病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら   作:相竹空区

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1-3 ガイドを辿って

 

 ミライを襲う騎士達を追い払ったあと、リットはしばしの間呆然としていた。

 自分を取り巻く状況、自分が行った事について考えながら川の流れを眺めて過ごしていたのだ。

 

「転がった手の()()は終わったよ。流石に放置する訳にもいかないしね」

「あぁ、ありがとう。僕が、その……散らかしたのに」

 

 迂遠な、穏当な表現を探して発した言葉がかえってグロテスクになってしまっている事にリットは意気消沈する。

 

「あー……うん、そのリットが助けてくれなかったら散らかされてたのはあたしだったし、こちらこそありがとうだよ!」

「礼が出来たなら良かったけどね」

 

 ミライは励まそうとしているのだと、苦笑するリットは少しばかり心が軽くなった気がして立ち上がる。

 

「よし!いつまでも川を眺めてはいられないさ、森を出よう」

「そうだね!あたしも早く帰りたい……ところでさ、気になってたんだけど聞いていい?」

「僕に答えられる事なら」

 

 好奇心に目が輝き、早く答えを確かめたいとウズウズする体は力が有り余って飛び跳ねる程。

 

「リットは〈鋼の民〉だよね!」

「ん?あぁ、そうだね」

「わぁー!やっぱり!?やっぱりそうだよね!」

 

 プレゼントを貰った子供のようにはしゃぐミライを見てリットは先程もその呼ばれ方をした事を思い出す。

 

(鋼の民──【WoS】においてプレイヤーは鋼の心臓を持つ産まれながらの戦士という扱いだ。スキルも鋼の民の内を流れる力を武器へと届けて発動する、という設定だった。ここがどんな場所かは知らないけど【WoS】の世界と似通ったところのあるゲームの世界みたいな──)

 

「なら──リットは〈()()()()()()〉」

「はあ!?」

 

 思考は強制的に現実に引き戻され内心は驚愕に満たされる。

 

「〈プレイヤー〉!?って事はここはゲームの中だったりする!?【WoS】では〈プレイヤー〉って言い方しなかったし……て事は君も!?ログアウトの方法分かる!?!?」

「ちょちょちょ近い!近いって!?」

 

 今度は逆にリットがミライへと答えを得たいと肩を掴んで揺さぶり迫る。

 鼻息を荒くしたリットは僅かな冷静さを取り戻しつつも取り逃がさない意思のもと掴んだ肩はそのままにミライを見つめる。

 

「あの……近いしさ……」

「君はこの状況について知っているのか?プレイヤーって言ったけどそんな呼び方するなら君も【WoS】をプレイして──」

「だから!近いし肩痛い!あとあたしは〈プレイヤー〉じゃない!話を聞いた事あるからそうなのかなって思ったの!」

 

 落胆と共に肩を掴んでいた手は力が抜けて、リットは肩を落とす。

 

「そうか……でも〈プレイヤー〉は他にも居るのか」

「リットはさ、他の〈プレイヤー〉に会いたいの?」

「まあね、他にやれる事もないしさ」

「それならさ、取り敢えずうちに来ない?」

「うち!?家!?君は、思ったより大胆だな!」

「意識し過ぎ。行くとこないんなら来なよ、屋根がある所で休みたいでしょ?」

「そりゃ有り難いけど僕みたいなの泊めて大丈夫なのかい?ご家族とかさ」

「あたし1人だから心配なし!ほら行くよ!あたしの軽食全部食べられちゃったからお腹空いた!」

 

 有無を言わさずミライはリットの手を引いて森を進む。楽しそうな、明るい彼女の背を追えばとても安心出来るような、そんな心地の良さをリットは感じていた。

 しかし同時に先の見通せない状況にある事も理解して思考は疑念や不安に苛まれている。

 

(何が何やらって感じだし誘いに乗るのは悪くない。今は彼女だけがこの状況(クエスト)を解決する為の手がかり(ガイド)だ。)

 

