なんやかんやで駆け抜けてきましたね、早いものです。
ちょっとご都合展開がありますが、これも僕のカラーということで。イングリッドの想いにちょっとだけ神の見えざる手を入れたくなってしまったのです。
救いがあっても、いいじゃない。
キラとオルフェの戦いは、あまりにも一方的だった。射撃武装は胸部の一門を残しているものの、それはナノ粒子にて軽々と防がれる。かといって近づけば冷静に格闘をいなされ、直撃など到底望めない。八方塞がり、といったところだがオルフェは諦めない。ラクスをこの手に得るまで、愚直にも戦い続けていた。
「オルフェ、シュラが……!」
「くそっ、虫けらどもが!」
ラクスの制止の声も聞かないで、対艦刀を振り回す。もうやめろ、だと?ふざけるな!まるで自分よりも遥かに上だと言い張っているかのようではないか!後ろからの声は当然届かない、なぜならオルフェの瞳の中に写っているのはフリーダム、そのコクピットの中のラクスただ一人なのだから。
「あなたは自分より劣っているからその男を選んだのだ!自分よりも劣った人間に囲まれ、崇拝されるのがそんなにも心地よいか!ラクス・クライン!」
「むっ……」
「なんと身勝手で冷たい女だ!バカ共が戦い続け滅びても一向に構わぬということか!」
気に入らない、気に入らない。役割を与えられていないどころかその存在意義すら曖昧な男に、なぜ彼女はああまで寄り添える?なぜだ。自分とキラ・ヤマトの何が違う。自分の方が圧倒的に優れている、不完全なコーディネイターを選ぶ理由が、どこにあるというのか!
いいや違う。オルフェは考え、結論を出した。ラクスが求めているのは自分を肯定し、引き立ててくれる脇役者なのだと。そうだ、そうに違いない。そうでなければ、キラ・ヤマトよりも優れた自分が選ばれない筈がないのだから。
「ラクスはそんな人じゃない!」
「なぜそう言い切れる、キラ・ヤマト!お前が彼女に何を施せた!平和な世界を作り出せたとでも言うつもりか!この状況を見て、お前は!」
「それを決めるのは、貴方ではありません。ましてや私でもない。私が望むことをキラが施すのではなく、キラが施す全てこそが私の望んだことなのです。その違いもお分かりになりませんか」
「ならば私は何のために生まれたのだ!この混迷の世界を導く、その為だけに生み出された私は!母上の望んだように国を導き、滅ぼし、世界を導く!それだけが出来れば良いのだ!過ちを繰り返し、他人に変化を強要しながら自分は変わろうとしない!導く者が必要だ、この世界には!だが訪れるはずだった安寧を拒絶したのは貴様だ、キラ・ヤマト!」
デスティニープランが施行されれば、例え一時であったとしても世界から争いは消えただろう。明らかになる問題点もすぐに解決できたはずだ。それを彼は、彼個人の意思で拒絶した。何故だ。
デスティニープランが施行されない世界で、アコードに生きる未来などあるものか。役職を与えられる前提で生み出されたコーディネイターは、その役目以外に存在理由を持たない。仮にこのまま生き延びたとしても、行くあてなどどこにも無いのだ。
「彼女は──ラクスは、私と共に人類を導く存在だったはずなのに!私の隣で笑っているはずだったのに!なぜ私を見ない、私を受け入れない!」
「確かに私はそうあれと創られたのかもしれません。ですが、定められたルールの中で生きることだけが人間に与えられた道では無い……私は、そう思っています」
「えっ──」
「その結果、世界が滅びようとも構わない……貴方は、そう言うのか。ラクス。自分の選択が破滅への道だと分かっていても、それでも貴方は!」
「誰かの選択が世界を滅ぼすというのなら、その世界の方が間違っている──私はそう考えますわ。誰にでも自分の歩む道を選ぶ権利があるのですから!」
「それは恵まれた者の台詞だ!」
「そんなことはない!誰にだってできる!僕は自分の意志で未来を掴む!その為に、ラクスと一緒に戦う!そう決めたんだぁ!」
「誰にでも、出来る……ああっ!」
フリーダムへと斬りかかったカルラの攻撃はことごとく防がれて、フリーダムの脚がボディ部分に突き刺さった。センサーの異常か、緑色のノイズがコクピットに走るがまだ機体は動く。衝撃に体を揺さぶられるイングリッドが、未だ諦めないオルフェを見る。彼はどうして、ここまで来てしまったんだろう。母の──アウラによって植え付けられた役目のせいなのだろうか。世界を導く者であれ、そうやって作られたからなのか。
キラだってそうだったはずだ。コーディネイターを超えるコーディネイター、数え切れない程の実験と失敗の果てに生まれた唯一の存在。だが、彼の創られた意味とは何だ?コーディネイターを超えるコーディネイターとは何だ?そんな曖昧な理由で、なぜ彼はここまでやってこられたのだ?
