僕はとても悲しいです。
へへ、巫山戯やがって……
アムロさんは良き大人です。良き大人なんですけどどうにも誤解されやすいタイプなんじゃないかとも思ったり。昔のことを描写するつもりはありませんが、71年、73年、75年で彼も変わったという設定も。
具体的には言葉足らずなアスランタイプだった感じですわな。言わずとも伝わるだろう?みたいな。怪しさと胡散臭さと同族嫌悪で反射的に手が出たアスランでした。ニュータイプの感応波を食らってアスランの不信感もうなぎ登り。
実際のところ、ニュータイプとアコードって似てますよね。
似てるだけで別物ですが。
「ムウ。諦めて制服をプレスしろ。そんなヨレヨレの制服で女帝に謁見するつもりか?」
「分かってますよアムロ一佐殿!だから今必死に慣れないことやってんでしょうが!くっそぉ!たかだか制服になんで俺が!」
「……賑やかで良いですね」
「ノイマン、ハッキリ言ってやれ。『日頃からちゃんとやっておけ』とな。こいつはそうでもしなきゃずっとこのままだ」
悪戦苦闘しながら制服をプレスするムウに、苦笑しながらコーヒーを啜るオペレーター達。あれから数日、ミレニアムと合流しファウンデーション王国へと向かうことになった。謁見するのに着古した制服もどうか、ということで休憩室で急遽開かれることになった制服プレス会。なんやかんやで嫌だ嫌だと逃げ回っていたムウをラミアス艦長が引っ捕まえたことでクライマックスを迎えている。
一番若いヒメコですら危なげない手つきで終わらせたというのに、この男はいい年こいて何をやってんだか。特に俺とラミアス艦長からの冷たい視線を背中に感じているのか、ムウは焦ったように制服に怒鳴っている。みっともないからやめろ。
「いつも私に任せているからそうなるのよ」
「フラガ大佐……?」
「ダメな旦那の代表格みたいになってますね。制服のプレスに苦戦するエンデュミオンの鷹、ですか……」
「ノイマン、それは狡いだろう」
「聞こえてるぞオペレーターズ!俺だって本気を出せばこの位は何とかなるんだ、よぉ!くそぉ!またやり直しかよ!」
「そのうち服が溶けそうですね……」
「全くだ」
見かねたラミアス艦長がムウに張り付いたので、我々はそそくさと退出することにした。流石にあの二人のやり取りを目の前にしてコーヒーを1杯だけでは分が悪すぎる。移動した先の食堂で少し早いティータイムとするようだ。
俺も誘われたのだが、少し嫌な予感がするので断った。別にティータイムそのものはいいんだ。秘蔵の茶を出すことも吝かではない。しかしそれとは別に、なにか粘つくような何かを数日前から感じている。これはおそらく、俺一人で何とかなるような問題でもない。格納庫でムラサメのシートに身を委ねてキーボードを叩きながら、俺は操縦桿を撫でる。
「キラに任せてばかりでは居られないからな……」
そう言いながら調整しているのは彼の考案した装備であり、未だにキラに頼ってしまっていることを否が応でも感じさせる。俺も力になりたいが、如何せん機体が持たない。ムラサメ改もいい機体だが、この前身機は非常に手応えがあった。叶うならばもう一度あの機体に乗りたいものだ。
通りすがりのジャンク屋に何を吹き込まれたか知らないが、登録名が勝手に変えられていたことには驚いた。俺がどこかで聞いたかのような名前だったから余計にな。ジャンク屋自体はそこまで意識していなかったと思うが、ある少年のことを思い出してしまったんだ。狙っていたのなら天才だな。
「アムロ一佐!そろそろミレニアムが降下してくるそうです!そろそろですし、我々も準備しませんと!」
「分かった!五分待ってくれ、すぐに終わらせて向かう。いや待て、どうやって向かうんだ?場合によってはここで待機した方が……」
「ミレニアムに移るそうです!」
「ということは小型機か。それならここの方が近い。限界まで作業するから、そちらは俺を気にせずやってくれ!」
有難いことだ、ここまで気を回してくれるとは。組み直したプログラムを送信しようとして、コクピットに表示されるミレニアムの座標がすぐ近くになっているのに気が付いた。ちょうど良いタイミングだったな。
にわかに騒がしくなる足元に意識を飛ばしながら、送信を開始。すぐさまアルバートからのレスポンスがあった。確かに彼はミレニアムで待機を命じられていたが、それにしたって早すぎるだろう。
「……俺は別に行かなくてもいいんじゃないか?」
「ダメだぞ!お前も行くんだ!俺一人であのガキ共を抑えられると思うのか、アムロ!頼むから一緒に来てくれ!」
「はぁ……」
