ぼざろ劇場版公開記念の初投稿です。
中二病の朝は早い。
春の訪れを感じさせる穏やかな日差しが差し込む中、一人の少年がベッドの上で目を覚ましてしまいました。もちろん目を覚ますと言っても少年には目が二つしかありません。第三の目などありません。誠に残念ながら邪眼の力を持っていないのです。
目を覚ました少年は洗面所へ向かって顔と髪を洗い、ドライヤーで髪を乾かしながら今日もおでこに第三の目が開眼してないことに酷く落胆してしまいます。仕方がないのでマジックでおでこに第三の目を書き、それを隠すように頭に包帯を巻いたのでした。
少年曰く「第三の目は見せびらかすものではない」のだそうで。全く持ってその通り、少年の絵は人に見せられたものじゃありません。
そして少年は自室へ戻り制服へと着替えるのですが、何を思ったか少年はワイシャツの下にそれはそれはおぞましいTシャツを着てしまったのです。中学生が好きそうな謎フォントで書かれたまとまりのない英単語群、胸からお腹にかけて大きな髑髏マーク。絵具を飛び散らせたようなペイント。
こんなTシャツを着ることが許されるのは中学二年生までです。しかしこの少年は高校生。しかも今日が入学式のピカピカの一年生。
高校生にして、彼は不治の病を患っていたのです。
しかし彼はその病気を受け入れ、スタンドミラーに映る中二Tシャツを着た自分の姿を見て満足げな笑みを浮かべています。ああ、なんと嘆かわしいことか。
不治の病を受け入れ笑顔を浮かべて前向きに生きる少年。字面だけは感動的でございます。字面だけは。
さらに彼のファッションショーは続きます。ワイシャツを着てネクタイを締めてブレザーを羽織りポケットにチェーン付きの財布を入れます。チェーンはズボンのベルト穴に引っ掛けるタイプのものです。これで財布を落としたりスラれることもないでしょう。しかし彼にそんな防犯意識は微塵もありません。ポケットから見えるじゃらじゃらしたチェーンが格好良いと思っているのです。嘆かわしい。
そして彼は腕にシルバーのブレスレットをつけ、太陰太極図が描かれた黒の指ぬきグローブを装着します。
最後の仕上げに彼が敬愛してやまない偉大なる女傑、大槻ヨヨコから賜ったロザリオネックレスを首にかけて完成です。
ちなみに彼は寺生まれです。懐にはいつも実家の御札を忍ばせています。
寺、陰陽道、キリスト教。なんということでしょう。彼は一人宗教戦争を始めてしまいました。
しかし彼はそんなことは耳クソほども気にかけず、ただただ満足した表情で頷くだけです。
この恰好で高校の入学式に乗り込もうとする鋼のメンタル。その精神力だけは見習いたいところでございます。精神力だけは。
そして、身支度を済ませた彼は意気揚々と部屋を出て朝食を食べるためにダイニングへと向かいます。ダイニングにいたのは中性的で非常に端正な顔立ちをした黒髪の綺麗な女性でした。
一体彼女はこの中二病とどのような関係なのでしょうか。
「志麻、コーヒーはブラックで頼むよ」
「その前に!!
