
マーチを見つめるジラ。その目からは本当に驚きがあったのかは分からない。無表情のまま空間にトンネルを開けて消えていった。
途端にマーチは緑川家の敷地に走る。私も追いかける。当然自分の家族のもとへ駆け込んでいた。けいた君を抱きかかえ、止まっていた。
「良かった……」
その一言とともに変身を解いた。
私も変身を解き、なおちゃんのもとへ近づく。
するとすすり声が聞こえた。けいた君の頬に涙が落ちていた。
翌日の昼、太陽が高く昇る中、なおちゃんと私は校庭のベンチに並んで座っていた。昨日の緊張が嘘のように感じられる静かな時間。私たちは持ってきた弁当を広げ、一口一口ゆっくりと味わいながら、昨日の出来事を思い返していた。
「うちの家族みんな、今日の朝も元気にしてたよ」
するとなおちゃんが微笑みながら言った。
「ひとまず安心だね……」と私はほっと胸を撫で下ろし、笑顔で応じる。
私は後遺症のことがずっと頭から離れなかった。コアソウルに吸わされた毒の影響が家族に残っていないか、不安でたまらなかった。毒の影響がどれほど持続するのか、具体的にはわからないが、今朝の様子を聞いて少しだけ心が軽くなった。これでひとまず一件落着と考えてもいいかもしれない。
「それと……」なおちゃんが言葉を続ける。彼女の表情は真剣で、その視線はまっすぐに私を見ていた。
「プリキュア……やってくれるんだよね」
私は心の中で何度もシミュレーションしてきたこの質問を、やっとの思いで口にした。声は震えていた。心の中では、なおちゃんの返事がどうなるか、予想もつかない不安が渦巻いていた。なおちゃんの顔を恐る恐る見つめ、返答を待った。
「うん」
その返事は予想外に早かった。迷いのないその言葉に、私は驚きと同時に喜びがこみ上げてきた。彼女の表情には強い決意が見て取れた。その瞬間、私の胸の中で何かが弾け、涙が溢れそうになった。
「本当に……ありがとう」
私は彼女の手を取り、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。その手は温かく、力強かった。なおちゃんがプリキュアをやってくれる理由の大半は、コアソウルとそれを操る人たちへの怒りに違いない。彼女の瞳には決意と怒りの光が宿っていた。もちろん、あんな行いは決して許されるものではないし、彼らには何らかの形で罪を贖ってもらいたいと私も思っていた。
“前の世界”でのなおちゃんとのプリキュアになる決意とはまるで違った。あの時の彼女は「面白そうだった」と言って、意外と軽い気持ちでプリキュアになったのをよく覚えている。しかし、今回は違う。彼女の決意は深く、重いものだった。彼女の中には家族を守るための強い意志があり、その意志が彼女を強くしていた。
弁当を食べ終えた後、私たちは少しの間、無言で座っていた。風が木々の葉を揺らし、心地よい音を奏でていた。学校の風景は平和そのもので、その中にいると昨日の出来事が遠い昔のことのように感じられた。
「なおちゃん、本当にありがとう」私は改めて彼女に感謝の気持ちを伝えた。なおちゃんは微笑み、私の手をぎゅっと握り返してくれた。その温もりが、私に安心感を与えてくれた。
「私たちは一緒に戦うんだよね」
なおちゃんの声には揺るぎない決意が込められていた。
「うん、一緒に戦う」
私は強く頷いた。みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられると信じていた。
なおちゃんと私の間には、言葉にならない絆が生まれていた。私たちが向かう道は険しいかもしれないが、一緒ならどんな困難も乗り越えられると信じていた。
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