病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら 作:相竹空区
4体の戦神が猛然と朱竜を襲い、しかし深傷を与える前に地面が飛び出した触手に阻まれる。
朱竜から距離を置いた場所では投石器が朱竜を狙い、石を放つ。
放物線を描いて飛翔する石は見事命中し、しかし然程の痛痒でもないようで朱竜は手近にあった鐘楼を触手で巻き上げ投石器へ向けて放り投げる事で投擲というものを人へ教え込む。
魔法も弓も同じように当たれども第二射へと移る前に無数の触手が襲い来るのだ。
ミライは見晴らしの良い建物に息を潜めてその様子を観察し、冷静に分析をしていた。
「……移動が出来ないから攻撃を避けれないのは分かる。でも反応が遅い?」
朱竜は痛みに呻きながら、しきりに首をもたげる。
何かがあるのだろうかとミライも双眼鏡で上空を見るがただ空が広がるばかり。
だが理由が分からずともそのような隙があるというのは付け入る隙になる。
「注意散漫で攻撃を一度受けてからその脅威を認識していた。きっとあたしの初撃は当てられるだろうけど、一度知られたらあの触手が襲いかかって来る」
そして次に注目したの朱竜の異常な再生能力。
あれを如何にして突破するか、その算段がミライにはあった。
「そしてあの再生能力こそが朱竜の核になる力……とても厄介だけど殺せないわけじゃない」
ミライの視線の向こうで4体の戦神がタイミングを合わせて触手の守りを突破し朱竜本体へと肉薄する。
しかし触手の一本一本が束となっているのが朱竜なのだ。
巨腕は圧倒的な速さと膂力でもって迎撃に振るわれて、それをオフェルが受け止めた。
タンクが防ぎ、アタッカーが攻撃を仕掛ける。
役割分担によって圧倒的な個である朱竜へと迫った人間の集団の力は確実に朱竜を削っていた。
リットの剣撃は朱竜を構成している触手を幾つも引き裂き、シグルドの重々しい一撃は朱竜を弾けさせる。
対してあまり有効とは言えない攻撃となってしまっているのがウィスタリアだった。
「点や線の攻撃じゃ朱竜の再生に負荷を掛けられない。ウィスタリアの攻撃は鋭過ぎる……?」
刀が二度三度と素早く振るわれ、抵抗など感じていないように朱竜を切り裂く。
しかしそこに傷跡は残らない。
切断面が綺麗な為に再生の際に肉の継ぎ足しを行わなくて済む、というのが原因だった。
手間が少なければ再生も素早く終わり、ウィスタリアは他よりも苦戦を強いられていたのだ。
だが彼女とて歴戦の勇士だ。
効果の薄い攻撃であると理解して、攻撃の仕方を僅かに変える。
「ああ!凄いなぁ……刀に氷の魔法を纏わせて傷口を凍結させたんだ」
ミライが感嘆の声を上げる程度には、その攻撃は有効だった。
鋭利な傷口に氷が入り込み、再生が阻害される。
無理やり触手を蠢かせて氷を割っても肉の間に入った破片が動作を阻害し、完全に排出するか解けるまで続く
「あの方法ならいける。あたしの力を最大限に活用するには──!」
立ち上がり、行動を開始する。
家屋から飛び降り、朱竜へ向けて、かつ狙われないように視線を遮りながら疾走。
家から家へと張り付いて、触手の守りが薄い位置へと移動する。
天へと伸びる塔のような触手はよく目立つ。
避けて通る程度は余裕といった様子でミライは位置を探り……朱竜へ向けて真っ直ぐに伸びる通りへと辿り着いた。
「ここなら通る……!」
確信を持って朱竜を睨み、滾るものを魔法に込める。
「これがあたしの"火の息吹"……屠竜がお前を"殺す"」
