病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら   作:相竹空区

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3-3 南へ

 

 戦士団、ホワイトファングから一路南へ。

 残存戦力を掻き集めての移動は朝早く、昨晩のホワイトファング城の炎上から時間を然程置かずに行われた為に、その出立を見送る市民の目には不安が色濃く見て取れた。

 戦士団にしても同様だ。

 街を出てからというもの、皆静かにただ進み続けて緊張によって不安を打ち消そうとしている。

 

「実際どうなんだい?竜と戦うっていうのは」

「分からん。亜竜程度なら何度かあるが、それを遥かに凌ぐ竜となると我々にはその経験が無いんだ。とにかく最善を尽くすさ」

 

 ホワイトファングを背に、シグルドと轡を並べて進むリットはそんな道行がどうにも落ち着かず会話にて気を紛らわせようとしていたのだが。

 

「しかし今は……この状況、敵は竜だけではないというのが煩わしいな」

「政治についてよく分からないけれど、僕はキミを王都に辿り着けるように手助けすれば良いのかな?それで解決?」

「そこまで単純にはいかないだろう。これはドラゲンティアによる工作だ、一連の騒動はあまりにもタイミングが良すぎるからな。王都でも戦が待っていると考えておこう」

「竜を前に人間同士で小競り合いか……」

「嫌になるな。だが竜と戦っている間に背後から刺されるような事態は避けたい。何か、最短で面倒を片付けられる方法でもあれば良いのだが……」

 

 そう言ってシグルドは太い指を顎に当てて考え込み始めた。

 それを邪魔しては悪いと、リットは馬を離して黙って進む。

 目指す王都はまだ遠い。

 南下する程に吹き付ける風に冷たいものが増すこの道のりは、考え事をするには少し寒すぎる。

 しかし呼吸をする度に肺から寒さが回る為、リットはどうするかを考えて……馬を隊列の後ろの方に付けた。

 リットが求めた話し相手はこの寒空と同じように冷たい瞳で彼方を見つめる紫の髪の君、ウィスタリアだ。

 

「やあ、今朝はそっちの情報収集に付き合ったんだ。次は僕の質問に答えてもらうぞ」

「答えられる事なら、問題ないわ」

 

 ウィスタリアは顔を合わせず、横目でリットを見て素っ気なくそう言った。

 しかしリットはそれをあまり気にせず、聞きたかった事が幾つも口をつきそうになるのを抑えながら言葉にしてゆく。

 

「じゃあ……そうだな、まずはなんで僕が〈プレイヤー〉だって分かった?見分ける方法があるのか?」

「明確な何かがある訳じゃない。ただ貴方と戦った時妙な感じがしたの」

「妙?」

 

 リットは思わず聞き返す。

 自身にそんな特異な点があっただろうかと、ウィークポイントならば治さないとな、と考えながら。

 

「貴方は私の太刀筋を目で追い切れていないのに完璧に防いで見せた。まるで先の事を分かっているかのように。私は貴方以外の〈プレイヤー〉と剣を交えた事もあるし、肩を並べて戦った事もある。彼らに共通する事は自らの……〈鋼の民〉の力への深い理解。スキルの動作を素早く見切る技能は貴方達の強力な武器よ」

 

 この世界では自身の修めたクラスのスキル以外を正確に把握する方法に乏しい。

 かつて攻略情報として簡単にアクセス出来た〈プレイヤー〉はその点で常に有利なのだ。

 それは当然リットにも当て嵌まり、特にリットは複数のまるで傾向の異なるクラスを経験した生の情報というものを持っている為に〈プレイヤー〉全体で見た時に相当上位の理解度をしていた。

 

「なるほどね、納得だ。そして次が本命なんだけど──この紋章についてだ」

「貴方は自分が着けてる紋章の事も分からないの?……いえ、説明すればいいのでしょう?」

 

 リットが自身の剣を修めた鞘を指してみせると、フ ウィスタリアは少しの憎まれ口を叩きつつも顰めた眉を平らにして記憶の中の幾つかを語り始める。

 

「都市連合で特に注意すべきだと情報が回っていた幾つかの存在を覚えている。その中のひとつが紋章と共に名を記されていた……ドラゲンティアの預言官ギデオン。竜より言葉を授かり人々に伝える役割を担いつつ、自らも聖騎士として類稀なる力を持つと」