ムウの悲痛な声がここまで聞こえてくる。確かにクセのある奴らだが、そこまで礼儀知らずでもないだろう。仮にもザフトのアカデミーを卒業している奴らに、一番マトモに見えるキラだ。無礼を働くことは無いはずだが……まぁ、シンとアグネスか。
深いため息と共に、昇降用のワイヤーに足をかける。タブレットはともかく、儀礼用のものは一通り持ち込んであったんだ。ダメ元で言ってみただけなんだから、そんなに悲壮な顔をするんじゃない、ムウもラミアス艦長も。どれだけシンとアグネスの事が不安なんだ。
「分かった、分かったよ。そう言われると思って帽子も持ってきておいて正解だったな。その代わりムウ、お前もしっかり働けよ?」
「言われなくてもそのつもりだ」
●
「ようこそ姫、ファウンデーションへようこそ」
王宮に到着するなり恭しく一礼してきたのがこの国の宰相、オルフェ・ラム・タオ。あのデュランダルが才能を見出したという話だが、この若さで宰相を任され国を建て直しているならばそれも頷ける。となれば、後ろに控えているのが近衛師団のブラックナイツ……若い。
それに驚いたのか、呆けた表情のラクスにキラが声をかける。疲れが見えたのだろうか、人あたりの良さそうな笑みを浮かべたタオ閣下自らが先導して歩いていく。なんとも不思議な役職だな、宰相とは。ここまで客人を迎え入れ、尚且つ誘導していかねばならんとは。歩き始めた集団を最後尾から眺めていると、キラが突然立ち止まった。
(邪魔な奴──)
「ふむ、今のは」
思わず口に出してしまったが、誰にも気付かれた様子はない。ただ、振り向いて歩いていくブラックナイツがキラに視線を向けていた事が印象に残っていた。しかしこの、脳裏に直接囁かれたかのような感覚……まさか、俺と同じか?
この場において、その疑問は解き明かせない。だが、拭えない違和感となんとも言えない不快感、そしてざわつきが止まらない胸中は俺に警戒心を抱かせるには十分すぎた。
「ようこそファウンデーションへ、アウラ・マハ・ハイバルである。此度のコンパスの迅速な対応、痛み入る」
「御拝謁の栄誉を賜り、誠に光栄に存じます。アウラ陛下」
恭しく頭を下げるクライン総裁。まだ歳若いと言うのに、物怖じもしないとはなかなか。俺も人のことを評価できるほど出来た人間ではないが、彼女の堂々とした姿は同世代でも真似できるものは居ないだろう。
さて、ミケール大佐のパルチザンの話については俺も知っている事柄だったので省略するが、最後の礼に遅れたシンは後できっちり礼儀作法を仕込んでやる必要がありそうだな。アカデミーで習っているはずだが、何をしているのか。
「いやあ、やっぱり格式ばったのは苦手だな」
「緊張を解すためとはいえ、その発言は今すべきものではない、フラガ大佐。ましてや我々は案内していただいている身だ」
「いえ……お気になさらず」
「寛大な措置、感謝する」
早速袖を捲り上げたムウを睨みながら釘を刺す。緊張しているらしいキラたちを和ませる意図なら、もっと別の話題にして欲しいものだ。オルフェ閣下の秘書だというイングリッド・トラドールの誘導のもと、警備の兵が並ぶ廊下を歩いていると中庭らしい場所に出た。
緑豊かで光が差し込んでいるが、鳴り響いているのは鋭く硬質な剣戟音。立ち止まって視線を向ける先では、近衛師団の面々が腰に下げたサーベルで訓練を行っていたらしい。イングリッド秘書の案内は中庭へと向けられているし、間近で見ろということなのだろうか。
「彼らが我が国の近衛師団です」
「噂のブラックナイツか……彼らが」
「あの白髪の者、なかなかな手練だな」
「彼はシュラ・サーペンタイン。近衛師団長です」
「あれが……」
素早い身のこなしと、油断のない立ち回り。相手をしているのもブラックナイツだろうが、団長らしい素晴らしい剣戟だ。相当な訓練を受け、それでいて研鑽を欠かさなかったのだろう。そうでなければあれだけの実力は発揮できまい。
そう考えていると、シュラ団長がこちらに視線を向けた。見定めるような視線に気付かれたのだろうか。だが彼は気にすることなく斬り合いを続けていた。ふむ、なるほど。歳若い実力者という言葉が全くもって似合う青年だ。ブラックナイツもな。
「──ッ!」
「──危ないな。仮にも我々はファウンデーション王国から招かれてやってきた客人という立場、来賓に傷を負わせては近衛師団の名が泣くのではないか?」
「──やれやれ……シュラには勝てませんね」
「一手、御指南いただけませんか。ヤマト隊長」
咄嗟にキラの首根っこを引っ掴んで後ろに下がらせると、つい先程までキラの足があった場所にサーベルが突き刺さった。文字通り、一歩遅ければ足をサーベルが貫いていたところだ。客人の前でのパフォーマンスにしても危険すぎる。あまつさえその対象に向かってそんな発言だと?