 思案に耽り、進行方向は手を引くミライに任せ足元に注意して歩いていたリットの視界に光が差す。

 木々の間から差し込む木漏れ日とは違いもっとまとまりのある、つまりは森の出口の光であった。

 

「ほら、森から出られるよ!遭難者さんはどれくらい迷子してたのかな?」

「さあ……5日くらいかな。心底森が嫌いになったよ」

 

 深く考え事をしていた為にどれほど歩いたのかリットには分からなかったが、彷徨い続けた森を抜けた事を思えば距離など些細な事で、安堵に胸がいっぱいになっていた。

 

「ちょっと泣いてない?」

「泣いてない」

「ほーら、安心できる寝床とご飯が待ってますよー」

「それはちょっと泣きそう……」

 

 なんて事はない、他愛のない会話をしながら森から離れて道を行く。ゲームであれば退屈なマップだと評価されそうな平坦な道をそこまで遠くもなく、近くもない距離を歩くと丸太の防壁が見えてくる。

 

「はい到着、ようこそ大陸の端っこらへんの田舎!セビアの村へ!」

「君の故郷かい?」

「ここで産まれてすくすく育ったミライちゃんをどうぞよろしく!」

「よそ者のリットくんは入って大丈夫?」

「あたしがついてるからね!あたしの家に案内するよ、クタクタでしょ?あたしはもう疲れたよぉ」

 

 言葉とは裏腹に楽しそうな笑顔で村の門を潜るミライとリット。

 しかし2人の前に門の内側から現れた男が立ち塞がった。

 

「止まれ」

「ロンおじさん?どうしたの?」

「ミライ、その男は誰だ」

「遭難者さん。薬草摘みに行った時に拾った」

 

 険悪な……というよりリットに対する強い警戒心だろうか。ロンおじさんと呼ばれたその男性は初老程度、警戒心は敵対心に片足を突っ込んでおり槍を掴む手に力が入っているのが見て取れる。

 

(この村の門番か何か警備を担当しているんだろう、装備は簡素な革鎧。槍もシンプルな造りで……【WoS】換算なら20レベル相当の装備か?使い手に関してはそこまでって感じだけど……見ると何故か理解出来てしまう)

 

 【WoS】のレベル上限は100。リットは当然100なのでそれに見合った装備を整えている。つまり彼我の実力差は雲泥の差だ。

 

「おい、お前何者だ。何の為に森に入った」

「何の為……?気が付いたら森の中だったので迷ってしまったというか……?」

 

 横目でチラリとミライを見るも、ロンが槍で地面を打ち鳴らすのでリットは慌てて姿勢を正す。

 

「名前は?誰か答えてないぞ」

「名前はリット。何者?あー、えーっと?」

 

 間延びした言葉で時間を稼ぎ、リットが助けを求めてミライを見るがささやかなジェスチャーと首振りで応援している。

 

(あぁそういえばあったじゃないか、自分が何者かを示す丁度良い言葉が)

 

 物腰柔らかに丁寧、しかしやましい事など無いと堂々と胸を張ってリットはこの状況で身分に相当するであろう言葉を自らに当てはめる。

 

「そう!僕は〈鋼の民〉です」

「なんだと?──ッ!!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間ロンの顔は怒気に満ちて険しくなり、あらん限りの罵る言葉がリットへ飛ぶ。

 途切れる事なく放たれる謂れのない中傷にリットとしては困る他ないのだが、その間に入り込んだミライによって勢いは僅かに衰える。

 

「やめておじさん!」

「どけミライ!〈鋼の民〉ってのはクズだ!少しばかり人殺しが上手いだけのな!お前も身にしみて分かっているだろう!」

「リットは関係ないでしょ!?」

「いや同じだ!あいつら驕り高ぶって人を騙して物みたいに簡単に捨てるんだよ!お前の父親だって──」

「おじさんは父さんの何を知ってるの!?」

 

