病弱VRMMOプレイヤーが竜の世界で第二の人生を手に入れたなら 作:相竹空区
リットのキャラクターを補完する目的で行った修正です。
リットとミライは村へと帰還する。
遠くからではそこまで被害は見えないが、丸太を立てて作った壁の一部は傾いて、門は崩れて内部まで侵入されたようだった。
門扉には引っ掻き傷が無数に刻まれて襲撃の激しさを物語り、村の中へと入れば家具で作られたバリケードとその残骸、そして倒れ伏した獣の亡骸が散らばっている。
「酷い状態だ」
「直せばいいし片付ければいい。森の獣達には悪いけど、あたしには村のみんなの方が大事だから……リットのおかげだよ」
リットの言葉にミライは戦いの結果への、自分の大切なものが守られた事への感謝を述べる。
村人の死傷者ゼロ。
(これは偶然の積み重なった勝利だと肝に命じなきゃいけない。次同じ事をやって生き残れる保証はどこにある?少し違えばあそこに倒れているのは村人で……ミライだったかもしれない。そしてこんな事を考えてしまったら僕はもう、目の前で起こる悲劇を見過ごせなくなる。受け入れ難いと思った事を、覆せる力があると知ってしまった)
瓦礫にもたれかかって治療を受ける村人、汚れる事も構わずに地面に寝そべる疲れ果てた村人。
リットは彼らより遥かに強い。
彼ら全員が命を捨てる覚悟をしても出来ないような事が出来てしまう。
それは圧倒的な暴力によるもの。
ゲームであればステータスに装備にプレイスキルと呼ばれたものが、今ではただ単純に力だ。
何かを壊し、殺す力。
「あの騎士の事を考えているんだ。初めて人を殺したよ。うん、目を背けていたけどね。確かに僕は人を殺した」
「あ……リット、そのごめ──」
「君のせいじゃない」
リットの言葉にハッとして、ミライは謝罪を口にするがすぐさまそれは遮られる。
リットはとても迷って、視線は答えを探すように揺れ続けているがその言葉だけは確固たる意思のもとにあった。
「君を理由にして、押し付けたりしたくないんだ。でも少し弱音を吐かせてくれるかい?」
「いいよ。寄り添ってあげる」
「ありがとう。僕はね、傲慢な人間にはなりたくないんだ。でも今日は生かす命と殺す命を選んでしまった。あの騎士はそれを傲慢だと言っていたよ」
「そうかな?もっと単純に考える事も出来るよ?ただ生きる為にって、ほら見て」
そう言ってミライは手を振る。
その先にはあちこちに包帯を巻いたロンの姿が。
リットが最初にあった時からは想像出来ないような笑顔で、脚を引きずりきごこちなく駆け寄ってくる様子を見てミライがリットの背を叩く。
「おい、ちょっと……」
「いいから!」
相対して見るとロンの傷がよく見える。
額には流れた血の跡が残って、簡素な皮鎧にはいくつも引っ掻き傷や牙によって開けられた穴がある。
青痣も無数にあって痛々しい有様だ。
「まぁ、なんだ。お互い酷い状態だな」
「え?あぁ、こんな泥だらけの姿で申し訳ない」
「いいさ、村を守ってくれたんだ。感謝してる」
「脚……大丈夫ですか?」
「ちょっとヒビ入ってるだけだとよ!問題ねぇさ。……すまなかった」
ロンの殊勝な姿に面くらい、言葉に迷っていると再びミライが背を叩く。
「ぐっ……誰も犠牲にならなくて良かった。それだけで充分です。終わりがよければ、それで」
「ありがとうな。それじゃあ残りの仕事片付けてくるからよ、しっかり休めよ」
「えぇ、そちらこそ」
ぎこちなく歩いて去って行くロンの背中は心なしか晴々として見えて、リットも胸のすく思いだった。
その憑き物が落ちたような顔を見て、ミライは再びバンバンとリットの背を叩いて笑う。
「やっぱり僕は傲慢だよ。彼が謝ったとき意外だと思った。他者をこうだと決め付けていた」
「反省出来るなら良いんじゃない?」
「かもね。取り敢えずはこの結果に満足しておくよ」
軽く笑い合って2人は村の片付けでも手伝おうかと話し合っていると、風に乗って地を叩くを音が村へと届く。
連続して無数に、地を叩くそれは何かが走る音。それも相当な数。
また襲撃か、一度は去った危機が再び訪れたのかと村人達は折れかける心を必死に留めて、しかしそれ以上の事は出来ずに立ち尽くす。
「……これ以上戦わせるのは酷か」
「ちょっとリット……!」
「僕がやるしかないだろ?なんとかしないとね」
村人達を庇うように村の門の前へ……門扉が崩れて開け放たれたそれを塞ぐように立つリットは近づくものを誰よりも早く見る事が出来た。
「馬、それも集団でか。この世界にも居るんだな」