気づけば自分は、問いかけていた。
「キラ・ヤマト、貴方は……貴方はどうして。どうして戦えたの。平和を作るなんてあなた一人で出来るはずもないというのに、どうして?」
「イングリッド、お前──」
「僕は……僕は、ラクスの笑顔が見たい。僕が愛した彼女を幸せにしたい。そのために戦う。ラクスと二人で!」
「愛……愛とは何!そんな曖昧なもので世界を敵に回すなんて!」
「誰かを大切に想うこと、添い遂げたいと思うこと、一緒に生きたいと思うこと……それこそが愛なんだ!理由も定義も必要無い!僕がラクスを愛しているように、君だってそうだろう!」
「──っ!」
「イングリッド!?」
「自分の気持ちを抑える必要などないのです。役目だ使命だ、その意味を抱えながら生きること……そんな生き方から解放されようと願うのも貴方自身──子は親に、反抗することもあるのですよ?」
●
趨勢は決した。ジャガンナート亡き今、クーデター側に指導者は残されていない。残存勢力が疎らな抵抗を続ける中、ファウンデーション軍旗艦グルヴェイグに近づくのはミレニアム。この全ての元凶を討ち、戦いを終わらせるため。オーブを守るため。彼らは覚悟を決めていた。
「ミレニアム接近!」
「何をしている!早く撃ち落とせ!レクイエムはまだか!」
「発射まで残り300秒!」
「突貫する!艦首衝角『轟天』起動ッ!全砲門!近接装填!砲撃用──意!」
マリューの声に従って赤熱していく衝角は、ミレニアムの威容と合わせて凄まじい迫力を備えている。グルヴェイグを守ろうと接近するMSは、デュエルとバスターが撃破する。まさかまたこうして、反逆者を守ることになるとは。デュエルのコクピットでイザークが笑った。
「うわ、あぁぁぁ──っ!」
「総員衝撃に備えて!」
向けられる砲火を一身に受けながら突撃していくミレニアム。まるで中世のような強引な突撃戦に、ファウンデーション軍は対応できない。そもそも量産機一機に出来ることなどタカが知れている上に、護衛のMSが手強いのだ。不用意に近づくことなど許されない。
加速の乗った重い一撃がグルヴェイグの艦橋付近に突き刺さり、凄まじいまでの衝撃が艦を襲う。各部から広がる悲鳴を聴きながら、しかしアウラはモニタを見続けていた。ミレニアムの一撃によって、艦も自分も死に体。だがレクイエムは健在なのだ、オーブへの攻撃はもう止められない。こんな身体から逃れられないまま生き続けるのは御免だ。どうせ命尽きるというのなら、いっそ──
「全門斉射!終わらせる!」
「撃てぇ!」
間髪は入れない。ミレニアムが吐き出した無数の弾丸がグルヴェイグを襲って破壊していく。ありとあらゆる場所に砲火を受けながら火を噴いて沈むその艦の中。ぼんやりと浮かぶアウラもまた炎に飲み込まれていく。ブリッジが破壊されるまであと僅か。
その時間に思い返すのは、メンデルから逃げ出してからのこと。日々幼く、小さくなっていく自分の肉体に怯えながら7人を連れ出し逃亡生活を送っていた日々のこと。苦しかった、痛かった、寒かった。そんな日々を思い返して、残ったのは幼い彼らの笑顔だった。パンドラの箱を開いた後、希望が残されていたように。アウラの記憶の奥底には、まだ残っていたのだ。
「レクイエム──」
ならば奏でてみせよう。命を奪った世界へ向けて、彼らの魂を鎮めるための歌を。彼らを創ったものとして、彼らの命を奪った者へ復讐を──目を閉じたアウラの身体は、崩壊するグルヴェイグの中へと消えていった。
「シン!」
「レクイエムを破壊するっ!」
「露払いは俺達がやろう、行くぞ!」
「ええ!レイ一佐!」
「……紛らわしいから、彼のことはアムロ一佐と呼んでください、アスラン。俺も彼と同じ『レイ』なんですよ」
「シン!」
「オッサン!」
「オッサンじゃない!お前の装備を受け取れ!シン、お前がキーだ!しっかりぶっ壊して帰ってこい!」
「シン、後で話がある」
「────ッス」
「ったくシンめ……ルナマリア、こいつを使え!」
