病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら   作:相竹空区

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2-19 本能

 

 ミライの側に浮かぶ蒼い火の矢を見て、リーヴが抱いたのはプレゼントの封を開ける様なワクワクする楽しい予感。

 

(色が違う……それだけか?2度撃った魔法とは何が違う?あぁ!どんな混ぜ物をしてくれたのか楽しみで仕方がない!)

 

 口元が緩み、目が爛々と輝く。

 命の奪い合いをしている事を除けば童心に帰っているような、そんな心の底からの感情が顔に表れたリーヴは腕を大きく広げた。

 全て受け止めてみようと、彼なりの楽しむ為の姿勢、あるいは格下相手の驕りでミライへ相対する。

 

「来いよッ!」

 

 蒼炎は急速に距離を縮めて、その内側に蓄えた致死の力を燃え上がらせて一条の流星の様に飛翔して──

 

 突如〈叫鳴剣〉がけたたましい音を、悲鳴とすら言える音と共に防御を行った。

 音は壁となってリーヴを守り、しかし当の本人は全く意図していないようで驚愕の表情を浮かべている。

 

「はぁ?なに勝手に──」

 

 武器が使い手を無視して勝手に行った防御に対して苦言を呈するリーヴはしかし、目の前で起きた事に思わず閉口して目を見開く。

 蒼炎は〈叫鳴剣〉の防御をものともせずに、音の防壁を突き抜けている。

 

〈竜髄〉とは基本的に死に瀕した竜が非常手段として器物へとその身を変えたモノ。

 一度は死をほど近くした身ゆえに、存在を脅かすものに対してはとても敏感だ。

 〈叫鳴剣〉はリーヴという強者と共生し、数多の命を貪る第二の生を得ていた。

 だからこそコレを失いたくないと、全力の防御を放ったのだが。

 

 ここにきてリーヴは全身に走る怖気によって眼前に迫る脅威の大きさに気がつく。

 

「──ッッッ!」

 

 リーヴは咄嗟に……無意識に、本能的に体を逸らす。

 受け止めてやろうという余裕の思考を凌駕する根源的な恐怖に支配されてやった事。

 

「な……?」

 

 自らの意思を離れた回避に驚き……そして避け損ねて蒼炎が掠った頬に残る火傷へも驚く。

 斬撃を真正面から受け止めても傷ひとつ付かない超常の防御を誇るその体が、掠っただけの魔法で火傷を負った。

 

「……?……ハ、ハハ、クハハハハハハ!!!そうか!つまりクルージはしくじったのか!あの坊ちゃんは()()と思ってたぜ!」

 

 クルージはミライを、竜殺しの力を持つものを抹殺するべくセビアの村までやって来た聖騎士。

 途中まではリーヴとも同道しており、その役目を知っていたからこそ、自分の防御を超える事が可能な力の正体に気が付けた。

 

「屠竜の魔女か!とんでもない掘り出し物だ!まさか出会えるとは思ってなかったなぁ!」

 

 この一撃でミライに対するリーヴの評価は大きく上がった。

 それが彼女にとって良い事かは置いておくとして、リーヴは間違いなくミライを認めたのだ。

 片手間で薙ぎ払う有象無象ではなく、自らを殺しうる存在としての敬意を払って一歩踏み出す。

 

「全力の抵抗を見せてくれ!殺し合いの中!死が迫る極限の中でしか辿り着けない境地までどうか至って欲しい!そして全力で殺し合おうッ!!」

「急に何!?頭がおかしいって言われた事ない!?」

 

 この戦いの中で初めて行う自発的な移動、攻める為の前進をリーヴは行う。

 遠距離から攻撃するだけでもミライ程度ならば簡単に殺せるだろうが、それではつまらないとリーヴは考える。

 

(近づけば近づく程〈叫鳴剣〉が震えている……!やはりあれは本物の力だ!怖いんだろう、泣き叫びたいんだろう。ならアレは純粋な殺す為の力!大義や美学なんて不純物が介在しない生まれ持っての純粋な殺意!)