「居るよ。それにあれは良い馬だね」
「ミライ、君は……」
「リットだけに任せるなんて出来ないでしよ?それに……多分大丈夫」
リットの横にミライが立つ。
その顔は緊張で強張っているが、少しばかりの安堵も感じられるものでリットは少し不思議に思いつつも近づく集団を観察する。
その集団は武装し、馬も早駆けして穏やかではない様子だ。
皆一様に武装してはいるものの、各々がまるで違う武器や鎧を身に付けていてリットが戦った騎士達のような統一感はまるでない。
(バラバラの装備……【WoS】みたいだな)
斧、槍、剣、戦鎚、弓etc……その中でも特に目立つのは集団の先頭を走る偉丈夫、彼が腰に下げる黄金の獅子を模ったガントレットだろうか。
まるで金属塊のようなそれがガントレットだと気付けた理由はただひとつ。
「先頭の彼の装備、〈プレイヤー〉の物だ」
「えぇ!?それじゃああの人は……」
武器の見た目のカスタマイズ要素が豊富だった【WoS】でも人気だった装備のスキン。
あの黄金の獅子のガントレットはそのひとつだ。
距離が近づく程その細かいディテールがよく見えて、馬が目の前で止まった時にはリットは記憶の中のそれと同じである事を確信する。
「ふむ……あの巨大な竜を倒したのは誰かな?」
金髪を短く整えた偉丈夫が馬上から尋ねる。
低く、腹の底に響くような太い声は逞しい外見に違わず相手を威圧する。
馬上から見下ろされている事を勘案してもなお大きなその体躯は鍛え上げられていて、大岩や大樹を思わせる存在感を放つ。
「僕がやった」
「ほう、君とそこのお嬢さんでかね?」
「いや、僕が1人でだ」
金髪の男の背後に控える戦士達からざわめきが上がり、怪訝な視線がリットを刺す。
「なるほど。君が1人で竜を倒し、村を守ったと」
「そうなるね」
「それはなんとも……申し訳ない事をしたッ!」
金髪の男は馬から飛び降り頭を下げる。
それに続くようにして戦士達も馬から降りて頭を下げて、リットとミライは驚いて思わず後ずさる。
「それは本来!我らの責務であったッ!竜を討たねばこの村は滅びていただろう、心から感謝するッ!」
「い、いや成り行きでやっちゃっただけなので……」
「なんと!ただ成り行きで人を助けられるというのか!そんな御仁と出会えた事!嬉しく思う!」
豪快に笑顔を向ける大男の圧に押されてリットは緊張や警戒などどこかへ行ってしまって、ミライも苦笑して少し距離を取る。
「おぉっと!名を名乗っていなかったな!恩人の名を聞きたいのでな!こちらから名乗らせてもらおう!我が名はシグルド!ミスルト戦士団の団長にしてミスルトの第二王子!シグルド・ミスルトスである!」
「王子……!?」
「戦士団の人だとは思ってたけどまさか団長本人だなんて……」
豪放磊落。それこそがまさに彼を示す言葉だろうと思えるような快活な男。
それがまさか王族だとはまさか思ってもいなかった2人は驚きに目を見開いて口をあんぐりと開ける。
「ハハハ!驚かせてしまったか!巨大な竜が現れたと報告があってな、丁度近くに来ていたし、それは俺自らが出ねばなるまいと思ったのよ!」
「それは随分と……フットワークの軽い」
「どうしよう……あたし偉い人との喋り方なんて分かんないよぉ」
「気にするな!今の俺はひとりの戦士シグルドだからな!さぁ!君達の名前も聞かせてくれ!」
唖然とするリットにも自身の教養の無さに嘆くミライも気にせずに、シグルドは人好きのする笑みで2人は尋ねる。
リットとミライは顔を見合わせて、気が抜けたように笑い肩の力を抜く。
「僕はリット。そんな大した人間じゃないですよ」
「あたしはミライ!リットは凄いよ!」
「うむ、うむ……これは良い出会いだ。よし!やはり礼をしなくてはならんだろう!2人とも来い!ホワイトファング城にて歓待しよう!」
「はぁ!?いやそこまで──」
「良いね!リット行こうよ!旅の第一歩だよ!」
旅の最初の目的地へ向けてはしゃぐミライを見て、リットは息を吐く。
そもそもこれはこういう旅なのだ。
「分かった。君について行けば良い事ありそうだしね」
これから始まる旅の始まり。
竜を倒して村を救った。
リットはこれから起こる良い事へ思いを馳せて、ワクワクしている自分を認めるのだった。
書き溜めをしてはいますが、このままだと投稿ペースが執筆速度に追いつくので次回から隔日更新に変更します。
執筆速度はモチベーション次第なので、感想いただけると凄く嬉しくて沢山書けるかも……?