「ふっ───志麻にはわからないさ。研ぎ澄まされ洗練された僕の
「外しなさい」
「……
「もう一回だけ言うよ。外しなさい」
「……
「真琴?」
「ごめんなさいお姉ちゃん」
彼女の名前は岩下志麻。彼の名前は岩下真琴。この二人は血の繋がった姉弟であり、二人暮らしをしているのです。
岩下志麻───彼女は岩下真琴の数百ある弱点の中の一つにして最大の弱点なのです。
「真琴、砂糖はいくつ?」
「……みっちゅ」
姉に勝てる弟などいない。たとえ中二病であろうとも彼にとってお姉様は世界で最も愛おしく、世界で最も恐ろしい存在なのでした。
指ぬきグローブとブレスレットがお姉様に没収され、意気消沈したまま彼は学校へと向かいます。懐に忍ばせていた実家の御札と偉大なる大槻ヨヨコから賜ったロザリオネックレスは没収されませんでした。御札はともかくなぜロザリオネックレスが没収されなかったのかというと、彼が駄々をこねてこねてお姉様に懇願したからです。
「これは僕とヨヨコ
お姉様にとって大槻ヨヨコは可愛い後輩であり、彼は可愛い弟だ。なので「絶対に学校でつけない」という条件の下、没収を免れたのです。彼は歩きながらポケットに大事にしまい込んだネックレスをポケットの上から優しく撫でています。その表情のなんと慈愛に満ちたことか。
彼は岩下志麻の弟であるが故、顔立ちは非常に整っております。そんな美少年が朝の日差しを浴びながら慈愛に満ちた表情を浮かべている。なんと尊い光景なのでしょうか。一目惚れをする女性が出てきてもおかしくはありません。現に、彼とすれ違った女性は例外なく振り返って彼を見ていたのですから。
しかし、そこは中二病。女性達が振り返った理由は彼の顔立ちではありません。
彼が両手に巻いている包帯が原因だったのです。そうです。彼は指ぬきグローブで封じていた力を包帯で封じ込めたのです。家を出て歩きながら包帯を巻き巻きしていたのです。不審者です。通報されてもおかしくはないでしょう。
しかし彼は包帯の巻き巻き具合に大変満足しているようで、鼻歌交じりの軽い足取りでこれから三年間通う高校───秀華高校へと足を踏み入れるのでした。
入学式とホームルームの最中、彼の視線はずっと一人の少女に注がれていました。その少女は桃色の長髪に猫背、病的なまでの白い肌をしており時折プルプルと震えています。なぜ彼がこの少女をずっと見つめているのか。もしかして一目惚れをしてしまったのでしょうか。
そんな可愛らしい理由ならどれほどよかったことでしょう。当然、中二病である彼は恋愛感情なんて微塵も理解しておらず、もちろん恋愛経験はゼロで情緒は小学一年生のままなのです。
彼が彼女に熱い視線を向ける理由───それは、彼女にとんでもない悪霊が憑いているからでした。
皆様お忘れかもしれませんが、彼は寺生まれです。将来坊主になることが決まっています。つるっぱげになることが決まっています。
寺生まれのIくんなのです。
そう。彼は
姉の志麻は全くそういうものが見えないのですが、彼は違います。代々「芳文寺」を継承してきた岩下一族で歴代最高の力を持つ少年なのです。
どれほどすごいのかというと、霊力だけは護廷十三隊の隊長クラスといえばわかりやすいでしょうか。
しかし、そんな強大な力が───彼を中二病にしてしまった。
自分には、他の人に見えないものが見えている。
普通ならば幽霊が見えると言っても信じてもらえず、その能力をひた隠しにすることでしょう。もしかしたらそれが原因でいじめに遭い、学校で孤立する。どこにでもあるよくあるお話です。
しかし彼は生粋の中二病。鋼のメンタルを持つ中二病。
能力をひた隠しにするどころか、中学時代は振り切れた中二病として多くの友人達に恵まれていました。中途半端に冷めた態度をとるクール系中二病なら遠巻きに見られていたことでしょう。しかし彼はいつも全力全開本気の中二病。だって本当に幽霊が見えるのだから。
中学時代には学校の七不思議のひとつである「深夜に廊下を時速百キロで走る妖怪ターボババア」を除霊したこともあります。「最近肩が重いわ」と悩む三十路女教師に取り憑いた気持ち悪いおっさん霊を除霊したこともあります。「こっくりさん」を行っていた女生徒達が降霊させた悪霊を除霊したこともあります。
本当に特別な力を持っているが故、彼の中二病は───不治の病となってしまったのです。
ああ、いとこころぐるし。