「いえ、僕は……」
「へぇ、剣が使えない隊長さんかい」
「コンパスっての、案外大したことないんじゃない?」
「それはこの間実証したし……」
「お客人に失礼ですよ貴方たち!」
どういうことか、を尋ねても彼らからの返事は無い。後で正式に抗議すべきだろうか。流石の俺にも常識やマナーについての知識はある。来賓に挨拶もなく、あまつさえ流血沙汰の一歩手前にまで陥らせておいてこの態度とは。
こんな連中の舵を取るタオ閣下とイングリッド秘書には同情の念を隠しきれない。これではただの不良集団ではないか。まともな軍隊には見えないし、それどころかまともな教育を受けているのかも怪しくなってくる。現に全員がこちらへの挨拶を欠いている状況だ。
「隊長、ここは俺が!」
「シン!」
そんな彼らから、キラへの挑発ともいえる発言。この場で国際問題にすることも出来るような発言だが、クライン総裁が居ない以上問題にすることは難しい。ラミアス艦長も席を外しているから、この場で起こった問題は報告の義務はあれど問題になるかと言われれば微妙なラインだ。証拠映像があれば一撃だが。
『レイ一佐、証拠映像はありますが』
「やめてくれ……折角の外交努力が無駄になる」
『ふむ、そうですか。ではこちらの方で保存させていただきます。帰艦する際は一度ミレニアムへお越しください』
「分かったよ」
そしてアルバート、お前は何をしているんだ。余りのことに思わず変な声を上げそうになった。傍から見れば、あまりの行為に眉間を抑えただけにも見えただろう。決闘を勝手に受けるなシン……
そんなことをしている間に、シンとサーペンタイン団長との戦いは終わっていた。シンの両手持ちはどっしりと両足を地面に着けた、ある意味基本に忠実な彼らしい戦い方だった。が、相手が悪かっただろう。驚異的な反射神経と技量でその全てを躱されると、手元から武器を弾かれたシンの首元にはサーベルが突きつけられていた。
「なんだよ、"フリーダムキラー"も大したことないなぁ」
「よく持った方じゃない?あはは!」
反射的に腰に手が伸びるが、これはあくまで訓練だという建前だった。空を舞ったサーベルは持ち主らしい青年がキャッチしている。ブラックナイツの興味は既にシンから移っているのか、もう彼に視線が向くことは無い。
「やはりアスラン・ザラが最強か……」
「はぁ!?誰があんなやつ──」
「やめろ、シン」
嘲るような表情と共にサーペンタイン団長が呟いたのは、初対面で俺に殴りかかってきた彼の名だった。確かに近接戦においては抜きん出ての実力者だが、果たして彼にそこまで持ち上げられるような強さがあるかと言えばそうでもない。そこが得意、というだけでそれぞれの持ち味があるだけの事。シンにもキラにも、別の強さがある。それに、MSの性能で強さが決まるわけでもない。人間性とて人の強さの指針になる。
「世界を総べるのは、力のあるものだけだ。お前にその力があるのか?」
おそらく戦いにおける"強さ"を求めているのであろう彼は、キラへとサーベルを突きつけた。いよいよ以て外交問題だな、と内心頭を抱える俺は俺で抜き放った拳銃をサーペンタイン団長へと向けている。これ以上の問題行動はやめて欲しい、そう願いながら。耳に着けた通信機からはキラへの非礼に対するブーイングが絶えない。ミレニアムの面々は暇なのか?というかどこから見てる。
「サーペンタイン団長!」
「そんな世界……人は望まない!」
「そうかな。君の指揮で戦うのが楽しみだよ」
やはり、だろうか。彼がこちらに視線を向けることはついぞ無かった。去り際にも声をかけたのはアグネスにのみ。コーディネイターだけに注目して、俺やムウには興味なしか。余程自分たちの存在に誇りを持っているのか、それとも強い者にこそ価値があると考えているのか。
「強きものは美しい。月光のワルキューレ……」
いや、コイツらただの脳筋じゃないか?
※アムロさんの制服胸元ボタンには秘密があります
割とみなさん、今作のアムロさんを受け入れてくださっているようで何よりです。今作では劇場版で描かれなかった場面を描写していきたいなと考えていたり。舞踏会でのアークエンジェルクルーとか。
前書きの通り、アムロさんは元々言葉足らずな人でした。父親は技術職で家にあまり帰らず、同じくあまり家に居ない母親との二人暮らしでした。前世分入れてもこんなんでコミュ力鍛えられるかって話。
その後彼なりに努力した結果が今作アムロさんです。軍隊で鍛えられたから説教臭くなるのも仕方ないね!
そんなアムロ効果でメンタル改善してるといいですね、キラさん。
それでは。
良くも悪くもガンダムSEEDシリーズのテイストを
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出して欲しい
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出さなくて良い
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モルゲンレーテでムウ・ラ・フラガ