 ヒートアップする口論は発端を置き去りにして白熱し、リットは居心地の悪さを感じて縮こまる他ない。

 とはいえ否応なしに聞こえてくる口論の内容はリットにとっては興味深く、求めているモノに近づく足掛かりとなるものだ。

 

(やっぱりミライは〈プレイヤー〉の縁者。その父親に会う事が出来れば、何か……)

 

「リット!行くよっ!」

「ミライ!まだ話は終わってないぞ!」

「あたしはもう話す事なんて無い!」

 

 怒りに任せた力強い足取りで村を先導するミライ。その表情には悔しさが混じり、唇を噛み締めて堪えるようにして言葉を発さない。

 

 大声の口論などこの長閑な村では目立つのだろう。村の入り口で起きたそれを遠巻きに見ていた村人が進む道にたむろしており、ミライが近づくとそれらは割れるようにして道を開ける。

 

 押し黙ってままズンズンと突き進んだ村の中でも奥、や外れと言うべき場所にミライの家はあった。

 他の家よりも新しく、綺麗な外見をした家。かつては手入れされていたのであろう庭には道具ばかりが転がって花壇には雑草が繁殖している。

 

「ここがあたしの家。住んでるのはあたしだけだから遠慮せずにくつろいで」

「助かるよ。木のうろで寝るのも悪くないけど足を伸ばして眠りたかったんだ」

 

 玄関を開けて最初に入ってくる情報は嗅覚。アロマのような、薬草の香り。

 視線を上に、部屋の隅を見てみれば紐で吊るして乾かしている様々な薬草がある他すり鉢や石臼などが……散らかっている。

 

「い、いやぁー人が来る事を想定してなかったからさ……」

「自然の中に戻った感じがするよ。うん」

 

◆◆◆

 

 リットはミライの家に着くなりソファーへ倒れ込みそのまま泥のように眠った。

 慣れない野外での睡眠、かつ気が休まらない環境に状況となれば疲労が蓄積するのは当たり前の事。ソファーも寝心地が良いとは言えないかもしれないが、リットにとってはキングサイズのベッドの如き頼もしさの寝床だった。

 

 そしてミライは森に入った本来の目的だった摘んできた薬草を処理した後、眠るリットが目覚めた時の為に食事を作った。

 食材を切る音、煮炊きで薪が弾ける音で目覚めたリットを待っていたのは鼻腔をくすぐる暖かな食事の香りだった。

 

「はい、おはよう。晩ご飯のミライちゃん特製スープだよ!」

「暖かい食事がこんなに嬉しいなんて思わなかったよ……」

「あたしも、人に食事作るの久しぶりだからこんなに楽しいって思わなかった」

「あー、それは──」

 

 踏み込んで良いものかと逡巡するリットにミライは笑って答える。

 

「大丈夫だよ!それにリットはあたしの父さんの事聞きたいでしょ?」

「いいのかい?何というかその、デリケだろ?」

「いいよ。それにほら、村の人達は父さんの事を悪い人って思ってるから。そんな人じゃないって、そういう事を知ってほしい」

「それなら単刀直入に……お父さんは〈鋼の民〉で、〈プレイヤー〉かい?」

「うん、そう。父さんは自分の事を〈プレイヤー〉って言ってたしリットみたいによく分からない言葉を色々言っていたよ」

「だから僕の事を〈プレイヤー〉だと見抜いた訳か……それでその、肝心のお父さんは今何処に?」

 

 躊躇いがちに、リットはミライの顔を伺いながら質問を投げかけでみると返ってきた答えはサッパリとしたものだった。

 

「10年前に旅に出たから今は会えない。だからあたしは父さんを探しに旅に出ようと思ってる」

「10年か……長いね」

「うん。でも父さんは家族を捨てたんじゃなくてあたしと母さんを助ける為に旅に出た。それを分かっているから大丈夫」

 

 笑ってみせてもミライの表情には悲しみが見て取れる、痛々しさを感じてしまうもの。

 リットはそれを見て無遠慮に母親について聞く事はせず、自分より先にこの地へやってきた〈プレイヤー〉について思いを馳せる。

 