発射まで時間は残されていない。ムウから託されたゼウスシルエットを装備するデスティニーと、ミーティアと合体するインパルス。まるで過剰火力にも感じるが、時間が無いのだ。レクイエムへと駆け抜ける五機の中、先行するのはアムロのZアストレイ。防衛線を潜り抜ける彼に集中した敵機が、ドラグーンによる多方面からの波状攻撃で爆散して消えていく。
迎撃のMSを軽々と撃破して突き進む彼らは、中核たるシンを送り届ける為にあった。アムロとレイが撹乱し、ルナマリアとアスランが道を開く。C.E世界でも並ぶスーパーエースパイロット達の前にクーデター軍は為す術なく撃破されていくばかり。
「白い流星……さすがはアムロ・レイ」
「君たちは各自遊撃として動いてくれ。目的地はすぐそこだ、シンは俺たちオーブ軍が援護する!ルナマリア、レイ、アスラン──この戦いを終わらせるために頼む!」
「「「了解!」」」
同じ名前の男だが、彼はきっと自分よりも。レジェンドのコクピットから見る彼のZアストレイ、その軌跡は鋭角的で、それでいて流麗な流れ星のようにきらりきらりと光って見えた。機体剛性を信頼した変形の多用は、時にAMBACとして使用されその動きをトリッキーなものへと昇華させている。クーデター軍が焦るのも当然だ、傍目にはムラサメにしか見えない機体一機を捉えられないのだから。
『あの機体、まさか!』
「オーブ全軍!聞こえるか!こちらアムロ・レイ!ここからは俺達も援護する、全機──フルブラスト!オーブ軍の、ナチュラルの力を見せつけてやろう!」
『──了解ッ!』
「アマギ、よく持ちこたえた。反撃開始といこうじゃないか」
『アムロ一佐、よくご無事で……は、委細承知であります!我らとて貴方に劣らぬということ、お見せしましょう!』
『デスティニー、シン・アスカ。君はオーブ出身と聞いている。まだ歳若いというのにその活躍ぶり、流石だな』
『オーブ軍人としての誇りだ、またオーブに来ることがあったなら顔を出してくれ。その時は歓迎しよう、盛大にな!』
『よぉしお前ら!送り届けるぞ!我らの希望を!』
『『『応!』』』
「みんな……」
「任せろ、シン。俺の部下は強いぞ」
三機による戦闘を、たった一人でやってのける。可変状態のムラサメ改を引き連れ、彼らを引き連れたアムロは自由自在な矢のように全てを貫いていく。その奮戦ぶりはオーブの力をザフト・連合両方に見せつけることになり、戦後の交渉に非常に有利に働いたとか働かなかったとか。
シンのデスティニーを守るように散開したムラサメ隊、その全てが縦横無尽に動き続け彼をレクイエムへと送り出す。オーブを守る者として、その禍ツ刃を破壊するため──天の雷を降らせてみせろ。彼らの意志に背中を押されて、シンは射出口の前にデスティニーを静止させた。
「射出電圧臨界……今度こそ!」
光の翼を広げたMSから下される運命の一撃。今度こそ、オーブを守りきったのだ。歓声によって迎えられるシンの顔は晴れやかだった。
●
「母上!くそ、貴様らぁ!」
「オルフェ、もうやめて!貴方に戦う理由は──」
「イングリッド!?」
グルヴェイグ撃沈の報せに動揺したオルフェはフリーダムへの攻撃を続けるも、彼の腕を強引に止める存在があった。後部シートに座っているはずのイングリッドが、オルフェの身体を抱きとめていた。何をしているのか、お前はただ後ろで私の援護を──ああ、そうか。
オルフェは気づいた。イングリッドの介入で、ほんの一瞬だけ冷えた頭が状況を確認させてくれた。もうジグラートも、ドラグーンも。攻撃手段だって半分を失った。艦隊は壊滅し、アコードで残るのは我ら二人だけ。レクイエムがオーブを撃ったところで、もはやファウンデーションは風前の灯だったのだ。
「オルフェ、イングリッド。貴方達に戦う理由はもう残っていないはずです。降伏してください。悪いようには──」
「イングリッド、そうか。君は……」
「ごめんなさい、オルフェ。私は失敗作だった。貴方の作る世界に、導く者たちの中に、居てはいけない者だったの。こんな感情を──貴方への愛を持っているなんて」