込めた殺意と魔力がミライの右手で蒼炎となり噴き上がった。
のたうつ炎は加速的に膨れ上がり、通りに残った生活の痕跡を焼き払う。
「もっと……もっと強く大きく……"唸りを上げろ"」
だがミライはそんなものでは満足しない。
より大きな力を込めて炎へ拍車を打つようにし、その火勢を増幅させた。
手を真っ直ぐに天へと伸ばし、その先に確かな手応えを感じて握り込む。
「これなら、殺せる……!"ヒートジャベリン"ッ!」
ミライの声に従い瞬間的に炎が収束する。
蒼炎が一本の槍……否、柱の如き威容と化して宙へ浮かぶ。
炎がバチバチと音を立てて空を焼き、獣のように獰猛に低く唸る。
そのような異様な魔力の出現に、流石の朱竜も気が付き視線を向けた。
アレは違う、と気が付いた時には既にミライ蒼い双眸が朱竜へと狙いを定め──
砲火を放つ号令の如く、ミライは腕を振り下ろす。
「刺さって爆ぜろッ!」
加速は爆発的だった。
瞬く間にに朱竜へと迫り、爆発。
胸部に深々と突き刺さった上に爆発した蒼炎は朱竜を広く深く焼き、触手の表面がふつふつと泡立つ。
威力に関しては先に放たれた大火球が勝るが、蒼炎の真価はここから。
「一度で殺し切れなくても、あたしの炎で受けた傷は再生出来ない。これてアンタを徐々に蝕む」
消えない痛みに朱竜が激しく吼える。
自らの根幹を揺るがす炎に怒り、恐怖して子供のように腕を振り回し始めた。
だが朱竜の腕とは一対の剛腕、そして都市の地下へと張り巡らせた触手の全てである。
ミライの周囲に朱の塔が立つ。
ひと薙ぎで家屋を崩す事が可能な触手がミライを狙う。
「これだけ怒るって事は効いてる証拠!やっぱり殺せない相手じゃない!」
その言葉は危機的な状況に対する強がりかもしれないが事実でもあった。
朱竜が負った傷は深傷とは言えないかもしれないが癒えないもの。
そして蒼炎が焼いた箇所以外にもその影響は及んでおり、戦神が付けた傷の治りが遅くなっている。
「この炎で殺しきれなくてもアレを死に近づける確実な一手になる!みんなが最後のひと押しをしてくれる!」
リットの刺突が深々と刺さり、ウィスタリアの斬撃が朱竜を袈裟に斬り裂く。
今までは治癒が追い付いていた攻撃に手が回らなくなりつつある。
痛み、焦りに突き動かされて朱竜は叫ぶ。
そして痛みを取り払おうと触手が振り乱された。
「よく見て避ける!全力で走って避ける……っ!」
ミライは全速力で街を駆ける。
とにかく触手の加害範囲から離れようと脚を動かし背後では破壊音が響き続けて止まらない。
徐々に大きくなるそれに焦りを抱き、背後を見るか見ないかという逡巡に僅かな時間を割いた後、不意に破壊音は止まった。
「っ……?」
駆ける脚を止めずに背後を見やれば、そこには赤。
朱竜の触手を受け止める赤の戦神──オフェルの姿があった。
「君の攻撃がアレに有効なのは理解した。背後は私が守ろう」
振り返らずにそう言って、大剣で触手を一気に薙ぎ払う。
間髪置かずに更なる触手がミライを狙うが、オフェルは自らの身体を壁としてミライを守る。
だがしかし。
「それは良いけど全方位囲まれたんじゃどうしようも……」
次々現れる触手はオフェルの処理能力を超えて増え続けている。
代わりにここ以外に充てる分を減らしているのだが、各個撃破の形に持ち込まれては状況は不利な方へと傾くだろう。
「もう一度、屠竜の力で触手を一気に──」
ミライは打開の一手として力を集中させ始め、しかしそれを遮る声がひとつ。
「その必要はない!我等戦士団が居る限り!」
その声ひとつに続いて幾つもの足音、そして武器が振るう豪快な叫びが響く。