そんな百戦錬磨の彼が冷や汗を流してしまうほどの悪霊が桃色の彼女に取り憑いているのです。これは一刻も早く除霊せねばなりません。その悪霊が無差別に悪意を撒き散らさないことだけが不幸中の幸いでしょう。
長い長いホームルームが終わり、生徒達が教室から出ていきます。桃色少女はその流れに乗り遅れたようで、教室に一人取り残されてしまいました。これは彼にとって好都合。彼は懐から実家の御札を取り出し、彼女の背中に向かって思い切り投げつけました。
「なん……だと……!?」
思わず彼は呟きました。
それもそのはず。彼女に投げつけた御札が一瞬で炭になってしまったからです。大抵の幽霊はこれで一発なのですが、さすがは彼に冷や汗をかかせた悪霊。一筋縄ではいかないようです。
一枚でダメなら複数だ。彼は続けて三枚の御札を投げつけます。しかし先ほどと同じように三枚のお札は一瞬で炭と化してしまいました。
「あ、あの……」
異変を感じた桃色少女が少年の方へ振り返ります。それもそのはず。この少年は傍から見れば無防備な少女の背中に怪しい紙きれを投げつける不審者なのですから。
「少女よ───動くな」
彼は残りの御札六枚を同時に使うことに決めました。三枚ずつ片手に持って身体の前で両腕をクロスさせて無駄に格好をつけます。
なぜなら彼は中二病だから。
そして桃色少女はそんな不審者全開の少年の姿を見て、驚いたり恐怖したりするどころか子供の様に目を輝かせていました。
なぜなら彼女も中二病だから。
なんということでしょう。出会ってはいけない二人が出会ってしまった瞬間です。
水と油……ではなく酸性洗剤とアルカリ性洗剤といったところでしょうか。
中二病な彼女にとって、ものすごい美少年が包帯を巻いた両腕をクロスさせて六枚のお札を持っている光景は心がくすぐられるに違いありません。ああ、どうして私もお家にある御札を持ってこなかったのかと桃色少女は後悔しています。しなくていいですそんな後悔。
「───
なんということでしょう。彼は六枚の御札を飛ばすと同時に技名を口走ってしまいました。あいたたたたた。これは痛い。痛すぎる。普通の人間なら明日から不登校になることでしょう。しかし彼はこの程度で不登校になるほど軟なメンタルをしていないのです。もうちょっと軟らかくてもいいのでは?
そして技名を聞いた桃色少女はドン引きするどころか感銘を受けたような表情を少年に向けています。
放課後の教室で熱く見つめ合う男女───恋愛漫画の第一話でしょうか?
いいえ違います。中二病な少年による中二病少女に取り憑いた悪霊の除霊場面です。
「ば、バカなっ……僕の技が……通じない、だとっ……!?」
無情にも六枚の御札は炭になってしまいました。畏怖と驚愕の入り混じった表情を浮かべる彼とは対照的に、桃色少女は笑顔を浮かべて拍手しています。炭になった御札を見て、彼女はこう思ったに違いありません。
きっとこの少年は私と同じで中学時代からぼっちでマジックに青春を捧げてきたのだろう、と。私と仲良くなるためにマジックを披露してくれたのだろう、と。
確かに、事情を知らなければ少年がマジシャンに見えてもおかしくありません。真琴くん可哀想。
「くっ……こうなったら……こうなったら……
追い詰められた少年の額には大粒の汗が浮かんでいます。それに対して少女は「次は何を見せてくれるのか」とわくわくしています。真琴くん可哀想。
そして彼は震える手でポケットからあるものを取り出します。
彼が取り出したもの───それは偉大なる大槻ヨヨコから受け継いだロザリオネックレス。
「ヨヨコ先生───僕に、僕に力を貸してくださいっ!!」
ロザリオ部分を両手で持ち、苦悶の表情を浮かべて桃色少女に向けて手を伸ばす。寺の跡継ぎが
寺と神の力が合わさり最強に見える。そう、今の彼は寺生まれの
「───
瞬間、ロザリオは無残に砕け散ってしまいました。彼の全身全霊を賭けた一撃ですら少女の悪霊を払うことはできなかったのです。もはや少年に打てる手はありません。
この日、この時、この瞬間───少年は、生まれて初めて姉以外の前で絶望し、膝をついてしまいました。
すまない。本当にすまない桃色少女よ。今の俺では───君を救えない!! そんな彼の魂の叫びが聞こえてきます。これほどまでに己の無力さに打ちひしがれたことはなかったことでしょう。生まれた時から中二病で鋼のメンタルをもつ彼は桃色少女の悪霊ちゃんにわからせられてしまったのです。
ざぁこ♡ ざぁこ♡ よわよわ御札の寺生まれ♡ 御札十枚も使って除霊できないとか恥ずかしくないの?