「君は選んだのか、イングリッド。母から与えられた役目ではなく、自分自身の進む道を。未熟なのは私だった、と。そういうことか……」
戦いは止まっていた。こちらを待つように、フリーダムはカルラを見つめていた。右腕を抱きしめるイングリッドに、オルフェはゆっくりと左腕を添える。アコードとしての力は使うまでもない。彼女から伝わってくるのは、十数年と溜め込み続けた感情だった。辛い、苦しい、負の感情ばかり。そんなものは自分だって持っている。
だがこの感情は何だ?イングリッドから伝わってくるのは、自分へ向けられた柔らかい感覚。オルフェの顔、声、導くという気概への気持ち……考えなくとも分かる、そうか、これこそが愛というものか。もっと早くに知りたかった。もっと早くに教えて欲しかった。勉学も、政治も、礼儀も、全て母が自分に教えてくれたものだったが──こんなものは一度たりとも教えてくれはしなかった。まさかこの時、この場所でイングリッドから教えられるとは思いもしなかった。
「その感情に早くから気づいていた君は確かにアコードの失敗作なのだろう、イングリッド。そんな失敗作など不要──今すぐに私の目の前から消え失せろ。私の隣に立つ義務など無い。ファウンデーション王国からの追放を命じる」
「オルフェ、どうして……!」
「邪魔なのだ、君は。私の望む世界の中に、君のような存在が居てはならない。来てはダメなのだ、イングリッド。私の死出の旅に、君は──」
「オルフェ、何を!」
「ラクス・クライン。私の望む世界にこの様な失敗作は不要、そう思いはしませんか。愛という不確定な感情を抱く者がデスティニープランに組み込まれては仕組みが崩れてしまう、だから──」
「そうかもしれません。ですが、彼女はどうでしょうか。貴方が不要と断じたとして、イングリッドが貴方の傍から離れるとお思いですか」
コクピットハッチを開き、イングリッドを押し出そうとする。が、彼女の腕はオルフェの腕に絡められて動く気配がない。何故、何故だ。君はアコードの失敗作などではない、むしろ我らよりも完成されている。世界に解き放たれたとて、君以外に生きていける者はいないだろう。早くここから、こんな場所から飛び出していくべきだ。母の呪縛ではない、自分自身の意志に従って。
数分前までの思想はどこへやら、どこか焦ったように彼女を追い出そうとするオルフェに向かってイングリッドは微笑んだ。
「忘れているの?オルフェ。私もアコード、貴方の考えていることは分かるのよ?」
「イングリッド……」
「だから、ね?」
そうか、それならば。オルフェはハッチを閉じて、イングリッドを後方へと座らせる。彼らの行動を理解できないラクスが口を開こうとして、キラが片手を上げた。まるで彼らの行動を見守るように、彼らの選択を尊ぶように。
「オルフェ──」
「キラ・ヤマト──」
言葉は一瞬で、機体の交錯も一瞬だった。イングリッドもオルフェも、負けるつもりは無かったが──しかし、やはり。ようやく成長を始めた彼らに対して、キラとラクスはもうずっと先の領域に立っていた。彼らに届く道理など、最初から無かったのだ。
「ねぇ、オルフェ」
「悪くないな、それも──」
爆炎に沈むレクイエムを背中に、彼らは笑った。
※サイコフレームはありません。多分。
次回エピローグです。
オルフェとイングリッドは、最期に何を想ったのでしょうね。
それはきっと僕たちには分からない、心が読める彼らアコードにしか分からないものなのでしょう。
では。
アフターストーリーは
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欲しい
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要らない
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SEED新作書け