(ミライは幾つくらいだ?高校生か、それより少し。少なくともそれくらいは【WoS】から転移してから時間が経っているんだろう。それ程の時間をこの地で過ごして、家庭を持って生きていく覚悟を決めた。ならそれだけの時間で帰る方法は見つかったのか?彼だけが定住を選んで他の〈プレイヤー〉はみんな帰ったなんて楽観的な想像は出来ない)

 

 思い詰めだすリットの顔を見てミライはその背を叩きスープを差し出す。

 

「ほら!そんな思い詰めててもいい事無いよっこれ食べて元気だしなよ!」

「それもそうだ。いただきます──おぉこれは!」

 

 皿に広がる赤いスープを口に運んだリットは思わず感嘆の声を上げる。実に3日ぶりの暖かい食事であり、落ち着ける状況で取る食事は胃袋より何より心が満たされ頬がほころぶご馳走だった。

 

「美味しいなぁ!このスープ、トマトみたいな味だ」

「みたいも何もトマトだし」

「トマトあるの!?」

「あるよ。何言ってるのさ」

「じゃあこのジャガイモみたいな具材は……」

「ジャガイモだよ」

「ジャガイモもあるのか!?これは君のお父さんが栽培してるやつとかそういう!?」

「トマトもジャガイモも普通に流通してるし栽培されてるよ」

「そうなのか……じゃあこのオレンジ色のはニンジン?」

「それはネリンの実」

「知らないやつだなぁ……じゃあこのトマトとかジャガイモって〈鋼の民〉が持ち込んだ物だったりする?」

 

 他にも見知った食材がないかとスープを食べ進めるリットは舌鼓を打ちながら質問を重ねていると、ミライはもう耐えきれないと吹き出して笑い出す。

 

「あはははっ……あーダメ、ホントおかしい。リットは父さんと同じ事を聞くんだね」

「やっぱり君のお父さんも聞いたのか……それで?やっぱり〈鋼の民〉が?」

「母さんはそう言ってた。ずーっと昔に鋼の民が持ち込んだ食べ物だってさ。他にも色々あるらしいけどあたしが産まれた時からある物だから区別付かないなぁ」

「なるほどね。ずーっと昔か……」

 

 ニコニコと機嫌良さげなミライとは反対にリットは冷たい物が背筋を走るような不安が、腹の底に澱のように溜まっていくのを感じてしまっていた。

 

(ずーっとってどれくらいだ?持ち込まれたってのはおそらくアイテムボックスに入れていた食材アイテムを栽培して広めたんだろう……僕はもう食べてしまったけど。ここは大陸の端の田舎だと言っていたけれど、その場所でまで一般的な農作物として定着するのにどれ程の時間が掛かった?)

 

 スープの中には見慣れた食材と初めて見る食材が混ざり合っている。それらは最初に口にした時こそ珍しさで驚いたものの、どれもこのスープの食材として良く馴染んでいる。

 

(仮にサービス終了時にログインしていた全プレイヤーが対象だとして、どの程度の時間のばらつきで転移している?どれほどがこの地に骨を埋めたんだ……?このスープの食材のように〈プレイヤー〉の痕跡がありふれたモノとして受け入れられている事を聞く事で、僕より先にやって来た人達の事を考えずにはいられない)

 

 皿の中の小世界で溺れて攪拌される〈プレイヤー〉を、自らの事を考え首を振る。

 

(過去や未来を気にしても仕方ないさ。今はとにかく目の前の餌に飛びつき続けるしかない)

 

 グイとスープを流し込み、リットは体が芯から温まるのを感じて地に足が着いた心地になり一息吐く。

 

「はぁ……美味しかったよ、ごちそうさま。ありがとうミライ」

「お粗末さまでした。美味しかったって言われるのはやっぱり嬉しいね。えへへ」

 

 ミライにとっては久しぶりの人との夕飯、リットにとっては5日ぶりの安心できる食事。

 束の間であれ、2人の和やかな時間が過ぎてゆく──

 




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