 

 リーヴは歓喜した。

 だがプレゼントの封を滅茶苦茶に破く様な真似はせず、丁寧に、ひとつずつ折り目を確かめながら開ける様な丁寧さでミライへ迫る。

 

「こんの……!"ファイアボルト"!」

「来た──!」

 

 少年の純朴さで喜んだリーヴは再び〈叫鳴剣〉にて壁を作る。

 蒼炎を迎え撃つ為に作り出した壁は先程より小さく、しかしその厚みと密度が桁違い。

 固い防御は〈叫鳴剣〉の発する悲鳴に似た音によって維持されて、それはまさしく竜殺しを恐れる竜の悲鳴そのもの。

 

(来いよ竜殺し!どの程度の防御まで貫けんだよ!?)

 

 〈叫鳴剣〉が命を守る為に二又の刃を必死に震わせて作り出した壁はリーヴにとっては試金石。

 念の為に軌道上から退避しつつ竜殺しの蒼炎と竜の悲鳴の衝突を見届けようとして……その安全策は機能する。

 蒼炎は壁を僅かな抵抗を受けたものの突き抜けて、避けていなければリーヴへ直撃するルートを辿った。

 

「竜に由来する力へ対する絶対的な有利!」

「無駄だって分かったならそのキンキン煩い剣仕舞ってくんない!?」

「賑やかで良いだろ!なぁ!?……パーティは嫌いかよ?」

「アンタの痛がる声が聞こえなくなるから黙らせとけって言ってんの!」

「だったら聞こえやすいように近くに居てやらないとなぁ!」

 

 リーヴが一歩進む。

 近づかれるたびにミライは心臓が張り裂けそうな程に鼓動が早くなるのを感じていた。

 汗はとめどなく流れ、絶え間ない思考の回転が脳が茹る熱さを生み出している。

 

(剣じゃ有効打は狙えない……でも魔法なら!)

 

 希望は人を動かす最も強い力。

 今、格上と戦うミライを恐れに抗わせるのはリットが来てくれるという希望、そして竜殺しの力が勝機に繋がるかもしれないという希望。

 だからこそ、リーヴはそれを粉々にへし折りたいのだ。

 

「"連なれ"、"ファイアボルト"!」

「3本!数を増やせるのか!正直物足りないが、まあ良い!」

 

 自らの速度に揺らめく蒼炎が3条、リーヴを襲う。

 〈叫鳴剣〉がキリキリと音を鳴らして警告するが、リーヴはそれを抑え込み獰猛に笑って一歩踏み出す。

 

「"ウインドベール"ッ!」

 

 それは風を使って防御を行うシンプルな魔法。

 防御性能において〈叫鳴剣〉の力には到底敵わない魔法なのだが。

 

「防いだ……!?」

「竜に由来する力とぶつからなければ、ただ色が違うだけの魔法だな」

 

 純粋な力量の差、それが今起きた事へのシンプルな解答。

 

 リーヴが一歩進む。

 

「屋内だしなぁ、味方の巻き添えを気にしているのか知らないが使う魔法はひとつだけ」

 

 ミライが持つのは竜を殺す力。

 竜へのメタは竜を相手しなければ機能しない。

 

 リーヴが一歩進む。

 

「剣は明らかに付け焼き刃。発想なんかは良い線いってるが単純に弱え」

 

 迫るリーヴ()の足音に、ミライは言葉を失い立ちすくんでいた。

 持てる全てはこれで終わり。

 あと何が出来るのか、必死に頭を動かしても本能がそれらを滅茶苦茶に掻き消してしまう。

 

 リーヴが一歩進む。

 ミライの双刃剣が、届く距離。

 

「惜しい、惜しいなぁ……もっと力があって、そんで相手を殺してやろうって衝動が強ければなぁ……」

 

 リーヴは腕を組んで唸る。

 本当に惜しいと、心からそう思って表情にも表れている。

 眉間に皺を寄せ、思い悩むのはミライがもっと強かったならというIFの事。

 こんな楽しむ為の工夫をせずに、お互いに死のリスクを等しく抱えた殺し合いが出来たのならと、リーヴは願っていたのだが。

 

「流石に見逃したらマズイよなぁ……殺すしかねぇかぁ?ホント、もっと強けりゃ逃げられたって言い訳も出来たのにさぁ」

「う、うああぁぁっ!!」

 

