望まぬ権能、望まれぬ忌み子 作:虚飾の大罪司教
あの日から、私はパンドラと出会うようになった。
ある時は20歳の誕生日に、またある時は子供が出来た時に、またある時は子供の葬式の時に、またある時は幾度目かも分からぬ5歳の誕生日に。
俺はまた性懲りもなく人を愛した。
ダメだと分かっていながら、それでも愛してしまった。
欲望に
これも《常敗の加護》なのだろうか。
何十と繰り返した生で子供を作ったことは幾度かある。
しかし、それは愛のない、政略結婚などでの婚約者との子供であった。
愛した者との子供を作ったことはなく、それがまた俺の欲を掻き乱した。
欲に負け、人を愛した。
だから死んだ。
俺が愛した、だから死んだ。
自分の愚かさが嫌になる、心象風景は曇天なのに、空を見上げればそれとは真逆の晴天、身を焦がすように照りつける太陽の光に、神の嘲笑を幻視する。
本当に嫌だ、心が潰れそうだ、何度経験しても慣れない痛みだ。
フラフラとした足取りで森を歩く。
野生動物や魔物にでも襲われれば、このグルグルと後悔が募る頭を一瞬でも真っ白にしてくれるだろうという淡い期待を抱きながら。
目的地もなく千鳥足のような覚束ない足取りで歩き続ければ、色取り取りの花が咲き誇るあの日と全く変わらない花畑が現れた。
それは俺が望んだからか、彼女が望んだからかは分からない。
「お久しぶりです。14年ぶりでしょうか」
「...16年ぶりだよ」
ただその一瞬、心は白く染められた。
「おや、そんなに経っていましたか。時間は目紛しく移り行きますね」
ああ、コイツはいつまでも変わらない。
自分以外への、あるいは自分への興味すら希薄で、何をするにもその一挙手一投足が儚げだ。
聞いているだけで思考がボヤける声色と、見ているだけで心が騒つく容姿。
何度も死んで誰もが俺を忘れていくなか、コイツだけは俺を忘れない。
前世の知り合いが俺を悼むなか、コイツだけは本物の俺を見ている。
俺はコイツに依存していた。心酔していた。
しかし忌避していた。
これは毒だ。飲み込まれたら戻れない。
「ふふ、辛そうですね。どうぞ、来てください」
それでも、今は、今だけは。
「貴方の話を聞かせてください」
毒されても良いかもしれない。
草花の上に座り直した彼女と、その膝の上で頭を撫でられる俺。
心が落ち着く、様々な感情が渦巻く。
パンドラに頭を撫でられ、話を聞いてもらえる。それが嬉しい。
長い年月を過ごした癖に、泣きじゃくってしまう、そんな自分が腹立たしい。
心の底から愛してる人が、俺のせいで死んでいく。それが哀しい。
愚痴を言い弱音を吐いて、軽口と一緒に語らって、その時間が楽しい。
「ふふ、甘えん坊ですね」
「悪かったな」
「いいえ、嬉しいですよ」
彼女は微笑を浮かべる。
いつもならそれに裏を感じ、喜ぶことなど到底出来なかった。
だが今は、その表情に心の底から歓喜してしまう。
この瞬間、俺は彼女に恋をした
「恋を、してしまいましたか?」
「なんで、それが...」
「貴方も人の子、仕方のないことです」
「ごめん...ごめん...」
「どうしますか?貴方の加護は私を殺してしまいますよ?」
「ごめんなさい...」
「加護の力で、神の力で、貴方が定めた運命で、貴方に殺されてしまいます」
「嫌だ...嫌だ...」
殺したくない...死んでほしくない...
《狂愛の加護》
身体が勝手に動きだす。
彼女を押し倒し、その細い首に手をかける。
心が壊れそうになりながら、指に力が入るのが止められない。
彼女を殺す罪悪感と喪失感と無力感に押しつぶされながらも、加護によってそれに高揚感を覚えてしまう。
今の俺の顔はきっと酷いものだろう。
人を愛する資格のない快楽殺人鬼だ。
「構いませんよ。どうぞ、欲望のままに」
彼女は腕を広げ無防備を晒しながら、俺の狂気を受け入れた。
訳が分からない、頭が真っ白だ。なのに腕の力は増していってしまう。
衝動の濁流に流されるまま、首を締め上げ彼女の命を摘んだ。
彼女の、不気味なほどに優しい笑みを見下ろしながら。
その時、腕を伝うように何かが流れ込むのを感じた。
俺は意識を失い、彼女の身体と重なるようにその場へ倒れた。
目が覚めると彼女の認知が俺の認知と混ざっていた。
彼女は『虚飾の魔女 パンドラ』であり、世界的に問題視される魔女教を牛耳る黒幕。
その彼女を殺し魔女因子を手に入れた俺は『魔女教大罪司教《虚飾》担当 サビク』である。
サビク、それが俺の名前だった。ようやく思い出せた。
彼女は知っていたのだ、俺の最初の名を。
最初から彼女は俺に目をつけ、タイミングを見計らい、俺を懐柔し、大罪司教へと仕立て上げた。
目的はハッキリとしていない。
野放しにすれば計画に支障の出る可能性等の打算があったのは間違いないが自身を殺させた理由までは分からない。
そこまで考えて俺は違和感を持った。
何故俺はこれほど冷静なのだろうか?
愛する人が、目の前で、自分の手で、殺された。心がグチャグチャに動揺していたはずなのに、今は何も感じない。
一度意識を失ったからか?新しい加護の力か?パンドラの認知と混ざった影響か?
分からない。
何も、分からない。
俺は何故かその時、パンドラがやろうとしていたことを代わりにやろうと決意した。
魔女因子の権能は魔女因子を持つ人によって違うため主人公の能力はオリジナルの予定