少年がわからされている一方で、少女は大変困っていました。なぜならマジックを披露してくれた少年がとても落ち込んでいたからです。
ロザリオが砕け散ったのは少年にとって計算外、つまりマジックが失敗してしまったから落ち込んでいるのでしょう。きっとあのロザリオを使ったマジックは少年の十八番だったに違いありません。桃色少女は愚かにもそう勘違いしてしまいました。
まさか自分に取り憑いた悪霊を払おうとしていたとは夢にも思わないでしょう。
だがしかし、少女は生まれながらにしてコミュ障で人生で友達が一人もできなかったプロぼっち。そんな彼女に今日会ったばかりの人を、しかも異姓を励ます手段なんて思いつきません。
それでも桃色少女は心優しい女の子です。どうにか少年を励まそうとその小さい小さい脳みそを必死で働かせます。
そこでふと、少女は気付きました。机に置いてある少年の筆箱にある物がついていることに。
そのある物とは───サービスエリアのお土産コーナーでよく見かけるドラゴンが巻き付いた剣のキーホルダーでした。
繰り返しますが、少女も少年と同じく中二病です。つまり、彼らの趣味嗜好は非常に酷似しているのです。当然、彼女もこの類のキーホルダーを十個以上持っています。だけど残念ながら今は同種のキーホルダーの持ち合わせがない。
さてさて困ったどうしよう。桃色少女はうんうんと悩んでいます。しばらくして、どうやら余計なことを思いついたらしく桃色少女は年頃の女の子がやっちゃいけないおぞましい笑顔で自分の鞄を漁り始めました。ちなみにこのおぞましい笑顔に悪霊は一切関係ありません。
中から取り出したものは───サービスエリアのお土産コーナーでよく見かける鞘が外れるタイプの日本刀キーホルダーでした。
「こ、これっ……!」
落ち込んでいる少年を元気づけるため。自分にマジックを見せてくれたお礼をするため。心優しい桃色少女はキーホルダーを少年に差し出しました。
少年は俯いていた顔を上げ、震える手でキーホルダーを差し出す桃色少女の顔を見ます。
そして彼は全てを理解しました。
桃色少女が自分に日本刀キーホルダーを差し出したその意味を。
(これを使って───除霊してくれということか!!)
そう。少年はこのキーホルダーを斬魄刀だと解釈したのです。少年はBLEACHという漫画が大好きです。オリジナル斬魄刀やオリジナル卍解、オリジナル鬼道、オリジナル詠唱などなど百種類以上考えてノートに記録している中二病です。
御札もロザリオも失ってしまった自分に桃色少女が斬魄刀という新たな道を示してくれたと愚かにも解釈してしまったのです。とんでもない勘違いです。いとこころぐるし。
キーホルダーを手渡した少女は顔を
(僕から去っていく。今の僕では力不足だと───卍解を習得してから出直してこいと、そういうことか)
今の自分では黒崎一護になれない。今の自分では寶月夜宵ちゃんにはなれない。それが彼にはよくわかったのでしょう。全然わかっていませんが。
去り行く少女の背中を見て、少年は静かに誓います。いつか必ず───君を救ってみせる、と。
こう書けば少年漫画っぽいですが、傍から見れば入学早々変な紙切れとネックレスの残骸で教室を散らかした日本刀キーホルダーを持つ中二病です。
「最後に……教えてくれっ!! 君の名はっ!?」
彼の問いに、桃色少女は振り返ることなくこう答えました。
「ご……どぅ……ひっ……とぅーり……れすっ!!」
なんということでしょう。生まれながらのコミュ障である桃色少女はいきなり名前を聞かれて上手く答えることができず噛み噛みになってしまい恥ずかしさのあまり走って逃げ出してしまいました。
「ゴッド・ヒットゥーリ……? インドの
