病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら   作:相竹空区

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2-5 ショッピング

 

 朝稽古の時間も終わりを迎え、張り詰めた空気も和らいでゆく訓練場の片隅で、リットとミライは腰を下ろしていた。

 ミライの特訓、そしてリットの検証。

 転移後に変化したスキルの使い方や動作などを調べてミライへ教える事が出来るように、と考えていたのだが結果は芳しくなく、リットは釈然としないまま気持ちを抱えて顎に手を当て唸っている。

 対してミライは考える事も出来ないといった疲労困憊の様子でうずくまり、火照った体を地面で冷ましていた。

 

「ひんやりしてる……」

「飲み込みは早いんだけどな……田舎暮らしで体力ありそうだし緊張で余計に疲れてるんじゃない?」

「今日はもうここに居るぅ……」

「服が汚れるよ」

 

 それも構わないと脱力しきって地面に根を張るように手足を伸ばす。

 体の芯は温かく、体表面が冷たさに馴染むのは心地よく、ミライは目を閉じ恍惚の表情を浮かべる。

 

「ほら立って。お父さんの友達を探すんだろ?」

「もう少し、あとちょっとだけ……丁度地面が人肌に馴染み始めた頃なんだよ」

 

 とっくに立ち上がりミライを見下ろすリットは呆れを顔に浮かべて、多少は小突いても良いものかと考え始めた頃、遠くからから掛かる声に振り返る。

 

「リット様!ミライ様!」

 

 2人の名を呼ぶのは若い男。

 戦士団の一員であるようで、革鎧身に付けて腰には2本のショートソードを下げている。

 人好きのする笑顔で手を振り駆け寄る様は尻尾を振る犬のよう。

 

「はじめまして!自分はダスティンといいます!シグルド殿下よりお2人を手伝うよう言付かっております!」

「あぁ、よろしく……手伝うって鍛冶屋探しの事?ありがたいけど良いのかい?」

「はい!殿下より優れた戦士の側で沢山学んでこいと送り出されましたので!」

 

 快活に笑い、話すダスティンは2人と行動を共にする事が心より楽しみだと思って目を輝かせる。

 彼の元気の良さに触発されたのか、ミライはようやくのそのそと起き出して土を払う。

 緩慢に身を整えて、手を払えば準備は完了。

 ダスティンへ手を差し出して笑いかける。

 

「手伝ってくれてありがとう、よろしくね!」

「はい!よろしくお願いします!必ずやおふたりを目的の鍛冶屋へとお連れします!」

「あっ、でもその前にこの街の事が知りたいかも!リットも観光したいって言ってたもんね?」

「なんと!それは素晴らしい事です!リット様!ここはじぶんの故郷ですから案内はお任せください!」

 

 一層強くなるダスティンの圧に押されて、リットは少し不安を覚える。

 

(戦士団は全員こんな感じなのか……?)

 

 リットの耳は既に痛くなり始めていた。

 

◆◆◆

 

 城から坂を下ってダスティンが最初に案内したのは目抜き通り。

 人が行き交う活気ある通りには威勢の良い声や、人に馬に車輪が地を踏む音にと、常に何かしらの音が通りを響く。

 リット達が立つのは十字路の端。

 ここからは各通りがよく見える。

 

「城を中心とした同心円状に通りが伸びているのか」

「はい、そしてその円を横切るように放射状の通りも。ここはその合流地点ですね」

「賑やかで綺麗で凄いねぇ!」

 

 田舎育ちのミライには全てが新鮮。

 建物のひとつひとつがミライにとっては観光名所だ。

 なにせ石造り、さらに3階建などセビアの村では見る事がないうえ装飾まで施されてるとなればもはや異世界。

 城はあまりにもミライの常識からかけ離れていた為に凄いと思う一方で夢見心地で現実感が無かったのだが、ありふれた街並みとして目の前に広がる景色を見せられれば舞い上がりもする。