 ミライは自分を鼓舞する叫び声と共に切り掛かる。

 乱雑な、恐怖の裏返しとして行動に移した剣に技巧はない。

 単調で、力ばかりが入った虚仮威し。

 リーヴは期待していたのだ。

 ミライの間合いに入った上で、自らを殺す意志の元に剣が振るわれるかどうかを。

 

「残念だよ。君がそんなに弱くなければ最後まで本能的な恐怖を殺意で塗り潰せただろうに……」

 

 悲しみ、憐憫を湛えた表情のまま、リーヴはミライの攻撃を軽く避けて足払いを放つ。

 実にあっさりとミライは転んで床に膝をつき、取り落とした双刃剣が硬質な音を立てる。

 

「うぁ……」

「悲しい事はサッサと終わらせよう。明日には忘れていたいんだ──」

 

 後ずさるように床を這うミライへと手を掛けようと、一歩踏み出しリーヴは〈叫鳴剣〉を構える。

 無駄な抵抗を見るのは忍びないと、せめて直接喉笛を掻き切ろうと手を伸ばし──

 

「──ミライ!」

 

 戦闘音に炎の燃え盛る音、それらの中で掻き消えるようなただの呼び声。

 しかしリーヴは不意に聞こえたそれへと爬虫類めいて左目だけで視線を向ける。

 結果的にそれは彼の生死を分つ判断だった。

 

「──ッッ!!」

 

 遠くに見える茶髪の男……次の瞬間にはその険しい表情が、明確な敵意を宿す瞳が見えるほど近づいて切先をリーヴへと向けている。

 思考は必要無かった。

 ただリーヴは反射的に叫び、己の持つ最も強い防御を起動していた。

 

「"テンペスト"ォォォッ!!」

 

 吹き荒れる暴風が収束したドーム状の嵐と、軋むほどに握りしめた〈叫鳴剣〉による二又の刃の像が歪む程にその身を震わせて轟かせる全力防御。

 リーヴは本能により防御を選択した。

 既に温まっていたというのもあるが、竜殺しを前にした時よりも数段強い警戒、根源的な命を脅かされる恐怖がそれを選ばせた。

 

 リットが現れた次の瞬間には両者は衝突、剣と嵐が鎬を削る。

 何者をも通さない嵐は全てを拒絶し、触れたものは全てが捩じ切られ、削り取られて塵と化す。

 リーヴの必殺と言うべきこの技は、人が触れれば容易く赤い霧状に分解する事が可能な程の威力。

 しかしそれが相手にするのはリットの必殺、秘技"羅星貫芒"。

 荒れ狂う嵐の間隙を突く様に、むしろ間隙となるようこじ開ける様に突き立てられた剣はジワジワと破壊の渦へと剣身を沈めてゆく。

 

「オ、オオオオォォッ!」

 

 全身を駆動させ、全力で手にした刃のおよそ半分を差し込んだところで第二の防壁が切先に抵抗を与える。

 〈叫鳴剣〉の防壁は攻撃を弾くもの。

 より長く敵を暴嵐("テンペスト")の裂断圏に留める為の悪辣な二段構え。

 しかしリットが放つのはスキルを三重発動した秘技、それに加えてバフの"ファストスラッシュ"を加えた四重高速剣。

 

「──ハアァァッ!」

 

 裂帛の気合いと共にリットの攻撃が徹る。

 嵐も絶叫もかき消えて、突き抜けた剣はリーヴの胸へ向けて進み──

 

 コンマに満たない決断がリーヴにスキルを使用させた。

 

「"アポート"ォォ!」

 

 そのスキルによってリーヴの右手は空になり、代わりに左手に〈叫鳴剣〉が握られる。

 最短距離で防御へと差し込まれた剣がキリキリと金属の擦れる音と火花を散らしてリットの剣をギリギリで逸らす。

 

「ハッ……ハァ……ハァ……」

 

 リーヴは今までに感じた事がない程に強く心臓の鼓動を感じていた。

 迫る刃をギリギリで押し退けて、それでも首を掠めて鋭い痛みと共に血が流れている。

 まともに当たれば確実に殺せる攻撃だったのだと、首筋を流れる赤いものが証明していた。

 

(──格上か!)