こうして桃色少女───後藤ひとりは神になったのです。噛み噛みなだけに。
「うぇ……うえぇ……ごべっ……ごめんなざいヨヨコぜんぜい……僕、僕……先生にもらったネッグレズ……こ、壊しちゃいまじだぁ……!!」
なんということでしょう。先ほど少年漫画の様に絶対に少女を救ってみせると誓ったばかりなのに、真琴くんは新宿FOLTというライブハウスにやってきて敬愛する大槻ヨヨコの前で土下座をしながら大号泣しています。
「マコっさん大丈夫っすか? ほら、ウチが使ってるのと同じタイプの黒マスクっすよ。これ着けて元気出してください」
「真琴くーん。クッキー焼いてきたから一緒に食べよ? ね?」
「真琴さんが泣いてるとルシファーちゃんとベルフェゴールちゃんも悲しいですよ~」
長谷川あくび、本城楓子、内田幽々。彼女達は偉大なる大槻ヨヨコのバンドメンバーであり、彼の病気に理解のある少女達です。中二病に優しいギャルは実在していたのです。やさしいせかい。
彼はボロボロ涙を流しながら長谷川あくびに黒マスクをつけられ本城楓子にクッキーを食べさせてもらい内田幽々の西洋人形さんによしよしと慰められています。もはや中二どころか小二ほどまで退化しているのは気のせいではないのでしょう。
「マコトー? こっちおいでー。イライザお姉さんがぎゅーってしてあげるヨー」
「うえぇ……イライザしゃん……」
今度は金髪巨乳の可愛い女性が現れました。彼女の名前は清水イライザ。彼の畏怖する姉である岩下志麻が所属するバンドメンバーの一人です。ちなみにお姉様はここにはいらっしゃいません。ゴミ
彼女もまた中二病に理解のあるギャル……どころか重度のオタクで真琴くんに中二コスプレをさせて真琴くんの中二病の加速させた張本人で彼と大の仲良しなのです。
そして彼は清水イライザにぎゅーっと抱き着いてその大きな胸に顔を埋めています。世の男性が羨むような行為でありますが、残念なことに彼の情緒は小学一年生。性欲や下心、恋愛感情なんてさっぱりわからないピュアピュアボーイなのです。きっとそういった感情や欲求は全て中二病に変換されてしまっているのでしょう。真琴くん可哀想。
「ヨヨコ先生に嫌われるの……いやぁ……」
「よしよし。大丈夫だヨ~。ヨヨコはこのくらいでマコトのことを嫌ったりしないからネ~」
清水イライザは彼を抱き締めて優しく頭を撫でています。胸の大きさと母性が比例するという学説はやはり正しかったのです。時代は年上お姉さん。小学生のロリにバブ味を求めるのはきっと頭の病気でしょう。
「マコっさんが除霊できないってよっぽどっすね」
「そうだね。ヨヨコ先輩に憑いてる幽霊はいつも簡単に除霊してるのに」
「だ、だってぇ……ヨヨコ先生が連れてくる幽霊……いっつも……クソ雑魚だから……」
「ヨヨコ先輩(の幽霊)、クソ雑魚らしいっすよ」
「ざぁこ♡ ざぁこ♡ ヨヨコ先輩の幽霊はお札一枚で除霊できちゃうクソ雑魚ですぅ~」
「私まで雑魚扱いされてる気がするんだけど!?」
実は偉大なる大槻ヨヨコも幽霊を惹きつけやすい体質なのです。しかし、先ほどの桃色少女「ゴッド・ヒットゥーリ」に憑いていた幽霊と比べると鼻くそレベルのゴミカス雑魚雑魚ちゃんなのでした。いつもの彼ならお札どころかデコピン一発で除霊ができてしまうほどです。
「今日……遭遇した悪霊をヴァストローデ級だとするならぁ……ヨヨコ先生に憑いてるのは、所詮ギリアンです……」
「あなた謝ると見せかけて実は馬鹿にしてない!?」
「ギリアンヨヨコっすね」
「大槻・ギリアン・ヨヨコ先輩だ~」
「大槻・G・ヨヨコですね~」
「私に変なミドルネーム付けるな!!」
「か、かっこいい……ぼ、僕もっ……! 僕もそんなミドルネームが欲しいっ……!」