 

「じゃあどこ行く!?」

「はしゃぎすぎだろ……」

「案内する身としては嬉しい事この上ないですがね!」

「おすすめは!?おすすめはどこなの!?」

 

 完全に舞い上がったミライは年相応の、旅行を楽しむ少女として昂る気持ちに身を揺らす。

 それを我が事のように嬉しく思うダスティンは通りの一方へと手を伸ばす。

 

「こちらには市場がありますよ!鍛冶屋はありませんが観光ならばここでしょう!」

「いいじゃん!さぁ行こう!」

「君、僕をダシにして観光したかっただけじゃないか?」

「メリハリが大事だからね。旅に目的があるからってそれしか見ちゃいけないって事はないでしょ?」

 

 ミライはそう言ってリットの手を掴んで市場へ駆け出す。

 引かれる力に身を任せ、リットは前のめりになりながら笑うミライの横顔を見る。

 

(ミライは生まれてからずっとあの村で育った訳だし……まぁ、愉快に旅が出来るくらいが丁度いいかな)

 

 それにミライと共に駆け抜けるこの街の景色に懐かしさを感じていた。

 終わってほしくないと思っていた【WoS】のようなファンタジーの世界。

 その続きと考えれば異邦の街もただリットを追い詰めるものではなく、愛する事が出来る場所になるかもしれないと思えたのだ。

 

「見て!お店がいっぱいあるよ!?」

「露店か……見て回るのが楽しいんだよな」

「おっ。経験者だね?ここは露店の先輩に楽しみ方を教えて貰おうかなぁ」

「楽しみ方って言ってもな、ほらアクセサリーあるよ」

 

 リットが指差した露店では色とりどりのアクセサリーが並べられている。

 金属から木、動物の角など素材は様々。

 

「お前みたいな田舎娘はアクセサリーで喜ぶんだろってー?」

「僕は見るの好きだけどな……付加効果が目当てだけど」

「流石に露店で魔法の道具は売ってないかな……」

 

 露店を巡り珍しいアイテムを見つけるのもゲームの楽しみのひとつだろうとリットは考えているのだが、それはミライの楽しみとは方向性が少し異なる。

 だがそれでも共に楽しむ事は出来る。

 ウインドウショッピングと行こうかと思ったその時、リットの背後から不意に声が聞こえた。

 

「ふふふ……自分はこの通りの終わりで待っていますから、存分にお楽しみください!!」

「うおっ!?ダスティンか……」

 

 背後からぬるりと現れたダスティンはそれだけ言い残して人混みへと消える。

 さながら暗殺者と言った芸当だが、それは彼が戦士団にて斥候を務める故。

 気配をまるで感じさせずに近寄られた為にリットは心臓を掴まれたような心地だ。

 

「……取り敢えず露店眺める?」

「そうだね、ご厚意に甘えてみようか。他にも色々あるからね」

 

 露店で扱う品はアクセサリーに置物に織物にと様々。

 ここは工芸品が主なエリアで、旅をする事を考えれば2人が見るのはその中でも小さな物、装身具を並べる露店になる。

 

「気になる物は見つかったかい?」

「おっ?なに〜?買ってくれるの?」

「財布はほとんど共有だろ?シグルドから貰った報奨金から出す事になるよ」

「それでもプレゼントって体裁が嬉しいワケよ」

「それじゃあ何か探して見るかな……」

 

 並べられた色とりどりの装身具。

 腕を飾る物に首を飾る物、材料も木から革から石に金属までよりどりみどり。

 その中でも特に光を放つ物、それを見つけてミライが声を上げる。

 

「うわぁ!リットこれ凄い!カッコいいよコレ!!」

「んー?どんなのを見つ──」

 

 はしゃぐミライの手にある物を見つけてリットは一瞬の思考停止に陥る。

 それはまず派手であると強く印象付ける。

 メッキであろうが黄金に輝くそれは、ミライの手のひらに収まるサイズの剣だ。

 しかも竜が絡みついている。

 さらに青い宝玉まで付いている。

 