ブリンジャーを先頭に屈強な戦士達が触手を切り倒さんと集まっているのだ。
「ほっほ、露払いはお任せあれ!この老骨が頼りなくとも大勢連れてきましたからの!」
ひとりひとりの力は戦いの趨勢を変える程ではなくとも、集まればそれは大きな力となって道を切り開く。
一度の攻撃で触手を切り払えなくとも、息を合わせた一撃を重ねれば良いのだ。
それで次々と触手が切り倒されて、また新たな触手が生えてくる。
イタチごっこに思える戦いではあるが、ミライの力を最大限に発揮する状況を作る事さえ出来れば戦況が大きく変わると信じているから、信じれるだけの一撃を見せられたから戦士達は奮戦している。
それを理解しミライは再び駆け出す。
「ありがとう……みんなに報いる為にも確実に届かせてみせる!」
ミライの蒼炎を受けて朱竜は確かに弱体化した。
元より万全とは言い難い状況な上に治癒のスピードは落ち、絶え間なく攻撃に晒されて消耗しているのだ。
如何に竜と言えども無尽蔵の力を扱っている訳ではなく、竜脈から引き入れた力と自らの力を合わせる事でその権能を振るう。
そして朱竜のそれと同じように屠竜とて限界はある。
あと何度有効打となる蒼炎を放てるか、ミライは自らに問いかけた。
「あと、二発が限界。それを切り離せるような末端部じゃなくて本体に叩き込んで終わらせてやる……!」
ゲーム的に表現するのであれば朱竜は継続的にMPを消費してリジェネ状態を維持しており、MPが尽きるまで攻撃し続けなければ倒す事は出来ない。
だがミライの蒼炎による攻撃はリジェネ以外の回復手段を持たない朱竜にとってはHPの上限を削られるのと同じ。
更にはリジェネによる回復量を減らされるというデバフ付き。
それを三度重ね掛けし削り切るのがミライの算段。
「でも絶対あたしは警戒されてる。次も上手く当てられるとは限らない……確実な隙、それを作って貰えるように頼る事しか出来ない」
ミライは朱竜の僅かな動きすら見逃さないよう意識を研ぎ澄ます。
周囲の触手を切り伏せ道を開くのは任せきり、いつでも全開の一撃を放てるように。
そしてそのタイミングを生み出すのは朱竜本体と戦う三体の戦神。
リット、シグルド、ウィスタリア。
触手が幾らかミライへ向かった為に、触手による守りは薄くなったが本体の攻撃の苛烈さは一層増していた。
特にタンクのオフェルがミライの守りに移った事が大きい。
それぞれ決死の攻撃と回避を繰り返し、まともに喰らえばただでは済まない腕の一振りを避けてジワジワと朱竜の力を削ってゆく。
そんな戦いで小回りが効いて活躍しているのは意外にもウィスタリア。
切り口の鋭さ故にあっという間に治されていた彼女の攻撃だったが、治癒能力が落ちた今ではその力を十全に振るう事が出来るようになっていた。
「"アイシクルエッジ"」
ウィスタリアの戦神の周囲に四本の氷の刃が作り出され、一瞬前に刀が通った傷に向かって放たれる。
傷口を更に押し広げ、掻き分けるように氷が突き刺さり朱竜を深部から凍結させる魔法の攻撃。
ウィスタリアもミライと同じように二世代目の〈鋼の民〉だ。
近接戦闘能力に於いてはレベル100、更には魔法を活用して遠距離も対応可能なハイブリッド。
朱竜本体の相手だけではなく、援護射撃の投石器や魔法を狙った触手へ魔法を飛ばす事すらやってのける万能型。
そしてシグルドの猛然たる戦いぶり。
オフェルが抜けた穴を埋めるように朱竜の攻撃の只中に飛び込んで受け止めるのだ。