 

 それはリットとリーヴ、どちらもが思考した事。

 たった一合交えただけで互いの力量が、その脅威が理解出来た。

 

(オイオイ……二重の防壁で勢い殺してもこの重さかよ……!)

(スキルの三重発動秘技に"ファストスラッシュ"を合わせたものを短剣で逸らすのか!?)

 

 相手の力量に瞠目し……リットは歯噛みする。

 状況が良くないと。

 

 リーヴは歓喜した。

 これこそ待ち望んでいた最高の状況だと。

 

 顔の横に剣がある状況は落ち着かないと、飛び退いたリーヴは距離を取りリットはミライを庇うように前に出る。

 数の上ではリーヴの不利。

 自らを追い詰める事が出来る強者の出現という窮地にあって、リーヴは腹の底から湧き上がるものに耐えかねて口を大きく開く。

 

「ククッ……クハハハ!」

「なんだ?イカれてるのか?」

「違う、違うさ……本能と、反射。これだよ、これがやりたかったんだ!」

 

 ギョロギョロと目を見開き、狂気を宿した瞳がリットの姿を映して爛々と輝く。

 頬まで裂けるのではないかという程に笑みを大きく広げてリーヴは歓喜を示す。

 対するリットは冷静、あるいは謎の狂人を前に引いている。

 

「瞬間的な反射と弾けた思考を重ね合って命を削り合う!」

「悪いけど君の得体の知れない遊びに付き合うつもりはないよ」

「あぁ、構わないさぁ……ハァ、最ッ高だ!」

 

 激情を噴出させたかと思えば急に陶酔に浸る。

 相対する敵の奇妙な、嫌悪感が背筋を這う様な言動にはリットも不快さを隠さずに表情へ出していた。

 油断なく剣を構えてはいるが、それを通り抜けて精神を攻撃される気分になり、深く唸るように息を吐く。

 

「リット……」

「この手合いには何言っても無駄だ。好きに話させておけばいい」

「うん。これは、言い訳が出来るなぁ。君もどうやら手負い……ユイツーを殺したのか?凄いじゃないか、これはもっと万全の状態で殺し合わなきゃ勿体無いなぁ……」

 

 リットとミライの小声の会話は聞こえていない……あるいは無視してリーヴはとめどなく話し続けて、目まぐるしく変わっていた表情が不意に全ての色が落ちたように冷徹なものへと変化する。

 

「だからサヨナラだ。刃を重ねた我々はもう友達。俺の名はリーヴ……また会おう、友よ」

 

 そう言ってリーヴは口笛を吹く。

 豊かな肺活量から放たれる口笛はよく響き、それは城の周りを飛び回るリーヴの騎竜にも届き……窓を突き破り主人の元へと馳せ参じる。

 しかしリーヴはそんな忠臣に報いるような存在ではなく、〈叫鳴剣〉を腕ごとその腹へと捩じ込む事で忠義に応えた。

 

「なにを……!?」

「花火さ」

 

 とめどなく溢れる竜血は黄金色の光へと変わり……飛竜の体が弾け飛ぶ。

 〈叫鳴剣〉によって巻き散らかされた竜の血肉は残らず"竜血魔法"の黄金の光に変わり、天へと伸びる光の奔流となる。

 当然屋内であるから向かうその先は天井であり……衝突すれば内包する破壊力を構造の破壊という形で活かす事となった。

 

「クソッ!やっぱりイカれてた!」

「リット!?」

「走るんだ!天井も壁も不味いぞ!」

 

 ミライの手を引き、リットは駆け出す。

 室内で吹かれた亜竜のブレス、それに加えてリーヴの風の魔法。

 それらが火を大きくしていたのだ。

 更にリーヴが滅茶苦茶にばら撒いた竜血魔法が構造を破壊して、燃える建材が降り注ぐ混沌とした状況。

 竜騎士すら混乱する破茶滅茶な状況で、リットはミライの手を離さないようにして安全な場所を目指す事で精一杯だった。

 




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