「なんで真琴もちょっと元気になってるのよ!!」
なんということでしょう。先ほどまで大泣きしていた少年が中二心をくすぐられて泣き止んでしまいました。
「まったくもう……こんなに泣いちゃって。ほら、拭いてあげるからじっとしてなさい」
「せんせぇ……」
大槻ヨヨコも清水イライザに負けないくらいの母性を発揮して彼の涙を優しく拭ってあげています。なにやら女性に甘やかされまくっている彼ですが、皆様覚えていらっしゃいますか? 彼が岩下志麻の
弟属性を持つ永遠の中二病(ガチ)で情緒が小学一年生の低身長美少年……危なっかしくて「私が見ててあげなくちゃ」と母性が刺激されてしまっても仕方がありません。彼は生粋の中二病でありながらナチュラルボーン甘え上手だったのです。
「私は怒ってないし、これくらいであなたのことを嫌ったりしないから安心しなさい」
大槻ヨヨコは優しく笑って彼の頭を撫でました。「私に弟がいたらこんな感じなのでしょうね」と大槻ヨヨコは思っていることでしょう。実は彼女にも妹がいるので、大槻ヨヨコは立派な「姉属性」を持つ岩下真琴キラーであり、彼もまた大槻ヨヨコキラーなのでした。二人はお互いがお互いの特効生物というバトル漫画だと胸熱な関係なのです。
「これ、あげるから。今度は壊しちゃだめよ?」
そして大槻ヨヨコは慈愛に満ちた表情のまま、自分が身につけていたロザリオネックレスを彼の首にかけてあげます。
このロザリオネックレスは、彼が彼女に初めて会った時に一目惚れした物でした。
何度も繰り返してしつこいと思われるかもしれませんが、彼は生粋の中二病です。ドクロや十字架やドラゴンやチェーンが大好きです。そんな彼が姉に連れられて初めて大槻ヨヨコに会った時、彼は彼女(のロザリオネックレス)に一目惚れしたのでした。
一目惚れした結果、彼は彼女の胸のロザリオをガン見していたので初対面で胸を凝視されていると勘違いした彼女ですが……
「胸には興味ない。僕が見てるのはそのロザリオだけ」
と彼に真顔で言われてしまいました。
仕方ありません。彼は女性のおっぱいよりもモーセの十戒という言葉に響きに興奮する男なのですから。
それはそれで女としてのプライドを傷つけられた彼女が彼と言い合いになったのも今となっては良き思い出でしょう。大槻ヨヨコの彼に対する最初の印象はあまりよくありませんでしたが、会う度にネックレスのことを褒めてくれたので、最終的に彼女は自分と同じデザインのロザリオネックレスを彼の誕生日にプレゼントするのでした。
それからです。彼が彼女のことを「先生」と慕うようになったのは。
そして今、彼女は自分が身につけているロザリオネックレスを彼に与えました。重要なのはここです。新しいものを買い与えたのではなく!!
この時の彼女に自覚はなかったのでしょうがこれは一種のマーキングと言えるでしょう。
なぜなら彼は顔だけ見ればとんでもない美少年で隙だらけだからです。不治の中二病という点を除けば危なっかしくて見ていられない可愛い年下の男の子。いつどこの馬の骨とも言えない性欲まみれの女に食われてしまうとも限りません。
だからこそ、これは大槻ヨヨコの無意識化のマーキング。ある意味自覚があるよりも性質の悪い行動ですね。
「ヨヨコ……せんせぇ……!!」
自分の首にネックレスをかけられて、感極まった彼は大槻ヨヨコに抱き着いてしまいました。さっきまで金髪年上巨乳外人に甘えていたのにこの野郎。でも仕方がありません。彼は未だにコウノトリを信じているようなピュアピュアボーイなのだから。中学時代の保健の授業は彼には難し過ぎたのです。
ぐふふっ。誰が彼に雄しべと雌しべの真実を教えることになるんでしょうかねえ!!