「預言官っていうのは凄いのか?騎士とイメージが兼任出来ないんだけど」

「ドラゲンティアでは3体の竜を信奉している。それぞれが宮殿に閉じ篭って滅多に人前に姿を見せず、有事の際にのみ現れるの。平時にそんな竜の姿を見る事が出来るのは高位の神官のみ。預言官はその中でも竜の意思を代弁する重要な存在よ。預言官と聖騎士に同時に就くなんてギデオンしかいない」

 

 リットの知るギデオンはそのような無茶をやる男だが、それでもまだ本当に預言官ギデオンは友のギデオンなのか、リットは信じ切る事が出来ずに質問を重ねた。

 

「ギデオン……なにか見た目とかの情報はないのか?」

「ごめんなさい、そこまでは……でも彼の配下については有名よ」

「有名?たぶん悪名の方だろ?」

「私が知るのは都市連合の視点だからそうなるわね」

 

 そこでウィスタリアは大きく溜め息を吐いて……表情に憂いが差す。

 冷たさに強張る顔に幾らかの悲しさが見て取れた。

 

「私達はそいつらを追って……私ひとりが生き残った。貴方も戦ったのでしょう?ホワイトファング城の襲撃の際に居た聖騎士達がまさにギデオン配下の者よ」

「だから君は僕を襲った訳か……」

 

 納得と共に崩れ落ちるような脱力感。

 リットは苦笑いして空を仰ぎ見る。

 

「教えてくれてありがとう、助かったよ。ところで今朝の情報収集はどうなんだい?何か役に立った?」

「疑問が増えたわ」

「確かに誰が聖騎士を引き入れたのか、とか分からないないもんな」

「そうじゃない。ドラゲンティアに付いた貴族はおおよその目星は付いてる。でもわざわざ痕跡を残すような方法で飛竜を運んだ理由が分からない」

 

 殆ど偶然とはいえこうしてウィスタリアまで情報は伝わってしまっているのだ。

 何かの掛け違えがあれば伝わるのは襲撃前だったかもしれない。

 しかしその危険性を承知で行う理由とは……リットはひとつ思いついた。

 

「理由は襲撃の時に必要だからだろ?城下町を無視して城に直行するには飛ぶ必要があった」

「そうでもない。あの時、私が戦った聖騎士には覚えがある。剣と盾、ふたつの〈竜髄〉を扱う聖騎士で……盾には物を収納する能力があるの」

 

 しかし理由はリットの知らない事だった。

 答えようのないクイズを出された気分になりつつも、収容能力と聞けば自らも所有する物の事を思い出し、ベルトに下げたそれに触れる。

 

「アイテムボックスみたいに?」

「それよりもっと収納出来る物の幅が広い。空気、水、生物……以前から盾に飛竜を格納しての奇襲を行っていたから今回もそうなのかと思っていたけれど」

「昨日の日中にデカめの亜竜が現れただろ?アレを入れてたとか」

 

 リットは戦士団と倒した2体の大型亜竜の姿を思い出していた。

 あのタイミングでの戦士団の消耗はドラゲンティア側に都合がよく、そして〈竜髄〉に丁度良く活用出来る能力があるのならば、と考えたのだが。

 

「そこまでの容量は無い筈。あったならもっと効率良く使えた機会があった筈だもの。大型の亜竜なら一体が限界だと思うわ」

「なら……よく分からないな」

「ええ、だから今考えても仕方がない。このタイミングで竜なんて、ほぼ確実にドラゲンティアが仕組んだ事よ。何を企んでいるにしても、シグルド王子がソレを倒す事をドラゲンティアは望んでいない。それだけは分かっているなら、これは果たさなければならない」

「それはそうだ。まあ、次は協力だ。よろしく頼むよ」

 

 そう言ってリットは馬上から手を差し出したが……ウィスタリアはそれを横目でチラリと見ただけで、すぐに正面へと向き直ってしまった。

 

「貴方をドラゲンティアの手の者だと疑っては──いない訳じゃないけれど、共に戦うくらいはするわ。それでも別に慣れ合う必要は無い」

「結構打ち解けた気がしてたんだけどな」

「本心で言ってる?貴方のそういうところが──」

 

 ウィスタリアの言葉にすらならないという呆れを掻き消すように、突如として馬を全力で走らせ隊列に駆け寄ってきた斥候の声が辺りに響いた。

 