だがシグルドにはオフェルのようなノックバックに対する耐性を保有しておらず、朱竜の剛撃をひとつ受け止める度に大きく押し込まれて地面に轍を刻んでいる。
そんな有様でもまともに殴り合える理由はひとつ。
「"カウンターブロウ"!」
スキルを伴ったシグルドの殴打もまた、朱竜の腕を抉り骨を割る剛撃だ。
それを為すのはシグルドが保有する中級クラスの【
中級スキルの"カウンターブロウ"もまた直前に受けたダメージによって威力の上がるスキルであり、被ダメージを前提としつつ結果としてダメージレースに勝てば良い、という考えのもと作り出されたのがこのビルドだ。
それが朱竜との真正面からの殴り合いの舞台にシグルドを立たせていた。
一撃当てればより強力な一撃が返ってきて、更に殴れば殴り返される。
苛烈な攻撃の応酬に、傷口を抉る魔法の刃。
朱竜を追い詰めるそれらに比べて目立った戦果も無く警戒が向かない者がひとり。
「爆発力があるシグルドに魔法を使えるウィスタリア……それに比べたら趣味のビルドの僕はパッとしないか」
リットはひとりごちる。
一撃の重さではシグルドに負け、速さに於いてはウィスタリアに負け、守りはオフェルに劣る程度。
万能型と言えば聞こえは良いが、ウィスタリアのカバー範囲の広さを考えればこの戦いでは器用貧乏の面が勝る。
「でも、こうも眼中に無いんじゃ悪戯心が湧いてくる」
この戦場でリットはフリーだ。
攻撃、守り、あらゆる役割を担う事が出来るゆとりがある。
そしてリットは、自由に動き回らせて良い程弱くもない。
「エンジョイ勢だからって侮ってる奴に土付ける事程、爽快なものってないよな!」
朱竜からの注意が完全に逸れたそのタイミングを見計らい突撃を敢行する。
狙うは朱竜の弱点となる場所。
(いくら再生出来ようが心臓の破壊は堪えるだろ!)
粘体で動き回っていた朱竜が心肺機能によって動いているのかは分からなくとも、吼える事からそれら機能の存在は確認出来ている。
リットは鋒を朱竜の背中へ向けて、深く構えて剣気を研ぎ澄ます。
「秘技── "羅星貫鋩"」
人型の鋼の塊が瞬間的に掻き消える。
三重のスキル発動に加えて絶大な質量の衝突。
それがノーマークのリットから、脇腹へと突き刺さる。
「
衝撃、剣気が肺から心臓までを通り抜けて朱竜の体内で弾けて奔る。
肺は裂けて空気を漏らし、心臓は割れて血が溢れ出した。
朱竜は痛みから来る反射的な振り払う動作を取るもリットは悠々と回避し、その隙をシグルドとウィスタリアが攻め立てる。
一方を意識を傾ければ疎かになる箇所があり、注意は散漫に朱竜は傷を受けた方角へと目を回すようにあちらこちらへと首を振るった。
「今だミライ!」
そんな揺さぶりを代わる代わる行って作り出したその間隙にリットは叫ぶ。
建物が崩壊して入り組んだ道、空へと伸びる触手の向こうへと、その声が届いた時には既にミライは構えていた。
弓に矢を番えるように、引き絞った力を朱竜へ向けて。
「もう準備出来てる」
ミライの放つ二発目、朱竜をまた一歩死へと近づけるそれを解き放つ。
「こじ開けてくれた隙……使わせてもらうよ!"ヒートジャベリン"!」
蒼炎が再び奔り、朱竜へ見事突き刺さる。
爆ぜる炎は余す所なく朱の肉を嘗め回し、血煙混じりの悲鳴が返ってきた。
「ッ!ヤバ!?」
そして反撃の触手。
地面から飛び出した触手が攻撃者を狙って第二射を阻止する攻撃が来る。
これまでと同じ行動パターン、同じ対処法。
それで済むはずだったのだが、今回は明らかに数が多かった。
ミライを中心に全方位を囲んで押し潰す配置。
「私が守る!側に寄れ!」