「もう……あなたは本当にしょうがないわねぇ」
大槻ヨヨコは驚くほど穏やかな声でそう言いながら彼を優しく抱き締め返します。まさに今の彼女は聖母マリアと言っても過言ではないでしょう。寺生まれの中二病と聖母マリア。宗教の垣根を超えた愛がここに生まれました。
「ヨヨコママっすね」
「ママ。ご飯奢ってくださーい」
「私はあなた達のママじゃありませんっ!」
「学校の先生を『お母さん』と言い間違えることはありますし、ヨヨコ先輩のことを『先生』と呼んでいる真琴さんにとってヨヨコ先輩はママで間違いないですね~」
「間違いあるわぁっ!!」
「ヨヨコずるーい! 私もマコトにママって呼ばれたい!」
「いいですよ! 喜んでママの座をあげますよ!」
なんて愛に満ちた空間なのでしょう。彼は彼女に抱かれながら愛のありがたさを噛み締め、改めて誓います。
「ヨヨコ先生……」
「どうしたの?」
「僕……僕……」
珍しく真剣な表情を浮かべている彼を見て彼女は思わずドキリとしてしまいました。おやおや、何やら顔も赤くなっていますねぇ? では皆様、予想してみてください。仲の良い十代の男女が情熱的に見つめ合いながら抱き合っている。このような状況下で次に彼がどのような言葉を発するのか。
そう、愛の告白───
「絶対に、卍解を習得してみせます」
───のわけがないでしょう。なぜなら彼は中二病だから。
彼が考えていたのは、桃色少女ゴッド・ヒットゥーリに取り憑いた悪霊を除霊すること。女の腕に抱かれながら別の女のことを考えていたのです。いとをかし。
しかしそこは大聖母ヨヨコ。自分の愚かな勘違いにぷるぷる震えながら……
「がんばりなさい」
と優しくそう言ったのでした。そんな彼女の様子を見て「僕の言葉に震えるくらい感動してくれたんだな」と彼は勘違いをしてしまいました。またもや彼の大槻ヨヨコに対する好感度が上がったようです。真琴くんちょろいね。
がんばれ大槻ヨヨコ!
負けるな大槻ヨヨコ!
岩下真琴に雄しべと雌しべの真実を教えられるのは君だけだ!!
がんばれ岩下真琴!
負けるな岩下真琴!
インドの現人神ゴッド・ヒットゥーリを救えるのは君だけだ!!
中二病の戦いはまだまだ終わらない!!
つづ……く?
〇岩下真琴
・寺生まれのIくん。実家の御札を勝手に持ち出して才能だけで除霊する不治の中二病
・身長160センチ。志麻さん似の美少年
・ヨヨコ(のロザリオネックレス)に一目惚れ
・お姉様と二人暮らし
・ぼっちちゃんに「自分と同じで友達がいないぼっちなマジシャン」と誤解される
・イライザとは一緒に中二コスプレを楽しんでいるので大の仲良し
・あくびからは同じ種類の黒マスクを受け継ぎ、楓子から料理やお菓子作りを教わり、幽々とは霊感スポットを巡る仲。新宿FOLTの末っ子
・名前の由来は映画「極道の妻たち」で岩下志麻が演じる
〇ぼっちちゃん
・真琴に「インドの現人神」と誤解される
・中二病仲間
・すごい悪霊が取り憑いている
〇大槻ヨヨコ
・メインヒロイン
・ママ
・三日に一回の頻度で真琴に除霊されている
・ヨヨコのロザリオネックレスは原作四巻冒頭のメントスコーラ動画撮影時に身につけていたものです
実はもう一作ぼざろの二次小説を書いてるのでよろしければそちらも読んでみてください。
もう一つのぼざろ二次小説