「飛竜襲来!竜騎士の騎竜です!」

「ドラゲンティアか!ここで倒れる訳にはいかん!なんとしてでも切り抜けるぞ!」

 

 そしてシグルドの声。

 続く戦士団の鬨の声で、リットとウィスタリアは会話を続ける状態ではなくなって空の彼方を見る。

 斥候がやって来た方角には、灰色の空を背に迫り来る幾つもの影が見えた。

 はためくそれらに跨って、鎧姿の者達が隊列を組んで飛んでいる。

 戦士団の面々が息を呑む。

 

 竜騎士は昨晩と変わらず精強、対して戦士団は消耗している。

 違う点はシグルドが居る事と、聖騎士がひとり脱落した事。

 そして、もう1人の変数。 

 彼我の戦力の差を分析して……騎竜に跨る聖騎士ラウルスは顎に手を当てた。

 

「本気を出せとは言わないが時間稼ぎくらいはやっていただきたいものだな、イオリ殿」

 

 ラウルスは背後に騎竜を着けて、やる気なさげに鞍に跨った少年へと声を掛ける。

 黒髪、黒目、簡素な革鎧にジャケットと、至って平凡な外見の彼はラウルスの話などまるで聞こえていないように腰に下げた剣の柄を触っていた。

 

「チッ……貴方は都市連合のご令嬢を。当初の計画から変更し、閣下は殺さずに顛末を都市連合へと伝える為に使えと」

「はいはい」

 

 やる気のない返事に苛つきを眉間に表して、ラウルスは隣を飛ぶ赤髪の問題児へと目を向ける。

 

「リーヴ、貴方はシグルド王子を。殺しても構わない」

「はぁ?俺はあの魔女と剣士のコンビとやり合いたいけど?」

 

 ラウルスの言葉に、リーヴは思わず自らの騎乗するそれの横腹を蹴り込む。

 それに眉を顰めつつも何も言わず、ラウルスは手綱を握る左手を、左手首を撫でた。

 

「万が一という事もある、貴様を失う事だけは避けたい。それに()()を試したいのでね」

「チッ……まあいいさ。新しいオモチャを試したい気持ちは分かるし、この程度でアイツらが死ぬ訳ねぇからな」

 

 敵を評価する物言いに、ラウルスも流石に言葉が口を吐きそうになるが呆れが上回って溜息として出力される。

 ともかく仕事をこなさなくては、とラウルスは先行して飛び、魔法にて拡声させて戦士団に対しての宣告を行う。

 

「面倒は避けよう。大人しく死んでくれ。首を垂れ、死を待つんだ。君達といえどコレくらいなら簡単に出来るだろう?」

「断る!貴君らの邪悪な策謀には決して屈しない!」

 

 対してシグルドは勇ましく拒絶して一触即発。

 ワクワクとした様子を隠さないリーヴを背後に感じ、ラウルスは眉間を揉みほぐすと……口の端を吊り上げた。

 

「ならばせいぜい足掻いてみせろ。愚かしくも目を閉じ、耳を塞ぎ、口を閉じた貴様らにはコレが何かもわからないだろう……」

 

 ラウルスは左腕の盾を掲げ──その内側に満ちた濃密な闇から亜竜が零れ落ちる。

 巨大な首が、不可思議にズルリと這い出て肩まで空中に放られた時、それが起こった。

 ラウルスの左手首に嵌められた黄金の腕輪、それが怪しく煌々と輝く。

 その場にいる全てのものを惹きつけるような異様な光は亜竜の首へと吸い込まれて……裂けた。

 

「なっ──!?」

 

 思わず出た困惑の声も、首が辿ったその後の変化で更に困惑を強める。

 眉間から真っ二つに裂けた首は血の一滴すら漏らさずに、失った半身を再生させたのだ。

 こうして1体は2体となり、更に増殖して……空から4体の()()()()姿()()の大型亜竜が降り注ぐ。

 

 それを見て、リットははたと気がついた。

 この亜竜には見覚えがある、と。

 

「コイツ昨日の!?」

 

 記憶通りの深緑の鱗、黒曜石のような爪に黄金の瞳。

 全く同じ見た目の亜竜が2体、昨日現れた筈だ。

 

「竜の血族よ、地に満ちよ。異端を残らず灰燼に帰せ」

 

 ラウルスの言葉を嚆矢に、亜竜の咆哮が迸った。

 




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