振り下ろされる触手から少しでも身を守ろうと、オフェルは戦神の大きな体躯を天蓋としてミライや戦士団を守り、空からは朱が降り注ぐ。
「来るぞ!備えろ!」
振り抜いた大剣と触手の交錯、肉の塊と鋼の塊の衝突が同時に起こり、頭上で爆発のような轟音が鳴り響く。
幾らかは切り飛ばした。
戦士団も無事。
だが盾となったオフェルは満身創痍であり、いつ"戦神化"が解けて戦力から外れるかも分からない。
決着をつけなくてはならない、と誰もが思い……真っ先にミライが駆け出した。
「あと一発……!これを当てれば!」
薙ぎ倒された触手を飛び越え射線が通る場所へとひた走る。
走りながら魔力を練り上げ炎の尾を引いて朱竜を真っ直ぐに睨む場所へ。
「これで!終わり──!」
極大の投槍を振りかぶり助走の数歩を踏み切った時、ミライの正面に朱の壁が……横薙ぎの触手が現れた。
高さはミライの背丈を越える。
速さは回避を不可能とする。
迫る死を前にミライは……
「止まって──堪るかぁ!!」
ノンストップで突っ込んだ。
「ミライッ!」
遠くから、ミライが居る方向に振るわれた触手を見てリットが叫ぶが声だけでは攻撃は止まらない。
触手はひと薙ぎ廃墟の街を均して土埃を巻き上げる。
雪すら剥いでその下を捲るような圧の一撃だ。
当たればタダでは済まないどころか、死により近い状態が当然と言えるだろう。
それが、当たったのなら。
「もういっぱあァァつッ!」
濛々と巻き上がる土煙の中から、裂帛の叫びとと共に蒼炎を携えたミライが飛び出す。
空中へと躍り出し、不安定な状態で均衡を保とうと手脚を振り乱す勢いのまま魔法を放った。
流星のように煌めくその魔法の投槍は再び朱竜へと鋒を向ける。
警戒は間違いなくミライに向かっているが防御は薄い。
触手は殆どを先程ミライを倒す為に向かわせてしまい、盾に出来るような余裕が無いのだ。
受けるしか、ない。
攻撃の直後が最もカウンターに適した瞬間。
ミライはそれを踏まえて触手に突っ込んだ後に活路を見出した。
それを成したのはミライが習得した新たなスキル。
予備動作無しに高く飛び上がるスキル、【軽業師《アクロバット》】の"リーピングアタック"。
回避成功直後の攻撃への補正も掛かるそのスキル効果はミライの蒼炎にも載って……朱竜のガードへと突き刺さった。
「入った!あれでもう腕を使えない!」
大樹のように太い腕を交差させた防御姿勢で少しでも炎の影響範囲を狭めようとして、しかし確実に朱竜の力は削られている。
癒えない傷と、竜に由来する力への減退効果。
全身を傷だらけにしつつも癒す事が出来ず、新たに負った傷も治りは遅々としたもの。
突き刺さってから爆ぜるミライの魔法はその効果範囲の深さを重視したものである為に、防御に使った腕はもはや使い物にならない程に蒼炎の影響を受けていた。
治癒能力の大幅な減退、腕を構成する触手と骨の使用不可。
人が追い詰められて力を発揮するのなら、それは生物に備わった機能だろう。
朱竜もまたその範疇。
使えない機能があるのなら他で補う。
生存の邪魔になるものがあるなら振り切ればよい。
朱竜は全身の触手を蠢かせ、流れを作る。
もはやまともな機能を残していない腕には最小限のリソースを、その機能を補う為に別の箇所へと注力し無駄を削ぎ落とした姿へと移行した。
使い物にならない触手は切り離して朱の衣を剥いでゆく。
触手で構成された筋骨隆々の肉体は細く、地を這うためではない流線型へ。
朱の肉体は赤黒く……朱殷へと。
そしてその背には無数の触手がひとつの形を結ぶ。
朱竜、羽化の時。