「──ダッッ……サ」

「なんで!?カッコよくない!?」

「なんだこれ……なんでこんなもんがあるんだ……」

「お嬢ちゃんお目が高いね。それはこの街の名物だよ!なんとこの街を築き上げた偉大なるプロロ王が考案したアクセサリーだ!その点兄ちゃんはセンスが無いねぇ」

「嘘だろ……!?」

 

 修学旅行のお土産の定番を持って満面の笑みを浮かべるミライと、自分のセンスを否定してくる露店商を前にリットはこの世界に来て1番大きなカルチャーショックを受けていた。

 

「これにしようよ。目立つとこに付けちゃおっかなー」

(こんなのを付けてる奴の隣を歩きたくない……!別の無難な物を勧めないと……!)

 

 このままでは美的感覚の違いで旅が辛いものになってしまうと慌てて折衷案を探すリットの焦りは相当なものだ。

 ゲームにおいて装備の見た目問題は定番で、性能を重視した結果とんでもない事になる、というのはあるあるだ。

 【WoS】でも同じ問題はやはり存在したのだが、VRという自分が身に纏う前提の違いによってファッション性を重視するプレイヤーは明らかに多かった。

 リットはそこまでファッションを気にする質ではなかったのだが、それでも奇抜な格好は避けている。

 何故なら好奇の視線が気になるからだ。

 VR故の悩み、他者の興味関心が視線となってそのまま伝わる状況では同行者の格好にも気を配りたいところ。

 それはこの世界においても同様だった。

 

「これとかどうかな?」

「地味じゃない?」

「じゃあこっちは!?」

「悪目立ちしない?」

「そのドラゴンの方が目立つだろ!?」

「これはカッコいいし!」

 

 胸を張り、自身のセンスを疑う事なく提案を却下するミライ。

 そんなやり取りを何度か繰り返してミライの好みを探るリットは視界の隅にキラリと輝く、しかし派手すぎない自然な光沢を見つける。

 

「これとかどうかな?」

 

 リットが手にしたのは深い青色の鱗を使った髪留め。

 しかしその1枚は地球の生物ではあり得ない大きさで、リットはこのような大きな鱗を持つ生物をひとつしか知らなかった。

 

「おぉ!兄さんお目が高いねぇ!そりゃ亜竜の鱗を使った飾りだよ。南部から流れてきた品だからここらじゃ見ない珍しい品さ」

「ほほーう。リット君はそれがあたしに似合うと!そう思う訳だね?」

「そうだね──ほら」

 

 手にした髪飾りをミライの頭へと重ねて、リットは頷く。

 髪飾りの行方を目で追って、揺れた銀の髪と青い鱗が光を受けて煌めいた。

 

「似合うよ、髪と合う良い色だ」

「そう?……なら、これにしよっかな」

 

 その言葉を聞いて微笑んだリットは露店商に値段を聞き……少し顔を引き攣らせながら硬貨を手渡した。

 その間ミライは上機嫌で口の端を緩めて落ち着きなく揺れている。

 

「はい。何かに包むべきだったね」

「すぐ着けるからいいよ。ありがとうリット」

「どういたしまして。喜んでもらえたならなにより」

「そりゃもう嬉しいよ、母さん譲りの髪なんだー。これに合うって言われたら選ばざるを得ませんよ」

 

 いそいそと髪飾りを着けてミライは笑う。

 自身の見立てが正しかった事に満足と……黄金のアレにならなかった事への安堵でリットも息を吐いて、軽く笑う。

 

「今度はあたしがリットに合う物をプレゼントするからね」

「楽しみにしてる」

 

 約束を果たす為、今度はリットに似合う物を探してミライが先導する。

 並ぶ品々を見て唸るミライの姿は輝いて、そして一層楽しげだった。

 




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